超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
犯行動機がなにか。自動運転による無人の自動車により交通機関の麻痺。それもピンポイントに要所を狙った犯行。何が目的だろう――この地域周辺一帯のエリアストレス上昇が確認されている。当然の話だ、これでは旅行の予定を立てていた家族連れどころか仕事の予定すらもキャンセルだ。思いもしない犯罪に巻き込まれる側としては堪ったものではない。例え犯罪国家と呼ばれる九龍アマルガムであっても、善良な一般市民は存在する。だが他人の犯罪によって被害をこうむるのは必ずしも善良な市民だけではない。隠れた悪人ですらも取引に支障を来す、ただでさえ高い犯罪係数が更に上昇している。いつ暴動が起きてもおかしくない。とっとと犯人を捕まえろ、公安局に向かって投げられる視線と言葉にネプテューヌが眉を寄せる。
「うわぁ、やな場所だなー……」
「“上”はまだマシだ。“下”なんてコレの比じゃねぇよ」
何しろこの程度の自爆テロが――と言っても犯人は自ら死ぬ気も無かったようだが――日常茶飯事どころか、毎日起きている。自治団体であるアサイラムですら手が追いつかない。あちらは超常現象関連の犯行、つまりは魔術関連の犯行を中心に動く。
地上では公安局。地下ではアサイラム、並びに人狼局――犯罪組織中心の治安維持団体。
「まぁいいさ。俺にもネプテューヌにも関係はないしな」
「お手助けを期待したのですが」
「ついでの、そのつもりだ」
だが、ネプテューヌを知っている身分としては大きいネプテューヌを名前で呼ぶのは違和感しかない。
「でかいネプ……デップ……いやこれはマズイな」
「普通にネプテューヌで良いよ。なんかデップーて呼ばれると引っかかりそうだから。大人の事情とかに!」
「メタいな。んじゃもう、でかネプでいいか」
「小さいわたしもいるの?」
「いる、っていうか知ってるというか……」
「会ってみたいな。もう一人のわたしに」
ハンティングホラーを準備する。それにバトラーが訝しんだ。
「公安局も身動きできないんだろ、その状態じゃ」
移動に使用される装甲護送車では爆発炎上した車輌の撤去が終わらない限り、生まれ持った二本の足で走らないと救助に動けない。警備ドローンを使用したとしても取り残された市民の救助にまでは至らないだろう。大型自動二輪ならば支障はない。
「犯行に使用されたのが揃いも揃ってトラックってのはどういうことだ?」
「入手経路は不明。地下からの輸入品である可能性は否、地上で製造された型番ですがシリアルは全て丁寧に削り取られていました」
「面倒クセェことしてくれるな、まぁいいさ。爆発させてオシマイなんてことにはならないだろうから不審な動きを見せるやつがいたらとっ捕まえとけ」
「それで、わたし達はどうするの?」
後ろに乗り込むネプテューヌが疑問を口にする。
「バトラーさん」
「はい」
公安局の制服であるハウンドスーツに身を包み、その上からジャケットを羽織った女性が声を掛けた。まだどこかあどけなさの残る顔立ちから、成人して間もないのだろう。
「エヌラス様、こちらの方は公安局一課の」
「自己紹介はいい。話を続けてくれ」
「このテロ、なんの意味があるんでしょうか」
「どういう意味ですか、アカ姉さん」
「……アカ姉さん?」
「ああ、そう呼ばれているので」
愛称のようなものなのだろう。エヌラスは言及せずに話を促した。
「だって、わたし達の国を治めているのって……」
そう。あの、大魔導師だ。“あの”大魔導師だ――暇潰しと言って国を治め、暇潰しと言いながら邪神を討伐し、何もかも暇潰しと言ってのけるあの偉人。退屈に塗れた人生を魔術で補おうとした結果、その退屈が更に加速していつの間にか
あらゆる超常、あらゆる犯罪、あらゆる万象を“魔導”の二文字で解決できてしまう。そんな相手に喧嘩を売る――命懸けで命知らずのバカな犯行だ。
「その大魔導師は何処行った」
「…………」
バトラーが上を指差し、言いにくそうにしている。
「……上?」
見上げても青空が広がるばかり。――まさか、とは思う。
「空中遊泳とか言うなよ……?」
「……、お察しの通りです」
――三日ほど前に、地上で公安局の査察を終えてからレストランで食事を済ませ、隣にいたバトラーへ突然「食後の散歩に青空歩いてくる」と言って、まだ帰ってきていない。何考えてんだあの変人。
「教会に襲撃、とかでしょうか」
「もしくは時計塔の破壊……直接乗り込んでサーバーのハッキングとかが考えられますが」
いや、そのどれも杞憂に終わる。
「この事件の解決したけりゃ爆発した車輌の撤去に集中してくれ……」
「はい?」
「放っておきゃ大魔導師が片付ける」
どうせ大魔導師に敵わないからエリアストレスを上昇、市民を暴動に煽動するのが目的だろう。大魔導師ではなく不特定多数の市民へ向けた犯行は昨今珍しくない。だからこそ問題なのだが――当の大魔導師と来たら空中遊泳で現在行方知らずだ。
空を飛んでいる翼竜相手に縄張り争いでもしてなければいいのだが。
「とにかく、俺とネプテューヌは中央市街に向けて移動する。その途中で怪しい車輌でも見かけたら事情聴取しておく」
「え、いいのですか? でも市民の協力は」
「アカ姉さん、こちらの方は大魔導師と三日三晩殴りあった方です。その挙句に勝利している」
「えっ!? じゃあ、あの『三日戦争事件』を引き起こしたのって!?」
「はい。こちらのエヌラス様です」
「三日戦争事件?」
公安局はご丁寧に記録しているらしい。――エヌラスと大魔導師の戦闘。それが“喧嘩”の規模なのだから周囲の人間には迷惑極まりない行為だ。ちなみに喧嘩の原因は『冷やしたぬきは人類の食べ物か否か』という子供並の理由。だが喧嘩の原因は隠蔽され、公には『九龍アマルガムの次期主権者争い』ということになっている。エヌラスが勝利したものの、大魔導師に権力を譲っているとされていた。
ちなみに人類の食べ物ではないと主張したのはエヌラス。
「んじゃ行ってくる。現在、中央市街付近の交通網は麻痺。隔離状態だ、何が起きてるか見てくる」
「こちらからも監視ドローンを一基つけておきますか」
「いらねーよ。そいつの警備プログラム、インタースカイ製だろ」
「よくご存知で。それでは、お気をつけて」
ハンティングホラーを走らせると、車輌撤去中の作業員がまっすぐに突っ込んでくる自動二輪を見て驚いていた。しかしそれを余所に、サスペンスが肉食獣の強健の如くしなり“跳躍”して飛び越える。それを見送った作業員は間抜けな口をポカンと開けていた。
「ノーヘルですよね、あの人……」
「ええ」
「……捕まえなくていいんでしょうか」
「まぁ非常時ということで、ひとつ」
「はぁ……そうですか」
無人の高速道路を走るというのは退屈なもので――同じような景色が続く道を運転していると眠気さえ覚えてくる。
「おぉー、凄い近代的! あの電子公告とかちょっと気になる!」
「頼むから暴れるな」
「暴れてないよー」
後ろに同伴している相手が相手だけに、そんな眠気も吹っ飛んでいた。目に映る真新しい風景に黄色い悲鳴。エヌラスは運転に集中している。地上都市の発展には驚かされるばかりだ。
「この間来て、酒飲んだばかりでもすーぐに区画整理とかで変わっちまう。その代わりに整備の手が入らないところは徹底して放置。スラムも珍しくない!」
「そーなのかー! 美味しい料理とかあるのー!」
「ゲテモノ食いたきゃ地下帝国! オススメは特に、早い安いそれなりの美味さ! ニグラス食堂だ!」
見た目は悪いがそれなりの美味さで知る人ぞ知る名所だ。
「普通に美味しい食べ物はー!?」
「地上で食うなら――」
無人の高速道路の反対車線。中央分離帯を隔てた道を走る影があった。奇妙なヘルメットをかぶった集団が自動二輪。暴走族の類だろうかと思ったが、違う。手に持っているのが軍用のサブマシンガンであることに気づいたエヌラスが片手でハンティングホラーを操縦しながらポケットに手を突っ込む。その中でD-Phoneのアプリを起動する。
中央分離帯を乗り越えて、後ろから追跡してくる集団が短機関銃を掃射するが自動防御アプリケーションによって全て防御された。
「え、なに!? なに!? 突然のカーチェイス!?」
「あのヘルメット――」
一時期、巷を賑わせた犯罪者が制作したヘルメットだ。システムを欺く為に作られた防御ヘルメットはまだどこかで製造されているらしい。出処は地下帝国だろう。そうなると純粋な科学技術だけでなく魔導技術も含まれているに違いない。
システムに裁かれない犯罪者――聖人のような犯人は未だ行方知れず。捕まったのか殺されたのかすら公表されていない。とはいえ、あのヘルメットが流通しているのは見過ごせるはずがなかった。
「そういや俺ノーヘルだったな!」
「あれ、それ今更!? 今まで疑問じゃなかったんだ!」
「この国で普通に交通法守ってる相手見るの久しぶりで!」
人並みの生活が出来なかっただけに気にしてなかったが、いざこうして考えると軽犯罪だけで余罪が数えきれない。重犯罪その他神性犯罪多数。次元犯罪にも手を染めて……極刑待ったなしだ。
バックミラーを確認して、左手に浮かぶ氷の紋章が白銀の回転式拳銃を召喚する。撃鉄を起こして引き金を引けば、先頭を走る暴走族の前輪を撃ちぬいてパンクさせた。それだけで後続車輌が次々と横転して運転手が投げ出されていく。