超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
それから一夜明けて。
「おはようバカ野郎」
「どぉわぁぁぁぁぁああああああ!!?!?」
九龍アマルガムの教会、その一室で爆睡していたエヌラスが部屋ごと粉砕されて、文字通り叩き起こされた。粉塵が廊下にまで舞い込む。その中で威風堂々と涼しい顔で立っているのが大魔導師であるのが心臓に悪い寝起きドッキリ、
「殺す気か!?」
「公安局から服を持ってきてやったというのに何を言っているんだお前」
(あー、思い出したくねぇ……そういやこの人、修行時代はこんなん毎日だったっけな)
ある日は、爆炎。
ある日は、雷刃。
ある日は、氷結。
とにかく属性を選ばない多種多様な目覚ましをしてくれる。心臓どころか寝起きで半殺しにしてくるような人だ。
「で、そのもう片方の手に持ってるブリーフケースはなんだ」
「ああ、このトランクか。どうでもいいがブリーフケースってパンツ入れてる容器みたいな名前だと思わないか?」
「心底どうでもいいわ!!」
無属性の衝撃波を逃げ場もなく叩きこまれた部屋の内装は一瞬にして劇的大惨事アフター。無理矢理空間を膨張させられたかのように四方にヒビが入っていた。
「お前が眠りこけている間に大抵のことはしておいたぞ。まず例のケモミミの中和剤の調合、溶液の調達もご苦労だった。サヤが後で肉をごちそうしてくれるらしいぞ、良かったな」
「気持ちだけで受け取っておくと伝えておいてくれ」
「冷蔵庫に入れておいた」
「いらねぇ!」
その冷蔵庫ですら今の衝撃で機能停止どころか粉砕されている。
「で、いつまでパンツ一枚でいるつもりだ?」
「だったら早く着替えよこせ大魔導師!」
「寝起きで元気な奴だな。いや、現金な奴といえばいいか?」
「人の寝込みを襲撃して永眠させようとするアンタよりはマシだ」
仕方ないといった様子でエヌラスに公安局の制服である「ハウンドスーツ」を手渡す大魔導師は、袖を通す姿を見ながら話し始めた。
「サイズは合ってるはずだが、着替えながらでいいから聞け」
「命令形かよ」
「脳内に直接語りかけてやろうか」
「SAN値下がる、やめろ」
「公安局の制服、ハウンドスーツに俺が直接手を加えた特別製だ。ティンダロススーツとシェパードスタイル、どっちがいいと思う?」
「どうでもいいわ」
名前に興味はない。だが、それが不服なのか大魔導師は顎に手をやると何か考え込んでいた。
「……シビュラスーツにしてやろうか」
「特別製ハウンドスーツでいい! 変な名前考えんな!」
「そうか。なら、そのハウンドスーツだが、通常よりも強靭な素材で一から編んだ」
「……ちょっとまて。アンタが全部一から?」
「? ああそうだが」
「一晩でこれを?」
「そうだが?」
「裁縫、出来たのか……」
「お前だって人形くらい作れるだろう。スピカとカルネを鑑定した時に自分で言っていたじゃないか」
顔に似合わない、とでも言いたいのだろう。エヌラスはズボンを穿いて、ベルトを探すが見当たらないのでそのまま白いシャツに袖を通す。ボタンを留めるのが面倒だと思っていたが、よくみるとジッパーが隠れるようについていた。
「ものぐさなお前の為に少しだけ仕掛けた」
「そりゃどうも。人の思考読むんじゃねぇよ」
ネクタイを締めようとして、手にした瞬間から素材に違和感を覚える。
「それは魔導式形状記憶合金繊維だ。流す魔力量によっては鉄でも切れる。こんな感じにな」
言いながら大魔導師がネクタイに魔力を流して一閃。瞬時に刃状になったネクタイが横たわる冷蔵庫を真空の刃で真っ二つにした。エヌラスの頬も掠めたが、知らん顔。隠し武器くらいにはなるだろう、と付け足してただの布にしか見えないネクタイを渡す大魔導師。
黒の上着には何か仕掛けが無いかと表と裏を注意深く観察する。よく見ると裏地にベストが縫い込まれていた。これは何かと視線で訴えかける。
「ドラッグシガーが手放せないと言っていただろう。だから胸のポケットだけは四次元空間にしておいた」
「空間魔術の応用で?」
「ああ。少し位相をズラしておいたからな、手を入れれば他のところからでも取り出せるぞ。……なんだその、人の顔をまるで怪物を見るような目で」
「普通に考えたら次元崩壊ものだっつうの……」
それを服に仕込む辺り、大魔導師は何を考えているのか分からない。ベストはただ単純に防御力の都合らしく、特に機能はないようだ。
「で、ベルトがねぇんだけど」
「その前に一つ。D-Phoneを返しておくぞ」
「ねぇと思ったらなんで持ってんだよ、人の携帯」
「色々必要だったからな」
画面を表示させると、見覚えのないアプリがインストールされている。
「公安の「シビュラの託言」とリンクさせておいた。ある程度の権限はそちらでも融通が効くようにしてある」
「何勝手に国家揺るがすシステムとリンクさせてんだアンタは!」
「まぁ聞け。コイツを使うためには必要なんだ」
トランクを開けると、そこには公安局刑事課で扱う新品の携帯犯罪者鎮圧執行プログラムが保管されていたが、エヌラスはそれに眉を寄せた。通常のものより色彩が違う。それに形状もより攻撃的になっている。
「大魔導師、これは?」
「お前専用に改造した脅威対象強制鎮圧執行プログラム『ドミネーション』だ。それとこれは専用のホルダーケースとベルト」
「あ、ああ……」
ベルトを通しながら、後腰にホルダーを留めた。なんでそんな高級品まで? そう視線で問いかけると大魔導師は頭を掻く。
「ああ、造ったのはいいが使える奴がいない。お前なら右腕の魔術回路を介して“電導”で電源を供給出来るだろう?」
「まぁ、そりゃあ……」
「モードは三つ。「鎮圧:パラライザー」「殺傷:エリミネート」「排除:デコンポーザー」――この辺は公安局が使用する正規品と同様だが、出力は桁違いだ。魔導電流によるものだから純粋に電力で動く向こうとは殺傷能力が違う」
「何のために俺にこんなもん渡すんだよ」
「俺の暇潰しに付き合った礼だ。それがどうした」
「……そりゃどうも」
ドミネーションを手にすると、エヌラスは軽く“電導”を回して起動させる。
《初回起動中……生体認証システム、解除。ユーザー登録完了。脅威対象強制鎮圧執行プログラム、問題なし。ドミネーション、起動。対象の捕捉までトリガーをロックします》
「音声案内も一応、用意しておいた」
「親切なこって」
感情の欠落した女性の電子音声。その銃口を大魔導師に向けてみる。
《脅威対象更新。オーバー900。排除対象です》
「あんたとんでもねぇな」
「…………」
《脅威対象更新。アンダー30。鎮圧対象外です》
「なんでいきなり下がった!? どうやって下げた!?」
「死霊秘法扱う俺が、魂を制御出来ないとでも思っているのか?」
「なんだろうなぁ、納得いかねぇ……」
システムですら欺くその魂のコントロールは禁忌とされている。大魔導師からすれば当然のことではあるが、それは常人が踏み入れてはならない領域だ。エヌラスはドミネーションが大魔導師には無力であることを確認してからグリップを上向きにして後腰のホルスターに収納する。黒い箱状のホルスターは自動で開閉し、ウエストポーチのような感じで収まっていた。これならば邪魔にもならないだろう。
「これが例の薬だ」
「何からなにまで悪いな」
「他になにか必要な物はあるか?」
「適当な初心者用の魔道書を二冊。それと、クトゥグアとイタクァのレプリカ品」
「なんだ、それなら秘蔵倉庫にあるぞ、勝手に持っていけ」
「なら好きに持ってくぞ」
「もう行くのか?」
「俺も先を急いでる」
「そのくせ俺と二日も殴り合いしたのか? アホかお前」
「アンタにだけは言われたくねぇよっ!!」
怒鳴りつけてからエヌラスは教会の秘蔵倉庫に向かった。ネプテューヌの姿を探すと、教会の正面エントランスに展示されている大魔導師の蒐集品を眺めている。
「あ、おはよー! 気分はどう?」
「上々。昨日はありがとな」
「それ新品のスーツ? これから就活でもするの?」
「今の仕事で手一杯だっつーの。ネプテューヌはこれからどうするんだ?」
「わたしはどうしようかなぁ。地下帝国にいても危ないし、地上の方もなんだか感じ悪いし、ユノスダスに戻ろうかな」
「ならちょうどよかった。俺も向こうに用がある、少し待っててもらえるか」
「うん、いいよー」
エヌラスは秘蔵倉庫から適当な魔導書を二冊引っ張りだして、それから大魔導師の使うクトゥグアとイタクァの二挺拳銃、その模造品も手にする。こちらはアイエフ用だ。元は自分が造ったもので、大魔導師に預けたものだがまだこうして残されていたことに少しだが感慨深いものがあった。感傷に浸るのも程々に切り上げる。
「ネプテューヌ。悪いな、待たせた」
「エヌラス! 見てコレ! ソファーになったりベッドになったりすごいよ!」
「テケリ・リ」
「しまいこめ今すぐ!!!」
オレンジ色のスライムのような名状しがたい一つ目がネプテューヌによってトランポリンにされていた。神性生物ですら無邪気に扱う昆虫ハンター、恐るべし。とはいえ害意はないのでこの教会でも割と放し飼いにされているその神性生物は床掃除の途中だったのか、廊下の汚れを拭き取りながら遠ざかっていく。