超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
九龍アマルガム地上都心の高速道路を爆走する先頭車両、エヌラスが見向きもせずに魔弾に命を預けて引き金を引くこと都合六発。リロードで止まる銃撃を好機と見て暴走族が速度を上げる。それにネプテューヌが気づいた。
「エヌラス、向こうの人達追い上げてきたよ!」
「引き離してもいいが、逃げても意味がねぇのがつれぇな!」
「しょうがないなぁ、もう!」
ネプテューヌが引き抜いたのは拳銃。それを後続車両に向けて引き金を引く。エヌラスと同じように前輪を撃ち抜いて横転させた。
「へへーん、どんなもんだい!」
「左から来てる!」
「おっとー! わたしの射撃も捨てたもんじゃないでしょ?」
片手でスイングアウトした弾倉から薬莢を捨てて、ローダーを使って全弾装填する。再装填を終えたエヌラスが再び魔弾を奔らせると、連続して三人が宙を舞った。
「どこのどいつだか知らねぇが、追いつけるもんなら追いついてみやがれ!」
「うーん、なんだか正しくボーイ・ミーツ・ガールしてる気分でテンション上がってきたー!」
「外すなよ?」
「あ、リロード入るねー」
「あいよ」
暴走族の追跡も空しく、全員が迎撃されて高速道路を無様に転がる様を置き去りにしたエヌラスが他に追ってくる影がないことを確認して道を引き返す。
「グ、ウゥ……っ!」
「よぉ。おつかれさん」
最後まで残っていた暴走族のヘルメットに白銀の回転式拳銃ではなく、レイジング・ブルマキシカスタムの銃口を押し当てる。ゴリッとした固い感触に、足の折れた暴走族は呻き声を押し殺した。
「うわ、折れてる。やっぱり痛い?」
「めちゃくちゃいてぇに決まってんだろ! クソ、俺を殺すのか」
「まずヘルメット脱いでもらおうか」
両手を上げていた暴走族がゆっくりとヘルメットを脱ぎ捨て、地面に置く。それをネプテューヌが拾い上げて観察していた。
エヌラスは相手の額に銃口を突きつけたまま。
「俺は公安局の人間じゃないが、大魔導師の知り合いでな。鬼のいぬ間になんとやら、好き放題されちゃ困るんだよ。単刀直入に聞くぞ。目的は」
「話すと思うか?」
「ほー……?」
エヌラスが強がる暴走族の折れた足を踏みつけた。それだけで激痛に呻く男に、更に銃口を叩きつける。容赦のない暴力ではあるが、意識を奪うほどの威力はない。
「じゃあ身体に聞こうか。『ノー』と言う度にどっかぶっ壊してくぞ。俺も先を急いでる身でな。……オーケー?」
「わ、分かった! 頼む、命ばかりは! 話す!」
「ねーねー。このヘルメットって何の意味があるの? こうして近くで見ると結構愛嬌あるよね!」
まるで潜水服の頭部ヘルメットのような、気密性の高いそれを持ってネプテューヌが尋ねる。気密性――いや、機密性とでも言うべきか。
「そ、それは犯罪の聖人と呼ばれた方が作ったヘルメットだ。一昔前に流行った奴の、改良型。教会のシステムを欺く奴と違って、そいつは何でも瘴気すら遮断するって話だ」
「ふーん。じゃあ本当に防御ヘルメットって感じなんだね」
「他には。どっから出てきた」
「俺だって詳しくは知らねぇんだよ!」
「じゃあ、何処で入手した?」
「それ、は……」
「お前の代わりなら後ろでゴロゴロくたばってるが?」
ガチリと撃鉄を起こす音に、男が涙を流しながらエヌラスに助けを乞うような視線を投げる。だが、無表情で冷徹で、無感情な視線が冷たい銃口を向けるばかりだ。
「答えろ。今度は右の足をへし折るぞ」
「ち、地下だ! 地下帝国からだよ!」
「取引相手は」
「それだけは言えねぇ! もういいだろ、たくさんだ!」
「犯行動機は。自動運転のトラック突っ込ませた奴は誰だ!」
「さ、最初はSNSの書き込みだったんだ! 冗談半分で参加したら、ヘルメットと銃器が用意されていて……」
「バイクもだろ」
前輪だけが破壊されたバイクは道路で大量に転がっている。後は公安局にでも調査させれば何か分かるかもしれない。勝手知ったる古巣に帰ってきた途端にこれだ、毎度のことではあるが気の休まらない国に頭が痛い。
「とにかく、病院にいかなきゃ。エヌラス、手を貸して」
「そんなもん公安局に任せる。命に別状はないみたいだしな」
「そんなこと言うなよ! 滅茶苦茶いてぇんだよ、助けてくれ!」
「楽にしてやろうか」
「人殺しはダメだよ」
ネプテューヌの言葉に、引き金から指を離してレイジング・ブルを男性の頭に叩きつける。気絶したのかピクリとも動かなくなった。D-Phoneを取り出して、バトラーに連絡を取る。迅速な処理に感謝してエヌラスはハンティングホラーに跨った。
「すぐに来るってよ。救護班も一緒にな」
「乱暴なんだから……」
ぶつくさと言うネプテューヌを無視して、エヌラスは今度こそ静かになった高速道路を駆け抜ける。用事があるのはあくまでも大魔導師だ。事件の首謀者なんてどうだっていい、それはお役所の管轄である。
中央市街のターミナルに到着して、エヌラスは止まった。案の定、犯罪組織が猛威を奮っている。それに伴って暴動まで起きている。
「あー、俺だ。バトラー。中央市街はメチャクチャだぞ。とっくに暴動――いや、こいつはテロって呼んだほうがいいのか? とにかく教会に向けて銃弾やらロケットランチャーやら火炎瓶やらが放り投げられてる」
《なんですって!?》
「で、その反撃食らってバッタバッタとぶっ倒れてるテロリストが九割」
残りの一割は可哀想なことに巻き込まれた善良な市民だ。
砲煙を上げながら教会に迫るロケットランチャーの弾頭――着弾前に撃ち抜かれて爆発し、衝撃でその下にいた暴徒が吹き飛ぶ。
火炎瓶が投げ込まれる。だがそれを華麗に蹴り返す姿があった。
なんの悪夢か、メイドが二人。手には二挺の短機関銃。一振りの緋太刀。ツインテールとポニーテールのメイドが銃撃と剣撃で舞う都度に血飛沫が上がり、地面を彩る。清潔一色だった路面が華やかな朱に染まっていた。悲鳴が上がる、それすらも華麗な二人の従者が踊る殺戮劇の奏者だった。
「暴徒がおもしれーくらい死んでる」
《止めてください》
「うわー、スプラッタ劇場……」
ネプテューヌもドン引きでエヌラスの袖を掴んでいる。
誰が呼んだか最高傑作のポンコツメイド。技の一号、力の二号。揃いも揃って惨状――スピカとカルネの二人が教会を守る最後の防衛ラインにして最強の壁となり暴徒達を鎮圧、否。制圧していた。
クリスヴェクターコンバットカスタムから容赦のない銃弾が嵐のように暴徒の身体を撃ち、無銘の緋太刀がバターのように身体を真っ二つにしていく。目にも留まらぬ殺人劇場に迷い込んだ観客が二人、傍観していると、蜘蛛の子を散らすように暴徒たちが逃げ出した。
「あら。逃げ出すおつもりですか?」
「そーみたいだよ、スピカ。どすんの?」
「当然ながら、逃がすわけがございません。出番ですよ、皆様方――メイドの本懐、“お掃除”の時間でございます」
『分かりました、メイド長』
スピカの号令に、教会入口前で待機していたメイド軍団がそれぞれの武装を解除して追跡を開始する。
公安局最終防衛部隊所属、対人的災害強制鎮圧専門家。それが現在のスピカとカルネ。公安局の手に負えない超常災害、或いは人的災害。規模を遥かに上回る事件に出動を要請される最後の手段。対象を確認次第、一切の有無を問わずに排除する
暗器。銃器。無手。刀剣。魔術。あらゆる手段を用いての脅威対象を排除して掃除していくその様子をエヌラスはネプテューヌを隠すように眺めていた。メイドだけに冥土送りにしていく様を見て、郷愁の念に駆られる。かつては自分が手がけた最高傑作のポンコツメイドだったが、“現世”では製造者不明の最高級ガイノイドとして大魔導師に競り落とされていた。
とはいえ、どのような形でも活躍を見れるのは良いことだ。
「うわ、ひぎゃあ!」
「助け――!」
「やめろ、やめろ、来る――ぐはっ!」
もはやそれは、掃除と名のついた虐殺に等しい。だがその死体も、血痕も残さず掃除していく姿は華麗にして流麗。一流の仕事人だった。その目に留まるのはエヌラスと興味本位で覗くネプテューヌ。
「あら――珍しい客人が」
「ほへ? どこ?」
「あちらに」
「あ、ホントだ。ヤッちゃう、スピカ?」
「ええ、そうですわね。万が一にでも偽物であってはなりませんから――そこの左目に刀傷のある方、少々お命頂戴してもよろしいでしょうか! 答えは聞いておりませんが!」
「くたばれ!」
クリスヴェクターを二挺構えて腰を落とすスピカが跳躍する。カルネはその場で踏み込み、緋太刀を地面に擦りつけながら駆け抜けてきた。