超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
前方から掃射されるガトリング砲の火線からハンドルを切って避け、エヌラスは並走するシロトラにブルースシミターを振るう。だが、地面を滑るように回避すると、両刃剣の先端がフロントタイヤに向けられた。パンクさせようという魂胆なのだろうが、そうは問屋がなんとやら。ハンティングホラーが跳躍して弾丸を躱した。
《ほう……人工知能搭載型か。興味深い》
遮蔽物に身を隠すわけにもいかず、加えてシロトラからの追撃を振り切るのは至難の業。
「テメェ等、何が狙いだ! ケモミミ生やすなんて馬鹿げた計画!」
《全てはプラネテューヌのシェアの為だ》
「んなもん気にしてるのテメェ等だけだバァーーカッ!!」
ジャックナイフでシロトラの顔面を後輪で殴りつける。そこへ容赦なく突き刺さるガトリング砲をD-Phoneのアプリを起動させて防いだ。
《熱源感知。魔法防御アプリケーション、
ドーム状の膜が弾丸を弾き、エヌラスは即座にアクセルを踏み込む。走り出す姿に向けてゴウは頭部のカメラユニットの感度を上げた。
《ほう。やるな……シロトラ教官、無事か》
《仔細ない。戦闘続行だ》
《了解した!》
その声色には明らかな歓喜の色を含ませている。ゴウはB2AM組織内でも古株の一人。現在は森林警備隊として野生動物の保護や環境保護を主な活動としている。今回のシロトラからの誘いは願ってもみないことだった。
《それにしてもだ、シロトラ教官。何故あの男を狙う。ケモミミが好きな同志なのだろう》
《それでもだ。あの男の動きは、我々の障害となる》
《計画が万一にでも封じられては困るか?》
《ケモミミ女神、見てみたいではないか》
《大いに賛同する!》
森林警備隊としての職務からか、木々の密集する地域に向けての砲撃と銃撃は控えるゴウに、シロトラは即座にエヌラスを誘導して丸裸の山岳地帯にまでハンティングホラーを追い込んだ。夜の闇を駆ける影が二つ、月明かりの下で地面を這いつくばるドッグファイトを繰り広げている。
やがて、ハンティングホラーに乗ったままでは分が悪いと察したのか、エヌラスは地面を転がるように降りた。その右手には倭刀が握られている。
上空から斬りかかるシロトラを弾き返し、相対――こうして面と向かうのは初めてだ。
B2AM総司令官にして教導隊所属。シロトラ。女神信仰の狂信者をまとめ上げている相手だ。過去の経歴その他一切が不明。
《……改めて、初めましてだな破壊神。いや、エヌラス。お前のことはトライアドから聞き及んでいる》
「ああ、そうかい」
《ケモミミが好きと》
「あの変人集団にまともな紹介を期待した俺がバカだった」
《何故我々の計画の邪魔をする。ケモミミ好きなのに》
「計画の邪魔、ね……」
それがなぜかと聞かれれば――。
「俺は事件が起きたら首を突っ込まずにはいられないんだよ。何もせずただ黙って見てろなんて後味悪くてできるか!」
《――》
呆れるように首を横に振るシロトラは、剣の切っ先を突きつける。
《それともう一つある》
「?」
《お前の姿が教会に出入りしているということだ。……それがどういうことを意味しているか》
「さぁね。バカだからわかんねぇよ」
《羨ましいのだ!》
《シロトラ教官、落ち着け》
《今のは本音だ》
「おう……」
もしかしてコイツ。あの変態狂人集団と同類なのではないだろうか? エヌラスはそんなことを思いながらシロトラの話に耳を傾けていた。
《我々だけではない。ハァドラインは他の国にも存在する。そこでも同じように振る舞う、ということは同じようにハァドラインに付け狙われる事を意味するのだ》
「……俺を心配してくれてんのか」
《お前が女神パープルハート様に親しい人物であるのはこちらもリサーチ済みだ。だからこそ、我々も手を出さないようにと拳を収めてきた……だが、これ以上我々の計画を妨げるというのであれば潰す》
「…………」
《これは、警告であり忠告だ。我々ハァドラインの邪魔をするな。さもなくば、お前はゲイムギョウ界を敵に回すことになる――》
「ハッ」
エヌラスは思わず笑ってしまい、それに合流したゴウが顔を見合わせる。
《……何がおかしい》
「いや、なに。なんつーか、世界を敵に回すと言われてな。何を今更と思っただけだ」
――とうの昔に、自分は次元世界を敵にしている。神様相手に喧嘩を売っている。それが今更ひとつやふたつに増えたところでなんだと言うのか。
「俺を舐めんなよ、シロトラ。ハァドライン。世界を敵に回してでも俺は守護女神を守り抜く」
《……とても正気の人間の言葉とは思えんが。守護女神を、守る? 何をバカな》
「バカでいいさ。俺は神にだって従うつもりはない。女を矢面に立たせるなんざ、男が廃る。自分勝手でワガママで唯我独尊、大いに上等だ! テメェ等ハァドラインを敵に回したところで痛くも痒くもねぇよ俺は!」
右腕の魔術回路が励起される。
――何度、この手で救おうとした命があるか。何度取りこぼした命があるか。何度心が壊れそうになったのだろうか。それすらも思い出せない繰り返し。そんな自分を繋ぎ止めてくれていたのは、記憶が無くなっていても彼女たちの笑顔だった。
「売られた喧嘩は買う主義だ。シロトラ、俺に喧嘩売ろうってんだな」
《……やれやれ。とんだ猟犬に噛みつかれたものだ、もっとも手を出したのはこちら側だが》
「気張れよ、
シロトラの剣と倭刀が火花を散らす。
《気狂いめ……!》
「狂信者が――!」
距離を取る二人だが、既に次の行動に移っていた。
シロトラは鍔から伸びるトリガーを引き、エヌラスは左手にレイジングブルを召喚している。エネルギー弾と実弾の双方が衝突して相殺された。着地と同時にシロトラは既に駆け出している。
エヌラスも動こうとするが、そこにガトリング砲の駆動音。舌打ちを挟んで回避に徹する。
《ゴウ、この周辺は貴様の管轄外だったな》
《場合によっては駆り出される可能性がある》
《休暇は返上しておけ》
左腰から取り出す青い手榴弾を全身で投げる。地面に接触すると同時に爆発を起こした。なぎ倒される木々に、ゴウが深い溜息を吐いた。
《ロボットにも休暇は必要なんだがな》
シロトラは聞く耳を持たず、既にエヌラスへと迫っている。右肩にガトリングを担ぎ直して、ゴウは新たに左肩からロケットランチャーを持ち出す。
倒れる樹木を足場にしながら背中のブースターを吹かすシロトラの動きは射線から上手く外れていた。そこへ、片膝を着いた体勢から引き金を引くと弾頭が発射される。一発ごとにリロードが必要だが、その威力たるや先ほどのグレネードとは桁が違う。戦車の主砲でも炸裂したのかと勘違いさせられるほど土が捲れ上がり、衝撃と爆発が容赦なく襲った。
「っぶねぇな! 人間相手に使うもんじゃねぇぞ!」
《環境には配慮している!》
「そういう問題じゃねぇ!」
防御魔法で防いだとはいえ、腕が痺れている。そこへシロトラが迫った。足で胴体を蹴り返すも、地面に倒れるより先に背中のブースターを使って反転。エヌラスの腕から倭刀が弾き飛ばされた。
《流石に、やるな!》
「テメェもな! ポンコツじゃなくてよかったぜ!」
思い切りバイザーのついた顔面を殴りつけたが、エヌラスはその手応えに眉を寄せる。魔術も併用しているとはいえ、旧神はシェアエネルギーを使う。
「……シロトラ。お前まさかとは思うが、なんか隠してやがるな」
《そうだとしてもお前に言う義理はない!》
再度、シロトラの剣を防ぐ。その重い手応えに訝しむエヌラスが辿り着くのは、アダルトゲイムギョウ界に存在する混合したエネルギー。
「――――狂信者が、聞いて呆れる。テメェの身体、エネルギーに抗体持ってやがるな!」
《…………》
「お前はどれだけ女神を信仰しても、それがアイツ等に届くことはない! そしてお前も! 女神の持つシェアの影響を受けない! 敵に回したくねぇ奴だな」
《ならばどうする、懐柔でもするか?》
「御免こうむるね!」
エヌラスは視界を一瞥して、その場から離脱と同時に両手へ偃月刀を召喚すると投げ放つ。片方は炎熱、もう一方は氷結。異なる属性同士が竜巻のようにゴウとシロトラの二人を囲む。徐々にその範囲を狭めていき、やがてふたりの頭上で衝突した。
“ジュバッ!”と異様な音を立てて、辺り一面が一瞬にして霧に包まれる。
――悪いが俺は先を急いでいるんでな! お前たちの相手なんかしてられっか!
エヌラスの声がバイクのエンジン音と共に遠ざかっていく。魔力を含ませた濃霧はすぐには晴れなかった。夜風が視界を開ける頃には、既に逃亡された後。
《逃げられたな、シロトラ教官》
《ああ……》
《それよりも先ほどの言葉、本当なのか。エネルギー抗体を持っているとは》
《ゴウ。他言無用だ。誰にも話すな》
《わかっているさ、総司令官殿。事情は人それぞれだ》
《……お前にはいつも感謝している》
しかしそれなら納得がいく――環境汚染物質であり万能のエネルギー物質、ニュードを原動力とするB2AMの総司令官は務まらない。ゴウは一人で頷いていた。
《気にするな、この組織創立以来の仲だろう。俺は縁の下の力持ちがお似合いだ》
旧式の機体に改修を続けてなんとか動いている。既に耐久年数は過ぎ、それでもと無理を言ってB2AM整備班の担当者に掛け合ってゴウは組織の為に働いていた。エネルギー採掘の中止によって失った生き甲斐は、今やこの男の築き上げた地位と部下達の成長を見守ることで十分に満たされている。
《俺に、表舞台など似合わんよ。さぁ、帰るぞ》
《……そうだな》
シロトラは一度だけプラネテューヌの夜景を見つめて、背を向けた。
守らなければならない明かりは遠く、手が届かない場所にある。――それが幻想であっても。
教会に戻ってきたエヌラスは、扉を開ける。
「ただいまー、っと」
リビングでは相変わらずネプテューヌがゲームをやっていた。それをソファーに座って眺めていたミリオンアーサーとチーカマが帰ってきたエヌラスを見てギョッとしていた。
「あ、おかえりなさいエヌラスさ――」
「? どうした……?」
「どうしたじゃありませんよ!? こっちのセリフです! どうしたんですかその怪我!」
「怪我? 怪我なんて――」
何をバカな、と言われてエヌラスは自分の身体を改めて見直して、嗚呼そりゃそうかと頷く。ネプギアが心配するのも無理はない。空中で炸裂する榴弾砲、エアバスターが降り注ぐ中をハンティングホラーで突っ切ったのだから。
羽織っていたコートはボロ布に成り果て、破裂した弾頭の破片が全身に刺さっている。赤く滲んだ服のあちこちが破けて、シロトラのグレネードによる負傷で肌が黒く焼けていた。まるで戦争帰りのようだと他人事のように思うエヌラスの手を取って、涙目になりながらネプギアが引っ張る。
「は、早くこっちに来て治療しないと!」
「そんな焦らなくても大丈夫だって」
「エヌラスさんはいつもそうなんですから!」
「放っておいても治るしな」
「そういう問題じゃありません!」
「うむ、そうだぞエヌラスよ。名誉の負傷と人は言うかもしれんが、帰りを待つ乙女心くらい察してやれ。ネプギアを泣かすな」
「いや、泣き顔かわいいよな」
「それは私も考えていたところだ。お互い趣味が合うではないか」
アーサーがチーカマに頬を引っ張られていた。