超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
それからドバルはラステイション防衛隊極東支部の生活拠点、通称『アナグラ』へと踏み入る。通行許可を貰い、指定の場所へ積み荷を下ろすと、責任者のサインを貰うために神機使い達が集まる支部へと移動。そこで極東支部を預かっているサカキ博士兼支部長のサインを受け取る。
糸目で何を考えているかわからない飄々とした態度ではあるが、アラガミ達の研究にも余念がない。温厚な人柄からか親しまれている、というのはドバルの客観的な見解。
入荷伝票にハンコを押して、ドバルに渡す。
「いやぁ、助かるよ。ここだとラステイションからの配給が中々予定通りに届かなくてね」
《無理もありません》
「我々からすると、君のように地形の影響を受けずに移動できる“足”が無い。それにこの周辺は常にアラガミの脅威に晒されている。人員を割くにしても、中々出来ないのが現状だ」
《今回は急を要するという件でしたが》
「ああ、それなんだけれどね。ラステイションからの配送業者がアラガミに襲われてしまったんだ。それで今回はプラネテューヌ側にお急ぎ便を依頼した、というわけなのさ」
アラガミの脅威。その言葉に、ドバルはつい先程見た光景を説明した。不安を煽るような内容ではあるが、それでも拠点を預かる相手の耳に入れておかなければ被害が出るだろう。
「――なるほどね。アラガミを一刀両断したその人物の使った刀の素材も気になるが、それ以上に“感応種”に対する行動も気になるね」
《何が起きるかわかりませんので、神機使い達にも注意を促しておいた方が良いかと》
「そうだね。報告ありがとう」
《いえ、仕事ですので》
「それでもさ。私達の生活を繋いでくれる確実な配達を可能とする君たちの技術は目を見張るものがある」
《……よければ、ラステイションの業者に自分から掛け合ってきますか。このままではあなた方も不便でしょうし》
「良いのかい、そんなことまで頼んでしまって。別料金なんて言わないでくれよ」
《ラステイションからプラネテューヌへの配達ついでです。それでは》
ドバルは支部を後にして、アナグラの中を移動する。生活している人々からの好奇の視線を気にせず移動していると、食料の配給を行っている神機使いが見えた。
その中に、金髪を短いツインテールにした神機使いの姿があった。ドバルが足を止めて、会釈すると薄着の隊服を着たその少女は手を振る。
「あ、いつもの配達屋さん! こんにちわ!」
右手の赤い腕輪を振りながら駆け寄ってくる少女に、ドバルは小さく手を上げた。
《どうも。今回は災難でしたね》
「そうですね。まさかアラガミが行動範囲を広げているとは思いませんでした。でもこうして食料を届けてくれたんですから、感謝です! ありがとうございます!」
《仕事ですので》
素っ気なくドバルは答える。
《今回の件で、恐らくラステイションの配送業者からの支給が難しくなると思われます。ですので、これから自分が掛け合ってこようかとサカキ博士と話していました》
「そうなんですか? 何から何まですいません」
《気にしないでください。自分はこうしてラステイションを歩ける良い機会ですので》
「でも、言ってはなんですがこんな辺境でも歩いて楽しいんですか?」
《色々あるんです》
こうして長居して話しているのも悪い。ドバルは会話を切り上げて早々にアナグラを後にした。背中には空のコンテナを背負い、脚部のキャタピラで地面を噛みながら前進する。ラステイション防衛隊極東支部を出てからは街道をスラスターを吹かして出来るだけ先を急いだ。
――それから小一時間。ラステイションに到着したドバルは、極東支部への配送を請け負っていた業者の会社へ到着する。
《……配達が、出来ない?》
「ああ」
《今回の件ででしょうか》
「いいや、今回の件はあくまでも後押しでしかなかった。正確には俺達の上から押さえつけられたんだ。こっちだって極東支部には世話になっているんだ、だというのに……合併した企業連合に買収されたもんで」
《……アームドソウルか》
「そう。例の企業がリーンボックスと手を組んだせいで、こっちも思うように動けないってわけさ」
「まったくハァドラインの連中も厄介だよな。早くいなくなってほしいもんだよ」
《……なら、今後ラステイション防衛隊極東支部への定期配達は》
「すまないが俺達からはどうしようもない」
どうにかしてラステイションから極東支部への配送を請け負ってくれる業者を探すも、どこも同じような返事が戻ってきた。この調子ではもしかするとほぼ全ての企業に手を回している可能性がある。一大軍事企業として著しい発展を遂げているリーンボックス企業連盟の根回しは、ドバルではどうしようもなかった。
《……どうすることも出来ないか……何を考えている、あの連中は》
物思いに耽りながらのんびりとラステイションの街中を歩いていると、ラステイションの軍隊とすれ違う。
「おい、あのロボット……」
「ああ、間違いないな」
《……?》
特に何も気にせずに歩いていたが、それからすぐに呼び止められた。
《自分がなにか》
「お前、もしかしてプラネテューヌのハァドライン……B2AMのロボットじゃないか?」
「確かに。手配書にある機体の特徴そのまんまだ。脚部のキャタピラ、頭部の増設カメラ。重量級の機体。間違いないな」
ドバルは逃げ出そうとも考えたが、ここで自分が抵抗をしたところで何も解決しない。
《俺を拘束するなら、好きにするといい。だが、ラステイションの守護女神ブラックハートと話がしたい》
「わたしが何かしら? あなた達、ご苦労様。後は任せてちょうだい」
『はい!』
通報を受けて軍隊を動員したブラックハート、もといノワールその人が既に現場に到着していた。迅速な対応にプラネテューヌとは大違いだな、と他人事のように考えながらドバルはメモを差し出す。
「? なによこれ。ラブレターならいらないわよ」
《書いたことなどない。ラステイションの配送業者をリストアップしたものだ。そして、ラステイション防衛隊極東支部への配給が滞っているとの話も聞いている。これの対応を、国を治める女神の口から聞きたい》
「極東支部……ああ、噂には聞いたことあるわね。特殊な武器を使う人達が集まる場所でしょ。そうね、こちらからはまだなんとも言えない状態だわ。状況を把握しきれてないの」
《なら、早急に対応を求む。あそこに住んでいる人達はその日の食事もままならないのが現状だ。ゲイムギョウ界シェアトップのラステイション、その守護女神であるブラックハートの迅速な対応を期待する》
「そちらからの要求はそれだけかしら?」
《これだけだ。抵抗はしない》
「そ。おとなしくしてくれるのならそれに越したことはないわ」
予めエヌラスから聞いていたからか、配送を請け負うロボットに対する対応として強固な手錠が用意されていた。それに両腕を拘束されて、ドバルは護送車へと自ら乗り込む。
「それじゃ、後はお願いね」
「はい、お任せください!」
「……それにしても、やけにおとなしかったわね。本当にプラネテューヌのハァドラインなのかしら?」
ノワールが疑問符を浮かべながらも、ドバルから受け取った業者のリストに視線を落とす。ロボットの割には少々崩れた字体ではあるものの、しっかりと読める文体で書かれていた。その下に注釈として書き加えられているのは『ラステイション防衛隊極東支部への定期的な食料配給を請け負う業者がなければ自分が引き受ける』と付け足されている。
「……ふぅん、悪いロボットじゃないみたいね。ま、それはそれとしてもわたしはしっかりやることやらないといけないんだけど。って、あら?」
ノワールの視線の先。そこには、壁から様子をジッと窺うようにこちらを見ている白い毛玉のような生き物がいた。
「犬? じゃないわね。猫……でもないし、なにかしら、あの生き物……初めて見るわね」
近づこうとしたノワールが一歩踏み出した矢先に、その毛玉のような生き物はすさまじい速度で逃げてしまう。それに少しショックを受けながらノワールはすぐに踵を返した。
「ふ、ふん。まぁいいわよ。犬だか猫だか分からないふわふわの毛玉に逃げられたって……」
少し悔しそうにしながら。
――リーンボックス企業連盟。
武装企業と称されるアーマードカンパニア。そのCEOであるのは人間ではなくロボットだった。元はとある社長が有していた道楽の為のロボットであり、会社の宣伝の為に作られた――いわばプロパガンダ目的で製造されたものだという。しかし、当時の秘書であり補佐であった研究者の女性が戯れにと人工知能を付けたところ、会社の経営を引き受けるほどになった。結果として、そのロボットが今は企業を牛耳っている。
その機体は濃紺色で染められ、左肩にはエンブレム代わりに無数の白い星が赤い旗に描かれていた。
何世代も前に製造されているが、だからこそ独自の発展を遂げている。
《いいのかい、シロトラ? お前がやろうとしているのは、B2AMへの叛逆と謀叛だ》
《百も承知している》
《自分の古巣だろう?》
《……あそこに、私の居場所などない》
《何のための組織だったんだ》
《居場所のない、哀れな機械達の場所だ。知っているだろう、あいつ等の生い立ちは》
《まぁな。だがそれは俺達も似たようなもんだ》
両刃の剣を預け、用意された席に腰を下ろしているシロトラの前には、アーマードカンパニアの代表取締役が立っていた。今はアームドソウルスとしているが、彼にとっては古巣の名前の方が馴染みある。
《そも、俺達の確執はいつからだ》
《あの資源戦争だ》
B2AMのトップであり創設者であるシロトラ。そして、アームドソウルスの代表、プレジレントは武器を置いていた。
《……あー、オーケー。本気なのか、プラネテューヌを敵にして》
《俺は、アイツ等とは違う。この次元で造られた機体ではない。そんな俺にアイツ等は夢を見せてくれた、希望を与えてくれた。だが、その度に俺の心を苛むものがあった》
《そいつは?》
《圧倒的な違和感だ。あのプラネテューヌは、“俺の知っているプラネテューヌ”ではない》
《なら、商談は成立だ。俺達はお前を歓迎するぜ、盛大にな――ようこそ、シロトラ! 我がアームドソウルスへ! お前が俺達に力を貸す限りは、B2AMへの資金提供は約束する! 後悔するなよ》
プレジレントは手を叩き、シロトラへと差し出す。作業用マニュピレーターとは違う無骨な手を、シロトラの汎用型のマニュピレーターが握る。
《後悔などするのは、全てが終わってからだ》
《それは他人が決めることじゃないか、ハッハッハ! キャロリン、今日の夜の予定は!》
『お呼びですか、社長――それとキャロラインです、間違えないでください』
《まぁいいじゃないか。夜の予定はキャンセルだ、派手にやろーぜ! 歓迎会だ! ハッハッハァ!》