超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
少し時間の遅かった味気ない昼食を終えて、トライデントより譲り受けたフリーパスをカードの差込口に入れると間もなく支払いが完了した。娯楽施設に恵まれている、という言葉を思い出してネプテューヌ達は街の電光掲示板に映しだされているインタースカイの地図を見る。おおまかに区分された施設のボタンを押すと、その場所までのルートが表示された。
そして、到着したのはゲームセンター。だが、やはりそこにも人はいなかった。無人のゲームセンターはまるで貸切のようにも感じられる。
「あ、お姉ちゃん見て!」
「おぉ~、これはかの有名な『ダイナマイト婦警』! 主人公がナイスバディの婦警という触れ込みの割に一人称視点でまったくの矛盾を抱え込んだという伝説のアーケードゲーム!」
「というか、何か一昔って話じゃない古い筐体が多いわね……」
「変わったものもあるみたいですよ? あれ、なんだろうこの筐体……見たこと無い」
ネプギアが見たのはシューティングゲームの筐体のようだったが、デモプレイでは敵から放たれる弾幕が華々しく、まるで芸術を見ているようだった。プレイヤーを殺すというよりも攻撃パターンを魅せるという点を重視したかのゲームに、俄然興味が湧いたネプギアが座る。
「この手の縦シューティングって死に覚えゲーだから頑張ってネプギア! トライ・アンド・エラーだよ」
「えーっと、これがショットで、こっちがボム……こっちは低速移動? わ、なんか色んなタイトル出てきた!」
「どうやら同一シリーズを一つにまとめた筐体みたいね」
「あれ、でもこれ微妙に違う!? どれにしようかなぁ……」
基本操作は同じだが、若干システムに違いがあるようだ。
結局ネプギアが選んだのは最初のデモプレイで流れたタイトル。
「あ、ノワール見てよこれ」
「なによ。……対戦格闘ゲーム?」
「ネプギアがやってるゲームのキャラが出てるみたいだし、やってみようよ」
「ええ、いいわよ。ギャフンと言わせてやるんだから!」
様々なキャラクターの中から、感性で選ぶ。そして、普通の格闘ゲームとは違うシステムに二人は最初こそ戸惑った。
「う、浮いてる!? しゃがみとかないの!?」
「コマンドも波動拳とか昇竜拳じゃない! 距離で攻撃も違うんだーへぇー」
「ダッシュで相手の射撃は切り抜けられるのね。よーし……」
「わ、わわ!? ノワールいきなり攻撃してくるなんて卑怯だよ!」
「先手必勝よ!」
二人が白熱した泥試合から徐々に操作感覚を掴んで読み合いに発展する頃、ネプギアはシューティングゲームで何度もコンティニューを繰り返しながら最後のボスへ到達していた。
「…………」
右に抜けてから、左に切り返す。低速でその間を抜けながら、絶え間ないレーザー攻撃をかい潜って地道にライフを減らしていく。ゲージがようやくゼロになったボスを撃破して、ネプギアが両手を挙げて喜んだ。
「やったー、クリアだー! ……あれ?」
エンディングが流れたまではいい。しかし、その最後の一文にネプギアが目を丸くした。
『次はノーコンティニューでがんばろう!』
「え、えぇ!? これグッドエンディングじゃなくてバッドエンディング!? ……よーし」
姉譲りのゲーマー魂に火が点いたネプギアが再び同タイトルを選択する。
「こっからー、こうきて! こう繋がるんだよノワール!」
「え、えぇぇぇそれ繋がっちゃうの!?」
「ふっふーん、恐れいったかー!」
結局三人はとっぷりと日が暮れるまでゲームセンターに入り浸ってしまっていた。
「いやー、楽しかったぁー。貸切のゲームセンターもオツなものだね!」
「そうね。たまにはいいんじゃないかしら、ああいうのも」
「結構奥が深かったなぁ……またじっくりやってみたいかも」
夜のインタースカイの景色は昼間とはまた違い、無人のイルミネーションは幻想的な光景へ変わっている。だが、そこに人の営みはない。ただ静かに機械の駆動音だけが雑踏の代わりに流れていた。この国には人の生活が織り成す日常の音楽が存在しない。ノイズも走らない世界は、死んだように静かだった。
「……綺麗ね」
ポツリとノワールがその風景を見て呟く。目を奪われる夜景を高台の公園から見下ろしていたネプテューヌもネプギアも頷いた。まるで人間こそが病原菌と言わんばかりに殺菌された清潔な世界に三人だけが取り残されている。もし、このアダルトゲイムギョウ界が戦争をしていなければきっと気に入っていた。
「ちょっと、帰るのが勿体ないですね」
「とにかく宿を取りましょ」
「クタクタだよぉ~……ふわぁ」
身体を伸ばすネプテューヌに二人が苦笑して、手頃なホテルを探す。
「お、ラブホだ」
「入らないわよ」
ピンクの看板を無視してノワールがビジネスホテルに入った。それに続き、やはり無人のフロントを見渡してここでもやはりタッチパネル式のメニューが三人を迎える。希望の部屋を押していくと、部屋の鍵がテーブルに出てきた。
「ルームサービスとかどうなってるのかしら?」
「んー、押したら来るんじゃないかな。いいから行こうよ」
借りたツインの部屋に入ると、ベッドが二つ並んでいる。テレビとソファーと備え付けの小さな冷蔵庫。ネプテューヌがいの一番にベッドに飛び込んだ。
「アハハハハ、フカフカだぁ~!」
「ちょっと、やめなさいってば。恥ずかしいじゃない」
「誰もいないんだし、いいじゃんいいじゃーん」
「よいしょ……っと。はぁ、でも色々ありましたね」
「そうね。とても二日間とは思えないほど濃密な日だったわ」
一週間分は働いたんじゃないかという疲労感がどっと押し寄せてくる。ベッドに寝転んではしゃぐネプテューヌがネプギアに飛びついて二人で倒れこんだ。それを腰に手を当てて眺め、ノワールは先にシャワールームを覗く。
「私、先にシャワー浴びるけどいいかしら」
「せっかくだし三人で背中流さない? ほら、私達昨日お風呂入ってないし」
「そういえば……ちょっと、汗臭いかも」
「脱衣所に洗濯機もあるみたいだし、服も洗っていきましょ」
壁に埋め込まれたパネルはどうやらルームサービスを選べるようだ。その中には追加料金が発生するとはいえ下着や靴下が取り扱われている。無地のデザインの白と黒と素っ気ないものだが、三人はそれぞれのサイズを選択して、注文ボタンを押した。それから数分後、部屋のインターフォンが鳴らされる。
ドアを開けたノワールが丁寧にビニール袋に梱包された品物を受け取り、扉を閉めた。料金は部屋代と一緒に支払う形らしい。
こうして替えの下着の交換にも憂いがなくなり、ネプテューヌが脱衣所からガウンを発見する。
「お金持ち御用達のガウンだー、洋モノの映画とかドラマだとこういうのって大抵マフィアのボスとか着てるんだよねー。片手にワイン持って、葉巻吸いながら猫撫でてさ」
「でも結構いい素材使ってるわね……」
四着あるうちの三着を手にして、三人が服を脱ぎ始めた。
「さ、さすがにちょっと狭いわね……」
「何もみんな一緒に脱がなくてもよかったんじゃ」
「一番乗りー! うわぉ、広ーい!」
「これなら三人で入っても問題なさそうね」
熱いシャワーで軽く身体を流し、泡立たせたスポンジで背中を洗う。
「女同士でソープランドみたいだよねこれって」
「ぶっ。な、何言ってるのよネプテューヌ!?」
「だってさぁ、ほら。こうしてみるとぉ」
「あはっ、あはははは! くすぐったいじゃない! ちょ、どこ触ってんの」
「うへへぇ、お客さんええ身体してますなぁ~なんて!」
身体を密着させて身体を洗っていたネプテューヌの手がノワールの胸に伸び、更にお腹から太ももを伝う。そこで反撃に出たノワールが押し倒す。その隣ではネプギアが湯船にお湯を張っていたが、その様子に顔を赤らめていた。
「あ、あの。危ないからその辺にしておいた方が……」
「大丈夫だよー、ちゃんとマットも敷いてあるし。ますますソープっぽいよね!」
「だからアナタはそういうこと言わないでってば!」
女三人寄れば姦しいとは言うが、この三人が集まればそれよりも華やかさの方が勝る。
――エヌラスが目を覚ますと、既に日が暮れていた。満天の星空には雲一つない。しばらくぼう然としていた。
アルシュベイトの左腕に“
首だけで周囲を窺うと、どうやら簡易的なテントに自分は寝かされている。怪我の手当の具合からして、アルシュベイトの医療器具だろう。殺し合いをしていた敵に温情を掛けられて、エヌラスは小さく呻いた。勝てないと分かっていたが、ああもハッキリ実力差を痛感させられると悔しさを通り越した虚無感に襲われる。
「あ~、起きたぁ~?」
そして、すっかり忘れていた。自分が助けたプラネテューヌの女神ことプルルートのことを。怪我の手当も彼女がやってくれたのだろう。ニコニコと笑いながら顔を覗きこんでくる。
「怪我の具合はどうかな~」
「……だいぶ、楽になった。ありがと」
「どういたしまして~。でも、ダメだよぉ~? 自分の命は大切にしないと、友達が悲しんじゃうから~」
「…………、友達か」
脳裏に浮かぶのは、これから先、自分の前に立ちはだかる“敵”ばかりだ。自嘲したエヌラスに、プルルートは小首を傾げる。
「……そうだな」
「でしょ~?」
上体を再度、起こしてエヌラスは右手のシェアリングに視線を移した。残量が尽きた今となっては、鈍い銀の指輪と化している。
「それ、なに~?」
「シェアリングだ。ちょっと特別製でな。シェアエネルギーの残量が分かる」
「へぇ~」
「……今は、ただの指輪だ」
「どうしてぇ~?」
「俺のシェアが尽きてるからだよ。変神するだけでも消費する」
エヌラスはプルルートにアダルトゲイムギョウ界の現状を説明した。それに驚いてるのか感心しているのか分からない表情で、のほほんまったりとした口調で相槌を打っている。
「じゃあ、ゲイムギョウ界の災害はこっちの世界の影響ってことなんだ~……」
「まぁ、そうなる。それにしたって、なんだってプラネテューヌの女神が二人も来るんだよ……」
「え~っとね~。あたしと、ねぷちゃんのプラネテューヌは、別次元なんだ~」
「…………はい?」
「昔ちょっとした事件があって~、それで二つの次元が繋がっちゃったの~」
今もそのまま放置しているらしいが、そんなガバガバに緩い次元でいいのかゲイムギョウ界。そう思ったエヌラスだったが、それはつまり両方の世界に影響を与えているという何よりの証拠だった。改めて自分のしたことに打ちのめされてエヌラスがこめかみを押さえる。やはり、一刻も早くこの戦争を終わらせなければならない。しかし、シェアエナジーも尽きた自分が変神せずにどこまで勝ち残れるか……自分の治めている国に戻って補充するにも、ほとんど反対側まで来てしまっている。その道中で他の国王に襲われないとも限らない。
いや、もう一つある。シェアエネルギーを供給する方法が。それも相手が女神とあれば、お互い損はない――だがしかし、言うだけ無駄だ。出会ってまだ一日と経っていない相手に身体を預けるなどと。
「……? どうしたの~?」
「いや、なんでも……」
何も合意の上でなくても、致してしまえば問題は解決する。そんなことを考えた瞬間、酷い自己嫌悪に襲われて自分の頭に銃口を向けそうになった。
「そういえば~、変身しようとしても出来なかったんだよね~。なんでかな~?」
「ん、あぁ……多分、こっちでのシェアがないからだろう」
「そうなんだ~。困ったな~、ストレスかいしょうできないのやだ~……」
変身をそんなリラックスタイムのように言うのもどうかと思う。とはいえ、エヌラスも変神できない現状は一刻も早く抜け出したい。
「エヌラスも、変身できないんだよね~……」
「お互い困ってるってわけだ」
「どうしたら解決できるかな~……」
「それなら手っ取り早い方法があるぞ」
「ほんと~? やったぁ~」
「ああ、俺とエッチすりゃいい。俺はシェアエネルギーが回復できる。ホントに女神だっていうならそっちもそれで変身も出来るはずだ。まぁ、それでいいわけねぇよな……」
「いいよ~?」
「そりゃそうだ。忘れってェェエエエエエエ!?」
内臓が悲鳴をあげて、のた打ち回るのも忘れてエヌラスは驚いた。