超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
泣きながら手当をするネプギアの涙を拭い、半裸のエヌラスは大人しく治療を受ける。時々、鼻をすする音が聞こえてきて居心地の悪さを感じていた。
「ぐすっ……」
「……悪かったって」
頭を撫でると、ネプギアは涙目になりながら包帯を巻いて見上げてくる。
「そう思うなら、もうこんな怪我しないでください」
「あー……」
無理な相談だ。自分はこれから先、もっとひどい怪我をするだろう。きっとそれは、自分のためではなく、ネプテューヌ達の為に。
「そうだな。こんな怪我しても、お前たちに心配されないようにしないとな」
「怪我をしないようにする――なんて、無理ですもんね。知ってます、エヌラスさんがそういう人なの」
「わたしに負けず劣らず人の話を聞かないよねー、エヌラスってば」
なにか言い返そうと思ったが、エヌラスは何も言わなかった。ネプギアが腕の包帯を巻き終えて、今度は背中の傷を見る。そこへユウコが戻ってきた。
「あれ、帰ってきてたんだ? なんでそんな怪我してんだよ」
「うるせ」
「うーわ、ていうか服までボロボロになってるし……どうすんだよ替えの服とか」
「知るか」
「まったくしょうがないなぁー。お前ってば半裸で出歩くつもり? ほれ、採寸するから動くなよ? ギアちゃんごめーんね、ちょっと場所借りるね」
「俺の服のサイズぐらい知ってんだろ。測る必要あるか?」
「男子三日会わざれば刮目して見よ、とは言うじゃん。ほれ動くなー」
「刮目せよー!」
「うるせぇぞネプー」
ひとりで頷き、ユウコがボロ布となった服に触れる。
「ていうか今まで不思議に思ってたんだけど、普通の服でお前よく戦ってたなー」
「それはどういう意味でだ?」
「ほら。九龍アマルガムで色んな多機能型スーツとか売ってるじゃん」
「多機能型スーツ? どういったものなんですか」
「地表都市で頻発する凶悪事件に対抗するために作られた公安局の制服をベースに、それを民間向けに改良した服のこと」
想像してみる。エヌラスがスーツを着ている様――。狂犬のような風貌で、女神達に首輪をつけられた黒衣の旧神……。それも着崩しているであろう姿が容易に思い浮かぶ。
「……ベールさんが見たら、鼻血ものですね」
「じゅるり……」
「ちょっとアーサー。よだれ出てるわよ」
「はっ! 私としたことが!」
「嫌に決まってんだろ。誰が着るか、あんな制服!」
「えー? なんで、カッコいいじゃんかあのスーツ!」
「あんな社会的模範な服着てたら気が気でねぇんだよ! 大体、あの多機能型スーツどう呼ばれてるか知ってるか」
「うにゃ?」
「“ハウンドスーツ”とか呼ばれてんだぞ! 誰が着るか、そんな猟犬仕立ての制服!」
それにユウコが不満そうにしていた。
「だからってこんな安物着なくてもいいじゃんか。命に関わるし」
「だったらもうちょいマシな服を仕立ててくれよ。九龍アマルガムに服買いに行きたくねーんだから」
「エヌラスの服っていっつも真っ黒で地味なんだから、たまにはもうちょっとオサレしてもいいと思うんだ。顔も凶暴なんだからぁ、少しでも親しみやすい格好した方がいいと思うんだー」
「アホ言え。俺の顔でスーツなんて着てたらただのマフィアくずれにしかならねぇよ」
「あ、自覚あったんだ……」
採寸を終えたユウコが唸り、残されていたボロ布を見る。明らかに服を作るには布の面積が足りない。
「大体、あんなスーツ着るならコンバットスーツ着た方がまだ似合うっつーの」
「お前はもうちょっと私服に気を使えって言ってんだよバァカ。もうちょっと普通の服を着ろ」
その普通の服が今現在、ボロ雑巾となっているわけだが……ユウコに言っても聞かないだろう。そこでエヌラスは、自分の手当を懸命にしているネプギアに尋ねた。
「ネプギア。俺に似合う服ってどんなのがある?」
「そうですねぇ……エヌラスさんに似合う服……」
いつも真っ黒な服を着ているから他の服を想像するのが難しい。スーツは着たくないと言っているのでまずは省く。あくまでも私服。街の中で着ていて違和感のない服――。
「う~ん……」
「イデデデデデデ! ネプギア、キツイ! 痛いっての!」
「わぁ!? ごめんなさい!」
考えながら包帯を巻いていたからか、力を込めすぎて血が止まっていた。慌てて緩める。
「ふむ……エヌラスが着るのであれば、モードレッドのような黒服が似合うであろうな。というか、なぜかお主からは黒と赤という印象が抜けんのだ。凶悪極まりない組み合わせだな」
「その色合いって主人公がしちゃいけないと思うんですけれど……」
「赤だけならともかく、それに黒ってのはねー」
「あぁはいはい。どうせ俺はアウトローのような格好がお似合いですよ、っと」
それにピンと来たのか、ユウコが手を合わせた。
「そーだ、それなら似合う服あるじゃんか!」
「どんなだよ」
「九龍アマルガムで売ってる、あの大魔導師御用達のブランド――」
「ユウコ。それってもしかしてとは思うが……」
「そう! 通称“マギウス・スタイル”のファッション! あれなら似合うんじゃない? それに値段もハウンドスーツよりは安価だしさ。手頃だと思うんだけど」
「本気で言ってんのか?」
「だめぇー?」
「…………検討しとく」
ネプギアの応急手当も終わり、エヌラスは室内を見渡す。そこには例の薬の被害者たるアイエフがいない。
「アイエフは?」
「あいちゃんなら部屋に閉じこもっちゃったよ。んもー、ちょっとくらいモフモフさせてくれたっていいのにさぁ」
「お姉ちゃんがあんなにしつこく言うから」
「……なぁ。もしかして俺が出かけてからずっとアイエフに言い寄ってたのか?」
「わたしだけじゃなくてぷるるんとかミリアサちゃんもだよ?」
「はぁ~……」
「晩ごはんも食べずに閉じこもっちゃってさ」
とりあえずエヌラスはネプテューヌの頭を小突いて、ユウコに晩ごはんの残りがあるか尋ねる。一緒に夕飯を食べようとすらしない辺り、相当しつこく聞いていたのだろう。
「とりあえずアイエフに飯持っていくから、そこでおとなしくしとけよ」
「はぁ~い。んもぉ、エヌラスったらいつからそんなお兄ちゃんキャラになっちゃったかなぁ」
「兄……兄か。うむ、それならば私は“お兄ちゃん”と呼ぶか“兄様”とでも呼ぶべきか?」
「えーっと、命に関わるのでやめたほうがいいと思います」
なんとか話題を変えようと、ネプギアはユウコを見やる。
「そうだ、さっき言っていた“マギウス・スタイル”ってどんなファッションなんですか?」
「うん? ああ、興味あるんだ。ちょっと待っててね」
携帯を取り出して、サイトの画像を探しているのか画面をスライドさせていた。
「はい、これが大魔導師の御用達ブランド。その名も『アーカムファッション』だよ」
特集が組まれているページでは、黒のインナーにアウターとして白いシャツが着こまれている。それ以外にもファーの着いたライダースーツ。見れば、その服にはどこかに十字のラインが織り込まれていた。アーカムファッションスタイルは名のある魔導師達が好んで着込むが、そこには大魔導師の影がある。それもそのはず。大魔導師が普段から着ているコートに使用されている繊維は自前で精製したという、それを特許を取得してユノスダスだけでなく自分の国でも広めている。ちなみにその製法の考案方法は「目玉焼きに醤油とソースとケチャップ垂れ流してたら閃いた」と言っていた。普段からそんなことをしているらしいが、周囲からは『凄い人だからよくわからないことをしているんだろう』という認識で広まっている。
「こっちは逆十字ファッションスタイルだね。んでもってこっちがミスカトニックスタイル」
「色んな服があるんですね」
「でもこっちでネットとか使えるの?」
「次元間光回線引っ張ってるからメガネが苦労するだろうけど、大丈夫大丈夫。自分の国に引きこもってネットばっかやってるのが悪い、うん」
それがインタースカイで処理されるデータを片端から整理している作業だとユウコは知らない。とはいえ、最近はプログラム生成に熱を入れているようだが――。