※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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エピソード93 ドンと来ないでください超常現象その他の類

 

 ――大魔導師はソファーに座り、昔の知人と顔を合わせていた。モダンクラシックな家屋の内装は、九龍アマルガムの中では珍しく蒸気発電などの魔法文化を併せてはおらず、その内装はどちらかと言えば地上での暮らしに酷似している。

 犯罪の聖人。システムを欺く体質の持ち主に大魔導師はひどく興味を惹かれていた。公安局の手から逃す為にこの地下帝国での生活を保障している。だが、それも彼は一介の人間。ただの一般人だ。

 

「どうも、お久しぶりですね」

「そちらも健勝そうで何よりだ。地下での暮らしは慣れたか」

「貴方が色々と手を回してくれたお陰で、何一つ不自由なく」

 退屈を持て余した二人が顔を合わせる機会はそれほど多くはない。国王が一般人とこうして面会するなど憚られて当然だ。それでも地下帝国の国政は犯罪の定義を無視すれば、概ね右肩上がりだ。地上でも同様に。

 

「貴方は不思議な方だ。なぜ、我々のような犯罪者の温床と言えるこの国。九龍アマルガムを放置しているのか」

「犯罪者も人間だ。善悪の差別なく、人は生きねばならない。例えその利用価値が死後の方が圧倒的に勝るとしてもだ。無軌道であり無秩序。だからこその混沌、繁栄。オレはそれを許容しよう、許諾しよう。人々の生活が、その日々の営みがこのオレの退屈を紛らわせる限り」

「地上のようなシステムを造り上げたのは貴方でしょうに」

「犯罪係数をシステムによって診断し、潜在的に犯罪意識を持つものを裁く。シビュラの託宣に間違いはない」

「それを取り決めるのは、貴方ですか。それとも、システムが? 実に興味深いところです」

「人が法を守る限りは、法も人を守るだろう。だが、一度逸脱した者は戻れない」

 大魔導師はティーポットからカップに紅茶を注ぐ。

 

「善人には善なる法が必要だ。悪人には悪なる法が必要だ。人間は一定の規律によって自由意思が保障されてなければ身動きできん」

「それは道理だ。人は時にあまりに多くの選択肢に戸惑い、躊躇し。立ち止まる。脳が処理しきれない膨大な数の可能性。そのどれに進むべきか――貴方の場合は?」

「可能性の総当たり。その結果がコレだ」

 ふと手を離す。落ちて割れるべきティーポットは空中で静止していた。そこから注がれているはずの紅茶さえ湯気を止めている。

 

「魔道は冥府に通ずる――なるほど確かに、今となってはそれがよく分かる。オレにとって現世の退屈は無間地獄に等しく、暇でしかない」

「だが僕達人間は貴方と違い、生きていられる時間は有限だ」

「そうだろうな。オレもかつてはそうだった」

「貴方は神に値する人だ。神格者、大魔導師」

「自覚はないがな。どうしてかオレは天啓のような物を得て、王の座についている――“オレは元々この国の王だった”とさえ感じてな」

 他にこの九龍アマルガムを取り仕切る者がいないとさえ自覚していた。仮にその相手がいたとしても――エヌラス、旧神だけだ。なぜ自分がそう信じて疑わないのかはわからないが、確信のようなものがある。

 犯罪の聖人は薄く笑った。

 

「いやはや、まったく興味の尽きない方です。貴方は。人と同じ姿で、まるで魔物のようです」

「怖くはないか」

「当然ながら。僕は只の人間ですので、今も震えが止まらない。さながら野獣の檻に放り込まれた仔ウサギのようにね」

「獣は無駄な狩りはしない。人間と違って獣の方が賢い時もある」

「それなら、お聞きしたい。何故、犯罪者を容認するのか。是非とも、王たる貴方の口から」

 本を閉じて、大魔導師をまっすぐ見据える瞳は清水のように澄んでいる。彼自身、その手に掛けて命を奪ったのは一人や二人ではない。直接的に、或いは間接的に手を下したとしても罪悪感というものを感じたはずだ。しかし、そのはずの男性は全くそんな素振り一つ見せない。

 大魔導師もまた、気を許した友人との会話のように切り出す。

 

「シェアエネルギーは、果たして善か?」

「唐突ですね。それは貴方自身が」

「オレも元は人間だった。お前と同じな。だからこそ分かる。“そんなもの”が無くても、支障はない。だが、オレは国民から信頼されねばならん。国の政治を、この国の舵を執らなくてはならない。そうなると、他国のようなシェアではダメだ。そちらに流れてしまう――そこで目をつけたのは、善と悪のシェアエネルギーだ」

「どのような形であれ、信仰さえ得られれば良いと?」

「かいつまんで言えばそうなる。どんな人間でも死にたくはないだろう」

 聖人は息を呑んだ。表情こそ平静を装ってはいるが、心臓の鼓動だけは冷えきっている。

 

「死者は常に生者よりも絶対数が多い。善も悪も、生も死も関係ない。生きている人間よりも死者の魂の方が利用価値は遥かに大きい――“生きた人間よりも死んだ人間の方が価値がある”というのが、九龍アマルガムだ」

「…………」

「オレはお前たち犯罪者からシェアを得ようと、地上でシェアを稼ごうと“どうでもいい”のだよ。善悪の倫理観など、誰が決める。信仰に意思があるのなら、それは人と同じく御することができる――自らの意思を持たぬシェアエネルギーなど、死者からでも得られる」

 大魔導師――神格、ネクロソウルは平静そのもので応えた。破綻した倫理、人の道理を外れた禁忌さえ許容するその精神には人の情など欠片も、微塵さえ感じられない。人の理解を超えた価値の言葉に、犯罪の聖人は笑う。

 

「オレがこの国の王である理由はな。死のうが殺されようが文句の言われない人間の肥溜めだからだ」

 それでも大魔導師の犯罪係数はシステムでは執行対象になり得ない。彼もまた、犯罪の聖人と同じ体質の持ち主だった。

 

「存外、つまらない理由でしたね」

「聖書では悪魔よりも神の殺した人間の数のほうが圧倒的に多いらしい。だがオレは悪魔ではなく神格者でな。ならば、当然だろう」

「人間などいくら殺しても心は痛みませんか」

「…………可能性を摘む、という意味でなら多少口惜しくはあるな。“もしかすると”“もしかしたならば”と一瞬でも考える。しかしオレにとって最高の暇潰しは旧神、エヌラスだけだ。アイツと殺し合いをしている時だけは、どうしようもなく魂が震える」

「貴方が三日も夢中になって争った相手だ。さぞ面白いのでしょうね」

「ああ、神の威厳もクソもない。人間としての価値で言うならドブネズミの方がまだ生産性のあるようなやつだ」

(そこまで言われると逆に会いたくなります)

 二人の対談は、ただ静かな読書の時間をお互いに邪魔をしない程度に会話を嗜むというのが常設。外では今頃アサイラムと人狼局に警察が協力して騒ぎの沈静化を図っているだろう。

 ブラインドを降ろされた窓から大魔導師は外を眺める。

 

「無軌道無秩序大いに結構。凶悪犯罪秘密結社、大いに結構。犯罪国家九龍アマルガムで生きていくコツは、オレを愉しませることだ」

 

 

 

 

 ――当人のエヌラスはと言うと、アーウィルの処方した薬と溶液を手にしてネプテューヌに腕を組まれて眉を寄せていた。なんでいきなりこんな風にくっついてきたのだろうか。

 

「えーと、ネプテューヌ」

「なに?」

「そんなにピッタリくっつかなくてもいいぞ……」

「ダメだよー、こんなに人がいるんだから。はぐれたら困るでしょ」

「いや、それはそうなんだが」

 言っていることに間違いないのだがどうしてか、こう。違和感のようなものを感じる。

 大魔導師が引き起こした超災害の跡地はすでに瓦礫の撤去が終わりつつあり、警察機構による交通整理も順調なようだ。控えているのが装甲車と武装バイク、強化装甲を着込んだ部隊なのだからそれも無理は無い。アサイラムほどではないが、そこらの軽犯罪者ならば挽肉になる戦力だがこの国ではなにが起こるか分からない。

 

 そう。仮に、例えばの話だが――――突然、地響きと共にドラム缶にブサイクな手足と顔を付けた九龍アマルガム名物、天災ジェノサイダー破壊ロボットが出現したとしても。

 

「…………なにあれ」

「地下帝国名物、破壊ロボット」

「うん。うん……? う、う~ん…………なんだろう、ちょっと理解の範疇超えてるかも」

「地下帝国の名物、破壊ロボだ。そういうもんなんだよ……」

 エヌラスは自分の心がそろそろ悲鳴を上げながら亀裂が走る音を聞いた。あまりに久しぶりにこの国のバミューダ・トライアングルばりの荒波に揉まれて耐えきれそうにない。

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