※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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エピソード112 絶望の虚空に空いた胸の穴

 ――2MADの管制室では、ベースコアが破壊されて沈黙した移動要塞を補助動力に切り替えて復旧を試みているオペレーターが二人、残っていた。だが、既に一基の補助動力が脚部ごと喪失している。稼働は絶望的だった。

 

《チヒロさん、ヨルドさん! こちらレオルドです! 機能停止した皆はカタパルトで離脱させました!》

「よくやったわ」

《お二人も早く離脱を!》

「そう長くは保ちませんね……ヨルドさん、私達も早く脱出しましょう」

「その前に、バックアップデータを確保しておかないと!」

 要塞が軋んだ音をあげる。それはまるで、2MADの悲鳴にも似た崩壊。徐々に傾きつつある船内に、ヨルドが歯噛みする。早く、早くデータのバックアップを外部メモリに移動させなければ……!

 

《――――こちらセイン、聞こえるか!》

「セイン!? 貴方どうして!」

《戻ってくる、とそう言ったはずだがな》

「それにしたって、こんなに早くどうやって」

《ベルスクに配置してあるカタパルト。無断で方向を変えたのは後で反省文でも書いておく!》

 そういうことか――ルウィー国境付近に配置された北方拠点、そこからカタパルトで射出。ショートカットを使ったということらしい。

 

《もうじき到着する! そちらの様子はどうだ!》

《既に残存メンバーは離脱完了っす! 後は俺と、オペレーターの二人だけです!》

《ならば後は引き受ける。レオルドは離脱しろ!》

《でも》

《いいから早くしろドベンチャラン!》

《こんな状況下でも新しいアダ名出すとかマジで頭おかしいよアンタ! 後は任せるっすよ!》

 レオルドも外部への脱出用カタパルトを使用して離脱。残るはオペレーターの二人となった。

 

《何故離脱しない、二人とも》

「こちらも急いでいるんです、だけど」

「組織のバックアップデータを外部メモリに」

《そんなもの捨てて早く逃げろ! 死にたいのか!》

「だけどこれは――!」

 言っている間にもベースコアに送り込まれるはずのエネルギーが暴発してモニターが火花を散らす。天井も小さな亀裂が走っていた。

 

「今、半分まで行ったところよ」

《言っている間に俺も到着したところだ。まったくやれやれだ、酷い有様だな》

 管制室の扉に剣閃が走ったと思った次の瞬間、蹴破られる。セインがジリオスを背中にマウントすると、無理矢理外部メモリを引き抜いた。

 

「ちょっと、何をするのよ!? それには今後組織の」

《今は逃げるのが先決だ。データなんぞ後でも良い!》

「データなんかって、貴方ね……! 分かってるの? これは立派な反逆行為よ」

《分かっている。だがそれで、二人の命を危険に晒すわけにはいかない》

 後ろ盾を捨ててでも逃げる。ヨルドとチヒロの二人を小脇に抱えて、セインは急激に傾く艦内の壁を蹴ってカタパルトに着地するなり離脱した。

 

 

 崖上に辛うじて届きそうな距離を、チャージングシステムを起動させて落下を慣性制御しながらどうにか着陸すると二人を降ろす。

 

「グラさんは?」

《問題ない。レオルドと一緒にいるようだ》

 残存メンバーの状態は、揃って大破。機能停止。完全沈黙。あれでは設備を整えない限りは再稼働は出来ないだろう。セインがオペレーターの二人の無事を確認して安堵した、だが次の瞬間には光学突撃銃を構えている。

 その矛先には、黒衣の旧神が立っていた。紫煙を漂わせながら、優雅に煙草を吸っている。

 

《チヒロ、ヨルド。レオルドの元まで走れ》

「え? でも」

《早くしろ。俺を気にするな。惚れるぞ》

「……勝手に死んでてください」

《あふん、ヒンドゥー》

 気遣うだけ徒労に終わるのは嫌というほど学んでいるチヒロは冷たく言い放つとヨルドと共にレオルドがいる崖下まで走り始めた。

 目の座ったエヌラスは、ドラッグシガーをのんびりと吸いながらセインを睨んでいる。

 

「……もういいのか」

《ああ。彼女たちは十分に離れたよ》

 右手に突撃銃を構えながら、左手にはジリオス。奇しくも、正反対の構えに思わず鼻で笑ってしまう。

 

《まさかお前だとは思わなかったよ、ソウル・ブラザー》

「俺もテメェ等がそこまで本気で正真正銘救いようがないほどのバカだとは思わなかったよソウル・ブラザー。冗談抜かしてるとマジで消滅させるぞ」

《だが、感謝するべきかな》

「――なに?」

 自分たちの本部を潰されておきながら、感謝? とうとう本気で頭がイカレたのだろうか? 通信機能をカットして、セインはエヌラスにだけ向けた指向性の電子音声で語る。

 

《B2AMは今回の一件で、悪事が明るみに出る。可能な限り他国への侵害を共にしてモンスターを集合させる誘引剤の開発。そしてプラネテューヌのケモミミ化は留まることを知らない、俺は治療薬の調合などしていないからな》

「……テメェ」

《組織の経営難と重なれば、シロトラの失脚は免れない。あの方が本部を空けていてくれて助かった》

 明らかな反逆行為。

 

《特務隊、並びに特務班のトライアドがモンスターの集合地点に取り残されていれば当然、事態の収拾に動き出す守護女神達が放っておくはずがない。確保、拘束されるだろう。そうすれば我々の戦力は削られることとなる》

 この、頭のイカレた変態ロボットが何を考えているのか。

 今、こうして話している間にもトライアドは無数のモンスター達に囲まれながら鎬を削っている。そこにブラックハート、ホワイトハートも集まれば――。

 

「……仲間じゃねぇのか」

《友達だ。無二の戦友達だ。だからこそ生き残ると信じている》

「テメェの掌の上でか」

《必要なことだった。そして、まさかこのタイミングで本部を壊滅させてくれるとは思わなかった。重ねて感謝する、エヌラス》

「なにが目的だ」

《……いずれ来たる女神信仰の代理戦争。それは、ハァドラインが存在しなければ成立し得ないものだ。だからどれかが欠落しなければならない。ラステイション、リーンボックス間のアームドソウルスは合併し、一つとなった。なら、脆弱な我々に何が出来る? 戦ったところでプラネテューヌに被害が及ぶだけだ》

「だから――」

 

《そう。だから私は、俺はB2AMを壊滅させようとしていた。モンスターの誘引剤程度、朝飯前だ。それをあれやこれやと失敗作続きにしたのもその為だ》

 他国にそれを撒いたとしても、真っ先に疑われるのは守護女神だ。

 

「ケモナールは」

《割と本気で見たかったが、予算を食い潰す為には好都合な提案だった》

「……ギルドのモンスター退治は!」

《宣伝だ。俺達の目論見が明るみに出れば動き出すと踏んだ》

 ――エヌラスはドラッグシガーを携帯灰皿に落とし込み、胸ポケットにしまう。

 

「なら量産体制なんて整えやがったのは、それに拍車をかけるためか!」

《予算の都合なんて下っ端は知らないからな。そもそもパープルハート様のケモミミが見たければ、俺が出れば済む話だ》

 どこまでも計算尽くだった。

 

「いつからだ」

《俺がB2AMの計画を知ってからだ。いずれ潰すと決めていた。だが、お前を利用するつもりはなかった》

 特務隊から追放されたあの日――全てを知った自分の監視役にトライアドが選ばれたのはかえって好都合だった。その中に自分のライバルであり親友であるディルがいたことも。それでも、誰一人として信用しなかった。表向きは頭のイカレた変態として振る舞いながら――まぁ正直楽しかったけど。

 

《代理戦争など、起こさせるものか。プラネテューヌはいつまでもゆるく賑やかな、平和でなければならない。女神パープルハート様がそれを望むようにな》

「……狂ってるよ、お前」

《HAHAHA! 狂信者ですから》

 だが――それを言ったら、自分もとっくに狂ってる。

 

「ムカつく……ああ腹立つ!」

《だろうな》

「そうじゃねぇよ!! そんなんじゃねぇ、テメェの掌の上で踊らされていた? そんなんはどうでも、いいんだよ俺にとっちゃあ!」

《……?》

 叩きつけるように叫ぶ。誰にも話さなかった。言えなかった。

 

「お前はいいよな……そうやって馬鹿やって、友達と一緒に笑って! そんな毎日が当たり前で!!」

 

 ――肩を並べて歩いた友人がいた。口悪いくせに、人を放っておけないお人好しが。

 

「そんな風に、自分のやりたいことだけやってりゃあいいんだから!」

 

 ――共に刃を交わした最高の好敵手がいる。生身の身体を捨てて、国の為に尽力する鬼神が。

 

「俺が、俺が――それを、どれだけ恋い焦がれて、求めて止まないのか!! 知るわけねぇよな、そうだよな、当たり前だッ! 嗚呼そうだよ、これはタダの八つ当たりだ! みっともねぇだろ、知ってんだよォッ!!」

 

 ――憎まれ口を叩き合う、騎士がいた。夢を求めて語り合う頑固者が。

 

 師と仰いだ人がいる。不倶戴天の仇敵がいる。世話好きで口やかましくて、態度ばかりデカイ国王がいる。自由奔放でぐぅたらな吸血鬼がいる。

 そんな彼らの日常(まいにち)が約束されない世界がある。誰も悪くない。約束されているのは、世界の破滅と崩壊だけ。それを乗り越える救済措置の戦争――塔争。

 

「ムカつくんだよ、テメェッ!!! 俺が欲しいものは全部持ってるくせに!」

 そんな風に笑って、バカやって、肩を叩きながら軽口を叩く。そんな、当たり前の日常を見せつけられて、耐えられるはずがない。

 

 涙は枯れ果てた。自分に泣く資格はない。助けを乞う資格もない。ひたすらに孤独であり続けなければならない。

 殺した――生かして、殺す。自分の勝手な都合で。救われなきゃならないのだから、彼らに悲劇などあってはならないのだから――自分が生き残らなければならない。次元神セロンとの制約にして契約。

 

 自分以外の誰かがセロンに到達すれば、自分は赦されない。自己満足のエゴだけで、生殺与奪される権利など誰にもない。

 

「俺が守りたい人達に手を出して、迷惑掛けて、それでも悪戯だって笑いやがって! それが許されて! 俺がどれだけ苦労してると思ってやがるッ!」

 涙は出ない。こんなにも叫んでいるのに。

 自分に許されるのは、彼らを殺した数だけ血を流すこと。自分は救われてはならない。報われてはならない。

 絶望の魔人であるが故に。世界はそんなバッドエンドを望んでいないから。

 

「なぁ、セイン……教えてくれ。答えてくれ」

《――――――――》

「俺は……あと、何回――“友達を殺せば救われる”んだ」

 赤い双眸に睨まれて、直視してセインは直感した。

 “アレは守護女神の敵だ”と。

 

「殺したさ。ああ殺したよ。手段なんか選べねぇ。しょうがねぇよな……俺は、負けられないんだ。闇討ちだろうが不意打ちだろうが何だろうが、勝たなきゃならないんだよ」

 アルシュベイトを背後から斬った。ソラの背中を撃ち抜いた。大魔導師を、クロックサイコを、ムルフェストを。――――ユウコさえも、その手に掛けた。それでもまだ、世界は救われないまま。だから負けられない。耐え切れなかった。悪いのは自分なのに、彼ら彼女らが殺される理由はない。

 次元神セロンは無感情に聞き入れた。元より変わらない結末に心折れないエヌラスを眺めていた管理者は、その願いを聞き入れたのだ。

 邪神と戦い続けること。

 

 エヌラスの拳は既に爪が食い込んで血が滴り落ちている。だが、その異常な出血量にセインが一歩、後退った。

 

「俺が、邪神と戦い続けた歳月は“今回”だけで十年だ……」

 超次元でネプテューヌ達が過ごした時間は、二年――だが。

 

「友達殺し続けて、積もりに積もってもう六十年近い」

 時間軸の狂った壊次元では、時間ですら歪んでいる。常人であれば、生まれてから老いるまでひたすら人を殺し続けている歳月だ。それを記憶しているのは、そんなものを観測し続けているセロンがいるからであり、彼の口から直接聞いている。

 お前はこの五十年、よくも友達を殺して飽きないな――そんな言葉に、無感情に呟く言葉。

 

 ――コンティニューだ。エヌラスは繰り返していた。

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