超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「ユニちゃん」
「そうね、悔しいけどここは女神化するしかなさそうね……いくわよ、ネプギア!」
「うん!」
二人の手に浮かぶシェアクリスタルが身体の中へと溶けこんでいく。
ネプギアはパープルシスターへと。ユニはブラックシスターへと変身を遂げてプロセッサユニットを装着し、M.P.B.LとX.M.Bをそれぞれ手にした。
「プロセッサユニット装着完了です!」
「ここからはお望み通り本気でやるわ、覚悟しなさい」
《むしろ、そちらの方が私にとってはやりやすい》
射撃能力を得た二人の攻撃を前にして、セインがスラスターを一瞬だけ吹かして避ける。その動きを先読みしたブラックシスターがトリガーを引く。
「そこ!」
しかし、その弾丸が当たることはなく、一瞬のステップを切り返して装甲表面を掠めるに留まった。――B2AM強襲部門の装備ししているチャージングシステムの爆発的な加速力を応用して、無理矢理な機体の慣性制御による回避技能。重心を落として制動すると同時に、スラスターの逆噴射で避けるこの技術は「ハーフステップ」として一部の強襲機体が会得している。その大本はシロトラが編み出した三次元機動戦闘だ。
「外した!?」
《俺は来る日も来る日も剣を振った。それこそ狂ったように》
パープルシスターが接近を試みる。それを見るや否や、セインは足を止めて刃を振るう。光刃同士が衝突して光が弾けた。
《俺は来る日も来る日も貴方達を見ていた。狂ったようにな》
「ッ」
《俺に課されたのは、唯一この剣の有用性の証明。だからこそ、剣技に関しては例え信仰する女神であろうとも》
(この剣の冴え――もしかして!)
身体を斜めに、正眼の構えから繰り出される連撃。それは、誰よりも見覚えのあるパープルハートと姿が重なって見えた。そんなはずはないと一瞬の躊躇の隙をセインは見逃さない。
《だからこそ、受けてみるか! 俺式クリティカルエッジ!》
上下の連撃からすり抜けざまの一閃。切り抜けると同時に左手にはグレネードランチャーを持ち、離脱しながら発射する。間一髪で防御したパープルシスターが爆炎から飛び出し、踏み留まった。そこへ、ハーフステップでターンしてきたセインが全身を使って刃を振り下ろす。
「きゃああっ!」
「ネプギア!」
(そんな、まさか……!? 守護女神の技をここまで再現するなんて)
セインは既にブラックシスターへと標的を定めている。その弾道から一瞬だけ身体を逸らせて最低限の回避行動と共に接近して刃を浴びせていた。
「くぅっ……! なんで当たらないの!」
《俺達の武装を見ればわかるだろう。銃撃に晒されるなど日常茶飯事、それも強襲部門は先陣切って突破口を開く部門だ。その俺がどうして射撃を避けきれようか》
「ユニちゃん!」
エネルギーライフルの三点バーストがX.M.Bを弾き、回りこんだセインが肩口からブラックシスターの背中を押し出す。体勢を崩した隙に一瞬だけ後方に下がり、今度はチャージングシステムを併用した飛び蹴りで吹き飛ばした。
「そうか、このロボット……わたし達の動きを知ってるんだ! だから」
「だから当たらないってわけ?」
《四女神が拘束された時も。プラネテューヌでタリの女神が現れた時も。それからもずっと貴方達の活躍は目にしてきた。この目に焼き付けてきた。記憶に刻み込んできた。貴方達の技も、全部だ。いつか来る日のために》
「それは……?」
《――女神信仰の代理戦争。その日のために》
『!?』
守護女神同士の戦闘。武力によるシェアの奪い合い。それは既に終止符を打たれている。だがそれは女神の都合の話だ。ゲイムギョウ界から犯罪が無くなったわけでも、犯罪組織が全て無くなったわけでもない。今だ世界には悪が蔓延っている。それを少しでも減らす為に女神達は日々尽力している――しかし、セインの言う「代理戦争」の一言にレオルド達が固まった。
《セイン、それは……なんだ?》
《そんなの聞いたことないぞ》
《誰も知らされていないのは当然だ。俺が特務隊だった頃にB2AMのデータベースをハッキングした時期だったからな》
《お前なにしてんだよ》
ツキカゲが呆れている。
《各地のハァドラインが現在、睨み合っている。冷戦状態と言っていいだろう。だが、しかし――いつまでもそれが続くとは思えない。プラネテューヌのハァドライン、B2AM。ラステイションのハァドライン、アームドソウルス。リーンボックスのハァドライン、アーマードカンパニア――今は企業提携してアームドソウルスと名前は統一されているが》
「そんな情報をどうして……」
《俺達は女神を信仰するあまり危険因子として排除された。だがそれでいいと思っている。貴方達は高嶺の花だ。俺達狂信者の太陽であり月の女神だ。だから“誰にも奪わせない”為にプラネテューヌは俺達が守る。あのハァドライン、アームドソウルス達から》
国境警備隊として起業を主としているのはそういうことかとパープルシスターは合点がいった。代理戦争――それは、狂信者集団による衝突を意味している。自らが信仰する女神がゲイムギョウ界の覇権を握るに相応しいとして。だが、B2AMの理念は違う。
毎日を面白おかしく過ごすネプテューヌの為に、今の平和を維持したい。ケモナールはともかくとして。方向性は間違っているが、彼らなりに考えての行動だ。
《俺達が作業用ではなく戦闘用として訓練されているのはその為だ。そして、シロトラ教官は代理戦争と呼んでいたが、アームドソウルスではその代理戦争をこう呼んでいる――“国家解体戦争”だとな》
「国を、解体する戦争……!? そんなの許されるはずがない!」
《だからこそ、止めねばならない。
《んじゃあケモナールの開発止めろよお前》
《それは無理。超見たい》
《あっそ……》
バズが同感しながら呆れていた。
《しかしこれを聞いて行動を起こすわけにはいかない。なんせ相手はラステイションとリーンボックスの一大企業。二大国家の国境を越えた大企業様だ。金もある、人員も足りている、何よりシェアも足りている。そいつらが本気を出して侵攻してきた日にはプラネテューヌはあっという間に壊滅するだろう。戦争は数の暴力だ》
「お姉ちゃんが許すはずないじゃない」
《例え女神がどれほど強くても、一個人であることに変わりはない。一人で何人を相手できる》
「……」
その戦力に自分が省かれていることにブラックシスターは歯噛みする。悔しいが、セインに太刀打ち出来なかったのも事実だ。
《セイン。じゃあお前が特務隊を追放された本当の理由って》
《ああ。データベースをハッキングしてちっひーの個人情報漁ってたついでに得てしまった、この情報のせいだ》
『お前なにしてんだーーーー!!?』
特務隊の職権濫用及び情報管理違反。部隊内の不評もあってシロトラがその時期に最も頭を悩ませていた頃でもある。その救済措置が特務班への追放。そんな真実知りたくなかった。
《すげぇ真面目な話だから聞き入ってたのに台無しだよ!》
《この変態。後でヨルドさんにチクるからな》
《やめてくれツキカゲ。それは俺が死ぬ》
「うわぁ、残念な天才ってこういう人のこと言うのかな……」
「ロボットよ。人権ないわ」
ここまで感情豊かだと人権くらいあってもいい気がするが、その辺りは難しいのでイストワールにでも聞いておこう。
《今の話を聞いて表立って動いたとしても、相手は民間にも知れ渡る存在。それを突然、解体しようとすれば当然市民の不評を買うことになる。それはシェアの低下を招き、いずれは自滅の道を辿ることになるだろう》
「だから、ハァドラインである貴方達B2AMが戦うんですか」
《それならば誰も良心など痛みはしない。俺達はテロリストとして名を馳せているからな》
《現時点でバイオテロ目論んでるお前が言うなよセイン……》
《むしろこいつ頭目じゃねぇか》
《首謀者とっ捕まえておけば俺達の評価マシになるんじゃね?》
《それな》
ツキカゲとバズが無責任な会話をしている横で、レオルドは頭を悩ませていた。
「それだと、あなた達の戦いに無関係な人たちが巻き込まれることになるわ。どちらにしろ見過ごせるはずがないじゃない」
《……もし、その時が来たら。守護女神ならびに女神候補生達が俺達ハァドラインを全て倒せばいい。ゲイムギョウ界の均衡を保ち、犯罪組織がひとつ減ることとなり、シェアも上がるだろう。そちらにとってはいいこと尽くしだ》
「――――」
ブラックシスターは絶句し、セインの顔を見ている。
《――他の部隊からの通信だ。ここで俺達が戦っている間に本日付けのモンスター討伐、素材収集のクエストは完了。達成報告にギルドへ向かったとのことだ》
「……そんな」
「止められなかったって言うの……」
《いいや。まだチャンスは残っている。今回はあくまでも、量産へ向けた素材の収集が目的だった。生産するのは本部へ戻ってからになる。レオルド、ツキカゲ、バズ。撤収だ》
《了解ー》
《うぃー》
《……了解っす》
三人が撤退していき、セインはジリオスをマウントした。
《それにどれだけ時間が掛かるか分からないが、俺達は動力源が尽きない限りは動く。本気で止めたければ、寝る間も惜しんで来ることだ。おい、トライアド。撤収だ――》
セインがディル達に向き直る。そういえばやたらと静かだったような……?
そこで見たものは、両手を上げて喜ぶピーシェと高い高いをしているユウコ。その足元にはディルとシュラが転がっていた。全身の装甲がベッコベコに凹んでいる。
「わーい、ぴぃがやっつけたよ! えらい? ユウコえらい?」
「うんうん! ピィちゃん大活躍ー。ぐりぐり~」
「きゃー! ユウコくすぐったーい!」
《おい、セイン。あの親子メチャクチャ強いぞ。俺は見てるだけだったが》
《うぉおおおお!? しっかりしろ、ディル! シュラ! 大丈夫か!?》
《へへ……いい、拳だった……ガクッ》
《子供は風の子、元気なたけのこ……ゴフッ》
システムダウン。セーフモードになった二人をそれぞれ担いで、セインが思い出したように振り返った。
《ちくしょー覚えてろー! 絶対ケモミミにしてやるからなー! しっかりしろ二人共ー、傷は浅いぞー!》
《じゃ、俺達はこれで。いい見世物だった。今日の日記は捗りそうだ……》
去っていくトライアドを見送り、ネプギアとユニがピーシェとユウコを見ている。
「……そっか、あの人達って女神には強いけど」
「それ以外って、対策取れてないのね」
「んぃ? どうかした、ギアちゃん。ユニちゃん」
「ねぷぎゃ?」
小首を傾げる二人を見て、ネプギアとユニは心底思った。――この二人だけは、敵にしたくない、と。