超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「いやー、もう。感謝感激ヤマアラシだよ」
「…………」
「それにしてもこの次元って、見たこと無い昆虫とか生態系とか一杯いて飽きないなぁ。さっきみたいな植物もいるみたいだし、これは俄然燃えてきたよー!」
「………………………」
ネプテューヌであるのは間違いない。自分から名乗り出る以上、嘘を言っているとも思えない。というよりも嘘をつけない性格だ。となれば答えはひとつ――別次元のネプテューヌということになる。問題は“どこの次元”であるかということだ。
「いつからこの次元に来たんだ?」
「えーっと、ほんとうについ最近かな。おっきな街とか行って、毎日お祭り騒ぎで楽しかったなー」
「それ、どこの話だ……」
「ユノスダスって国だけど?」
ああ、そりゃ正解だ――アダルトゲイムギョウ界で最も安全な国に滞在というのはこの次元で生きていく上で賢い選択になる。だが何故わざわざ自分から危険地帯に行くような真似をしているのか。その辺は別次元とはいえネプテューヌがネプテューヌたる由縁なのだろう。
「でもあの国、働かざる者食うべからずっていう国じゃん? だから結構疲れるんだよね。なんでもかんでもお金お金ーって」
「金は国家の原動力だからな」
「結構融通利く場所だったから、他のところ旅行に行ったらまた遊びに行こうかなって思ってたんだ」
「で? 次の目的地は」
「九龍アマルガムってところだよ?」
今すぐ帰れ――と、言いたいところだったが人生はうまくいかないもので。自分も同じ目的地だ。
「……奇遇だな、俺も同じ場所を目指してた」
「ホントに!? もしかしてとは思うけど、地元の人?」
「まぁな」
「まさかとは思うけど、犯罪集団の一人とかじゃないよね」
「ちげーよ。ていうか失礼だな」
「だって普通、目に傷とか付けてる人いないよー」
「……そりゃな」
左目に触れて、やはり傷跡だけでもどうにかするべきだろうかと思い悩むエヌラスの横。ネプテューヌと名乗った女性はノートを開いていた。
「クロちゃんがさ、この次元が面白いーって言ったから来てみたんだけど大正解」
「そのクロちゃんってのは、なんなんだ」
「俺だよ、俺」
標本にされている黒い蝶が喋ったことにエヌラスは特に驚きもしない。むしろ目と鼻の先で現在、まさにこれ以上ないほど驚かされている。
「この次元、何から何まで狂ってやがるのがおもしれーのなんのって。そりゃ俺みたいなのが記録しないわけにはいかないだろ。現地で直接観測するに限るぜ」
「…………」
狂った次元。確かにそうかもしれない。多次元宇宙、あらゆる並行世界が存在するパラレルワールドでも際立っているだろう。
滅んでは再生する次元なんて、そう観測できるものでもない。
「おい、クロ助」
「だーれがクロ助だ。俺にはちゃんとクロワールって名前があるんだよ」
「うるせぇクロ助。どう狂ってるのか言ってみろ」
「一度滅んだ次元なんてのは普通、再生しない。復活しない。その先にあるのはただ“虚無”だけだ。なのにこの次元ときたら……なぁ、一体全体どうやって復活してんだ? 次元座標も時間軸も歪んでるしよー」
「それって、どう問題なの? クロちゃん」
「要するに一度作ったジオラマを、ほんの数ミリ動かすために全部作り直してるみてーなもんだ。トチ狂ってるとしか言いようがないだろそんなん。そもそも“次元を管理している神様”がイカれてるとしか言えねーんだけどよ。間違いなく邪神だ、邪神」
ぶっきらぼうな言い方をしているクロワールではあるが、その声色からは畏怖が感じられる。歴史を記録するものとして、これ以上無い貴重な次元の観測に興味津々ではあるようだが、その異様さに呑まれているところも否めない。今、ネプテューヌの前にいるエヌラスも一応は旧神――次元神セロンと同格ではあるのだが……。
「ん? おい、ネプテューヌ……」
「どうかしたの?」
「お前の目の前にいる男、多分人間じゃねーぞ」
「えぇ!? そうなの!」
「ああ。なぁ、お前もしかしてとは思うけどよ――魔人か?」
「だったら何だよ」
「もしそうなら、この次元でどんな悪巧みしてんのか一口噛ませてくれねーかと思ったんだけどよ。もちろんネプテューヌが」
「え~、わたしぃ?」
「お断りだ。別に悪巧みも何もしてねーよ」
「ちぇっ。つまんねー魔人だなオメー」
「焼くぞ」
右手から吹き上がる神性の火柱に、クロワールが慌てていたがそれ以上に大きいネプテューヌが驚いていた。
「ダメー! このねぷノートはわたしの命の次くらいに大事かもしれない物なんだから! それにクロちゃんごと燃やすとか絶対にダメ! ぷんぷん!」
「ちっ」
「舌打ちされた! んもー、見た目相応に凶暴なんだからエヌラスって。ほら、笑って笑って。スマイルだよー! にっこにっこ――ああ待ってー、置いてかないでよ」
エヌラスは背を向けて来た道を引き返す。だが、それに慌ててついてくるとハンティングホラーを見て目を輝かせる。
「おぉ、バイクだ! これエヌラスの?」
「そーだよ」
「もし良かったらなんだけど、九龍アマルガムまで乗せていってくれないかな?」
「嫌だと言ったら?」
「そんなこと言わずに。お願いだから! この通り! ちゃんとお礼もするよ」
「別に期待してねーよ、後ろに乗れ」
「ありがとー! それじゃ、お邪魔しまーす。よいしょっ、と……」
後部座席に乗り込み、エヌラスの身体に手を回して抱き着いた。背中に柔らかい感触が二つ。それに眉を寄せて尋ねる。
「ネプテューヌ、ひとつ聞いてもいいか?」
「なにかな」
「……お前、ブラ付けてるか」
「もう、エッチなこと聞くねー。やっぱり男の子なんだね。実は付けてないんだなーこれが」
「もう一つ先に言っておくぞ」
「今度はなに?」
「舌噛むなよ」
ハンティングホラーの魔導燃焼エンジンが唸りを上げて加速した。のんびりとしたツーリングが一転して、ワイルドな速度で周囲の風景を置き去りにして駆け抜けていく。慌ててしがみつくネプテューヌからの膨らみが余計に苦しい。
成り行きとはいえ、どうしてネプテューヌに振り回されなければならないのか――しかも別次元の。
――九龍アマルガム地表都心部。地上で発展した科学技術の影響力は地下帝国、つまりは大魔導師が治めている国にも多大な影響を及ぼした。だがそれが決して良いものであるかどうかと聞かれれば、現状の隔絶されたに等しい関係性から一目瞭然と言える。整備された地上、放棄された地下。だがその両方あってこその、九龍アマルガム。
サイバネ技術による義肢。人間のステータスを数値化できるだけの装置。それに伴う平和な社会――と、まではあくまで一般人に向けられた概要。蓋を開ければやはり九龍アマルガムは犯罪国家。
今日も今日とて、エヌラスがネプテューヌを連れて入国を果たした直後に起きる凶悪事件が朝刊のごとく大魔導師のポケットに届けられていた。
「うぅぅ、舌噛んだ……」
「言ってるそばからなーにしてやがんだか、降りるぞ」
「見てよこれー。んべー」
「見せなくていいっての」
舌を出すネプテューヌにエヌラスが顔を近づけると、頬を赤くしてそっぽを向く。
「なんか恥ずかしいからやっぱりいいや」
「そうか。さて、と――どうするかな」
途方に暮れた。
目の前で起きている事故、というか自爆テロの一種は頼みもしていないのに派手にやらかして道路が封鎖されている。取り急ぎ大魔導師に顔を合わせておきたいところだがそうもいきそうにない。並び立つ警備ドローンはホログラム投影によって公安局マスコットキャラに扮しているが、現場においてはなんともナンセンスだ。そういうのは遊園地とかで立っていればいいものを。
人混みをかきわけて、最前線に立つ黒地のスーツ姿の男女が数名。その中に見覚えのある燕尾服を着た男性を見かけたのでネプテューヌの手を引いて近づいて声を掛けた。
「バトラー」
「おや。これはエヌラス様。顔を見るのは随分と久しぶりの気がします」
「元気にしてるか」
「ええ、変わりなく。そちらの女性は?」
「来る途中で神性植物に捕まってたから助けてきた」
「ネプテューヌだよ。よろしくね、執事さん」
「
「おぉ、執事っぽい!」
「執事だっつうの。それで、状況はどうなってる?」
「高速道路の合流地点で同時自爆テロ。それにより交通網が麻痺している状態です。各所に設置されているパーキングエリアに取り残された市民が心配ですね。現在は公安局が動いておりますが」
視線を投げかけているのは、司令塔である女性。この状況でどう動くべきか、犯行に及んだ犯罪者達が次はどう動くのかを考えている様子だ。
「犯行に使用された自動車はいずれも無人。内部には細工の施された
「計画的な犯行だな。被害区域は」
「こちらに。……しかし、よろしいのですか? ネプテューヌ様と観光に来たのでは……」
「アホ言うな。だーれが観光に来るかこんな国。観光名所に猟奇殺人事件の現場でも案内しろってか。犯罪係数跳ね上がるわ」
バトラーから説明を受けているエヌラスを見て、ネプテューヌは「うわぁ、とんでもない所来ちゃったなぁ」と他人事のように思った。