超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
夕飯を食べ終えて、エヌラスとシーシャは一息ついてからお互いの収穫を話し始めた。
「ルウィーの薬局を片端から見て回ったが、どれもシロ。それに該当する薬品は取り扱いがなかった」
内部に付着していた液体を調べさせても該当なし。そも、薬品ではない可能性がある。
「結局俺の方は無駄足に終わったわけだ。そっちは」
「ああ。アタシの方なら調べがついたよ」
「本当か?」
「ラベルの表記はどうでもよかったのさ。そこら辺の廃品回収から拾ってきたものだろうね、似たような物がゴロゴロ落ちてた」
そう言いながら、シーシャは空き瓶を置いた。
「つまり、完全なブラフ。驚かされたよ、こんなゴミ拾いまでして国境越えるなんて。そこまでして運び出すものかい?」
「少なくとも、連中にとってはそうなんだろうな。それで、肝心の中身は?」
「中に入っていた液体、見覚えがあったんだ。元々はモンスターの体液だったんだけど、そいつをとある方法で調合するとあっという間に様変わり。混ぜ合わせるだけで効力を上げる増強剤になっちまうのさ」
「そんな物、売ってるのか?」
「いいや。取り扱いはないよ、そもそもそいつは一般に流通することはないし、市販されてるはずがないんだからね」
エヌラスはますます眉を寄せて唸る。それはつまり、違法でもなければ合法ですら無く、市販で流通することがない。門外不出の薬物。そんなものが実在するのだろうか。
「どういうことだ?」
「まぁ見てなって。まず、こいつがモンスターのエキスだ」
シーシャが倉庫から取り出したのは、調合セット。液体の入った瓶を置く。
「そして、こいつが問題の粉。このふたつを混ぜ合わせて、と……」
色が変わっていき、完全に混ざり合ったその液体の色合いは完全に一致している。
「ほい、完成だ。上手くいってよかったよ」
「……こいつがそうなのか?」
「ああ。アタシ等ハンターが使う、薬草とかの効果を増幅させる為の液体。増強剤ってやつになる。ただこいつは単品じゃ意味が無い。他の薬品と組み合わせて、ようやく効果を発揮する」
「それでか……」
違法ですらなければ合法ですらない。そんな門外不出の薬物の調合、誰がどう取り締まるのか。ハンターギルドの規定に則った“正攻法”という隠れ蓑。だが、そうなると疑いの目がその職業に向いてしまうことに気づいたのか、シーシャが笑った。
「生憎と、アタシはシロだよ。他のハンター達もね」
「じゃあどうやってあいつら入手したんだ?」
「調合書でも読んだんじゃないかい? アタシも持ってる。金に困ったハンターが古本屋に売り払う時もあるからね、ちょっと待ってな」
シーシャが倉庫の中に頭から突っ込んで、中を探る。
「……あれ? おかしいね……確か、この辺に――」
「…………」
エヌラスはその様子を椅子に座りながら眺めていた。多分、というか絶対に本人は気づいていないだろうが、そもそも気にしていないのかお尻を突き出す格好になっていた。際どいタイトスカートだからか余計に形がハッキリと見えている。しばらくそれを見ていると、やがて頭を出したシーシャが蓋にぶつけてベレー帽を中に落とした。
「いったぁ~……」
涙目になりながら帽子を手にして、シーシャは手ぶらで椅子に座る。
「その様子じゃ」
「ああ、どっかにやっちまったみたいだ。悪いね」
「いやいいさ。中々いいもの見れたしな」
「?」
「気にすんな」
薬の材料は分かった。それだけでも十分な収穫だ。そうなると、今度は問題なのが――解毒方法。
「調合方法も分かったことだしな。そうなると薬の解毒方法なわけだが」
「生憎と、そういうのはないね。こいつはあくまで調合した物の効力を上げるだけの触媒だ」
「くそ……」
「その事件で使われている薬、どんな効果なんだい? 話を聞いている限りじゃ相当にやばい代物みたいだけど」
エヌラスの剣呑な表情から窺い知れることの深刻さに、シーシャの眼差しもきつくなる。場合によっては手を貸そうとも考えていたが、それを言い出すよりも先に手を打たれた。
「……笑うなよ?」
「ああ」
「ケモミミが生える」
「…………――――――ぷっ」
「あ、テメェ笑いやがったな! 俺はこれでもまじめにやってんだぞ!」
「ちょ、ちょっと待って……? じゃあなにかい、アンタ。そのケモミミが生える薬を、ふふ、どうにかして止めようって?」
笑いを堪えていたシーシャだったが、やがて我慢しきれなくなって腹を抱えて笑い出した。
「あははははは、な、なんだいそれ!? バカじゃないのか、そんな薬作った連中! 何考えてるんだ、よりによって、ケモミミって! アハハハハハ!」
「俺だって馬鹿げてると思うわ! だけど実際に被害に遭っている知り合い見たらどうにかしなきゃならんだろうが!」
「はー、はー! お腹痛い、笑いすぎてどうにかなっちまいそうだよ」
「治療方法がわからないんじゃ被害が増える一方だからな。笑っていられるのも今のうちだ」
「ああ、確かに。アタシまでケモミミにされたんじゃ堪ったもんじゃないよ。犯人の特徴とかは?」
エヌラスはアイエフから聞いていた配送業者の姿をシーシャに伝えると、驚きに目を見開く。
「そいつは――知ってるよ。うちのハンターギルドに支援物資をよく届けにくる配送業者だ。ルウィーの特に過酷な地形じゃ車輌は通れないからね、そのロボットはひとりでとんでもない量を運びこんでる」
「なら」
「調合書の入手も容易だし、素材の入手も個人の取引で全部間に合う。記録にも何処にも残らない」
かといってハンターを片っ端から当たるのにも時間がない。配送業者と面識があるなんて言ったら誰もがそうだ。ルウィーの街中を進むロボットなんて道行く一般人が一度は目にする。それに嫌疑の眼差しを向けていたら話が進まない。そうなると、もはや捜査を早々に打ち切ってやるべきことがある。
「シーシャ、こいつの調合方法メモしてくれ」
「いいけど……」
「もうひとつの素材は連中から聞くとして、中和剤の調合はゲイムギョウ界よりもあっちの方が早い」
この際、手段は選ばない。向こうがその気ならこっちも全力でいかせてもらうだけだ。
「はい、こいつが増強剤の調合方法さ」
「ああ、サンキュー。俺はこのままプラネテューヌに戻る。晩飯ごちそうさん」
「お粗末さま。くれぐれも帰り道は気をつけな」
「俺の心配よりも、喧嘩ふっかける相手の心配してやってくれ」
エヌラスが席を立ち、ホテルの前でハンティングホラーを喚び出す。それを見送るシーシャは、ふとした疑問を口にした。
「なぁ、エヌラス。アンタ、どうしてそんなクソ真面目に事件の解決を? ケモミミ生えるくらいだったらかわいいものじゃないか」
「なら、放っておけと?」
「そんなに血眼になってまで解決する事件じゃないって言ってるのさ。なにがアンタをそこまで駆り立てるんだい」
「……こういう言い方はしたくないんだけどな」
懐から取り出したシガレットケースからドラッグシガーを一本銜える。
「女にはわからねぇだろうよ」
「……そうかい。なら深くは言わないよ。それじゃ、エヌラス。またルウィーに来ることがあったら、その時は」
シーシャの突き出した拳に、エヌラスも拳を合わせた。
「全力でどつき合いだ。約束する、それじゃあな」
夜のルウィーを走るエヌラスの背中を見送って、シーシャは身体を伸ばす。
「ゲイムギョウ界よりも、あっちか……別次元の人間だったのかな。まぁいいさ、アタシは楽しかったし気にしないけどね」
踵を返して、ホテルの中へと消えていく。
エヌラスはハンティングホラーを駆りながらD-Phoneでネプギアに連絡を入れていた。
《はい、もしもし》
「ネプギア、俺だ。アイエフは」
《お姉ちゃん達からモフモフされそうになって逃げてます……》
「平和そうでなによりだ」
どうりで後ろが騒がしいわけだ。
「今からプラネテューヌに戻る。そこでちょっと今後の動きについて話が――」
――キュイィィィィィ……!
《エヌラスさん?》
背後から聞こえるスラスターの駆動音。甲高い機動音にエヌラスが眉を寄せていた。ハンティングホラーのタコメーターに表記されている時速は既に二百近い。それに追従してくる速度。
そして、不意に空が明るくなった。エヌラスが空を見上げると、雪ではない何かが何本も降り注いでいる。それは自分の進路上を塞ぐようにして着弾地点へ火柱を立てていた。
「ッ――――!?」
天空から降り注ぐのは榴弾砲――それも、空中炸薬式の榴弾は着弾地点から一定の高度で爆発する。榴弾の雨の中を突っ切って、黒煙を吐き出したエヌラスが通話を切る。
「クソがッ!」
襲撃を受けているのは確認するまでもない。それが誰であるのかも確認の必要すらなかった。
プラネテューヌ国境警備隊だ。そして、今自分を狙っているのは――!
《B2AM教導隊所属、シロトラだ。そこの黒服、聞こえているな》
「ああ聞こえているよクソッタレが! なんのつもりだ、テメェ! あんなん直撃してたらまともな人間なんてミンチになってるぞ!」
《だがお前は生きている。問題はない、威嚇行動だ》
「加減って知ってるか」
《プラネテューヌを脅かす危険人物として、此処で排除させてもらうぞ。破壊神》
「はっ、名誉なこった! 向こうだけじゃなくてこっちでも破壊神なんて呼ばれるなんてな!」
並走するシロトラは地形をものともせず、アクセルをベタ踏みにして悪路を走破している。速度が緩むことはない。エヌラスのハンティングホラーに並ぶ速度での騎行――それは明らかに作業用ロボットの集まりであるB2AMから逸脱した機体性能だった。
《ゴウ、聞こえているな。火力支援を要請する》
――プラネテューヌ山間部。背面から天高く突き立てられている榴弾砲を折り畳みながら、一体のロボットがルウィーの方角を睨んでいた。
《こちらB2AM重火力部門第一部隊、ゴウだ。感度良好、聞こえている。火力支援要請、了解だ! 巻き込まれるなよ!》
右肩のラックから担ぎあげるのは、大口径六門の重機関銃。機関部が唸り始める。一度吼えればあらゆる障害を轢殺する瞬間火力に特化した砲門が恐竜のアギトの如く口を開いた。