超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「おーい、ミリアサちゃーん」
「ネプテューヌじゃないか。何をしていたんだ?」
「ちょっとお散歩がてら、前に行った隣町のハネダシティのカフェに行こうかなって思ってたんだー。ほらー、わたしってシャレオツな女神様だから、優雅にティータイムなんて考えたりして! 今の流行りは女子力だよー!」
「女子力って言葉から遠い気がするけどね」
「ぅ、チーカマちゃんの鋭いツッコミが……ま、まぁいいじゃん。ふたりも一緒に行く?」
「ああ、構わないぞ。ちょうどプラネテューヌを散策していたところだ」
「そうね。断る理由もないし、いいわよ」
「それじゃー隣町に向けてしゅっぱーつ!」
ネプギア達がトライアドと戦闘していた一方で、プラネタワーを出たネプテューヌはミリオンアーサーとチーカマを連れてハネダシティへと移動していた。
「しかし、いいのか? ネプテューヌ、今は大変なことになっているのでは?」
「うーん、そうは言われてもクエストもなくなっちゃってたらわたしのお仕事ないしなぁ。それはそれでプラネテューヌの為になるからいっかなーって」
「そんなのでいいのかしら」
「チーカマちゃんは心配性だなぁ。だってケモミミ生えるくらいならかわいいものだよ。今までそれより危ない事件なんていっぱい起きてたし、今回も大丈夫だって。わたしが女神化すればパパーッと終わらせちゃうから!」
そんな話をしながら歩いて、隣町で目的のカフェテリアを探す。時間帯から混雑するであろう頃合いを避けて来店したもののカフェ『マグメル』はその日も大盛況だった。
「ちょっと待たないと席は空きそうにないな……。これに名前を書けばいいんだな。どれどれ」
「筆記体で自分の名前書かないでよ? 店員さんが困るから」
「案ずるな、ひらがなで「みりおんあーさー」と書いておいた! これなら良いだろう?」
「それ、貴方の頭が怪しまれるんじゃない?」
「しまった! それは盲点だった! まぁ書いてしまったものは仕方ない。少し待つか」
「そうだねー」
ネプテューヌがハネダシティを見渡していると、見覚えのあるロボットが何やら荷物を受け取っていた。どうやら仕入れをしているらしい。伝票を受け取って荷物に漏れが無いかチェックしている。
「ネプテューヌ、あのロボットって」
「うん。前に見かけたのだし、それに」
「ああ……B2AMとやらのメカだな。少し話を聞いてみようではないか」
「そうだね。おーい、ドボルー」
ネプテューヌが声を掛けると、頭を上げた。
《人を尾縋竜みたいに呼ばないでください、ドバルです》
「今、少し時間はよいか? なに、手間は取らせない。質問がいくつかある」
「作業しながらでいいから聞いてくれると嬉しいんだけど」
《構いませんが、こちらも急ぎですので用件は手短にお願いします》
ドバルは伝票を業者に渡すと会釈する。そして、荷物をコンテナの中へと詰め込み始めた。
「まず、B2AMが大掛かりな作戦行動中みたいだけど貴方は参加していないの?」
《私にとってはこちらが本業ですし、今回の配送は少し特別なので不参加です》
「この荷物はなんだ?」
《食料です。缶詰や配給のパン、ジャガイモなどです》
確かにそのラベルは携帯食料や缶詰の表記に間違いない。嘘は言っていない。
「なら次の質問だ。この荷物はどこに運ぶつもりだ、お主」
《ラステイション防衛隊極東支部です》
「これ、ノワールのとこに運ぶの? なんで?」
《通常の配給が行き届かないからです》
事務的に受け答えるドバルは積み荷にチェックを入れる。
「ケモナールを量産するみたいだけど、目的は?」
《私は通信で聞いただけですが、ケモミミのパープルハート様が見たいだけのようです》
「え、それだけ?」
《はい。それだけです》
「それだけの為に……ギルドのモンスター退治を全部?」
《変な奴らなんです》
コンテナの蓋を厳重に閉じて、ドバルは武装をマウントするラックにコンテナを固定して、立ち上がった。
《他には、なにかありますか》
「そうだな……」
《無ければ私はこれで》
「三名様でお待ちの、みりおんあーさー様ー!」
質問を考えているうちに、どうやら席の準備が出来たらしい。女性店員が呼んでいたのでネプテューヌ達は質問を切り上げてマグメルへと入っていく。それを見送ってからドバルは脚部のキャタピラを駆動させて道路を走った。
ハネダシティ郊外から、ラステイション方面へ。途中から道路を外れて、草木の禿げた岩肌の路面を慎重に進んでいく。
ラステイション防衛隊極東支部――特殊なモンスター達の生息している危険地帯。そこではモンスター達に合わせて、特殊な形状の武器を使用しての戦闘が行われていた。武器でモンスターを“捕食”して、力を得るという。自分たちとは違う技術体系の戦闘にドバルは関心を示さなかった。
何事も平凡で普通でありきたりな生活がしたいだけのドバルにとって、ハァドラインというのは窮屈であったものの、現在は感謝している。配送業というのはそんな名目はともかくとして、こうして他の国に堂々と踏み入ることが出来るからだ。ただ心残りがあるとすれば、海に囲まれたリーンボックスへの配送だけはどうしても出来ない。飛行能力が無いことが悔やまれる。
《おっ、と……》
そんな山岳地帯を、ハーネスも無しに脚部の無限軌道だけを頼りにして登っていく。自重で時折崩れそうになる足場に細心の注意を払いながら、登頂して見下ろすのは遥かな城壁に囲まれた小さな地域。今度はそちらへ向けて、下山しようとした矢先にドバルの生体センサーが接近してくるモンスターの気配を捉えた。なるべく音を立てないように身を隠し、首だけでそちらを見やる。
小型モンスターが数匹、率いるのは大型のモンスターだ。キツネのような顔に赤い襟がなびいている。白い体毛に包まれた四足のモンスターは悠々と歩いていた。固い体皮に覆われた前足からは火の粉が上がっている。
《…………》
しばらく身を隠してじっとしていたドバルに、武装はない。そのモンスターの群れは周囲を窺っていたが、何も無いと知るやすぐに去っていった。ドバルも度々ラステイション防衛隊極東支部へと食料を配送していたが、自分の真上を通って行くのは初めての経験だ。間近で見た特殊なモンスター達が何事も無く去っていったことに安堵する。
武器がモンスターを喰らう。そのモンスター達は捕食対象を選ばない。だからこそ、この周辺の山肌はこうも閑散としていた。根こそぎ食らっていったのだ、あのモンスター達が――ドバルが下山して、中腹辺りまで辿り着いた時、絶叫が聞こえた。それは断末魔に等しい。
《なんだ?》
見上げると、そこには先ほどの小型モンスターの群れが宙を飛んでいた。何れもが無残に胴体を薙ぎ払われている。黒い血飛沫を流して地面に落ちると、そのまま黒いシミとなって消えていった。残されたのは大型のモンスターだけ。しかし、すでに左目を奪われたのか赤い傷跡が生々しく残されている。
頭部の網膜ユニットを拡大率を上げて、ドバルは注視した。ひとりの人間が立っている。
いつからいたのか、どこから現れたのか……真っ黒な仮面を付けて、日本刀を一振り携えただけの相手。それに前足を振り上げて、地面を叩くと爆発を起こした。
しかし、それすら一閃して足を切り落とすと、納刀して歩み寄る。
「……お前でいいか」
手を突き出して、モンスターの頭を鷲掴みにするとその異変は起こった。ドバルの目にはただモンスターが頭を掴まれて、小さく身悶えしているようにしか見えない。だが、着実に、確実に何かが起きていた。それはドバルの理解を超えていて、これ以上長居すれば命はないと即座に判断できる。――だが、モンスターの身体を蝕むように流されていた黒い霧のような物が頭から離れない。
この地域に生息するモンスターは“アラガミ”と呼ばれている。そして、アラガミと戦う為に作られた武器を振るう者達を“神機使い”と言う。しかしあの仮面を付けた青年はその神機を有していなかった。それこそが異常だったのに、ドバルは好奇心に駆られて足を止めてしまった。
《くそ。今日はツイてないな……!》
傾斜の激しい山腹を滑るように落ちていく。それはさながら、季節外れのスキーだ。小さな砂利や小石と一緒に下ったドバルが着地の衝撃で膝の関節シーリングに多少の損傷を負うも、今しがた駆け下りた山を見上げる。
仮面を付けた青年も、大型モンスターも追ってきてはいない。だが、確かにドバルのセンサーは捉えていた。先ほどとは違う大型の生体反応。そして、新たな脅威の産声を。