超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
最終的に二人とも変神状態を保てずに正面からの殴り合いを始め、肉弾戦ではエヌラスに分があったものの、大魔導師は拳闘術に交えた魔術で対抗。全身に青アザを作り、鼻骨は折れて頬は膨れ上がり、額は割れて、それでも殴り合いを続けていた。何が面白くて大魔導師は笑みを絶やさずにいたのか。一方のエヌラスはドラッグシガーから紫煙を燻らせながら必死になっていたというのに、相変わらず何を考えているか分からない超人である。
ボロボロになった二人は着替えもできずに、服までぼろ切れと化していた。
既に半裸の状態で歩き回っているエヌラスと大魔導師を見るたびにすれ違うメイド達が頬を赤くして目を逸らしている。
「ったく、一張羅が台無しだ。どーしてくれんだ、大魔導師テメェ」
「なら替えの服でも調達してやろう。面白かったしな、どつき合い」
「アンタと殴り合いなんぞもうゴメンだ」
「俺だって遠慮する」
「なんで薬取りに来ただけでこんな事になってんだっつーの、わけわかんねぇ」
エヌラスが一応、医務室に足を運ぶとそこではネプテューヌがスピカとカルネと一緒に医療箱を手にしていた。戦闘の収束に兆しが見えていた辺りから医療の準備を済ませる。
「あ、おかえりエヌラス!」
「はびゅん……」
「カルネ、しっかりしなさい。エヌラス様の半裸だけでなく大魔導師様の半裸まで見ただけで卒倒してはなりません」
「お前は鼻血垂れ流しながら言ってんじゃねえよ変態メイド長」
既に二名ほど役立たず。ネプテューヌの方はエヌラスに駆け寄っていた。
「うわ、全身傷だらけ……本当に大丈夫なの?」
「古傷だ。大魔導師との“喧嘩”で出来た怪我なんてのは――」
どれだ……。エヌラスは自分の身体を見て、思う。いや本当にどれなのかがわからない。つい数時間前まで全力で殴り合いをしていたのだから。それでも銀鍵守護器官から生成される魔力を自己治癒に回しているが、フル稼働していた影響から内蔵の方が悲鳴を上げていた。そのせいで外傷の治癒に回しているはずの魔力が内傷へ向かっている。
「……どれだろうな」
「もー、しょうがないなぁ。ほら、手当してあげるよ」
「ああ……悪い。大魔導師は」
「まさかとは思うが、心配しているのか」
「傷口に塩辛塗りこまれて悶てろ!」
「以前やったが腹が減るだけだった」
やったのか。大魔導師は軽く手を振って医務室に背を向けた。
「俺は着替えて公安局に出向いてくる。せっかくだからお前の服でも用意してやる」
「公安……っておい、まさかとは思うが」
「心配するな。特別製だ」
「そういう問題じゃあねぇ!!」
「いいから休め」
指先ひとつでエヌラスの身体を押し留めて、ベッドまで吹き飛ばした。
「そいつは任せたぞ」
「怪我を増やしているような……」
「それを治すためにお前たちがいるんだろう? じゃあな」
「えと、一応聞くけれども大魔導師は?」
「怪我なんて中々出来ないからな。貴重な経験だ、自分で治す」
「うわぁ、相変わらずぶっ飛んでる思考の持ち主だなぁ……」
エヌラスを見やると、ベッドに逆さまになって倒れている。
「……あの野郎、いつか絶対ぶっ飛ばす……」
呻くように言いながらエヌラスは指先ひとつ動かす気力すら起きなかった。
スピカとカルネがテキパキと傷口を消毒していく。ネプテューヌもエヌラスの身体を拭いている。
「なんだよ」
「男の人の裸見るの初めてだなぁって。触ってもいいかな?」
「好きにしろ。今は何もやる気起きん」
「今何でもって!」
カルネが頭を鷲掴みにされて壁に投げられた。右腕の魔術回路のせいで銀鍵守護器官がオーバーフローを起こす一歩手前にまでなっており、加減が出来ていない。ならどうするか。強制的に銀鍵守護器官の出力を落とすしかなかった。使い込まれた銀鍵守護器官の性能は一切の不備は見当たらない。だが、その無限精製の魔力に身体が蝕まれていた。
ペタペタと触るネプテューヌが感心したような声を漏らす。
「おぉ~、鍛えてるね」
「くすぐったい」
「それそれー。さわさわ~」
やけに距離感の近いネプテューヌに困惑しながらも、ダラダラと冷や汗を流すスピカの表情にエヌラスは訝しんだ。こいつ、なにか知っているんじゃないだろうか?
「スピカ」
「はい」
声だけは平静だが、果たして。
「お前、ネプテューヌに何かしたか」
「いえ、なにも?」
「今持病の「最高傑作のポンコツメイドの脳髄ぶちまけないと死ぬ病」を発症した」
「大変申し訳ございませんでした。冗談のつもりで本当に強烈媚薬を二日ほど前に盛りました、犯人は私です。ごめんなさい」
「うわぁ、今までにないくらい誠心誠意こもった謝罪だなテメェ。むしろぶん殴りたくなるわ」
というか本当に盛ってたのか。そう言われればなんとなくネプテューヌの顔が赤い気がする。
「で、特に治療法は?」
「そうですね。とりあえず今のところはいつもと変わりないようですので」
「普段から頭アッパラパーだもんな」
「もう、ひどいなぁエヌラスは。それに媚薬盛られてたって言われてもちょっと身体がポカポカするくらいでなんともないよ!」
えっへん、と胸を張るネプテューヌに手を伸ばして――むにっ。胸を鷲掴みにしてみた。
「ん、ひゃ!」
ビクンと身体を跳ねさせて驚くネプテューヌだったが、目を白黒させるだけで特に抵抗はしない。パーカーワンピの上からでも分かる程よい大きさの弾力にエヌラスは自分の手に視線を落とした。
「……びっくりさせないでよ、エヌラス」
「ああ、いや悪い……痛かったか?」
「えっと、ちょっと気持ちよかったかも」
「触られるのは嫌か」
「いきなりはやめて欲しいかな。びっくりするから」
「じゃあ、触ってもいいか」
「そこで即座に許可をもらおうとするのは流石エヌラス様、エロ魔王ですね」
サムズアップするカルネの親指をノーモーションでへし折る。激痛にうずくまっているポニテメイドは後ほど転がすとして、ネプテューヌはと言うと顔を赤らめて困惑していた。
「どうしようかなぁ……」
「ま、理性蒸発してないようならそれでいい」
「どーしてもって言うなら」
「どうしても」
「早っ!? ほ、ほらわたしなんかより付き合いの長いスピカとかカルネとかいるじゃん! それでもわたしの方がいいの……?」
「そこのポンコツ二人はなんかもう、一緒にいるだけで疲れる……」
この場における唯一の癒やし要素がネプテューヌしかいない。それがエヌラスの本音。
「んー、でもなぁ……どうしよっかなぁ……」
悩んでいたネプテューヌだったが、疲労困憊した表情を見て少しだけ胸元のジッパーを下ろした。それからエヌラスの頭を抱き寄せて、胸元に埋める。
「今はこれでいいかな?」
「……ん」
「お姉さんに甘えちゃいなさい、ぐりぐり~」
「すげーおちつく……」
――九龍アマルガムには思い出が多すぎる。長居はしたくない、一刻も早くゲイムギョウ界に戻ってアイエフに薬を渡さなければ……。それとブランに魔道書と、アイエフに土産、ユウコに頼まれたべまもん饅頭もだ。結局やらなきゃいけないことはひとつ片付いただけで、何も終わってなんかいない。
「エヌラス? おーい、エヌラスー」
「――すぅ」
「えっと、もしかして寝ちゃってる?」
「不眠不休で大魔導師と二日も殴り合いしていたので無理はないと思われますが」
「言われてみればそれもそっか。お疲れ様、エヌラス」
「えぐっ、えぐっ……だれかぁ、わたしの親指にもつっこんでぇ……」
鼻をすするカルネの親指はものの見事に爪が手の甲にくっついていた。