超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
とはいえ目的地に到着した。エヌラスの表情はまるで苦虫をすり潰した青汁を飲んだように、非常に渋い顔をしている。――思い起こされる変人共の巣窟。ここにアイエフが捕らえられていると考えるだけでも危険性がグンと高まる。しかも今回はプルルートが一緒だ。尚更エヌラスの足を鈍らせるには十分な理由である。
「あぁぁぁ、行きたくねぇぇぇぇ……!!」
「でもぉ~アイエフちゃんここにいるんだよね~」
「そうなんだけどなぁ」
あの変態どもの相手をしないといけないのか……、そんなエヌラスの気など知らずに出てくる四人組。今回も珍しく全員が武装していたが、エヌラスの顔を見るなり片手を挙げて挨拶してきた。
《ソウル・ブラザー! お前だったのか!》
《今日はどうしたソウル・ブラザー!
《茶でも飲んでくか、ソウル・ブラザー》
《ゆっくりしていってね、ソウル・ブラザー》
「だぁぁぁもぉぉぉう帰りてぇぇぇぇ!!」
出来ることなら口も利きたくない。だが、そんな四人はエヌラスとプルルートを見比べて、しばらく考え込んでいた。
《……彼女でも紹介しに来たのか、ソウル・ブラザー》
《リア充の輝きに当てられると俺は蒸発するんだ、知らなかったかソウル・ブラザー》
《通報したほうがいいのかこれ》
《そうすると俺達の方がヤバイからやめてくれ、ジーン》
「えへへへぇ~、エヌラスの彼女さんだってぇ~。なんかぁ照れちゃうな~」
「テメェら俺を社会的に殺す気か、おぉん?」
物理的に殺すのならいくらでも大歓迎だ。いくらでも殺してやれる。エヌラスの精神力がガリガリと削れていく。癒やしを求めてプルルートを抱っこする。
「どうしたの、エヌラス~?」
「うん、今ちょっと色々と辛いから癒やしてくれ……」
《幼女に癒やしを求める犯罪者》
《俺たちは事案発生の現場を目の当たりにした》
《そういえば……幼女に母性を求める男性、最近増えたな》
《あれじゃないか? 急成長するバブみ経済》
「テメェ等後でまとめて溶鉱炉に沈めてやっから覚悟しろ」
『勘弁してくれ、ソウル・ブラザー』
帰りたい。ああ帰りたい。お布団に潜りたい。そんなことを考えながら、エヌラスはプルルートから癒やし成分を補給したので下ろす。手短に用件を伝えた。
「なぁ、昨日あたりに誰か来なかったか?」
《此処に? なんでまた》
「まー、ちょっとした人探しだ」
《来たな。うちの知り合いの配送業者だ》
「他には」
《特にこれといって》
《こんな田舎のド辺境に好き好んでくる物好きは早々いない》
うんうん、とディルの言葉に全員が頷く。エヌラスはそれがすぐに嘘だと分かっていた。既に調べはついている。
「なぁ。此処って資源採掘場なんだよな」
《あー……まぁ一応は》
「中見せてもらってもいいか?」
《えっ……》
「なんだ、なんか問題あるのか」
《いやー、まぁーそのー……》
《見ても面白くないぞ? それに今は採掘作業中断してるし》
「軽く見せてもらうだけでいいんだよ。入ってもいいか」
《そこまで言うなら、まぁお好きに……》
「そうか。サンキュー、行くぞ。プルルート」
「はぁ~い」
エヌラスとプルルートが鉱山の中へ入っていくのを、四人は付いて行くふりをして――静かに回れ右してから全力で逃げ出した。
《いやいやいやいやいや! 絶対ヤバイあれヤバイマジでかなりヤバイ!》
《何故だ! どっから情報が漏れた!?》
《シュラ、本部に緊急連絡だ》
《既に入れてるけど混雑中らしい!》
《何かあったのか?》
《シャニが気絶して緊急搬送されたって!》
《マジで!? ざまぁ!》
清々しいクズ発言のセインが咳払いを挟んで、第三資源採掘場から離れていく。
《おいセイン! ケモナールはいいのか!》
《大丈夫だ。こんなこともあろうかとしっかりメモは持ってる!》
《……しまった》
《どうかしたのか、ジーン?》
《日記帳を置いてきてしまった》
《日記帳くらい後で買ってやるから、行くぞ!》
《……仕方ない》
エヌラスとプルルートは暗く湿った坑内を歩く。灯りらしい灯りは天井にぶら下げられている豆電球だけだ。年季の入ったそれだけでなく、一応足元を照らす非常灯も備えられている。発電機のタービン音が微かにだが空気を震わせていた。それに、プルルートがピッタリとエヌラスにくっついて歩く。
「なんかぁ、宝探ししてるみたい~」
「だとすると、お目当ての宝はアイエフってことになるのか」
「ドキドキするね~」
「別な意味でな……」
狭い坑内を進み、広間に出た。そこは作業場だったのか、コンベアやコンテナ。各種資材だけでなく加工用の道具が乱雑に置かれている。その中に、一台のバイク。この場にはあまりに似つかわしくないものにエヌラスが眉を寄せた。
そのすぐそばに置かれていたカタールと拳銃に見覚えがある。確かアイエフが使用していた――そうなるとどうやらここに居るのは間違いないようだ。
「あ~」
「どうした」
「アイエフちゃんが~」
プルルートの間延びした声に、視線を向けると仰向けに倒れているアイエフがいる。腕と足を縛られているのか、まるでまな板の上の鯉のようにピクリともしない。
「アイエフ!」
エヌラスが駆け寄り――言葉を失った。
「――――ぅ…………う、ん……? エヌラス……?」
身じろぎして、意識を取り戻したアイエフが軽くかぶりを振った。口の中に入った土を吐き出して、まだくらむ視界にまばたきを繰り返してピントを合わせる。不安そうな表情に、力なく笑ってみせた。
「……なによ、その顔は。一日戻らなかったくらいで、そんな心配しなくてもいいじゃない。過保護なのも嫌われるわよ?」
「――――あ、ああ……そうか。怪我、は?」
「そうね……特にはないわ。ちょっと身体が痛むくらいで――つっ」
ギチッ。身体を縛るロープが煩わしい。
「見てないで早く、これ解いてくれない?」
「……ああ。アイエフ……その、本当に大丈夫か」
「大丈夫って言ってるでしょ」
徐々に身体の感覚が戻ってきた。だが、まだ少し頭が熱を帯びている。風邪を引いたような感覚に、気だるさが伴って――それに、何故かエヌラスのことをやけに意識してしまう。気にかけている言葉も右から左に抜けていき、コートに染み付いている匂いを嗅いでいた。
柑橘系の香りはドラッグシガーの残香だろうか。それに、プルルートの少し甘い匂い……上着から僅かに漂う汗臭さに眉を寄せながらも、癖になる香りがアイエフの肺を満たしていく。
「お、おい?」
「――へ? あ……わたし、何してるのかしら」
「えーっと……まぁ、無事で何よりだ」
(やだ……どうしちゃったのよ。身体が熱いし、それになんだか――)
身体の奥から湧き上がる熱がどうしても呼吸を乱れさせていた。深呼吸して落ち着けようにも、エヌラスの匂いが気になって仕方ない。身体を掻き抱いてどうにか堪らえようとするが、じんわりと熱を帯びる下腹部が疼く。
「ふーっ、ふーっ、ふーっ……!」
「アイエフちゃん~」
「な、なんですかプルルート様……」
「これ~、なぁにぃ~?」
「ぁっ――!」
もふっ、とプルルートの触れた頭から、電流を浴びたように甘い刺激が背中を駆け巡った。
……もふっ?
「へっ、えっ!? なに、これぇ!」
アイエフが自分の身体に触れる。頭に触れると、一対の慣れない物体が増えていた。助けを乞うようにエヌラスに視線を向けると、ニトクリスの鏡でアイエフの姿を映す。
そこには――綺麗な毛並みのキツネミミが生えたアイエフの姿が映っていた。しかもコートの下から覗くように大きな尻尾までもが揺れている。パニック寸前になりながら自分の身体を触るが、それ以外に特に目立った変化はない。
「アイエフちゃん、かわいい~。いいなぁ~、あたしもほしいぃ~」
「いや、どう見ても……生えてるんだよな……どうなってんだこれ……」
ぴこぴこ動くきつね耳に、もふもふ動く尻尾に当人が凍りついていた。エヌラスも、その動物の愛くるしさと涙目で頬を赤らめているアイエフの上目遣いに胸がときめいて言葉を失っている。プルルートも純粋にそれが可愛らしいと褒めていた。