超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
エピソード78 間違った真面目の方向性、けじめ案件
B2AM本部。プラネテューヌを騒がせるであろうケモナールを開発した変態集団の根城であり、本拠点は現在“移動”していた。というのも、その原因はシャニにある。本部の中を行き交う作業用ロボット達――エネルギー資源採掘用二足歩行型ロボット、通称『ブラスト』は一定の規格内で共通した装備を流用出来るように簡易的な設計をされている。その為、生産性と拡張性に重点を置いていた。しかしそれも時代の波から外れて現在は細々と生活している。
《聞いたか、シャニの容態》
《ああ聞いたよ。なんでも頭部メモリーに深刻な過負荷を強いられていたらしいな》
《一体なにがあったんだろうな、あのシャニに》
《さあなぁ。特務隊のことなんて俺たち三下には関係のないことだ》
軽量ホバー型の機体がダンボール箱を担いで施設内を移動していた。その隣に並ぶのもまた、軽量型二脚。彼らは脚の速さからこうした施設内の運搬などを担当している。
特務隊に所属しているシャニがやられた――誰に? それは一緒にいたレオルドとロゼの証言から、『プラネテューヌの女神』であると判明。パープルハート様にやられるとかそれなんてご褒美? ……と、誰もが思ったものの、実際は違う。
《しかし、プラネテューヌの女神様ねぇ……》
《らしいなぁ。あの万年最下位ビリケツドベ太郎のレオルドはともかくとして、ロゼまで同じこと言っているんだからな》
プラネテューヌの女神、アイリスハート。そう名乗っていたらしいが、B2AM内ではまだ半信半疑だった。「別次元の女神様なのですね! わかりました信仰します!」とは簡単に受け入れがたい。何故なら彼らが信仰するのはただ一人、女神パープルハートだけだ。それ以外の女神はそれこそ邪道。叛逆者にして反国民。障害はただ排除するのみ、だ。
例えそれが別次元のプラネテューヌの女神であろうとも。
《失礼します。グラさん、例の物、届きました》
「おーう、そこに置いといてくれや!」
ブラスト整備班、と言っても一人しかいないのだが……皆からは「グラさん」と親しまれている人物は筋骨隆々の肉体派。だが、環境汚染物質でもあるニュードで動いている彼らブラストの整備というのは命懸けだ。実際、グラさんの身体にはその侵食の兆候が見受けられる。だが本人は気にした風もなく、半結晶化した腕を振っていた。
大規模演習を終えてからかかりっきりで全員の装備を点検しているグラさんに休息の暇はない。ロボットのように休みなく動けるわけでもないのだから無理は禁物だ。とは毎回言っても――。
「バッキャロウ、オメェらの身体と装備。誰が他に整備するってんだ。それに人間さま舐めんな」
と、まあこの有様。それでも時々寝ているらしい。呆れながらも頭が上がらない。そんなB2AMでの静かな一時――そこに警報が鳴り響く。即座に戦闘態勢に入る施設内だったが、内線放送の一言に肩を落とした。
『あの変態狂人集団、総合特務班トライアドが帰ってきたぞ』――もうその一言だけでウンザリとした空気がB2AM本部、移動要塞『
特に、オペレーターを担当しているチヒロとヨルドには。
《ハッハッハ! みんなぁー、元気にしてるかぁ! トライアドの班長の方、セインだ!》
《同じくトライアドの重火力部門、ディルだ!》
《支援部門のシュラだ!》
《俺は乗らんぞ》
《ナンデ!?》
ああもうこいつらは口を開くだけでどうしてそうも鬱陶しいのか。見て見ぬ振りをする仲間たちから漂う空気にも負けず、セインは両手を広げて施設内を闊歩する。
《すぅー……はぁー……ああ、何もかも懐かしいこの古巣の匂い》
《懐かしいな、ここでお前とドンパチ派手にやらかして》
《外壁に穴開けてペシャンコになりかけたっけなぁ》
しみじみと言っているディルとセインだが、その修復作業に丸一ヶ月掛かった挙句に動力パイプを損傷させて一部機能を停止させていた。はた迷惑なふたりをB2AM総出で喧嘩を売ったものの、結果は半壊。最終的にシロトラが仲裁に入ってふたりを土下座させたことにより丸く収まっている。
規則的に揺れる施設内は、まるで船に揺られているかのような振動だ。その内部を歩く四人に声を掛けようとする者は誰もいない。職務上、どーしても声を掛けないといけないのが二人ほどいるが。
「貴方達ね……どうして戻ってきたの?」
「そうですよ。まだ帰投命令は出していませんよ……」
《やぁ、ちっひーとヨルドさんじゃないか。顔を合わせるのは一万時間と八千秒以来かな》
「適当に言わないでください」
「そうよ。持ち場に戻りなさい」
黒髪のショートカット、金髪のウェーブのかかったロングヘアー。チヒロとヨルドという正反対の二人のオペレーターの人気は二分されている。一時期は「うちのオペレーターが一番かわいい大会」というのをセイン主催で開催して二人に大目玉食らっていた事もあったが、今では笑い話だ。
《いやぁ、実はそうもいかない。俺達が違法採掘をしているのが教会の関係者に勘付かれてな》
「なんですって……?」
《本部に通達しようにも、混線状態。仕方なくこうして戻ってきたというわけだ……ああ帰りたい》
深い溜息を吐くジーンの苦労が窺える。しかも何処に帰るつもりだお前、という問いをぐっと堪えてチヒロが詰め寄る。
「どうしてそう、毎度毎度毎度毎度! 迷惑行為ばかりっ、繰り返すんですか! 学習機能というものがないんですか!?」
《そんなものは無い!》
「胸を張って言うことじゃありませんよ!」
《わかってないなぁ、ちっひー。俺は、賢くなってつまらない人生よりも何一つ学ばないバカやって楽しく生きる人生の方が良い!!》
サムズアップをして言い張るセインにチヒロが呆れ果てて何も言い返せなくなるが、ヨルドは違った。
「それで。教会の関係者に追跡された痕跡はあるの?」
《無いです、ヨルドさん。俺の索敵範囲内に怪しい人影は無し》
「そう、ならいいわ。チヒロ、そんなバカの相手するだけ無駄よ」
「分かっています。分かっていますけれども……何だかアレに負けた気がして」
「気持ちは痛いほどわかるけれども、構うだけ調子に乗るから無視が一番なの」
《嗚呼、大人の対応って冷たい……》
《機械の身体に染み渡るな……》
無視。ガン無視決め込んでスルーするオペレーターの背中を見送って、セインは改まって施設内を歩く仲間たちに向かって声を張り上げた。
《みんなぁー! ケモミミは好きかぁー!!》
まーたなんか言ってるよあの野郎は……。そんな声がチラホラ。
《俺、犬アレルギーなんだよな》
《俺は猫アレルギー。近づくと機能にエラー出てくるんだ》
《それはそれとしてもケモミミは嫌いじゃないな……》
《同感だ。でもアイツらは好きじゃない》
《それな》
満場一致、ケモミミ以下の存在価値のトライアド。それにセインが大仰に嘆く素振りを見せた。
《見たくはないかぁー、ケモミミの女神様!》
それは見たい。だがどうやって? せせら笑いが聞こえてくる。
《見たくはないかぁぁぁぁっ! ケモミミモッフモフのパープルハート様がぁぁぁー!》
超見たい。だけどそれを決して口には出さず、賛同するまでもなく通り過ぎる仲間達――。
《そうか。じゃあ俺達だけで見るか、ケモミミのパープルハート様》
ざわっ……。それが、一瞬にして立ち止まった。一斉に押し寄せる仲間達に取り囲まれる。
《見れるのか、ケモミミのパープルハート様が!》
《二言はない》
《だがどうやって!》
《もちろん。俺の力でだ! 協力してくれれば不可能ではない!》
《本当か、嘘じゃないんだな! この変態野郎!》
《あ、やべ心折れそう……ポッキリ逝きそう……》
しかしながら、聞き過すわけにはいかない。何故ならここに居る誰もが女神パープルハートを信仰して止まない者たちだ。
《ならば、改めて聞こうか! B2AMの同胞達よぉ、ケモミミは好きかぁー!!》
『大好きだぁー!』
《ケモミミは好きかぁぁぁぁ!!》
『大好きだぁぁぁぁっ!!』
《女神パープルハート様が大好きかー!》
『大好きだぁぁぁぁぁぁっ!』
《ケモミミのパープルハート様が見たいかぁ、野郎どもぉぉぉぉぉっ!!》
『ウオオオオオオォォォォッ!!』
《出来れば俺に優しくしてください》
『ゴメン無理』
そこだけは譲れないのか、全員が首を横に振った。だが今はそんなこと、些細な問題。
《よろしい諸君! ならばケモナールだ! これの大量生産に取り掛かる! ブリーフィングはこれより三十分後に執り行う、それまで各自自由行動とする! 場所は第三会議室! 作戦参加者は武装状態で入室の旨、忘れるな! 解散!》
『
変態どもではあるが――その代表であるセインは、真面目にさえしていれば部隊掌握のみならず作戦の陣頭指揮を含めて優れた司令官としての側面もある。それがシャニには出来ないことであり、コンプレックスの一つでもあった。同時に、二人の対立の原因でもあるのをセインは知らない。
《セイン。作戦名は》
《そうだな、あー……『もふもふ作戦』で行こう》
《お前のその壊滅的なまでのネーミングセンス、嫌いじゃないが好きでもない》