超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――大魔導師は、対峙するエヌラスに対して奇妙な既視感を覚える。
以前よりも遥か前にもこうして戦った記憶がある気がしていた。だが、それが一体いつ、どこで戦った記憶の中なのかが分からない。魔道を探求する、追求するうちに思考を並列処理することが当たり前となっていた大魔導師にとって、戦闘をしながら別なことを考えるというのは普通だった。ブラッドソウルの猛攻、それを片腕で防ぎながら思案する。
「……エヌラス。オレを知っているか?」
「知ってるよ! ああ知ってるさ! 九龍アマルガム国王以外の、誰だテメェは!」
叩きつけるように吠える。憎悪と憤怒に塗れた形相は、やはり見覚えがあった。冷やしたぬき論争はひとまず置いておく。美味しいのに。
それでもやはり記憶の片隅。無いはずの記憶と感情が呼び起こされる。自分はエヌラスと出会うよりも以前に、こうして対峙していたのではないか? そう、こんな風に命の駆け引きを。
だからこそ問いかける。
「オレを知っているのか、エヌラス」
「同じこと二度も三度も繰り返すんじゃあねぇ! ボケる歳でもねぇだろうがァッ!」
うむ、それもそうだ。大魔導師は他人事のように納得しながら偃月刀を右手で腹を叩いて捌きながら、カウンターのヒザ蹴りを顔面に打ち込む。
「質問が悪かったな。ならこう言うべきか――お前は“オレの知らないオレを知っているか”」
「――――」
その一瞬の逡巡は大魔導師が答えを得るのに十分過ぎる猶予だった。破顔して、掌打を額に打ち付けると九龍アマルガムの反対側にまでぶっ飛んでいく。重力操作に加えた破壊力、通常なら下顎を残して頭部が崩壊しているところだ。ところが原型を留めて吹っ飛んでいったので生きているだろう。それでもしばらくは動けない。
「なるほどな」
大魔導師は頷く。独りごちて、頷いていた。
「なるほど――“面白い”な! そうか、うむ! 納得した。やはりこの世界は狭い」
世界の果てから果てまで行っても見飽きた光景ばかり。となれば、自分が求める刺激は外の世界にしか存在しないのだろう。だがしかし、それをこの世界は許さない。
試験的に運用させたエヌラスの持つD-PhoneのGPS同期処理による次元間転送システム。ユウコを実験体に、ソラの協力で完成させたプログラムは正解だった。エヌラスが次元渡航さえすれば回線を繋いでこちらから出向くことも出来る。
「と、なれば。面白おかしくオレは外の世界を歩く他にないだろう」
大魔導師が感じていたのは、この世界との奇妙な齟齬。咬み合わない感覚。それを知るために違和感を探り続けて、やはり途端に先が見えなくなっていた。五里霧中の最中で途方に暮れていた時に出会ったのが、エヌラス。旧神を名乗る青年。
「おーい、エヌラス! オレと勝負をしよう!」
声を張り上げて、遥か遠くにいるであろうブラッドソウルに呼びかける。聞こえているはずだ、話を続ける。むしろここまでは勝負ですらなかったことに驚きなのだが……。
「オレが勝ったら、向こうの世界に連れて行け。たまには世界旅行も悪くない! お前が勝ったら、まーなんだ! なんかくれてやる! 好きなの持ってけ!」
聞こえてる。多分聞こえているだろう。まぁ聞こえていなくてもどっちでもいいのだが。
「ナコト」
『はい』
懐に入れている魔道書に呼びかける。
「今日は“本気”で行くぞ。以前のような遊びではなく“殺しにかかる”つもりだ」
『イエス、マスター』
大魔導師の手に浮び上がるのは、シェアクリスタル。その気配を察したのか、白銀の魔弾が飛来してくる。それを人差し指から放つ重力弾で余さず相殺していく。
「
ネプギアはユニと一緒にプラネテューヌで現状の説明を交えながら街を歩く。その途中で、一緒にクエストに行こうという話になったのでギルドに立ち寄ったが――。
「なんでわたしがネプギアと一緒にプラネテューヌの女神の仕事しなきゃならないのよ。イヤじゃないけど……」
「ご、ごめんねユニちゃん。でもほら、いーすんさんから言われてるの。女神のお仕事ちゃんとしないとエヌラスさんが……」
「……ネプギアはそれでいいの? あんな人の為に、そんな頑張っちゃって」
「わたしは、いいかなぁ。なんだか手間のかかるお兄ちゃんが出来たみたいで」
「わたしはあんまり、いい気はしないわ」
「ユニちゃん……」
自分のようにエヌラスを知っているわけではないユニからすると、やはり良い目で見られないのだろう。ロムやラムと同じように。
「このままじゃネプギアがダメになるんじゃないか、って。心配してるんだからね」
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫だから」
一人にしておく方がもっと心配だ。誰かが止めないとどんどん悪い方向に転がっていってしまう。今のエヌラスを見れば分かる――あの人は、自分のことなんて見えちゃいない。考えてすらいない。だから、どんな無茶でも平気でやってしまう。
その結果が、あの無数の傷跡だらけの身体。右腕を動かすためのドラッグシガー。
「はぁ。なんだか親友がダメな男に引っかかった心境だわ……」
「えーと、あながち間違いじゃないのかな。エヌラスさん、ご飯作れないし」
「ねぇ、あの人本当に大丈夫な人? 頭とかじゃなくて」
「もう、ユニちゃん。エヌラスさんに失礼だよ。敵対しなければ大丈夫だってば」
「はいはい、そーね。敵の敵は味方というからね。でも、ネプギア。なんか悩み事とかあったらちゃんとわたしに言ってよ? 力になるから」
「うん。頼りにさせてもらうね、ユニちゃん」
笑みを浮かべながらクエストを眺める。手頃なのがいいが、それを見ていたユニが何気なく言葉を漏らした。
「へぇ、プラネテューヌじゃモンスター退治のクエストがないのね?」
「え? そんなはず……」
「だって、どこにもないわよ? ちゃんと仕事している証拠じゃ」
「違うよ。だってわたし、昨日もギルドに来たけど沢山あったんだから! あの、すみません」
「はい。どうかされましたか?」
ネプギアがギルドの受付嬢に尋ねる。
「モンスター退治のクエストが、どこにもないんですけれど」
「ああ、それですか? なんでも国境警備隊が本腰を上げたようで、精力的に取り組むとのことで全て受注されました」
「ぜ、全部ですか!? ここにあるの、全部!?」
「はい。今まであまり良い目で見られることはなかったんですが、やればできるんですね。既に達成報告も幾つか受けていますよ」
「すいません、見せてもらってもいいでしょうか!?」
「え、ええ……こちらです」
「ありがとうございます。……本当だ……受注者が『B2AM強襲部門』になってる」
「ハァドライン、B2AMって例の薬の犯人よね」
正確には、その薬を開発したバカなロボットが所属する組織だ。それが何故、突然モンスター退治に総力を挙げるのか。答えは明白。
既に相手は量産体制に入っているからだ。クエストではモンスター退治さえすれば問題はない。モンスターからドロップするアイテムの是非は問われず、そして逆に言えば素材集めの類も片手間にこなす腹づもりだ。相手方の連携がどれほどかは分からない。しかし――この状況はあまりに危険だった。
昨日の今日で、すでに行動を起こしている。ロボットは疲労を知らない。こちらが眠っている間にも計画は進行していた。
「ユニちゃん、急いで国境警備隊の人達を探さないと!」
「どうしたのよ、突然」
「思ったよりも状況は待ったなしだったの! もしかすると、ケモナールが大量生産されちゃうかも!」
「なんですって!? ケモミミのネプギアが見れるチャンス――じゃなくて! そんなことになってたのになんで気づかなかったのよ!」
「だ、だってわたしもまさかこんなに早く相手が動くなんて思ってなかったんだもん……」
「あーもう! わかったから泣かないでよ! でも、二人だけじゃ不安ね」
「一度教会に戻ろう。それからいーすんさんに相談して……!」
それから――これから起こるであろうケモミミパラダイスの野望を食い止めないと、ゲイムギョウ界が面白おかしな大惨事となってしまう!