超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「それにしてもバトラー。お前も忙しい身だろうに、よくもまぁ公安局の仕事を手伝えるな」
「ええ、地上でも人手不足は深刻な問題ですからね。仕方ありません」
「あの
「利害の一致、というものです」
「もーぐもーぐ。うん、すっごく美味しい!」
「お気に召したようで何よりですわ」
遠慮無くスピカの作ったスコーンを頬張るネプテューヌがあまりに美味そうに食べるのでエヌラスも手を伸ばして一つだけ口に放る。
「んで、捜査の結果は?」
「まだなんとも。……失礼」
モダンの着信音が鳴り、バトラーがすぐに携帯を取り出す。口ぶりから、恐らくはクイーンだろう。
「ねぇエヌラス。もぐ。クイーンって誰? もぐ」
「食いながら話すな」
「ふーん。もぐ。すごい人なの?」
「超、金持ち。金を腐らせようとして湧いて出てくるような人」
「へー。もぐ。でも大変じゃないの。そんなにお金持ちなら」
「保身の意味合いでも、アサイラムに所属している。んで、そこのバトラーが専属の護衛ってわけだ」
「一人にして大丈夫なの?」
「ゴロゴロやばいのがいるから大丈夫だろ」
主にアサイラムに。
バトラーが通話を終えて深い溜息をついた。
「大変困った事になりました」
「今度はどうした」
「地下帝国でクーデターだそうです」
「ハッハッハ、昨日の今日でなんだそれ」
今しがたテロがあったばかりだというのに、本当に争いの絶えない国だ。
「しかし、困りましたね……私が行ければいいのですが、今ここを離れるわけには」
「エヌラス。わたし、地下帝国見てみたい!」
「ぶっちゃけオススメできないから俺が一人で行ってくる」
「えー、なんで?」
「言ったろう。地下は地上の比じゃないくらいヤバイ場所だって。そんなところにお前連れて歩けるかっつうの。ついでだ、馴染みの顔も見てくるとするか」
紅茶を飲み干してエヌラスは席を立つ。その隣にスピカが並んだ。
「では、バトラー様。私も同伴いたしますね。あちらも少々、厄介なようですので」
「助かります、スピカ。くれぐれも、襲わないように」
「おほほ、ご冗談を。ええ、私に襲われるくらいなら惚れ込んだりしてませんので」
「初耳なんだが?」
「だって私、メイドですから。何でも出来る超人のようなご主人様はご遠慮します。むしろこう、手がかかるくらい! それこそ子供のように何一つ家事の出来ないくらい生活基盤がガバガバな方が私も奉仕に熱が入るというもの! それに、私は自分より弱い殿方に興味ございません」
「オーケー分かった。考えとく。行くぞ、スピカ」
「あ、私を襲うのはいつでも準備万端ですので。野獣のようにしてくださって結構ですよ?」
「おいバトラー。コイツ壊れてる」
「――お願いします、ネプテューヌ様はこちらで丁重におもてなし致しますので……」
「あ、この野郎。無視しやがった」
エヌラスとスピカは(なぜか)腕を組みながら地下帝国直通の昇降路へと向かっていく。それと入れ替わりで入室してくるのはカルネだった。
「たのもー! バトラー様! アカねぇちゃんが呼んでましたー! 例の件で報告があるそうでっす」
「分かりました」
「あーあ、スピカはいいなぁ。エヌラス様と二人で地下帝国かぁー、私も行きたかった。思う存分なます切りにして斬って斬って斬って斬って切り倒したかったなぁ」
「な、なんか物騒なこと言ってる……」
「なーに言っちゃってんのネプテユヌ様」
「それ逆に言い難くない!?」
何語だ。
「地下帝国じゃ歩道歩いていたら自動車が爆発するし、目の前歩いていた主婦が拳銃で旦那撃ち殺すヒットマンだし」
それは痴情のもつれというのではなかろうか、というツッコミは二の次。
「車道じゃデスレースが無期限開催中だし、建物の中に入ったらそれこそデッドでライジングなゾンビパラダイスなリゾート施設も珍しくない場所なんだよ?」
「うわぁ。ハチャメチャが滅茶苦茶に押し寄せてくる場所なんだなぁ……」
「あ、でも宝石とか貴金属とか、そういう貴重品とかはごまんと溢れてる。珍しい生態系とか。鋼鉄甲殻虫って昆虫とか」
「昆虫!? うわーすごく見てみたいなぁそれ!」
「あっちゃー、地雷踏んじゃった……」
てっきり虫の話題でも出せば躊躇してくれるとでも思ったのだろう。しかしカルネの予想は大きく外れた。ネプテューヌは時空を渡り歩く昆虫ハンター。珍しい虫がいると聞いたら目の色を変えて輝かせるのも無理はない話だ。
「しょうがないにゃあ。バトラー様、ここは責任を持って僭越ながらこのカルネ! 大魔導師不在をいいことにネプトゥヘァ様をご案内致します! もちろん護衛としても!」
「なんか、わたしの名前が変なアレンジ加えられてる……まーいっかー! よろしくね、カルネ!」
「よろしく! では行ってまいりまーす!」
言うが早いか、カルネはネプテューヌの手を引いて公安局を抜け出し――後にする。
「はぁ……本当に大丈夫でしょうか」
一抹の不安が胸をよぎるものの、どうなるかは神のみぞ知る。
カルネの運転する車に乗り込んだネプテューヌだったが、高速道路ではなく一般車道を走ることに眉を寄せた。
「あれ? 地下帝国って教会からじゃないといけないんじゃないの?」
「あそこはあくまでも直通の昇降路があるってだけなのです。メイルシュトロームのど真ん中に降りたいと思うのはエヌラス様くらいでしょうねー。あと大魔導師」
「会ってみたいような、そうでもないような……」
「歩く超常現象とか、生きた未確認生物とか散々な言われようされてますけどねー」
あながち世論の評価は間違っていない。理解の範疇を超えている場所で生きているとしか思えないのだから。魔導の探求によって得た名誉と引き換えに、人生から大切な楽しみというものを失ってしまった男は今も空中遊泳でもしているのだろうか。
「それで、これから九龍アマルガム地上都市観光ツアーにご案内。というわけです、シートベルトはよろしいですか」
「うん、大丈夫」
「じゃあ――唸れV8エンジン! かっとばせマスターング! 馬力はパゥアーマー!」
「うわわわわわわ!!」
「ニードでフォウなスピードで飛ばしてくぜぇぇーい!!」
カルネの車に乗る――九龍アマルガムで『命知らず』の意。
爆走するカルネの愛車。フォード・マスタング(1965年製)をベースにやりたい放題改造された車がニトロを吹かしながらカーブを曲がる。ケツを引きずりながら滑るさまはまるで暴れ牛のようだ。それでもギリギリ歩道に乗らないラインを攻める。外見こそレトロな世代を髣髴とさせるが、その中身は最新鋭の技術を詰め込んだ。カルネ曰く『どうせ乗るなら派手にやろうぜぇー!』とノリノリで魔改造していたらしい。それが結果、どんなモンスターマシンが出来上がったのかというと――九龍アマルガムで指折りに入る『兵器』扱いだった。
「いやぁぁぁぁなにこれぇぇぇ!! 周囲の風景がガンガン後ろに消えてくー!」
「あ、吐くときはエチケット袋がダッシュボードの中にあるから」
「まっさかー! こんなの滅多に体験できないからね、愉しませてもらうよー!」
「お客さん、イケる口だねぇ。そういうことなら遠慮無く飛ばしてくぜぇーい!」
九龍アマルガムを颯爽と駆け抜ける白銀のマスタング。エンブレムには二挺拳銃と刀が一振り。可憐なリボンで結ばれている。
――それを、遥か上空から観測している“人間”がいた。
標高三千フィート。まかり間違ったとしても、生身の人間が生活していていい高さではない。そんな場所に、白いシャツを一枚着込んだだけの薄着の男性が“立っている”のだ。足場には何も無い。かといって乗り物に乗っているわけでもなく、ただそこに立っている。あまりにかけ離れた光景は悪夢としか思えない。高層ビルから覗きこむような感覚で、足元を見下ろしている。
「……なーにをしちょるか、あのダメイドは」
轟ッ――――!
風が唸りを上げて、殺意を混じえながら吹き荒れる。頬を一筋の血が垂れて、掌で拭う。
「お前の縄張りを荒らすつもりはなかったんだが、ふむ……まぁいいか」
全身翼の小型戦闘機、いや爆撃機というべきか。全身を黒い鋼に覆われた飛行物体が旋回している。先ほどの暴風はこの爆撃機が通過しただけに過ぎない。
それを前にしてもなお、男の顔色は変わらなかった。変化した点といえば、頬が緩んでいるくらいだろうか。
「ちょっとくらい刺激がほしいと思っていたんだ。空の散歩が思いの外、暇で仕方なかった」