超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――ネプテューヌをユノスダスに送り届けてから、エヌラスは教会へと向かう。……の、だが何故か一緒についてきている。
「ネプテューヌ、なんだ?」
「え? どこに行くのかなーって」
「教会の直売所だよ。お使い頼まれてたんだ」
「そうなんだ。大変だね」
「しかも毎日売切れ続出の特産品だしな。ったく、そうまで言うなら自分で買いに行けって話だよな?」
「じゃあもう売り切れてたりして!」
「…………」
エヌラスはまさかそんなはずはないと思っていたが、案の定『本日販売分は終了しました』とデカデカと書かれた張り紙がべまモン饅頭の販売コーナーに貼られていた。
ユノスダスの教会は広大な敷地の学園、公務の場として通常は一般人の立ち入りは禁じられているのだがユウコはそこをあろうことか直売所として開放している。その為人がごった返しているので、はぐれないようにネプテューヌと改めて手を繋いでいた。
「ネプテューヌ、大丈夫か?」
「うん、大丈夫。ぷはぁ~、それにしてもやっぱりこっちは街の活気が違うね」
「ユウコがいなくてもこれだからな……」
「ここの国王さま? へー、どんな人なんだろ」
「俺にとっては天敵」
お使いを頼まれた身としては、ここで買って帰らないと向こうで何を言われるか分かったものじゃない。仕方ないのでユノスダスのギルドで金銭を稼いでいこうかと思っていたエヌラスだったが……。
「…………」
「? どうしたの?」
ユノスダスのギルド。その近くにあるカフェテリアに嫌な顔が二人ほど並んでいる。
片方は中肉中背のメガネを掛けた好青年。ホログラムキーボードとモニターを見比べながらなにかデータを打ち込んでいた。
そしてもう一人。いや、正確にはもう一機と呼ぶべきか。
「何してんだ、そこのメガネと護国の軍神」
「……人の事メガネ呼ばわりするな、顔面テロリスト」
《む。エヌラスか。久しぶりだな》
なぜ、こんな真っ昼間からユノスダスのカフェテリアに集まっているのか。その前に聞き捨てならい暴言にエヌラスが突っかかった。
「だーれが顔面テロリストだテメェこら」
「人の事毎回メガネ呼ばわりするやつに言われたくない。名前覚えてないのか、まったく」
《そちらの女性は?》
「浮気か、エヌラス。ま、君が痴情のもつれで背中から刺されても爆笑するだけなんだけど」
「うるせぇぞそこのテナガザルメガネ」
「えっと、初めまして。わたしはさすらいの昆虫ハンター、ネプテューヌ!」
「僕は電脳国家インタースカイ国王、琴霧ソラ。“一応”エヌラスの友人」
一応、という点を強調してソラは会釈する。
《俺は軍事国家アゴウ国王、アルシュベイト。機械の身体で失礼するぞ》
「よろしくね、アルシュベイト。中に誰か入ってるの?」
《その辺りは話すと長くなる。いずれ語ろう》
「で。こんな昼間っから野郎二人で何してんだ」
「別に。たまにはユノスダスで息抜きしようかと思って来ただけだよ」
《俺はユウコからの依頼で不在の間、ユノスダスの警備を請け負っている》
「お前国王だろ、アルシュベイト。そんなんでいいのか?」
《……俺が行かなければ、御姫が「わたしが行くぞ!」と言って聞かなくてな》
軍事国家アゴウの守護女神。その人の顔を同時に思い浮かべたのか、ソラとエヌラスが「うわぁ……」と声を漏らす。あの破天荒で、人の話を聞かない剛毅で豪胆な世間知らずの守護女神をユノスダスに? 祭りに子供を走らせるようなものだ。
「ソラから聞いたぞ、邪神討伐の大規模軍事演習してたって」
《うむ。とはいえ今のところは杞憂に終わっている。このまま平和が長引けばいいのだがな》
「だといいね。そっちはどうなんだい、エヌラス」
「メチャクチャ大変だっつうの。九龍アマルガムじゃ大魔導師と殴り合いしてきたしな」
「……命知らずだなぁ」
アルシュベイトが場所を譲り、ネプテューヌとエヌラスが腰を下ろす。
「向こうのゲイムギョウ界の話も聞きたいんだけど」
「あっちもこっちも行き来する俺の身にもなりやがれハゲメガネ」
「誰がハゲだ、凶悪犯罪者」
「凶悪犯罪なんてしてねーよ」
「大魔導師と殴り合いしてる時点でほとんど犯罪なんだけどな……」
「別になんのことはねーよ。ケモミミ生える薬で大迷惑してるくらいでな……」
沈み込むエヌラス。
「君、なんでこっちじゃ邪神退治とかしてたのに向こうでそんなくっそくだらない事件に難儀してるんだ」
「知らねぇよ……なんだよケモナールってバカじゃねぇの……ケモミミ最高すぎんだろ」
「エヌラス。煩悩だだ漏れてる」
「そんなん俺が欲しいくらいだっつうの……そうしたらケモミミ天国でモフモフするだけの一日過ごしたい……」
「あ、コイツとうとう本音言った!」
《ケモミミの御姫か。ノリノリで着けてくれそうではあるが、俺が仕事にならんな。悩ましい》
「大変そうだなぁ二人共」
他人事のようにネプテューヌは聞いているが、実際問題、それが国を傾けかねない事態になっているのがゲイムギョウ界の現状である。
「……そんなにキツイなら僕が手伝ってやろうか?」
「じゃあ丸投げするわ」
「前言撤回。ひとりでやってくれ」
熱い言葉のドッジボール。
「なぁ、ソラ。お前明日もユノスダスに滞在してるか?」
「うん? まぁ一応は。明日の昼には帰ろうと思ってるけれど?」
「ひとつ頼みごとがある。べまもん饅頭買っておいてくれ、明日受け取りに来るから」
「別にいいけれど。ちゃんとお金は返してくれよ?」
「ユウコから頼まれてたんだが売り切れでな」
《アゴウ印の帝都焼き饅頭はいらんのか》
「不謹慎饅頭はいらねぇ」
《美味いと好評発売中なんだが……》
しょげるアルシュベイトは置いといて、エヌラスはD-Phoneの電源を入れてネプギアに電話を掛ける。しばらくコール音が続き、五回目でようやく着信を執ってくれた。
『は、はい。ネプギアです……』
「俺だ。そっちの様子はどうだ? こっちはこれから帰る所――」
『えっ、あっはい!? これからですか!?』
――ドタドタドタガシャーン。うわぁ、お姉ちゃん大丈夫!? あ、ちょっとミリアサさん落ち着いてください!
(うわー、なんか後ろですげぇ騒いでる)
『え、えっとごめんなさいエヌラスさん! 今はちょっと……』
「なんかあったのか?」
『えーと、えーと、なにかあったというか、これから起こるというかなんと言いますか』
「――ネプギア」
『はい』
声を低く、感情を殺して突きつける。いたいけな少女の喉元に鋭利な凶器を押し付けるようにエヌラスは呟いた。
「正直に話せ。事と次第じゃ、どうなるかわからんぞ」
間違いなくコレは脅迫なのだが、受話器越しにネプギアの顔が青ざめる様子が手に取るように分かる。
『え、えっと……その……』
「お前はいい子だから、ちゃんと話してくれるよな? 悪い子だったらそりゃもう俺がどうなるかわからねぇぞ」
(エヌラスのこめかみに青筋浮かんでるんだけど、どうしたんだろ?)
(多分、苦労に見合わない結果が待ち受けているんじゃないかな?)
耳打ちするソラとネプテューヌを無視して、エヌラスは笑顔でキレていた。
『……ぐすっ、ええと。怒らないでくれますか?』
「もうキレてる」
『うわぁーん! お姉ちゃーん!』
『こらー、エヌラス! ネプギア泣いちゃったじゃんか! 何怒ってんのさ!』
「現状どうなってるか、答えろ」
『えー、と。…………うん! 今日もゲイムギョウ界は快晴だよ!』
エヌラスは無言で通話を切った。席を立つと、深く息を吐き出す。
「急用が出来たから、帰るわ」
「あーうんいってらっしゃいきをつけて」
《べまもん饅頭の件は引き受けた。元気でな》
「エヌラス。また会ったらよろしくね」
「ああ、それじゃな」
恐ろしく棒読みなソラと、会釈するアルシュベイト。そして手を振るネプテューヌに見送られてエヌラスはアダルトゲイムギョウ界を後にする。
「さて、と。それじゃわたしはユノスダスの観光でもしようかなー!」
《片手間で良ければ護衛も引き受けよう》
「悪いけれど僕はパス。もう少しゆっくりしていたいからね」
《だ、そうだ。すまないが俺と二人で歩くことになる》
「うん。別に全然構わないよー。ロボットだったら襲われる心配もないし」
《当然だ。俺は御姫一筋だからな、それ以外など眼中にない。それではな、ソラ》
「それじゃ。アルシュベイト」
去っていく二人の背中を見送って、ソラはひとりオープンカフェに残った。
「…………平和だなぁ」
そんなことをひとりごちながら。