超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
エヌラスは部屋の扉をノックする。トレイに載せた料理を持って、中からの返事を待つ。
「アイエフ。俺だ、飯食ってないってネプテューヌから聞いたぞ。温めてきたから、冷めないうちに食えよ」
内鍵を開ける音と共に、シーツをかぶったアイエフが少しだけ顔を見せた。左右を警戒してから、頷く姿にエヌラスは部屋に入る。
「飯、置いとくぞ」
「……エヌラス、怪我してるじゃない」
「さっきネプギアに手当してもらった。大丈夫だ」
「誰にやられたのよ」
「ルウィーからの帰りがてら、シロトラにな。もう一人いたが、まぁそいつはどうでもいい」
エネルギー抗体持ちとなると、あれを破壊するには物理的手段以外にない。エヌラスはシロトラをどう倒すべきか考えていると、アイエフが部屋の鍵を掛けた。それに首を傾げる――わざわざ内鍵を閉める必要があるのだろうか? 訝しむ視線に気づいて、アイエフが苦笑した。
「またネプ子達に「あいちゃーん、モフらせてー!」なんて言われたら堪んないもの。ノイローゼにでもなっちゃいそうよ」
「……それは悪かった」
「どうしてあなたが謝るのよ。悪いのはあの変態集団、それにネプ子よ。気にすることないわ」
「いや。俺があの変態共を不快感を理由にぶちのめしていたらこうはならなかった」
どうして邪神を目の当たりにしてまともに渡り合ったあの連中を怪しまなかったのか。悩んでも仕方ないのはわかっているつもりだが、だがそれでも、しかし――アイエフを見やれば見慣れないキツネ耳が“みこっ”と動いている。異性の理性をこうも視覚的に殴りつけてくるとは恐るべきアイテムだ。
ベッドに腰掛けて夜食を食べるアイエフの隣に腰を下ろす。
「ユウコの作る料理って、本当に美味しいわね。こんなの毎日たかってたの?」
「毎日じゃねぇよ。時々だ、時々……」
「時々、ね。どれくらいの頻度で? もぐもぐ」
「短くて、週に三回。長くて年に一回、それぐらいだ」
「それ以外は、モンスターとか食ってたのよね」
「うっせ。俺の食生活に口出すな。そういうのはユウコだけで十分だよ」
頭にかぶっていたシーツを下ろして食事を摂るアイエフの横顔を見つめる。
「そんなに嫌か、ケモミミ」
「嫌に決まってるでしょ」
「かわいいのにな」
「ネプ子と同じこと言ってる。なんでこんなケモミミひとつでかわいいかわいいなんてもてはやされないといけないのよ、馬鹿馬鹿しいわ」
「それの何が嫌なんだよ」
「だって……」
尻尾と耳が落ち込むように垂れ下がった。
「それって、このケモミミがかわいいからであって、別にわたしがかわいいわけじゃないんでしょ。それじゃまるでいつものわたしが可愛くないみたいじゃない」
「なるほどね」
「アイツ等がしようとしてるのは、そういうことでしょ。そんなの嫌に決まってるでしょ……」
「……アイエフ」
「なによ」
「あまりこういう事は言わないんだけどな。お前のことかわいいと思ってるぞ」
「ありがと。誰にでも言ってるんでしょ、そういうこと。お生憎様、わたしはそういうのに弱くないの」
「男なんてそんなもんだ。道行くねーちゃん嬢ちゃんに「かわいい」とか「きれい」とか、そういう感情持ってる。一人の女性として見ちゃ悪いのか?」
「誰でもかれでも性的な目で見るのは感心しないわね」
「空気扱いよりはマシだろ」
それはそうかもしれないが、意識していない相手から向けられるその視線が好ましいものでもないのは事実だ。アイエフ自身、そういった視線を気にしたことはない。
「変に気にされるよりは空気のほうがマシよ」
「そういうもんかね」
「そういうものなの、わたしは」
「俺はどうでもいい相手にそんな事言わないけどな」
自分の手を見下ろす。ボロボロで、傷だらけの身体でも、それでも伸ばしてきた手が届かない時もあった。守ると決めて、救うと誓った相手の亡骸を抱いてきた手に残る、冷たい肉の感触を握りしめる。
「俺が手を出すのは、守ると決めたやつだけだ。まぁそれに同意を求めるつもりはないが――アイエフ。俺は必ずお前のケモミミを治す。だから、少しの間だけ辛抱してくれるか」
「……ああ、もう。ほんとうにアンタは空気読まないわね」
「なんだよ」
「人が意識しないように気をつけてるのに、どうしてそう……もう……」
エヌラスは現在、半裸の状態だ。手当も終わって包帯だけが上半身を隠している。付け加えて、アイエフは、薬の効果とはいえ情事に持ち込んでしまった事を気にしていた。だというのに――この男と来たらまったく気にした風もなく、それどころか、暗い室内に男女が二人。ベッドに腰掛けているというシチュエーションをナチュラルスルーしている。
アイエフは自分の身体の疼きを悟られないようにとするので精一杯だった。思い出すだけで顔から火を吹きそうなほど熱くなる。
「どうでもいい相手からだったら、そりゃもう本当にどうでもいいのよ。だけど、その……アンタは別なの。一応、ネプ子の恩人なわけだし? それに」
「それに?」
「……その、色々しちゃったし……おいそれとどうでもいいなんて言えるわけないじゃない。あんなことまでして」
「あー……」
見れば、アイエフはコートを脱いでいた。その下は以外なほど薄着で、一度は抱いた身体に思い出される扇情にエヌラスが頭を抱える。
「どうしてそう思い出させる発言するんだよ……」
「仕方ないでしょ……アンタのせいでこんな身体になっちゃったんだから……」
気まずい沈黙が続き、それを破ったのは頭を撫でるエヌラスの手だった。それに最初は驚いたアイエフだったが、肩に頭を預ける。
「今度はちゃんと、わたしの意思なんだからね。薬とかでおかしくなってるわけじゃないんだから」
「分かってる」
そうでもなければこうまで震えてたりしない。アイエフの身体を抱きしめて、頭を胸に寄せる。身体に手を回して抱き着く頭を撫でながらエヌラスは思い出したように口を開いた。
「アイエフ」
「……なに?」
「俺は一度、九龍アマルガムに戻る。薬の中和剤の調合なら向こうの方が早い」
「そう……」
現在の九龍アマルガムの地表都市はめざましい発展を遂げてはいるが、やはり犯罪国家。科学技術の成長には目を見張るものがあるが、それ以上に跋扈する凶悪犯罪が善良な市民の生活を脅かしている。しかしながら、それでも相変わらず大魔導師は内政を「暇潰し」程度にしか認識していなかった。
地上は科学技術の発展。地下は魔導科学の発展と、別々な成長を遂げている。自給自足の凶悪犯罪が成り立つ国家として近寄りがたい印象があるものの、国内で生産される宝石や時計、貴重品はユノスダスでも高級品として取り扱われている。もちろんそこには薬剤も含まれていた。
「三日もあれば戻ってこれるとは思う。それまで我慢してくれ」
頬を撫でて、顎を上げさせる。アイエフの頬は紅潮しており、強く目蓋を閉じると唇を差し出してきた。それに軽く口づけを交わすと小さく声が漏れる。何度も繰り返しているうちに、エヌラスの手が尻尾の付け根に触れた。それだけで驚きに身を竦ませるものの、声は出さない。正確には出せなかった。唇を塞がれていては声も押し殺される。
「~~~~! ……、んっ。もう、すぐそうやって触る」
「気になるんだよ。どういう風に生えてるのか」
華奢な背中をなぞっていくと、くすぐったそうにアイエフが身体をよがらせた。根本は身体から生えており、まるでそれが持って生まれたものであるかのように自然な形で繋がっている。その付け根を集中的に弄ると、電気でも流されたように身体を跳ねさせた。
「んぅっ! ちょっと、そこ……! ダメ……」
「弱いのか?」
「そう、みたい」
それはいいことを聞いた。そうなると……今度はエヌラスの手がきつね耳の後ろ、その付け根を掻く。髪の毛を掻き分けて触れてもやはり同様に生えていた。身体構造の根本的な変化、それを後遺症もなしに成し遂げる調合配分の見事さに拍手を送る。
耳の後ろもそれほど強くないのか、甘い声が漏れていた。
「ふあぁ……これ、自分で掻くより気持ちいいかも……」
「どんな感じだ」
「ふぅ、んぅ。そうね……ぁ。なんて、いうかぁ……耳かきされてるみたいな」
「へぇ……? お前ちょっと楽しんでないか?」
「だ、誰がこんな身体――」
尻尾を引っ張ると、今度は驚いて身体を預けてくる。不意打ちの刺激に腰が抜けたらしい。それをチャンスと見たエヌラスがベッドに押し倒すと、唇を尖らせていた。
「そう怒るなよ」
「怒るわよ、あんなこといきなりされたら……」
「怒っててもかわいいのは変わらないんだけどな」
服を脱がせていくと、肉付きの少ない身体が露わになる。坑道内のような薄暗い場所で見る時よりも月明かりで照らされたスレンダーな体つきは色気があった。改めて見られる己の裸にアイエフが咄嗟に手で身体を隠す。
「い、いつまで見てるのよ」
「ああ、悪い。触ってほしくて仕方ないんだもんな」
「そういうわけじゃ……ひゃあん!」
小柄ながらも主張する胸の乳首に触れる。指で弾くようにすると、顔を赤くしながら声を押し殺していた。
「ぁ、アンタね……よくそんな身体でエッチしようとか思うわね」
「俺にとっちゃ、どっちも命懸けなんだよ」
放置していても銀鍵守護器官が再生するとはいえ、ネプギアが手当してくれたおかげで消耗が抑えられている。普段よりも幾分か身体が軽く感じるのはそのせいだろう。
「さて――それじゃアイエフ。準備はいいな、俺は出来てる」
「お手柔らかにお願いするわ」
「それはちょっと難しいかもな。獣のように貪るかもしれん」