超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
九龍アマルガムでエヌラスと大人ネプテューヌがビオラちゃん、そして大魔導師の鋼鉄甲殻虫と激戦を繰り広げている一方で、プラネテューヌでは――。
「ネプギア、エヌラスの様子はどうだった?」
「あ、お姉ちゃん。うん、なんというか……いつも通り、かなぁ……」
「そっかそっかー! でも九龍アマルガムかぁ……うぅ、あんまり良い思い出ないなぁ」
「……そうだね」
思い浮かぶのは、秘密結社『緑竜会』で見た酸鼻極める儀式の光景。思い返せば、それも昔の話だ。近づきたくはないがそれでもやはりエヌラスが心配だった。自分たちなんかよりもよっぽど辛いはずなのに、今もこうして九龍アマルガムで渦巻く悪意と殺意と混沌に身を投げ出している。というよりも――以前に増して酷くなっていないだろうか? 気のせいであってほしいが、まったくもって気のせいではない。エヌラスが治めていた頃に比べると被害が当社比三倍くらいになっている。
大魔導師が生きているとあんなにも活気づくのかあの犯罪国家は……。ネプギアが苦笑いを浮かべていると、ミリオンアーサーが顔を出した。
「ネプギアよ。客がきておるぞ?」
「え、わたしに?」
「うむ」
「……どうも」
「ユニちゃん! いらっしゃい。どうしたの?」
「どうしたの、じゃないわよ。例の騒ぎのせいでラステイションでも警戒態勢に入ったの。それで、わたしがお姉ちゃんの代わりにこっちで視察することになったのよ。ホント、しっかりしなさいよね」
「あう、ごめんなさい……」
黒髪のドリルツインテ。姉譲りの気丈そうな少女――ラステイションの女神候補生、ユニがしょげるネプギアを見て、頬を赤くしながらそっぽを向いた。
「別に心配で来たわけじゃないんだから、そこは勘違いしないでほしいわ」
「う、うん。そうだよね。女神のお仕事だもんね」
「……でも、元気そうだし、ケモミミ生えた様子もないし安心した。ちょっと残念だけど」
「ユニちゃん、わたしのケモミミ姿見たいの?」
「え? いや、別にそんなんじゃないわよ! アンタがいつも通りだから安心したってだけ! こっちはいい迷惑よ、わかってる?」
「あ、あはは……」
そんな二人のやり取りを眺めているアーサーの目つきが真剣そのものなので、ネプテューヌが尋ねる。一体どうしたのか、と。
「……美少女二人の会話があまりにも尊くてな。そうか、ここがアヴァロンか……」
「やっすいわねアンタのアヴァロン。ほら、居候の部外者は今日も元気にお仕事行くわよ」
「ぬわぁぁん、そこはもう少し待ってくれチーカマぁ。後生だ、あど五分だけでいいからあの二人のやり取りをぉぉぉ……ぬぉぉぉぉ――!」
チーカマに引きずられてアーサーが教会から強制的に退出させられた。
「今の人は?」
「えっと、ブリテン島から来たミリオンアーサーさん。今は教会でわたし達のお仕事を手伝ってもらってるの」
「確か、エヌラスって人もじゃなかった? そんなのでいいのかしら」
「え?」
「だから、他の人の手を借りて仕事なんてしていたらそれこそシェアが下がるんじゃない? プラネテューヌの女神候補生はひとりで仕事も出来ないのか、なーんて噂が流れても知らないわよ」
「…………心配してくれてるんだ。ありがとう、ユニちゃん」
「ユニちゃんったらノワールそっくりでツンデレさんめー! じゃあ後は若い二人に任せてわたしは出かけてくるね、いってきまーす!」
「いってらっしゃい、お姉ちゃん」
「気をつけてくださいね、ネプテューヌさん」
「だいじょーぶ! なんてったって、主人公オブ主人公のこのわたしがそんな簡単にやられたりしないよー! あ、でもアダルトゲイムギョウ界の人達はシャレにならないから勘弁ね!」
周囲の被害を込めても、あの連中は手加減ということを知らない。そして現在、そんな人達の荒波に揉まれているエヌラスはと言うと――。
迫り来る触手をまとめて切り払い、レイジング・ブルで頭部を撃ち抜くこと四発。切り落とされた触手の断面から即座に粘液を垂らして再生するビオラちゃん(♀)に、エヌラスが舌打ちした。どんな細胞を組み込めばこんな凶悪な植物が出来上がるというのか。しかも教会のど真ん前で。
ネプテューヌは大丈夫かと、隙を見て様子を窺う。
「とりゃー!」
玉鋼色の体表にカキィン、と固い金属音を立てて弾かれる二刀流。カブトムシが角を地面に突き立てると、そこから突然結晶体が突き出した。それを軽快に避けたネプテューヌが着地する。
「うわわ、っと! なんか綺麗な結晶出てきた!」
《……
「キャアアアアアアシャベッタァァァァァ!! すごく欲しい! 標本にしたい!」
どんな感性をすればあれが欲しいと思うのか。しかも結晶体だけでなく、地面が溶けていた。記憶が正しければ、あの鋼鉄甲殻虫は“前世”で大魔導師が溶かして鍛えあげて野太刀にしてプレゼントしてくれたはずだ――今でもそれは愛用している。折れるどころか刃が欠けるのですら見たことがない。
しかしながら、ネプテューヌが相手取るカブトムシのサイズは人間大。優に二メートルは超えている。それでいて、攻撃を避ける俊敏性と的確な攻撃性から知性も見受けられる。頭の方はどうやら一歩上のようだ。突進してくるその角を剣で挟みこむようにして切り払うと、ビルに突っ込んだカブトムシが瓦礫に飲み込まれる。
「へへん、どんなもんだい! しょせん昆虫! 百戦錬磨の昆虫ハンター様には敵わないのだー!」
「んじゃあこっち手伝ってくれねぇかな!」
「ごめん、触手はちょっと遠慮したいかな!」
「このやろぉぉぉぉっ!!」
そのエヌラスは無数に伸びてくる触手に手間取って中々踏み込めずにいた。歯噛みして、倭刀を転送すると今度は撃鉄の付いた日本刀を召喚する。本来ならばこの手の仕事は大魔導師に全部丸投げして脱法薬局に駆け込みたい。しかしながら国王は出てくる気配がなかった。いや、むしろ裏口とか秘密通路使って勝手に出歩いていてもおかしくない。
エヌラスは無言で顔面を一発くらい殴っておこうと固く誓って日本刀を抜き放つ。
「――あんまり使いたくなかったが仕方ねぇ! 植物は燃やすに限る!」
エヌラスの右手の甲。赤く燃える炎の紋章が肉の焼ける音と共に輝き、歯を食いしばる。左手で懐からドラッグシガーを取り出して吸いながら、刀身を炎で包み込んだ。
『ギシャアアアア!!』
「ギャアギャアわめくな、植物風情が!」
突き出してくる触手を切り払う。今度は断面から燃え盛り、再生できずに手が塞がっていった。根を下ろしていた地面からも新たに攻撃の手を繰り出すも、既にエヌラスは身を屈めている。
「“
頬を掠める無数の触手を意に介さず、特攻して燃え盛る日本刀をビオラちゃんの赤く発光する胸部へと深々と突き立てた。身体の内部から焼き焦がされる痛みに、動物としての感情が残っているのかビオラちゃんが悲痛な悲鳴を上げている。その体内から吹き出す蛍光色の液体を咄嗟に左手で顔に振りかかるのを防いだエヌラスだったが、痛みにその場を離れた。
見れば、皮膚が溶けている。すぐに銀鍵守護器官で再生。
「どこぞの異邦人かテメェは。強酸の体液とかどうなってる」
「エヌラス、大丈夫!? ちょっと溶けてるよ?」
「治った!」
「左手じゃなくて右手のことなんだけど!?」
「刀ごと右手燃やしたからな、しかたねぇ!」
「もしかしなくてもエヌラスって大魔導師に負けず劣らずバカなの?」
「あれと一緒にすんじゃねぇ!」
「どれの事だ? オレのことか」
「ああそうだよ、アンタの――!?」
涼しい顔をしながら教会から出てくる大魔導師は、先ほどまでの服装から一転してラフな姿で出てきた。教会前の騒ぎに野次馬根性で出てきたところ、案の定な元凶を見て顎に手を置いて一拍、間を置く。
「…………ああ、思い出した。しなびてたから街の瘴気でも当てれば元気になるんじゃないかと思って教会の庭先に埋めてたんだったな、ビオラちゃん。元気になったようだが悶絶してるな。こわ」
「アンタの頭の方が滅茶苦茶こえぇよッ!?」
「刀刺さってるしな。誰だ刺したバカは。ビオラちゃんは痛いのがダメな乙女なんだぞ」
「わるい大魔導師。そろそろツッコミ放棄していいか!?」
もうダメだ。適度に付き合うのにも限度がある。こんな脳みそにナイトロ積んで高速道路を羽のついたカヌーで飛ばしているような御仁との会話、耐えられない。
「ネプテューヌ、もうむり。助けてくれ……」
「うわぁ、すごい切実そう……しかたないなぁ。おねえさんが甘やかしてあげよう。ほら、おいでー。なでなでなでー」
爪先立ちになったネプテューヌに頭を撫でられて、エヌラスはちょと泣きそうになった。
なんで俺はこんなにバカな事件に必死になって解決しようとしてるんだろう。真面目に考えると軽く凹んだ。やはりアイエフにはケモミミのままでいてもらうしかないのか――だがここで“諦めたら”男が廃る。限界ギリギリのところでエヌラスは踏み留まった。