超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――大気圏外からの落下。重力に任せた質量攻撃に超常の魔力を含めた超弩級のメテオインパクト。これこそは神性生物の考えうる最高打撃力だった。都市一つ軽く消し飛ばす威力であると言ったが、その余波と言えばユノスダスでも観測されるレベルである。それを、空に向けて手を掲げているだけの大魔導師は迎撃した。
正確には、大魔導師の招喚した“機械”によって。
「返礼してやれ、ナコト。オレの物に手を出すとどうなるか――叩き込んでやれ」
『イエス、マスター。仰せのままに……』
――――!?!?
神性生物は、困惑した。自らの魔力と対敵の質量差からくる絶対の破壊力を自負していた、最大戦速による突進攻撃。大気に漂流している霊気、エーテルに騎乗した突撃は物理・魔力・質量のどれをとっても最高火力を放出していたはず――だが、それが今。
九龍アマルガムの上空に展開された魔法陣によって防御されていた。呆然と誰もが見上げる。
天高く突き上げられた右腕――真紅の右腕。機械の腕。巨人の腕が五指を広げていた。
「なにあれ……? 機械の、腕……?」
「――機械仕掛けの神様だ」
「なんだって!? おいネプテューヌ! 俺にも見せろって!」
「ぅわ、クロちゃん! ビックリしたぁ!」
突然ねぷノートから怒鳴り声が聞こえたもので、慌ててクロワールにも目の前で起きている光景を見せる。それに「うわぁ……スゲェな」と素直に感心した声が聞こえた。
神性生物のメテオインパクトを受け止めていた機械仕掛けの神、その右腕が指を揃える。いつの間にか大魔導師の傍らには右腕の無い少女が寄り添っていた。見れば、片腕は機械の腕へと空間魔術によって繋がっている。
「礼儀を弁えない田舎者め……恥を知れ」
冷徹な態度と共に放たれる極冷温の手刀に、防御陣を弛めた瞬間、自ら突っ込む形となった神性生物は身を捻って間一髪で回避しようとする。それでも避けきれずに片羽を氷のように砕かれながら落下してくる、そこには大魔導師が宙を蹴って足を振り上げていた。
「天座失墜」
重力を纏わせた踵落としが今度こそ爆撃機の機首を捻り潰し、地面へと叩きつける。舗装された道路に墜落した機体は、アスファルトを抉りながら一度跳ねて止まった。
――大魔導師が帰ってきた。その事実だけで、この惨事。九龍アマルガム地表都心を震撼させるにはそれだけで十分過ぎる衝撃。
言葉を失い、静まり返る街の中を悠然と歩くのは大魔導師と、ナコト。全身を黒のゴシックロリータ衣装で統一した少女は、ネプテューヌを見ると軽い会釈をして消えた。
「今の女の子は?」
「ラノベみたいな話だが聞いてくれ。寝ぼけながら魔道書を書き上げたら美少女になった。オレとしてはかわいいから別にいいかと思ってる」
「聞いててすごく頭悪い内容なのに説得力が半端ない!」
その魔道書は肌身離さず持ち歩いている。驚くネプテューヌと、事後処理に追われる悪夢を考えて憂鬱なカルネ。そして、機械仕掛けの神を目の当たりにして大はしゃぎのクロワール。
「スッゲー! なぁなぁ、大魔導師だっけ。お前本当にスゲーな! あんなん作っちまうのか!」
「声はすれども姿は見えず……誰だ」
「俺だよ、俺! ここだ! 目の前にいるネプテューヌが持ってるノートから喋ってんだ」
「魔導書か?」
「違うよ。これはねぷノート、捕まえた昆虫とか標本にしてるんだ」
「なんだ、虫が喋ってるのか……」
「おいテメー! 人のことを虫扱いすんじゃねぇ!」
「虫ぐらい喋るだろ」
「しゃべんねーよ普通!!」
「一部の鋼鉄甲殻虫は喋るからてっきり昆虫は喋るものだと思っていたんだが」
「喋るんだ!?」
更に目を輝かせるネプテューヌに、クロワールが苛立ちながら尋ねる。
「さっきの機械仕掛けの神、お前が作ったのか?」
「ああ。暇だから」
「オイオイ……暇の一言でとんでもねーもん作ってんじゃねーよ……」
「さっきの機械の腕のこと? アレってそんなにすごいの?」
「スゲーも何も。人工的に守護女神を作ってるようなもんだ」
「え、それって世界の法則壊れない?」
「ああ。間違いなくぶっ壊れるな」
暇潰しの一言で守護女神の存在すら全否定する代物を作ってしまうのにはクロワールも最初こそ物珍しさから歓喜していたが、冷静に考えると――ゲイムギョウ界のあるべき法則を破壊する禁忌に等しい。
「さて」
大魔導師は会話を打ち切って、つい今しがた蹴り落とした爆撃機に歩み寄る。
「そこにいるのは分かっている。隠れてないでさっさと姿を見せたらどうだ」
『…………』
爆撃機は沈黙を続けていたが――、やがて動きを見せた。翼を“内側に折り畳んでいき”、その中から出てきたのはまた少女だった。戦闘のダメージがあちこちに見える。お腹を押さえているのは先程の蹴りがちょうど腹部付近からだったのだろう。それだけでなく、身体のあちこちに青痣までできていた。
「……トンデモナイのに目をつけられたわ」
「悪いようにはしないさ。名前は」
「しらない」
「そうか」
「私をどうするつもり」
「飼い慣らす。連れて帰って、まぁ程々に歓迎する。仕事があるからしばらくは相手してやれんが。……そこの途方に暮れてるカルネ」
「はい!」
「コイツを公安局まで連れて怪我の手当と世話をしてやれ。スピカがいたら絶対に近づけるな」
「あー、はい。了解……です」
「アイツはお前より仕事はできるが、時々暴走するからな。その点、お前はいつもぶっ飛んでるから安心できる」
「あ、スピカは今地下に行ってます。あと、褒められてる気が全くしねぇです……まぁいいですけど。ほらーおいでー」
爆撃機だった神性生物の少女は警戒しているものの、大魔導師をチラリと見やる。手をかざされて身体を竦ませる。
「敗者は勝者に従うものだ。自然の摂理で学ばなかったのか」
「……わかった」
小さく頷いて、少女はカルネの車に乗り込んだ。驚異的な耐久性によって塗装が禿げた程度でその場から微動だにしていないカルネヴァーレスタイルにはもはや一種の恐怖すら覚える。
「さて……ネプテューヌだったか」
「うん、そーだよ?」
「鋼鉄甲殻虫に興味があるそうだが、食用にはオススメしない品種だ。固くてまるで鉄のような味しかしなかった」
「食べたの!?」
「……食いに来たんじゃないのか」
「違うよ。あくまでも観賞用!」
「なんだつまらん……」
むしろ何故食べたのだろう。
「別にいいがな。どうせオレも地下には用事があった」
「そうなの?」
「さっきのアレに着せる服でも買いに行こうと思ってな。道案内がてらでよければ、オレのコレクションの鋼鉄甲殻虫を見せてやる。エサやりさえしてあれば生きてるはずだが」
「なんだろうなー、イヤな予感……」
そして、今頃地下帝国ではスピカとエヌラスが死に物狂いでクーデターの鎮圧に動いている。大惨事のメイルシュトロームのど真ん中に降り立った二人は無事だろうか。原型を留めているといいのだが……暴徒が。
「……そういえば食人植物に餌をやってなかったな。一人で出歩いて都市伝説になってなければいいが」
「こわいよこの人!」
「ハハハ、犯罪国家の国王に向かって何を言っているんだお前は?」
趣味は神性動植物の蒐集。地下帝国の教会はパンドラの箱が希望を投げ出して逃げ出すレベルの廃病棟。巷で噂の国の中心は『あそこは教会じゃない。魔城だ』とまで言われている。
ネプテューヌは大魔導師の案内によって地下帝国へと降り立つ――。
――案の定、焼け野原となっていた。その中心に立っているのは、エヌラス。傍らに寄り添うのはスピカだった。既にクーデターの鎮圧は終わっているようだ、というよりは終わらせたというべきか。
周囲にはクレーターが三つ。どれも表面がガラスのようにキレイに整えられている。
「シャイニング・インパクト三連発は流石にやり過ぎたか」
「銀鍵守護器官の出力は大丈夫ですか?」
「ストレス発散にちょうど良かったな」
右腕の魔術回路が血脈上に輝いて過度の出力に強制冷却中となっていた。懐から取り出すドラッグシガーに火を点けて、大魔導師と目が合うと気さくに手を上げて挨拶を交わす。
「クーデターの制圧、ご苦労」
「国ごと滅べ大魔導師テメーこの野郎」
売り言葉に買い言葉。睨み合う二人だったが、すれ違いざまに手を叩き合った。
「元気そうで何よりだ、大魔導師」
「そういうお前もな。エヌラス」
「うわー……誰がこの大惨事を収拾するんだろう」
考えたくもない。