超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「わたしの治めている国よ? そんな物騒な話を持ち出さないでもらえると嬉しかったのだけれども」
「う……すまん……」
「あなたって、物騒な考えの持ち主なのね。犯罪者が放置されているようなものじゃない」
「困ったことに、何一つ否定できる材料がないってのが問題だな」
それのなにが面白いのか、ブランが少しだけ笑った。
「でも、そういう危機感の持ち主は必要なのも事実だわ。ネプテューヌみたいに気楽過ぎるのも問題だし、ベールみたいなゲーマーもそう。ノワールは自分の国で一杯一杯だから。あなたみたいにフットワークの軽い人間がいるととても助かるわね」
「フォローのつもりか? それってつまりはパシリと変わらねぇだろ」
「思ったより頭が回るのね」
「バカにしてんのか……」
エヌラスは溜息を吐きながら腰に手を当てる。とにかく、ブランに心当たりがないというのならコレ以上の聞きこみは無駄に終わる可能性が高い。
「……逆に考えてみなかったの?」
「え?」
「鋭いのか鈍いのか、あなたってわからないわね……コレが、違法じゃなくて合法の品物である可能性のことよ」
空き瓶の中の薬物が合法――その可能性を示唆されて、エヌラスは首を傾げた。
「違法薬物の場合なら、入手ルートの捜索にわたしも全力を尽くすし、協力を惜しむつもりはないわ。だけどその逆。人目を忍ぶような物ですらなく、大っぴらに流通している品だった場合」
「そもそも探す必要もない、と」
「だけどその分、入手が容易な点で見れば確かに危険ね。わざわざ中身を詰め替えてまで運ばれていたんじゃ尚更よ。大量生産も視野に入れているとしたら?」
「そいつはマズイな……」
そんなことをされたらゲイムギョウ界の萌えのアイデンティティの一つであるケモミミが価値観を崩壊させてしまう。真剣な眼差しのエヌラスにブランがパソコンと向き合った。
「ルウィーにある薬局をピックアップしておくから、後はあなたの足で探してみて」
「助かる。一応他の国にも注意を促しておいた方がいいだろうな」
「そうね」
「……ブラン」
「なに?」
「言い難いことなんだが……ノワール達の連絡先を教えてくれないか……」
「は? なんで知らないのよ……ベールはともかく、ノワールは」
「信じられないだろうが、俺が携帯を使い始めたのはここ最近のことなんだよ」
「…………あなた、今までどうやって生きてきたのか本当に疑問だわ。前時代的とかそういうレベルじゃなくて、原始人かなにか?」
ひどく罵倒されているような気がするが、何も言い返せない。とはいえ、現状頼れるのはブランだけ。この際、蓼食う虫も選んでもいられない。
「なんつーか、特に不便しなかったというか。むしろ今のほうが不便しているというかだな……」
「……」
信じられない、といった眼差しでブランが見ている。エヌラスはそれから目を背けて、D-Phoneを取り出した。
「頼むよ。アダルトゲイムギョウ界から魔道書でもなんでも持ってきてやるから
「……それは本当?」
「ああ。もしかすると向こうに一度戻る用事が出来るかもしれないからな、ついでだ」
「そういうことなら、ノワールの連絡先だけでも教えてあげる。ベールにはわたしから伝えておくわ」
「ありがとな」
早速ノワールに電話をしようと思って手にするが――いざとなると、なんて声をかければいいのだろうかと踏み留まってしまう。だが思いとどまっていても仕方ない。ノワールの番号に掛ける。
しばらくコール音が続き、繋がった。
《もしもし? どちら様?》
「ノワールか。エヌラスだ」
《――え!?》
「悪いな、急に電話なんてかけて。緊急で連絡したいことがあって、ブランに番号教えてもらったんだ」
《そ、そうなの。でもいきなりね》
「それは悪いと思ってる。実は今、プラネテューヌでちょっとした事件が起きてる」
エヌラスはそれに、市販されている薬品が使用されている旨を伝えて、注意するように呼びかける。ブランもちょうどベールと連絡を取り合っているようだ。
「――だから、その手の薬品やロボットを見かけたら注意してくれ」
《ええ、わかったわ。ラステイションの方でも一応捜査してみるわね》
「なんつーか、厄介事に巻き込んでるみたいで悪いな……」
《いつものことでしょ。そう思うなら、たまには戦いから離れてみたらどう?》
「考慮しておく、それじゃあな」
《うん……それじゃ》
通話を切って、ブランの背中を見やる。
「――ええ、というわけなの」
《リーンボックスで取り扱いがある可能性は低いかもしれませんけれども、こちらでも留意しておきますわね》
「お願いするわ」
《それにしても、ブランとエヌラス……ふふ、まるでお伽話に出てくるお姫様と騎士みたいな組み合わせですわね》
「からかわないで、ベール。別に嬉しくもなんともないわ」
それに、自分が想像している理想の騎士像はもっとカッコいいものだ。白馬に跨る王子様、とまではいかないが少なくとも真っ当な生活基準値を満たしている。エヌラスのような犯罪行為、違法薬物なんでもござれな凶悪犯罪者ではない。
「それに、傍から見たらそんなの誘拐事件じゃない」
《否定はできないところですわね》
「うぉーい、そこ。さりげなく人のことディスるのやめろ、泣くぞ」
「だそうよ。わたしからの用件はそれだけ。それじゃあね、ベール」
《ええ、それでは》
通話を終えて、ブランは席を立った。
「はい、これ。ルウィーの薬局の地図よ」
「サンキュ」
「くれぐれも、国内で問題行動は起こさないように。そうなるとわたしが迷惑だから」
「十二分に配慮するつもりだ」
エヌラスはメモを受け取って、教会を後にしようと扉に手をかける。するとそれよりも先に扉が開け放たれ、入ってくる小さな姿がぶつかってきた。
「きゃ」
「うわっと、大丈夫か?」
「あ……エヌラスさん」
「あれ、来てたんだ」
ロムとラムのふたりはすぐに離れると、ブランの後ろに隠れる。避けられているのはわかっているが、こうも露骨だとさすがに少し傷つく。子供は正直だ。いや、むしろ――とさえ思う。自分の周りにまとわりつかれて怪我をされるよりはずっと良い。
「――、じゃあな。ブラン。メモありがとよ」
「ええ、それじゃ」
「ロムとラムも。元気でな」
手を軽く振ってエヌラスはルウィーの教会を後にした。
「おねえちゃん、何のお話してたの?」
「そうね……ちょっとした聞き込みよ、気にしなくていいわ」
二人の頭を撫でて、ブランは微笑む。
まだ妹達は小さい。エヌラスのような危険人物と引き合わせるわけにはいかなかった。情操教育上、よろしくないのは目に見えている。
ルウィーの薬局を片端から回り、日が暮れる頃にエヌラスはシーシャの泊まっているホテルを探した。夕飯時に手ぶらで邪魔をするのも失礼かと思い、適当にいくらかの食事を買っていく。
「……ここか」
部屋の番号を確認して、ノックする。間もなくして扉が開けられて、シーシャが朗らかに笑いながら招き入れた。
「やぁ。待ってたよ、上がってくれ」
「邪魔するぞ。あとこれ、適当に飯買ってきた」
「気を使わなくてもいいのに」
中に入ると、室内の隅に異様な存在感を放つでかい箱が目につく。
「ああ、あれかい? 気にしなくていいよ、ただの倉庫さ」
「そうか。そっちはどうだった」
「その前に飯にしようじゃないか」
すん、と鼻を鳴らすと食欲をそそる肉の焼けた匂いにシーシャが笑う。ホテルという扱いではあるが、実際のところはギルドの抱えている専属の施設。
「ハンターギルド?」
「そう。モンスター退治を専門としたクエストを引き受ける人達がギルドと専属の契約を結んで、その代わりに与えられた施設で過ごす。まぁ宿舎だと思ってくれればいいよ」
そう言いながら、ドン! とテーブルの中央に置かれるのは丸焼きにされた骨付き肉。脂の乗った肉の表面は程よく焦げており、溢れる肉汁が下に敷かれている受け皿代わりの野菜に染みていた。香辛料を振りかけられたそれは、料理と呼ぶにはあまりにずさんで、それでいてジャンクフードの如く食欲をそそるものだった。
切り分けるのかと思っていたエヌラスの前で、シーシャは手を揉むと思い切りかぶりつく。そのまま力まかせに食い千切り、モグモグと咀嚼していた。
「ん~、やっぱり肉はまるっと焼くのに限るねぇ」
「……豪快だな」
「そりゃ、食わないと身体は動かせないからね。食うときに食う、動く時は動く。大事なことだよ。あー……んッ!」
がぶり。もはやその食事風景は料理を食べるというより、捕食に近い光景だったがエヌラスも似通った事をしていたのでなんとも言えなかった。
「食べるかい?」
「一口もらえるなら、いただきたい」
「はい」
シーシャから渡される肉を口の中に入れる。弾力のある肉から溢れる肉汁が口の中一杯に広がり、それでいて噛みごたえがあった。噛めば噛むほど肉本来の味が出てくる。なるほど、これは――。
「美味いな」
「そうかい? 肉焼いてちょっと香りづけしただけだからそんな世辞はいらないよ」
「こんな肉、べまモン以来だな……」
「……なんだって? その、べまモンって」
「肉は美味いんだよ。だが顔面が絶望的なまでにクソ以下に醜い。悪夢どころか幻覚症状ですら引き起こしかねないレベル」
「ど、どんなやつなんだ……」
一時期では、その顔の醜さだけで世界征服できるとか言われていたが、その論文を書こうとしていた学者が一名。発狂して身投げさえしたほどだ。とにかくキモいとしか言いようが無い。キモさという概念を凝縮させた思念集合体といっても過言ではないほどにキモい、それがべまモンである。