超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――セイン達がラステイションの国境付近まで移動を果たしていた頃、既に移動要塞は強襲されていた。通信機能が初撃でECMと同様の効果をもたらし、オペレーターからの通信不備をトライアドはいつもの通信不良だと。
しかし、その異変を感じ取ったのはセインだけだ。いつものノイズではない、何かを感じ取ったのか。突然、足を止める。
《どうした、セイン》
《ちっひー達と通信が繋がらない》
《いつものことじゃないのか》
《いや違う》
断言した。
《いつものノイズと周波数が違う。キーが違うし、ノイズの密度が濃すぎる》
《お前……》
《シュラ。本部と通信だ。可能な限り通信機能の回復に務めてくれ》
《あーうん、はいわかりました。すいません、ちょっと待って》
《ちみらほんとに大変なんだな……》
アスラが砕けた調子で心の底から同情するような口ぶりでシュラの肩を叩く。
《おーい、シャニ。どうした、突然塞ぎこんで》
《……特務隊時代を思い出して死にそうなんだ。ちょっと待ってくれ》
《お前ホント駄目なときはダメだなシャニ。胃薬飲むか?》
《飲めるかぁ!》
アスラからの気遣いにシャニは本気で怒った。
《通信機能回復。どうにも、向こうの方で不調のようだ》
《そのようだ。こちらセイン、聞こえるかオペレーター》
《なぁ、きみらんとこの隊長ほんとうにオンオフ切り替え早すぎないか。付き合いきれない》
『慣れてくれ』
『慣れたくないし、近寄りがたい』
トライアドメンバーからの意見に特務隊は即刻拒絶の意思を表明した。
《というか、よくノイズ聞き分けられたな》
《暇な時は繋がらない通信回線開いてノイズ聞いてるしな。割と暗い室内だと狂気的》
《見たくない》
《見慣れない》
SAN値直葬ものの光景だというのに突然薄気味悪い笑い声まで聞こえてきた日には、付き合の長いディルですら逃げ出そうと考えるくらいには。
『――こ――オペ――――』
《……チヒロ?》
『――ザッ――本部……――――こち、らオペレーター』
《こちらトライアド班長、セイン。チヒロ、どうした》
『こちらB2AM本部、オペレーターチヒロです! 現在、本部が強襲を受けています!』
その切羽詰まった言葉に、セイン達は言葉を失った。
『既に要塞の機能は半数が停止、侵入を許しています。現在は残存メンバーで対応に当たっていますが――!』
《チヒロ?》
背後からのノイズで音が割れる。それは爆発、そして衝撃に呻くチヒロ達の声。
『通信機能が不調ですが、繋がってよかった』
《……、チヒロ。そちらは大丈夫なのか》
『分かりません……』
『現在、メンバーが応戦していますが、ゴウが戦闘不能。バズとツキカゲ、レオルド。ジブラとロゼも現在交戦中』
《控えの第三部隊はどうした!》
『本部へ帰投命令は出していますが、いつになるかは分かりません。トライアドは作戦を――』
《いいや。帰還する》
セインは短く答えて通信を切る。
《なにをバカなことを!》
《なぜ我々の本部がこのタイミングで襲撃を受けている》
《分からんさ。分からんが――どうする“部隊長”》
戸惑う特務隊を尻目に、ディルはセインに采配を委ねた。ケモナールとモンスターの誘引剤を手にして迷っていたようだが意を決したように顔を上げた。
《……本部に戻るぞ!》
《正気か貴様!? ケモナールでブラックハートを……》
《薬はいくらでも作れる! だが仲間の命は作れん! 今こうしてる間にも危機に陥っている》
《ドバルの救出作戦は》
《お前に委任する、シャニ!》
《だが》
《ええいうるさい! こんなものがあるから!》
セインは地面に薬剤を叩きつける。パリンと小気味良い音を立ててあっさりと砕け散った。それに言葉を失っている間にセインは道を引き返している。
《仕方ない、作戦は続行だ。俺が作戦指揮を執る》
《分かった》
《いや、待ってくれシャニ》
《なんだ》
《周囲からモンスターの反応が多数接近中だ……いや、まだ増大中!》
《なんだと!? なぜこうも突然――》
全員が足元で割れている薬品のラベル表記に目を落とす。
『モンスター誘引剤。超危険☆』
――あンのやろぉぉぉぉおおおおおッ!!! トライアドと特務隊の絶叫がラステイションに響き渡る。
《話の流れ的に今のはケモナールだろう!? おかしいだろうあの野郎!!》
《無駄口叩くな! 来ているぞ!》
《うおおおおぉぉぉっ!? なんだこの数!? いくらなんでも多すぎる!》
《生きて帰ったら絶対にあの野郎ぶっ飛ばしてやる!!》
《その為には》
全員が顔を見合わせて頷く。今はトライアドとか特務隊とか、過去のいざこざは全部水に流して最優先事項として生き残ることだ。
2MAD内部で起きていた戦闘は、既に半数が沈黙。装甲の薄いツキカゲとバズはパラライザーモードによって機能を停止していた。狙撃部門のジブラも右腕のジョイントを破壊されて沈んでいる。重量型のロゼには試験型の光学障壁発生装置があるからか、エヌラスは手間取っていた。パラライザーモードで沈黙させるにも、分厚い装甲の隙間を狙っても一時的に行動が鈍くなるだけで機能停止には至らない。
《なんでだー》
大口径ガトリングを連射しながらロゼが尋ねる。エヌラスは遮蔽物に身を隠した。
《なんでーこんなことにー》
遮蔽物から躍り出たエヌラスの手には深紅の自動式拳銃、白銀の回転式拳銃が握られている。視界を焼くマズルフラッシュが重なりながらロゼの光学障壁発生装置の残量を減らしていく。その影からレオルドが二挺のサブマシンガンを連射するが、エヌラスは突っ切って蹴り飛ばした。
ロゼの上空を飛び越える形となり、掌を頭部に当てると右手から紫電が迸り――ロゼがシステムダウン。その場に着陸して動かぬ彫像と化した。
銃火器に晒されたエヌラスの身体は裂傷だらけになっている。自己治癒に回す魔力を攻撃用に回しているせいで再生が遅い。だがエヌラスにとって怪我なんてものは日常茶飯事だ。
「残るはお前だけか、レオルド」
《――――》
「ならちょうどいい。こいつらをさっさと外に運び出しとけ」
《えっ……》
「言ったろう。俺は本部を叩きに来たって。潰しに来た、だからお前たちが組織としての体裁を保てなくなるようになればいい。それで最悪死人がでても知らねぇがな」
《俺は、エヌラスさんが悪い人じゃないって思ってました……でも》
「俺だってテメェらがここまでバカだとは思わなかったよ! ネプテューヌもな! 顔見知りだから見逃してやろうかと考えてたがな!」
《わ、わわっ!?》
レオルドのグレートソードを偃月刀で受けながら、エヌラスは捌いた直後に肘を入れる。生身の攻撃で衝撃を受け、体勢が崩れるほどやわなロボットではない。だが魔術で身体強化をしているエヌラスの攻撃は並のロボットよりも馬鹿力だ。やぶれかぶれの拳を掴みとり、二人が手を握りしめながら拮抗する。
「いい加減、呆れてものも言えねぇ!」
《エヌラスさ――!》
「テメェの大事なお仲間、ひとり残らず海の藻屑にされたくなけりゃあ今すぐこいつら外に運び出しとけ。分かったかッ!」
頭突きがレオルドの頭部ユニットを損傷させた。だが、エヌラスの額も同様に割れている。言うことやることなすこと、全部犯罪行為を地で行く。怒りで頭が沸騰しているものの冷静な部分が残っているようだ。
本部を破壊して組織の機能を停止させる。その過程で何人の犠牲が出ようと知ったことではないが、極力犠牲者だけは減らそうとしていた。だがエヌラスは本気でキレている。今、変神すれば間違いなく“プラネテューヌに被害が及ぶ”ことを理解している。
レオルドを殴り飛ばして、エヌラスは駈け出していた。
2MADに残存していたメンバーの大半は既に沈黙している。エヌラスは堂々と勝手知ったる人の庭を走っていた。壁の四隅を走る動力パイプを辿りながら、途中で何枚か壁を壊しつつ動力炉を探す。その途中で、格納庫らしき場所に入った。
エヌラスの手は素早くドミネーションを抜き取り、そこで機材を詰め込んだ木箱に腰掛けていた筋骨隆々な整備士に向ける。この騒動の主が自分であることは言うまでもなかったし、こんな状況だ。
「待ってくれ、俺は戦闘員じゃない」
「見りゃ分かる。死にたくなけりゃさっさとここを後にするか、動力炉の場所を教えてくれ」
「悪いが後者は無理な相談。自前でどうにか見つけてくれ」
両手を上げて立ち上がる整備士はそのまま格納庫を後にする。
「あー。ここぶっ壊すって言うなら、職業サポートでアフターケアも頼めるかい? 俺も中々食い扶持繋ぐのも大変なんだわ」
「そういうのはプラネテューヌで直接探してくれ」
「敬老の念が足りてねーなぁ、最近の若いもんは」
後手を振りながらその整備士は去っていった。エヌラスはそのまま壁面に風穴を開けながら動力炉までの道を一直線に繋いでいく。
2MADを動かす為の動力であるベースとなるコア。その動力源に辿り着いたエヌラスは、中心で電気制御されている発光体に目を向ける。球体だが、実体があるのかないのか分からない。恐らくはレオルド達が使っている環境汚染物質と同様の物質だ。
何一つ感慨もなく、エヌラスはただ無感動に右手のドミネーションを向ける。それと平行して左手には螺旋砲塔を構えた。
《脅威判定更新。デコンポーザー・モード起動》
「ああ……まったく。俺の内蔵、煮崩れねぇよなぁ……!」
その日、二発目の螺旋砲塔が2MADの動力炉を破壊して蹂躙する。