超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
《こんなもんでどうだー》
「もうちょい角度浅めで頼む」
《わかったー》
カシャッ。
《こうかー?》
「ありがとな。後で送っとくからメアド頼む」
《じゃあ登録しとくぞー》
ロゼが携帯のタッチパネルを器用に操作して自分の番号を登録する。ついでにレオルドの番号も一緒に登録しておいた。
《……イライライライラ……!》
律儀にそれを見守っていたシャニの苛立ちがそろそろ限界に達しそうになっている。
《これー、待受にするかー?》
「うーん、さすがにそれは恥ずかしいな……」
《あ、俺の番号も登録してくれたんですね。あざます、ロゼさん》
《オイ! もういいか!! なんなんだ貴様らのその余裕は!》
はぁ、エヌラスは嘆息した。プルルートを抱え直して、コートでくるんでおく。気持ちよさそうに眠っているのだからもう少し静かにしてほしいものだ。
「寝てるんだから静かにしろよ」
《そっすよ。空気読んでください》
《シャニー、お前ホント空気読まないなー》
《この場において空気を読んでいないのは貴様らだろうが! 侵入者となに悠長に連絡先の交換とかしてるんだ!》
「いや、話し終わったから俺たちもう帰るんだけどな。それを無理に引き止めてるのがお前なんだよ」
《それでも不法侵入に変わりはない!》
「もうちょい静かにしろよ。プルルート起きちまうだろうが」
《こんなにかわいい子の安眠妨害するなー》
《そうっすよシャニ。そんなんだからお前友達いないんだよ》
「ぼっちなのか、あれ」
《そうなんすよ。いっつも仕事仕事で仕事の鬼だからみんな近寄りがたいって敬遠してるんですよね》
まるでノワールとイストワールを足したような相手に、エヌラスが哀れみの視線を投げる。
「……かわいそうな奴なんだな、お前」
《――キッサマァァァァァァァッ!! レオルド、貴様もついでだ! 二人まとめて相手してやる!》
《なんで俺まで!?》
《うるさい! 相変わらずの戦績最下位で貴様だけシロトラ様の指導をマンツーマンとか羨ましいわ!》
《ただの嫉妬じゃねぇっすか!》
「はぁ、仕方ねぇ……ロゼ、プルルートを頼む」
《わかったー》
そっとプルルートを引き渡して、エヌラスは寒そうに震える姿にコートを脱いで羽織らせた。半袖シャツ一枚で武器を構える姿にシャニが鼻を鳴らす。
《ふん。やっとやる気になったかこのペドフィリア》
「――殺すか」
《真顔で言うと滅茶苦茶怖いっすよ、エヌラスさん。往年の殺人鬼ばりの貫禄あるんですけど》
ロリコンは許さないが、それ以上ともなると流石に生かしてはおけない。レイジングブル・マキシカスタムが銃声を鳴らす。シャニはその弾丸を避けて、スラスターを吹かした。
三点射の突撃銃、ヴォルペと名付けられたB2AMで普及している銃器の信頼性は高く、いかなる環境下においても確実に動作する。それは寒暖の気候などものともせず、正しく三発の弾丸を発射した。エヌラスの倭刀がその全てを斬り落とす。レオルドもまた、背負っていた二挺のサブマシンガンを構えた。
《ふん、レオルド! 貴様は相変わらずバカだな! 私はつい先程補給を済ませてきた、だが貴様はどうだ。後片付けをするなどと残って、補給すらままならないだろう!》
《いや、そもそもそんなに撃ってないし》
《それ以前の問題か!》
前に出るまでの間に戦闘が大半、終わっているのが原因だったりする。決して機動力は低くないのだが良くも悪くも平凡な性能で収まっているレオルドの機体――最初期に大量生産された安定感に定評のあるシリーズブランド『玖珂』はAIの力量によって大きく左右されるのだが、どういうことかレオルドだけは他の同系統に比べると成績が悪い。
エヌラスとレオルドの二人を相手にしてもシャニは引かない。持ち前の機動力、判断力。そして行動力の三つを武器にして戦況を即座に判断して対応していた。流石は最優秀総合戦績賞に輝くだけはある――その三人の戦闘を遠くから眺めるロゼは、施設の暖房を点けてプルルートをそっと下ろす。
エヌラスのコートにくるまって穏やかな寝息を立てていたが、戦闘の騒音に顔をしかめていた。
「んぅ~……」
《もっと静かに戦ってくれーみんなー》
『無理だ!』
満場一致のノーサインに、ロゼが頬を掻く。どうするか考えて、流れ弾が飛んできたのを察知した。背面に背負った試験型のバリアユニットが起動。機体前面に展開される薄い膜上の障壁が弾丸を弾く。
《シャニー、危ないだろー》
《知るか!》
《この野郎ー、怒ったからなー》
ガコン、とロゼが右肩に背負っていた大口径のガトリングを持ち出す。その銃口、三門。ライフリングを始めて――高鳴る機械音にエヌラスが青ざめた。そんなものを人間が食らえばひき肉になる。
「ぬぅおおおあああああ!?」
《どわぁあああああ!?》
《おりゃー》
反動を押さえ込んでいる当人はあくまでも平常通り、のんびりとした口調のままでガトリングを掃射しながらシャニを狙っていた。しかし、機動力を活かして遮蔽物に隠れるとリロードを済ませる。
「……――むぅ~。あたしぃ、気持よくお昼寝してたのにぃ~……!」
寝ぼけ眼を擦りながら、プルルートがエヌラスのコートをしっかりと抱き寄せて頬を膨らませていた。
「おこったもん~。へんし~ん!」
「あ、やべ」
エヌラスはプルルートが変身する姿を見た瞬間、覚悟を決める――間違いなく、この場にいる全員が無事では済まないことを。だが、レオルドとシャニは驚いて固まっていた。
《変身、だと……? バカな、女神でもあるまいし!》
《プラネテューヌの守護女神ってマジなんすか!? あれ、でもパープルハート様が、あれ? 妹のパープルシスター様とか……んん? どうなってるんだってばよ?》
理解の追いついていない二人の前で、ロゼの後ろでプルルート=アイリスハートが君臨する。
「どうしてこう、バカばっかりなのかしらねぇ? アタシがプラネテューヌの守護女神って言ってるでしょ? 言っても分からないなら」
蛇腹剣を地面に打ちつけて、アイリスハートが髪をかき上げた。
「身体に教えるしかないでしょ?」
《おー、女神様だー……こんなに近くで見たの初めてだぞー、感動だー》
「ありがと。フフ、よく見ると結構愛嬌ある顔してるじゃないあなた」
《それほどでもないぞー》
「素直な子は好きよぉ。見逃してあげるからそこでジッとしてなさぁい?」
《わかったー》
アイリスハートに頭を撫でられて、ロゼはその場に着地する。そして、蛇のように睨みながら絡みつく視線がレオルドとエヌラスに注がれた。だが、不意に視線が外れてシャニに向けられる。
「そっちのおバカさんは特にキツく教えてやらないとダメみたいね」
《私のことか? ふん、貴様がどこの守護女神であるかなど最早関係ない。プラネテューヌの守護女神はパープルハート様だけだ!》
「へぇ。あたしよりねぷちゃんの方がお好みってわけ? いい度胸ねぇ、アタシの前で他の女神の話なんてイジメ甲斐がありそうだわ」
《やれるものならやってみろ。私の信仰心に揺るぎはない!》
「アッハハハハハ、ますます気に入ったわぁおバカさん。エヌラス~?」
「はい。なんでございましょうか女神様」
「別に、アタシが倒しても構わないのでしょう」
「そりゃあもう思う存分ご自由に、煮るなり焼くなり」
「だそうだから、遠慮無くいくわよ」
それにシャニが銃口を向けた。アイリスハートがプラネテューヌの守護女神であることはこの際二の次としても自分に矛先が向けられているのは間違いなさそうだ。
《貴様のようなボンテージ衣装の女神など、胸だけでかいグリーンハートと同じようなものだ!》
「へぇ……」
《あ、アガガガガガ…………深刻なエラーが……》
女神にロボット風情が勝てるはずもなく――シャニは、それはもう無残な姿で無様な醜態を晒しながらベルスクの大地に転がっている。その頭を踏みつけて、ハイヒールの踵でグリグリと踏みにじるが相手は抵抗するだけの気力もなくなったのか時折痙攣するだけだった。
「ほぉら、さっきまでの威勢はどうしたのぉ?」
鞭で叩かれてシャニが情けない声を挙げる。
《あひぃ!》
「態度の割にいい声で鳴くじゃなぁい」
《く、屈辱的だ……! こんな屈辱は、初めてだ……》
「なぁに? プラネテューヌの守護女神であるアタシに、こんなご褒美貰っておきながら……屈辱ですってぇ?」
《めめめめめ滅相もございませんありませんすいません!》
「じゃあもっと、豚らしく相応しい言葉があるじゃない」
《ありがとうございます! ありがとうございます!》
「もっと! 誠意を込めて!」
《このような無様な私めにかような褒美を与えてくださりありがとうございます女神アイリスハート様! ありがとうございます、ありがとうございます!》
「それでいいのよ。じゃあこれは特別サービスよ!」
《ぶひぃぃぃぃぃ!!》
シャニが情けない声を挙げながら白い地面に沈んだ。機能停止したのか、身体に雪が積もっていく。動き出す気配はないが、気を失っているのだろう。もしくは人工知能が過負荷を抑える為にスリープモードに入ったかのどちらかだが、いずれにせよシャニは機能を停止している。アイリスハートは恍惚とした笑みを浮かべながら頬に手を当てた。
「ああ、スッゴイ久しぶりに良い獲物を見つけた気がするわぁ……」
「その……良かったな、アイリスハート……」
《機嫌直ったみたいでよかったっす……》
「でもぉ、なんだか二人も物欲しそうだからついでにしてあげるわ」
《どぇぇぇぇぇ!?》
「やっぱりこうなんのかぁぁぁぁぁ!!」
今度はレオルドとエヌラスの二人がアイリスハートから逃げまわる。それを大人しく座り込んで眺めていたロゼは羨ましそうに見ていた。
《いーなー、楽しそうだー》
「楽しくぬぅえぇぇぇぇぇぇぇ!!」
白い雪原にエヌラスの絶叫が響き渡る――。