超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
近接戦闘仕様に改造されたサブマシンガンを軽々と反動を抑え込みながら扱うのは常人にはとてもではないが不可能であり、トップヘビーなソレのリロードすら流れるように一連の動作の中に組み込んでいるスピカの近接銃撃能力。引いては戦闘能力は並の人間であれば歯向かうことすら敵わない。それこそ全身義体にでもしないかぎりは不可能だ。――仮に全身義体にしても勝てる見込みは非常に薄いが。
そして、カルネ。そこら辺のアパートのゴミ捨て場から拾ってきたという無銘の緋太刀。切れ味そのものは業物であり天下に二つとないものではあるが、武器はそれだけだ。とはいえ、扱う術者の頭が些か吹っ飛んでいるので接近すればなます切りにされるのが精々だろう。無手の格闘術も嗜んでいる。
一介の犯罪者であろうが犯罪組織に名を連ねる幹部であろうが、秘密結社の用心棒であろうが敵うはずがない。何故なら大魔導師が競り落とし、その上でさらなる改良を加えた最高傑作のポンコツメイド。
――それが今。地面に叩き伏せられていた。
「気は済んだか脳みそポンコッツ」
「あひぃぃ、なんでだろう。なんだろうこの敗北感……悪くない……うへへへ、悪くないぃ」
「屈辱的な敗北ではありますが、はて……何故かこう、懐かしさのようなものが……これは、恋というものなのですかね?」
「いや、お前らの頭が変なだけだ。おら立て」
頭を踏みつけられ、背中にのしかかられていたスピカとカルネは瞬く間に敗北。手の内を全て読まれたかのようなエヌラスに攻撃は掠りもせず、蜘蛛の鋼糸によってまとめて地面と熱い抱擁を交わしている。
「はて。貴方様の事は大魔導師の古い知人であり拳を交わす熱い仲と存じてはおります。本物なようでなによりですわ、エヌラス様」
「もうちょっと強く踏んでくださいぃぃ、お願いぃぃ」
「おうダメイド二号。敗北した上に俺に向かって懇願とかいい度胸だな!」
「失礼な! 私は一号などではございません! あ、カルネは思う存分嬲ってくださって結構です」
「待って待って待って! 私の関節がヤバイ! 逆に曲げられ、イダダダダ! これヤバイ奴! タップ、ターップ!!! セコンドー!」
メギギギギャ――!
カルネの関節が悲鳴を上げていた。具体的に言えば、右手の小指と人差し指、そして手首が。関節が球体関節ではなくシームレスフレームに変更となっているのは大魔導師の趣味の一つ。
大魔導師曰く『球体関節とかはしたない。そんな格好で人様の前に出せるか』――とのこと。どんな感性をしているのかと小一時間問い詰めたエヌラスだったが危うく目覚めそうになったのでその時は会話を打ち切った。
関節という関節を壊れない程度に痛めつけてからカルネを解放する。
「身だしなみを整えたところで……改めまして、公安局本部へようこそ。大魔導師の侍従が一人、メイド長を務めております。スピカと申します。お見知り置きを」
「へっ? あ、わたしはネプテューヌ! よろしく!」
「こちらはカルネ。私の妹のようなものでしょうか。ほらカルネ、自己紹介を」
「人的災害強制鎮圧部隊所属とか長ったらしい肩書あるけど面倒だから端折るね! 公安局の最終兵器メイドこと、カルネ! よろしくおなーしゃー!」
「はしたないですわよ」
「はびょん!?」
「ボリューム下げろ」
「ほびゅん!」
ガンッ、ゴンッ!
カルネの顎をかっさらうアッパーカット、そして追撃のハンマーブロウ。しかしめげないカルネの頑強さにはネプテューヌも驚いている。
「うわ、痛そう……大丈夫?」
「全然平気。むしろちょっと気持ちいい、ていうか……」
「あぁこういう趣味なんだこのバカメイド」
「ホントの事言われるとぉ、カルネ困っちゃーう」
ノーモーションの足払いからエヌラスが簡易型アクセル・インパクトでカルネを教会の中へと強制的に退場させた。このままでは話が進まないと判断したからである。自動ドアの強化ガラスを突き破ったような物音が聞こえてきたが多分幻聴だ。
「今回はどのようなご用件でしょうか」
「メイド長。“お掃除”が終わりました」
「ご苦労さまです。では引き続き、通常業務の方へ」
「かしこまりました。失礼いたします」
穏やかな物腰に丁寧な口調のメイドが深々と頭を下げて教会の中へ戻るのを皮切りに、他のメイドたちが武装を収納、あるいは格納しながら退席していく。
「うわ、あんなちっちゃい子までメイドで働いているんだ」
「彼女は特に“掃除”では重要な役割を担っていますからね」
幼女メイドの抱えているぬいぐるみ――確か視界の端で見ていた限りでは犯罪者の死体を“丸呑み”していたような気がする。そのせいか口の周りがベッタリと赤い。そういう模様に違いないとネプテューヌは思い込むことにした。
「スピカ様。バトラー様より連絡が。車輌の撤去が完了したとのことです。大至急、本部へ帰還すると」
「ご苦労さま……お待ちなさい」
「はい。どうかしましたか、スピカ様」
「リボンが緩んでるわ。ダメよ、そんなことでは――」
頬を赤らめるメイドの表情は熱に浮かされているという点から見て、同性愛者なのだろう。いやはやまったくお熱いことで。スピカの手が頬を撫でるだけでトロけていく。
「ダメよぉ、そんなことでは。大魔導師様にお仕置きされてしまいます……それとも、私の“お仕置き”が欲しいから、わざと? ねぇ、ウツロ」
「そ、そんなことぉないれふぅ……!」
「そう。ならいいわ。お客様の前よ、シャンとなさい」
「ひゃはい! それでは、失礼します!」
敬礼するなり飛ぶように走り去るメイドを見送って、スピカが咳払いを一つ挟んだ。
「コホン。それで、どのようなご用件でしょうか。夜伽の世話であれば時間の都合次第で」
「あ、この人真面目なようで結構頭が悪い人だ」
「この手のバカに付き合うコツはな、ネプテューヌ。まともに取り合わないことだ」
「私は本気です。常に情熱を職務に注ぎ込んでいます。もちろん注ぎ込まれる側でもありますが」
「え? 何を注ぎ込まれるの?」
「それはもちろん。そちらの方の熱いせ――」
スピカが星となった。名前の由来はもしかすると、星になるからスピカなのではないかとエヌラス自身頭を痛めている。
「バトラーが来るまで中で休ませてもらおうぜ、ネプテューヌ……」
「頭痛薬、もらっといた方がいんじゃない?」
念頭に置いて、エヌラスはネプテューヌを連れて公安局本部――地上教会へと足を踏み入れた。
地上教会は公安局本部、地下教会は廃病棟。エヌラスは病的なまでの清潔さを保つ公安局に我が物顔でエントランスへと進入する。子供ほどの背丈があるドローン達が封筒を背負って廊下を行き来していた。
「中はこんなふうになってるんだ。なんだか未来的だなぁ。こういうのってSFっぽいって言ったほうがいいのかな?」
「アダルトゲイムギョウ界じゃ確かに進んだ技術だが、インタースカイの十八番だからな」
なにしろ向こうじゃ国民すら無人化が進んでいる。こっちでは作業用ドローンの量産がせいぜい。とはいえ治安維持活動の痒いところに手が届く縁の下の力持ち。
すれ違う職員もエヌラスの顔は知っているのか、特に呼び止める様子はなかった。大魔導師と三日三晩殴りあった人物の顔なんて早々忘れたりはしないだろう。そういう意味では有名人なのかもしれない。正気の沙汰とは思えない狂人の行動として。
応接室の扉を開けて、勝手に中のソファーに腰を下ろす。勝手知ったる人の庭、エヌラスはくつろぎ始めた。ネプテューヌは窓から見える街の風景を眺めている。
「ここが九龍アマルガムの中心なんだね」
「ああ。地上教会、公安局本部。ここから地下帝国、つまりは九龍アマルガムの本拠地まで直通だ」
「地下にも国があるの?」
「上下二階層で成り立っている国だからな。経済効果半端じゃねぇ」
大時計塔は観光名所の一つ。――“前世”では一世一代の“時計仕掛けの亡霊”として顕現したが、今生ではどうなっていることやら。それでもやはり大魔導師が設計したことにかわりはないようだが、それの内容が『賽の河原で石を積み上げる作業というのを体験していたら出来上がっていた』というのはどうなのだろう。それとお前は頭の病院に行ってこい、帰ってこなくていい。エヌラスは切に願った。
応接室で適当にくつろぎながら勝手にお茶を淹れて用意していると、スピカが入室してくる。隣にはバトラーもいた。
「大変お待たせいたしました」
「簡素なものですが茶菓子もご用意させていただきましたわ。よろしければどうぞ」
「おぉ~、美味しそう! いただきまーす」
「どうぞご遠慮なさらずに。おかわりは自由ですので」