※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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エピソード85 国家予算を殴り飛ばす男、大魔導師

 

 ――大魔導師が人知れず爆撃機と殴り合いを始めている一方で、地表都心部を爆走するフォード・マスタング。人呼んで『カルネヴァーレスタイル』が現在、綺麗な円を描きながらスリップして停まる。その手並みには通行人も何事かと足を止め、手にしている携帯端末で動画撮影を始めていた。にこやかに手を振ってファンサービスも忘れないカルネは九龍アマルガムでちょっとした走り屋としても有名人だったりする。交通違反の常連でもあるのだが、それはそれ。公安局に所属しているので多少の違反は免除されていた――決して職権濫用ではない。断じて。

 

「ふはー。すごかったー! 大人のジェットコースターって感じで楽しかった!」

「ふふん、カルネさんの爆走マスタングタクシーは良心的なプライスレス。身体で払ってくれても、ええんですよ……じゅるり」

「わたしにそっちの趣味はないからお代はノーカン! それで、ここってどういう場所なの。座席で揺られるまま連れてこられたけど」

「よくぞ聞いてくれました、ネプテゐヌ様! 此処こそが公安局、もとい九龍アマルガム地表都心から地下帝国に繋がる国際エレベーターでございます」

「でも大丈夫なの? その、向こうからの犯罪者って」

「そこはそれ。地表には善良な市民に心優しい警備ドローン君達がいますから」

「もしかしてアレ? あちこちウロウロしてる丸っこくてかわいいの」

「そうそう、それです。あれは公安局の就職募集ポスターのマスコットキャラクターとしても描かれているくらいにはメジャーなキャラなんですよ」

「どんな機能がついてるの?」

 ホログラム投影による偽装効果。或いは市民の心身リフレッシュ。視覚的な精神安定や、搭載されている診断プログラムで犯罪係数の計測まで出来る。場合によってはメディケアまで申請を受け付けることも可能だ。当然ながら内部のプログラムはインタースカイ製。それを構築するのにソラが一週間ほど完徹して壊れかけていたが。

 

「試しに診断受けてみます?」

「いいの? わたし健康体だと思うけど」

「大丈夫ですってー。ほらーカモン」

《ご用件をどうぞ》

 カルネが手招きすると、それに応じて警備ドローンが一体だけ近づいてきた。手首に埋め込まれている誘導結晶によって付近のドローンを操作できるのだが、本人は面白おかしく使うので効果範囲が限られている。

 

「犯罪係数診断、起動」

《了解しました。診断を開始します》

 ネプテューヌの目に向けて診断プログラムが色相判定を行う。そのデータは公安局本部へと転送、然るべきシステムによって診断される。それをどのように作り上げたのかは誰も知らない。

 

《――診断完了。色相判定、クリアブルー。犯罪係数、アンダー10。非常に望ましい健康体です》

「おぉ、すっごい綺麗な心の持ち主!」

「色相判定? アンダー10? なにそれ、すごいの?」

「うん。これはすごいことだよ! トロンちゃん、私も診断して。どうぞ!」

《了解しました。診断を開始します――…………――診断完了。色相判定、ヴァイオレット。犯罪係数300オーバー。警告、ただちに精神クリアランスを受けてください》

「うわぁお……」

 カルネが自分の診断結果に表情を引きつらせていた。まぁ無理もない話なのだが。とはいえ、それは置いといて。

 改めて国際エレベーターを見上げるネプテューヌ。高層ビルの中には様々な商店が並んでいる。上層と下層の影響を一身に受けるビルの中はどんな魔窟であろうと驚きはしないぞ! ――そう意気込むネプテューヌの前で、高層ビルの地上二十階が爆発した。口をあんぐりと開けていると、カルネが素早く手を引いてその場から遠ざかる。

 

「な、なんで爆発!?」

「視覚強化――! 霊子確認、アヱテュル観測……あっちゃー……」

 体内の永久魔導燃焼機関『ALハザード・ランプ』に直結(リンク)させた網膜が普段は観測できない霊子、エーテルや霊体のみならず瘴気や磁場の乱れなどを目視する。当然ながら、視覚から取り入れる情報量が通常の七割から何倍にも膨れ上がり、それを処理する脳が過負荷にパンクしても常人ならば無理はない話だ。むしろ当然の顛末と言える。だが、カルネは人間ではない。ガイノイドだ。戦闘用であり愛玩用。最高傑作のポンコツと銘を打たれてはいるが――だからこそ。

 常人では、或いは狂人ですら辿りつけない境地に即座に至る。

 

「大魔導師だ……」

「えぇ!?」

 遅れて、突風。自動車が木の葉の如く宙を舞う程の暴風。それでもカルネのマスタングはビクともしない。

 

「でも、突風しか」

「うーん、そうなんだけどねー。そうなんだけどー……あの人なにしててもおかしくないからね」

「えぇぇぇっ!? じゃああの、今現在わたし達の頭上で起きている目で追えない、ヤロウムチャしやがってな視点の戦闘ってもしかして」

「うん……帰って来ちゃったかー……うわぁ……」

 カルネの沈みようから、大魔導師がどんな人物であるのかネプテューヌですら想像も出来なかった。とはいえ――現在、頭上で繰り広げられているドッグファイト――“肉弾戦”は、確かにこれは悪夢以外に例えようがない。

 音速を超えた衝撃波、ソニックブームが吹き荒れる。全身翼の爆撃機が音の壁を超えてひとりの人間を相手に最大戦速で突撃した。それに、真正面から拳を“殴りつけて”軌道を逸らしている。一見すれば無謀の極み、然しその結果はと言うと……。

 

 ガゴォォン――……!

 地上にまで重く響く鈍重な打撃音は鋼鉄同士の衝突音にも等しい。条理を逸脱した戦闘。

 高高度での肉弾戦、爆撃機対人間。鋼鉄対生身。彼我の質量差、対敵の脅威性すらも無視した殴り合いの戦闘は高度を落としていた。

 

「えー、と」

「あれ降りてきてるねー、うん。見間違いじゃないね」

 カルネが爆撃機を観測すれば、うん。あれは……何の冗談だ? 首を傾げて思わず口から乾いた笑いが漏れるほどの神性生物だった。

 

「なに連れて来てんのあの人ぉぉぉぉ!?」

「え、あの戦闘機のこと?」

「まーたトンデモないモノ連れて来ちゃってー、もうやぁだぁぁぁ! エヌラス様ー早く帰ってきてー! そして私をイジメてー!」

「うわぁ、大声で何か言ってる……」

 機首を蹴りあげて、その手から放つ黒い飛礫が爆撃機の装甲を穿つ。着弾した箇所だけがごっそりと抉り取られていた。大魔導師の得意とする重力弾は防御を無視した威力で対象を追い詰めていたが、爆撃機の持つ霊子の量が跳ね上がる。どうやら本気らしい――地上では既に降り注ぐビル群の瓦礫によって大惨事と化していた。

 次の瞬間、漆黒の爆撃機が一条の光線となって大魔導師を撥ね飛ばす。きりもみ回転する人間が無防備にも落下してくるが――地上が近づくと、速度を緩めて音もなく優雅に着地した。

 

「――――あー……びっくりした」

「こっちの台詞ですよ!?」

「ツッコミご苦労、ダメイド二号」

 一号は今頃地下でくしゃみでもしているだろう。

 大魔導師――九龍アマルガム国王にして犯罪国家の主。ネプテューヌはどんな怪物なのかと思っていたが、予想していた以上に普通の成人男性だった。

 男性とも女性とも取れぬ中性的な顔立ち。肩まで伸ばした金の髪は染めているのか、根本が黒い。もともとそこまで髪染めに執着しないのか、メッシュのように黒髪が混じっていた。それでいて、着ている服装は限りなく薄着だ。上体には薄手の白いシャツが一枚。カジュアルジーンズと靴は履き慣れているのかそれとも気にしないのか、カンフーシューズという出で立ち。それは国王というよりは、街の浮浪者のようでもあった。

 

「大魔導師! アレなんですか!?」

「アレ? ああ、あの戦闘機みたいなのか。アレはセラエノ空域に生息する神性生物の一種だ。見た目こそ爆撃機のようではあるがちゃんと生きている。とはいえあれが本体ではない。一種の精霊だな。属性は風。纏う瘴気の量と放つ魔力の保有量からして大分長生きしているようだ。気に入ったから“連れ帰ってきた”んだが、なんだ?」

 その気になれば誰に知られることもなく、消滅させることも容易いだろうに――よりにもよって、言うに事欠いて“連れて”“帰ってきた”とはまるで捨て犬でも拾ったような口ぶりで。

 

「ん? 見慣れない客人がいるようだが」

「あ、こちらはネプテューヌ様です。エヌラス様のお連れの方で、地下帝国の鋼鉄甲殻虫に興味がお有りとのことでご案内しようかと……」

「物好きなやつだな。アレの連れというだけでなくあの魔窟に入りたいとは」

 いや、貴方ほど珍妙な趣味はありません。ネプテューヌは思うだけに留めた。

 

「さっき思い切り撥ねられてたけど、大丈夫なの?」

「ああ。服の裾が少しほつれたくらいだ」

「えぇー……」

 多分、あの爆撃機の最大火力だったのだろうが、それを「枝に引っ掛けた」程度で済まされてはデタラメにも程がある。

 まだ空を未確認飛行物体の如く直角に軌道を描きながら旋回してる神性生物は、ようやく照準を定めたのか一気に上昇を始めた。空に輝く星のように煌めいて消える。

 逃げた――?

 

「どこ行ったんだろう」

「俺を殺す気らしい」

「え」

「成層圏突破。宇宙から俺めがけてメテオインパクトか、ハッハッハ。バカかアレ」

 いや、バカはアンタだよ。カルネは抗議の視線を送るも大魔導師は華麗にスルーしていた。

 

「あの質量でメテオインパクトって、九龍アマルガム消し飛びますよ!?」

「それは困る。俺の暇潰しが地下帝国だけになってしまう――だから、バカだと言った」

 大魔導師が上空に手を掲げる。まるで見えない星でも掴むような仕草にネプテューヌが眉を寄せた。

 

「なにをするの?」

「迎撃するんだ」

「手を掲げてるだけなのに?」

「……“コレ”で十分だ――来るぞ」

 カルネですら観測できない位置に移動した神性生物の動きは大魔導師の目に鮮明に映っていた。それこそ手に取るように。そしてそれは、手中に収まっているも同然だった。

 

「ああ、言ってみたかったんだこれ。衝撃に備えろ」

「ちょっと遅くないですかねぇそういうのぉ!!」

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