超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「はぁ~……」
「…………」
「お腹いっぱい~……色んな意味で~。ねぇ~?」
「はい……」
お腹を擦りながら、プルルートが満足気に話す一方でエヌラスは萎びている。自己嫌悪と精気とその他諸々が抜け落ちた。今の彼に残されているのはシェアエネルギーが回復したという現実である。それが何を意味するかというのは語るまでもない。致してしまった、それも四回も。そのうち三回が全てされるがままに自分は寝ていただけで騎乗位よろしくの体位だった。最後の一回はプルルートの口淫による仕業である。完全にリードを握られていた。
後始末を終えて、脱力感に襲われていたエヌラスに添い寝するようにプルルートが入り込む。どうやら今夜はここでお開きらしい。
「ごめんね~」
唐突に、プルルートが謝った。
「あたしも変身できなくてイライラしちゃって~、調子のりすぎちゃったかな~」
「いや、いい……」
「乗ったのはエヌラスの上だもんね~」
「いっそ殺してくれ……! 殺せ……!」
「だ~め~」
猫のようにすりよってくる頭を撫でながら、エヌラスは顔を覆う。
「……それで、これからどうするんだ。プラネテューヌに戻るのか?」
「ん~っとぉ~……ねぷちゃん達もいるなら一緒に行動したいな~」
「今はいないな。今頃はインタースカイから元のゲイムギョウ界に帰っている頃だと思うが」
「え~……? じゃあ、エヌラスと一緒にいる~」
それは、少し困る。どうしてこう首を突っ込んでくるのか。
「いや、それは」
「いいでしょ~。それとも~……いやなのぉ?」
「いやじゃないです……」
このほんわかとした口調で声を掛けられるとどうにもエヌラスは強く出れなかった。しかし戦争になっていると分かっていて何故居座ろうと思うのか、少なくとも想像できない。自分はこうも戦いから遠ざけようとしているのに――
『エヌラス、私ね――』
「…………」
不意に、思い出してしまった。かつてその手で愛した人の笑顔を。
“……もう、朝か”
いつの間にか寝てしまっていたようだ。日の高さからして、まだ朝だろう。身体を起こそうとして、ふと左腕の重量感に目を向けると、そこではプルルートが静かな寝息をたてて眠っていた。その寝顔を見て、昨晩に自分の身に起きた出来事を思い出す。
「ん~……」
もそりとうずくまると、小さな手が左胸に触れた。そこで、ようやく起きる。寝ぼけ眼をこすり、大きく伸びをすると眠そうに頭を揺らす。
「……おはよ~」
「おはよう……」
互いに半裸であった。それに気づいてプルルートが日差しに照らされる自分の身体を見て、手で隠す。
「やぁん、えっち~」
「昨晩のお前に全力で叩きつけたい言葉第一位」
エヌラスが包帯を解くと、左胸の心臓付近に二本足で立つ獅子の刺青があった。それを見て、指を這わせる。
「これ~……」
ただの刺青ではない。エンブレムにしても、ここまで精巧緻密な物を刻める腕の人間は達人級だ。よく見ればうっすらと浮かび上がっているのは、それが純粋に彫られたものではなく魔法で刻まれた紋様であることが伺える。
「“第二の心臓”だよ。昨日はこいつのお陰でアルシュベイトの左腕を機能停止まで追い込めた。つっても、限界まで稼働させると俺がやばい。それより、いつまで裸でいるつもりだ、早く着替えて移動しちまおう」
「は~い。でもぉ、どこに~?」
「……」
はて、と言われてからエヌラスは服を着ながら考えた。手持ちの食料も残り少ない。国へ戻ろうにも道は遠い。そこで思い当たったのは、全面戦争の最中であっても誰一人として攻め入ろうとしない国。現状ではもっとも安全と思われる場所。
「ユノスダスだ」
そこは、完全不可侵国家として全面的に領土内での戦闘行為が禁止されている。今では非戦闘員で溢れかえっていることだろう。だが、他の場所へ向かおうにも食料その他の不安が募る。
支度を済ませてプルルートを連れて歩く。森の中は自然の奏でる音色だけが乾いた風と共に吹き抜けていた。ぬいぐるみは大事な物なのかしっかりと持っている。
「あ、そういえばね~」
「ん?」
「あたしぃ、変身できそうなんだ~。昨日みたいに変な違和感もないし、ありがと~」
「……どういたしまして、こちらこそ」
むしろ礼を言うべきなのは自分の方だ。つくづく今の不便な身体を治したいと思っている。
「そういえば、さっき“第二の心臓”って言ってたけどぉ、どうして二つもあるのかな~」
「あーそれは……話すとちょっと長くなる」
「じゃあ、いいや~」
「あっうん」
「ね~」
「んー?」
「手、繋いでもいいかな~?」
「? 別にいいが……」
「やった~」
何が嬉しいのか、満面の笑みを向けてプルルートが近づいた。手を繋ぐ、というよりは腕を組むのに近い。自分の胸板ほどまでしかない小柄な少女を連れて森の中を歩く黒ずくめの男。……絵面だけ見れば即通報待ったなしだ。恋人同士とまではいかないが、兄妹と言えば信じてもらえる可能性が微粒子レベルで存在する、かもしれないという可能性に掛けたい。
「えへへ~、あたし女神のお仕事一杯だから男の人とこうする機会あんまりないんだ~」
「そうか」
思い返せば、戦争が始まってから自分も職務を放り出して戦い続けてきた。
世界がこんなことになっていなければ、ネプテューヌ達との出会いもまた別なものになっていただろうに。そう考えれば、少し惜しいとも思った。
「こうしてるとぉ、恋人同士みたいだねぇ~。森でぇピクニック~」
「あ、あぁ……それはちょっと俺が通報されかねない……」
「どうして~? あんなことしたのに~」
「やめろ……やめろ……人の真新しい心の傷をえぐるな……!」
「ひどいなぁ、あたしこんなちっちゃな身体であんなに頑張ったのに~」
「やめろォ!」
やめてくださいしんでしまいます(心が)。エヌラスは泣きそうになったが、ふとした気配に耳を澄ませた。
遠くで木の倒れる音が聞こえてくる。プルルートは気づいていないようだ。
「どうしたの~?」
「……なにか来る。隠れててくれ」
荷物を下ろし、倭刀とレイジング・ブルを召喚して迎撃態勢を整える。恐らくはフロントラインの者――アルシュベイト傘下の部隊だろう。現在も各地に部隊を派遣して偵察に精を出しているに違いない。機械の身体で精を出すとはこれ如何にってやかましいわ。一人でツッコミを入れながらエヌラスが徐々に大きくなる振動に眉を寄せた。おかしい。これは機人の地響きではない。確かに鋼鉄の身体は重量感あるが、サイズは平均して二メートル前後。つまり、地面を揺らすほどの重量ではない――ということはそれ以上にデカイ何かだ。それは例えば戦車。或いは、装甲車。
それは、或いは――通称“要塞ガニ”と呼ばれる多脚型戦車だ。全長六メートルほどで鋼鉄の蟹を模した堅牢な装甲と重火力が自慢の自律型戦闘支援ユニット。開発元は、実を言うと他でもなくエヌラスの国が抱えている研究所だったりする。
「フォートクラブ!? 冗談じゃねぇ!」
エヌラスの悲痛な叫びが全身をオレンジ色に染め上げたフォートクラブの頭部センサーとぶつかった。ボクシンググローブのようなハサミを開くと、その中から三連装ガトリング砲が二挺覗いてライフリングを始める。空転の一秒、二秒――火を吹いた瞬間に背後の木々が削り落とされて倒れていく。
二門備え付けられたガトリング砲の射角から逃れたエヌラスを捉えている二つの目玉――多目的視覚センサーはその動きから予測範囲に向けて口を開けた。口部グレネードランチャーが着弾と同時に爆炎をあげてエヌラスの身体を大きく吹き飛ばす。魔術で姿勢制御と同時に受け身を取り、レイジング・ブルを口に向けて引き金を引くも、素早く閉じた装甲に弾かれて無駄弾に終わった。
上部装甲が六門開いたかと思うと、ミサイルが発射される。それにはさすがのエヌラスも覚悟を決めて倭刀を構えて整息した。
「――――」
すぅ、と小さく息を吸い込み、目の前に迫るミサイルを一基、二基と寸断していく。六基目を切り落とすと同時にフォートクラブが閉じたハサミを向けた。
薬莢を排出しながら射出されたロケットパンチ、右のハサミを防御魔法陣を展開して防ぐもその質量を防ぎきることは無理だった。あえなく殴り飛ばされたエヌラスが地面を転がり、視線を向ければ左手のハサミからガトリング砲が覗いている。
「やっべ」
ワイヤーで射出した右のハサミを引き揚げながら、左のガトリング砲で相手の動きを縫い付ける理に適った戦術的行動。この戦闘プログラムはインタースカイで組み上げられたものだ。そして、その装甲はアゴウで建造された。三カ国が共同開発したこの自律型戦闘支援ユニットはただの戦闘支援のみならず、単独での戦闘行動においても脅威となる。支援に留まらないその性能から幅広く活用されて今ではその派生型が数多く存在する。今相手しているのは中でも初期に考案された重武装型の『HW―フォートクラブ』だ。
「エヌラス~、あたしも戦うよ~」
「ぬいぐるみでか!?」
「さすがに変身するよぉ~?」
「だよな!? そうだよな!? ぬいぐるみでぶっ壊されたら流石に心折れるぞ俺!」
二門のガトリング砲による集中砲火を左手で展開した防御魔法陣を保つので精一杯のエヌラスに向けて六門のミサイルハッチを開いてダメ押しとばかりに発射するフォートクラブ。この戦術プログラムを組んだ人間に向けて言いたいことは馬鹿じゃねぇのかと。誰がここまでやれといった。
そのミサイルが――空中で全て迎撃される。鞭のようなもので薙ぎ払われたのだ。
《――!》
多目的視覚ユニットが脅威判定のためにセンサーを切り替える。ミサイルを今しがた迎撃した鞭のデータを解析していると、それが突然巻き上げられた。逃さまいと目で追う。
「機械相手ってぇ、楽しくないのよねぇ。だって悲鳴あげてくれないもの」
やがて、巻き上げられた鞭は一本の剣としての形を取り戻した。蛇腹剣を担いでいるのは――。
黒のボンテージのようなプロセッサユニットに、青い長髪をかきあげる女性。見覚えがまったくない。
「誰だお前ぇぇぇぇぇぇッ!?」
「誰って、失礼ねぇ。あたしよ? プルルートよ? ああ、今はアイリスハートって呼んでね」
「エエエェェェェエエエっ!?」
変身したプルルート=アイリスハートは元の面影などどこにもなかった。エヌラスが驚愕している間にもフォートクラブはそちらを敵と認識したのか口部グレネードランチャーを発射するが、それを宙に飛んで難なく回避する。飛行型の相手に対する戦術理論プログラムを併行して起動、フォートクラブは脚部の無限軌道を展開、ミサイルの装填時間を稼ごうとその場から動く。その瞬間にガトリング砲による集中砲火が緩み、エヌラスが転がり出た。
「この際プライドは抜きだ!
空中に向けてミサイルを発射すると同時にフォートクラブは直線的に走るエヌラス=ブラッドソウルにハサミを射出する。
「はぁ……」
明らかな落胆の色を見せて、単調なミサイルの軌道を再び蛇腹剣の一振りで迎撃して出来た穴に向けてアイリスハートが急降下するとハサミと本体を繋ぐワイヤーを切断。ブラッドソウルが正面から突っ込んで、偃月刀を滑らせながら切り抜けるとフォートクラブに向けて一気に接近する。機械であるならば、ただ一撃打ち込むだけで決着が着く。
「“電導”――アクセル・ストライク!」
光速の飛び蹴りによって発生する物理と斥力の相乗効果でフォートクラブは吹き飛ぶ――はずだったのだが、その目論見は外れた。機体の表面装甲を紫電が走った次の瞬間には四散して振り払う。残された左のハサミでかち上げられたブラッドソウルが着地する。その側にアイリスハートが並んだ。
「あなた、何がしたかったの?」
「蹴り飛ばそうとしたんだよ!」
「……バカなの?」
「お前に言われたかぁねぇよ!」
「あらあら、お仕置きされたいのかしらねぇ」
「おーなんだ、やる気か? 喧嘩売ってんなら買うぞこら」
「変身した途端、ずいぶん強気なのねぇ。ふふっ、そういうの大好きなのぉあたし。ゾクゾクしちゃう」
「面影残ってねぇテメェが言うかおぉん?」
《……(あれ、ボク忘れられてない?)》
とりあえず口部グレネードランチャーを発射するとあっさりと避けられた。
「電磁装甲採用したバカはどこのどいつだ、アルシュベイトの野郎かクソが! ふざけんな! ほとんど俺の攻撃通らねぇだろうが! なんで対策とってんだよ死ね!」
「じゃあどうするつもり」
「正面からぶっ壊す、と言いたいところだが。アレを相手に本気出すのは癪なのでスマートにぶっ壊す」
「手早くお願いねぇ?」
上部装甲のミサイルハッチが開いた瞬間には既にアイリスハートの蛇腹剣が伸びている。
「あんまり単調だと、あたしってぇすぐ飽きちゃうのよね」
爆発の衝撃を間近で喰らい、フォートクラブが地に伏せた。その眼前にはブラッドソウルが接近している。咄嗟に左のハサミを射出するも、アクセル・インパクトで蹴り落とされて地面に埋められた。引き戻そうとするもワイヤーが偃月刀で切断される。残された口部グレネードランチャーを開いた瞬間にブラッドソウルの右手には赤の自動式拳銃。
「
その名を喚ばれて、魔術紋様が凶悪な赤の光を放つ。魔力を込められた弾丸がフォートクラブの口の中へ吸い込まれていく。そして、爆発と同時に黒煙を口から吐き出した。その口の周りが溶けている。
貫手の形で左手を口の中へ突っ込み、ブラッドソウルが極限まで“
「次から電磁装甲じゃなくて魔導装甲採用するこった」
“紫電”鬼哭掌がフォートクラブの動作系統から火器管制、動力部まで食い破る。
完全に沈黙したのを確認して、二人は変身を解いた。
「いや、なんていうか……プルルートって変身すると、こう、色々凄いんだな……」
「友達にもよく言われるんだ~。変身しちゃダメだってぇ、なんでだろ~? ひどいよねぇ~」
「あー、うん。まぁ俺もよく言われる。街の中だと特にな」
思わぬ邪魔が入ったが、二人は何事もなかったようにまた手を繋いで森の中を歩き始める。
なんだかんだと似たもの同士、気が合うのかもしれない。
なんとなくお気に入りなので敵設定
名称・フォートクラブ
通称、要塞ガニ。様々な派生型が存在する。今回登場したのは初期に考案されて今もなお実戦投入され続けている「HW型」。なお、「ヘヴィウェポン」の略称。
戦術プログラムの設計はインタースカイ。建造はアゴウ。そして開発元は九龍アマルガムと三カ国の共同開発プロジェクトとしてベストセラーを博している。
搭載武装
三連装ガトリング二門
背部ミサイル六門
口部グレネードランチャー
シザーパンチャー