超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
エヌラスが壊次元から超次元へと移動する、その次元の狭間。そこでは玉座に腰掛けて読書に勤しむセロンの姿があった。無言で通り過ぎようとするエヌラスに声を掛ける。
「今度は何だ、セロン! 先急いでんだよ!」
「そうか。なら手短に話そう。例の仮面を付けた邪神がまた超次元に現れた」
「それだけか」
「まぁ、それだけならよかったんだが。どうにも、仲間を増やしているらしい。騎士甲冑の邪神がいただろう? あれと同じようにな」
「今度はどこのどいつがアイツの仲間になったんだ」
「超次元の動物のようだが、そこまでは知らんさ。倒すのはお前の仕事だ」
「ああそうだよ! じゃあな!」
「何を怒ってるんだ、お前」
「馬鹿げた事件に頭悩ませてんだよ!」
エヌラスはそのまま肩を揺らしながら超次元へと戻っていった。
「……このページ、読んだな」
眉を寄せながら何度か巻数を確認するが、セロンは首を傾げる。
「…………読んだか? まぁいいか、最初から読もう」
――プラネテューヌを爆走するノーヘルのスーツ姿の男性。呼び止めようにも、その形相があまりにもアレなので誰も通報しようとはしなかった。教会の敷地前でハンティングホラーを自らの影に収納しながらダッシュで教会のエレベーターに駆け込む。
最上階。女神達の執務室へとエヌラスが到着した。その玄関ではユウコが箒を手に掃除をしていた。
「お。エヌラス、おかえりぃ」
「よう、ただいま」
「そのスーツどうしたの?」
「大魔導師が繕ってくれた。特別製のハウンドスーツだとさ」
「へー、どれどれ……うわ、めっちゃ触り心地良いなぁ。メチャクチャ高級品じゃない?」
「知らねぇよ」
「あ、そういえば、べまもん饅頭は?」
「急ぎで戻ってきたからユノスダスふらついてたソラとアルシュベイトに頼んできた」
「そっか」
「んで?」
「ん?」
通ろうとするエヌラスを妨害するかのようにユウコが道を塞いでいる。退けろ、と視線で訴えかけてもニコニコ笑うだけで退いてくれそうにない。
「退けろって」
「やー、ほら。今掃除中だし?」
「壁に穴開けてでも通るぞ」
「はーい一名様ごあんなーい」
ユウコが逃げようとしたので首根っこを捕まえて中に入る。
「……あ、エヌラスさん……おかえりなさい……」
「ただいま、ネプギア」
絶賛不機嫌なエヌラスに睨まれてネプギアが涙目になって震えていた。部屋の中を見渡す。だが、そこにネプテューヌもミリオンアーサーもいなかった。
「ネプテューヌとアーサーはどこ行った? チーカマ」
「……落ち着いて、聞いてほしいんだけど」
「ああ」
「お茶淹れるねー」
ユウコが早速お茶を用意して、テーブルを挟んで座る。
エヌラスは亭主関白よろしく腕を組んでいた。その手元には魔道書が二冊。加えてクトゥガとイタカのレプリカ品。いつでも撃てるように、目の前で弾丸を装填しておく。
「なんでそんなに怒ってるのよ」
「見て分からねぇか」
「……そこまで怒るようなこと、向こうで起きてたの?」
「大魔導師と二日も殴りあったんだ」
「――――――――」
その言葉に、ダラダラと冷や汗を流してネプギアが震えている。大魔導師、守護女神達を相手に互角に渡り合った神格者――それと二日間も殴り合い。その疲労と苦労は計り知れない、それも九龍アマルガムで。エヌラスがブチ切れるフラストレーションが役満どころか国士無双。
「あの、その……!」
「ネプギアはちょっと話せる状態じゃないな。チーカマ、話せ。俺がいなかったこの二日でどうなった」
「はぁ……まず、貴方がいなくなったその日からだけどB2AMは既にケモナール量産体制に入ってたわ。その為にプラネテューヌのギルドからモンスター討伐のクエストを片っ端から受注。それに気づいたネプギアが対応しようとしたんだけど」
「えっと、トライアドに負けちゃいました……」
「あの変人集団にか」
「はい……守護女神としての活躍は全部記憶されてたみたいで、それで……グスッ」
「それはもういい。続きは」
「…………」
「…………」
そこからすっかり押し黙った二人の前で、撃鉄を起こすとビクリと身体を震わせた。それにはさしものユウコもストップサインを出す。
「さすがにそれはやり過ぎ。いたいけな少女たち泣かせてどうする気?」
「ユウコ。ならお前が言え、何が、どうなってる? ネプテューヌとアーサーはどうした」
「…………えー、と」
ものすごく言いにくそうにしていた。なんと切り出すべきか思い悩んでいるようで、ユウコは苦肉の策としてチラシを差し出す。エヌラスがそれに視線を落として読み上げる。
「……新時代の萌えエナジー、付け耳の時代終了のお知らせ。これで貴方も愛しのアイツをメロメロに。ケモナール…………」
「…………」
「……ケモナールのチラシか」
「う、うん……」
「――で?」
ガチャッ。エヌラスがとうとうレプリカ品を手にして立ち上がった。その銃口が向く先は、ネプテューヌが宝物にしているゲーム機に向けられている。
「それがココにあるってことはなにか? あの野郎まさか「うっひょーいこれでわたしもケモミミになってエヌラスメロメロだぁー!」とか言って飲んだんじゃねぇだろうなぁ!!」
「…………」
「アーサーの姿が見えねぇってことはなにか!? アイツもか!?」
「…………」
「だぁぁぁぁぁぁッ!!」
バガァンッ!
エヌラスの拳がテーブルを真っ二つにへし折った。
「ひぅ!?」
「ヒィッ!」
「俺が、何のためにここまで苦労した!? 誰の為にこうまでしてやってんだ!? アイエフのケモミミ治す為の材料探し回った結果がコレか!? 俺をバカにしてんのかッ!」
「あの、でもお姉ちゃんは……エヌラスさんが喜ぶと思って」
「喜ばねぇよ! 誰がそんなんで喜ぶと思ってんだバカか! タイミング考えろあの野郎!」
「ご、ごめんなさいごめんなさい! 謝りますからこれ以上はやめてください!」
「そうよ、ここで暴れても何も解決しないわよ!?」
「じゃあ俺にどうしろってんだテメェらッ! ルウィーに行って、帰りがてら襲撃されて、しかも九龍アマルガムで大魔導師と二日も殴り合いして、やっとの思いで帰ってきたらコレかよ! 俺の苦労は何なんだよ! っていうかプルルートもいねぇな、どこ行った!!」
「寝てます」
なら良し!
「落ち着きなよ、エヌラス。いや、まぁそこまでしてきた結果がコレだったら私もブチ切れるけどさ。今のお前の前にネプちゃん達が姿見せると思う?」
「今生の別れになること間違いねぇな」
「ほら見ろ。そんなんだったら出てこないよ」
「だったら俺にも考えがある……アイエフ連れて来い、今すぐ!」
「えっ。アイエフさんをどうするつもりですか」
「渡すもん渡したら出てく」
「で、出て行くって!? これからどうするつもり」
エヌラスは深く息を吐いて、こめかみを押さえた。もうこれ以上我慢していられるか。
「ネプテューヌがその気なら、もういい。俺のやり方でやらせてもらう。こっちの常識なんか知るか。これ以上こんなアホな事件に付き合ってたら俺の方がどうにかなっちまうからな」
「えと……じゃあ、アイエフさん呼んできますね」
「じゃあお前、これから先どうすんの? 私の頼んだべまもん饅頭は?」
「テメェで取りに行け。自分の国の特産品だろうが」
「むぐぅ……私も国を預かる立場だしなぁ、一旦戻ってみないといけないかー……」
ネプギアがアイエフを呼んで連れてくると、フードを被っていた。しかし、エヌラスの顔を見ると少しだけ嬉しそうな表情を見せる。
「戻ってきたのね。まぁ、さっきの怒鳴り声聞こえてたんだけど」
「ほらよ。まずケモナールの中和剤」
「……、ほんとに持ってくるとは思ってなかったわ。これでケモミミともおさらばね」
尻尾を左右に振って喜ぶアイエフの姿に名残惜しく、口惜しさもあるが、もっと言うならそのままでいてほしいが――本音を噛み殺して飲み下す。失礼とは分かっているようだが、匂いを嗅がずにはいられないらしい。大魔導師がゲロとまで評したケモナール、その中和剤が美味しいはずがないと思っている。エヌラスも正直そう考えていた。
アイエフが意を決して一気に飲み干す。
「ぅぅ……――あら、思ったよりスッキリした味」
「そうなんですか?」
「それで、これ一体いつ効果出るのかしら……」
「さぁ? 大魔導師が造ったからには間違いないだろうけどな。あと、アイエフ。手を出してくれ」
「? はい、これでいいの」
アイエフが差し出した右手に、深紅の自動式拳銃を魔術で分解する。魔力に変換してそれの持つ属性である炎を指先に纏わせてアイエフの掌に押しつけた。
「熱っ……く、ない……?」
口刔を結びながら紋章を刻むとすぐに消える。アイエフが眉を寄せながら掌と甲を見比べるものの、いつもと変わりはない。
「次、左手」
「はい」
左手にも同様に、エヌラスは紋章を刻んだ。
「魔力を流せば顕現するように仕込んでおいたから、後は自分で勝手を掴んでくれ。こればっかりは口で教えても仕方ない」
「そう。でも、ありがと」
「あとこれ魔道書。簡単な奴だけど、それなりに力はあるから使い方次第だ」
「いいの? これ、高そうだけど」
大魔導師の秘蔵倉庫の片隅で埃を被っていたものだし、当人にも必要のないものなので値段は気にしたことがない。
「いいから持ってろ。お前の為に持ってきたんだから」
「……ありがと」
そっぽを向きながら頬を赤くするアイエフに渡すものを渡したのでエヌラスはこれ以上教会にいる理由がなくなった。もう一冊の魔道書はブランへの礼だ。懐にしまっておく。
「えっと、お姉ちゃんのケモミミとか見ないんですか?」
「教会を廃墟にしていいなら、姿を見せてみろ」
「ごめんなさい! 本当にごめんなさい! お姉ちゃん悪気はないんです!」
「だからそれがなおさらタチ悪いんだよぉッ! もういい、イストワールは何処だ!」
「イストワール様なら、下で仕事してると思うけれど」
「ああそうかい。ありがとよ、アイエフ」
エヌラスはそのまま教会を後にした。
「……だから言ったのに。エヌラスがほんっとうに怒るからそんな試供品のケモナールなんて貰うなって」
「実際、こっちでも情報はいくつか掴んでるのよね。そのケモナールに興味本位で手を出したプラネテューヌ市民が多数確認されているって。ケモミミ生えるくらいならって軽い気持ちでね」
「でも今はそれだけなんですよね。ケモミミ生えるだけで……それをお姉ちゃんにっていうのはもう計画の目的を達成しているような気がしますけど」
言われてみればそれもそうだ。
「そもそも。アーサーが街で配られていたケモナールの試供品を持ってきたのが間違いなのよ、エヌラスが帰ってきたらどうなるかくらいわかるのに」
「エヌラスさん……どうするんだろう」
「うーん、アイツのあの様子だと大体予想つくなぁ」
「えっ?」
「エヌラスの性格だよ? そりゃあ――」