超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
いい加減曖昧になっている。自分が友人を生かすために殺しているのか、殺すために生かしているのか。夢なのか現実なのか。その境界すら分からない。
《そうまでして……何がしたい》
「救いたい。そいつらを誰一人欠けることなく」
《矛盾している》
鼻で笑う。矛盾などしていない。彼らは何も知らないままでいい。だからこそ救われる。だから、救われなきゃいけない。彼らの平和が脅かされないように。
次元神セロンに。或いは自分に。
「……何も知らない方が、幸せなんだぜ…………」
知ってしまえば引き返せなくなる。とっくに心は摩耗して、精神は擦り切れている。膝を崩して、地に倒れ、そのまま横になって動かなければ楽だった。諦めてしまえば、もっと上手く生きることが出来た、違う未来を手にしていた。だが知ってしまったのだ――次元神セロンの背後に潜む邪悪の群れを。
《そうだろうな。俺も、お前のそんな過去は知りたくなかった。そのうえで謝罪しよう、エヌラス。すまなかった。だが――それを話すべき相手は俺ではないのではないか?》
ああそうだとも。お前が正しい、セイン。それもそうだ。
《もっと身近な人に腹を割って話せばいいだろうに》
話せないんだ。これだけは、こればっかりは。打ち明けるわけにはいかない。そんなことをすればきっと自分は、立ち直れなくなる。彼女達から離れられなくなるから、だから無理だ。
「……セイン。お前に話した理由は簡単なんだよ」
死人に口なし。
「俺がお前を、殺すからだ」
拳から滴り落ちていた血液が、逆流する。血液を燃料にした魔刃鍛造――。
《そんなことだろうとは思っていた。だがまぁこちらとて、同じだ。エヌラス、お前は俺達の恩師の命を危険に晒した》
ただのロボット集団である自分たちは烏合の衆だ。だがそんな自分たちをまとめてくれたのがオペレーターのチヒロとヨルド。技術屋のグラさん。数えきれない思い出と苦難に得た、移動要塞が今、海中に没しようとしている。そこにあった全てを無かったことにしようと。
《ついでに言えば、俺はお前に勝てないだろう》
冷静な状況分析。彼我の実力差を推し量る。――比べるまでもない。相手の力量を見誤ったわけでもなく過剰評価でもなく、アレは守護女神の敵だ。それはつまるところ、守護女神以外には負けないということ。自分は何だ? ただのロボットだ。そんな自分に出来ることは何か。
《だが俺は信じている。信仰こそ我が救い――》
「神に祈るなら地獄でやれ。ロボットが裁かれるかは知らねぇがな」
《俺が祈るのは守護女神だ。プラネテューヌの女神以外に存在しない》
セインが思い浮かべる絶望は、シロトラが前に立つこと。B2AM創設者の戦闘能力は計り知れない。現状も大して差はないが……。
《今の俺には、お前が泣いているようにしか見えない》
「なら笑ってるんだろうよ」
《……俺は信じている。お前を救いに守護女神が駆けてくれるのを。それまで耐え凌げば俺の勝利だ》
「……狂言ほざくのも、大概にしろよ鉄屑…………」
《……改めて、刃を交わす前に名乗らせてもらおうか》
ジリオスの刃が甲高い音と共に空気を裂く。失敗作とさえ言われた自分のせいで陽の目を見ることができなかったお前だけが、自分の存在理由。自分は影の役者。表舞台に決して立ってはいけない。
《俺はB2AM強襲部門第二部隊所属。総合特務班トライアド班長、セイン! 挑ませてもらうぞ、俺の
恐れはない。覚悟は出来ている。自分は女神信仰の狂信者。ならば、信仰こそ我が救い。
信じている――プラネテューヌの女神は救ってくれると。
涙の代わりに、枯れるほど血を流してきた目の前の青年を。
――プラネテューヌの教会では、ケモミミを生やしたネプテューヌが取り残されていた。ピーシェはユウコにくっついていたが落ち込んでいるネプテューヌに駆け寄る。
「ねぷてぬ? どこかいたいの?」
「あー……ううん、だいじょうぶだよ! 全然元気! どこも痛くないよー」
「ほんとに?」
「うん! だからほら、ユウコにダーイブ!」
「わかったー! ゆっこー! ゆっこー!」
「んー? どしたのーピィちゃん」
「どーん!!」
「わっしょーーい!」
ネプテューヌに命令されるなりピーシェはユウコに飛びかかるも、それを平然とキャッチして天井近くまで放り投げると、そのまま肩車に移行。すっかりピーシェの扱いもお手の物だ。それにはしゃぐピーシェから視線を外して、ゲーム機に目を向けるが……とても楽しむ気にはなれなかった。
そこへ、大欠伸を漏らしながらプルルートが頭をふらふらと揺らしながらぬいぐるみを片手に戻ってくる。
「ふあぁ~……えへへぇ、お昼寝気持ちよかったぁ~……あれぇ~? ねぷちゃん~、どうしたの?」
「あー、ぷるるん……えっと。ちょっと、エヌラス怒らせちゃって……」
「えぇ~。そうなのぉ~……? どうしてぇ~?」
「悪ふざけが過ぎたって言うか」
喜ばせようとして裏目に出たというか、タイミングが抜群に悪かったというか。とにかくエヌラスの地雷を踏み抜いた。いつもとは別な意味で。
「おぉ~。ねぷちゃんも、もふもふのふさふさだぁ~! いいなぁ~、やっぱりあたしも欲しいなぁ~」
「えっとー、今はやめておいた方が良いよ?」
「うん~。だから我慢したよ~? アイエフちゃんがぁ~、あんな風になっちゃったしぃ」
「治っちゃったんだけどね」
「え~治っちゃったのぉ~……」
残念そうに肩を落とすプルルートだが、ニッコリと笑いながらネプテューヌに顔を寄せる。それが、何故か妙に恐ろしくて引きつった笑みで返した。
「ぷ、ぷるるん……?」
「ねぇ~……ねぷちゃん~。どうしてエヌラス怒っちゃったのかなぁ?」
「…………えと」
「ねぷちゃんまでケモミミもふもふなのどうしてかな~」
「え、えっと……」
「エヌラス。いじめてないよねぇ」
「い……ぃ、じめぇ、てない、よ……」
背中に氷柱でも刺されたように、ネプテューヌはただ怯えてプルルートの細くなった目を見て話す。エヌラスだけでなくぷるるんまで怒った? そんな思いは余所に、ぽん。と手を叩いた。
「そっかぁ~、ならいいんだぁ~」
「でもね。エヌラスが、プラネテューヌで指名手配になるって、いーすんから聞いたんだ」
「え~!」
「だから、もしかすると……」
もう、エヌラスと会えないかもしれない――そう言いかけたネプテューヌをプルルートが遮るのは意外な一言だった。
「じゃあ~、エヌラスと会う時はお出かけしないとだねぇ~」
「へ?」
「だってぇ、プラネテューヌに来れないならぁ、あたし達が行けばいいんだよぉ~」
「……えっと、そういうこと……なのかな?」
「違うのぉ~? 指名手配とかされてもぉ、それってプラネテューヌでの話だから~……それともねぷちゃんは、エヌラスともう会いたくないぃ~?」
「そんなことない!」
「でもぉ、どうしてエヌラスはそんなことしちゃったんだろう~」
「それ、は……」
怒ったから? もう自分の顔を見たくないから? 何か違う気がする。――エヌラスは、一人になろうとしている。それは何故だろう。
「…………いーすん」
「はい、なんですかネプテューヌさん」
「エヌラス、どうして自分を指名手配にしてくれなんて頼んだの?」
「……それを聞いてどうするつもりですか」
「どうするかは聞いてから決めるよ!」
「……ネプテューヌさんに、灸を据えるおつもりで、だそうですよ」
「他には?」
「いえ。それだけです」
「――――ぷっ」
ネプテューヌは思わず笑い転げた。さっきまで落ち込んでいた素振りなど何処に行ったのか。怒っている。間違いなくエヌラスは今までにないほど怒っている。ブチ切れていると言っていい、だけどそれでもやっぱり自分のためだった。
お気楽脳天気で何も考えてない楽観主義者――自分で言ってて悲しくなるくらい頭悪いけれども。
「エヌラスってば、ホントにもー、バカだなぁ。わたしにお灸を据えるにしても、もうちょっとこう、あるじゃんか」
なのに。よりによって、そんなの――自分が苦しいだけだ。
見ているこっちが辛くなるくらい、頭が悪いのはエヌラスも一緒だ。
止めないと。もうとっくに手遅れで、どうやっても巻き返せないけれども。それでも今、止めに行かないと――エヌラスは帰ってこれない。自分が言った手前、ノコノコとプラネテューヌに戻ってくるような人じゃない。
「いーすん。わたしこんなんだけどやっぱり行ってくるよ」
もふっもふ。
「……本気ですか?」
「うん! ぶっちゃけメチャクチャマジで怖いんだけど」
冗談で叩かれたりはするけれども、今回ばかりは一発くらい殴られる覚悟で行こう。
素直に顔を合わせて、謝ろう。それでも絶対に許してくれないだろうけど。
盗み見るのは、ユウコの肩車で笑うピーシェ。
「もう、あんな時みたいに塞ぎ込んでも仕方ないしさ。そういうのやっぱわたしのキャラ的に似合わないじゃん?」
「じゃあ~、あたしも行くねぇ~」
「ぷるるんも? 別にいいけど……」
「うん~。ちゃんと手綱は握っておかないと、ダメだよねぇ~?」
何故だろう。頬を赤らめるプルルートから、若干病気の恋わずらいのような雰囲気を感じ取ったネプテューヌとイストワールが冷や汗を流した。
「えと、じゃあ……行ってくるね、いーすん! ちょっと青アザとかあっても気にしちゃダメだから!」
「それはそれでエヌラスさんの指名手配が加速するので気をつけてください、本当に」
「大丈夫だよぉ、いーすん~。あたしがぁ、ねぷちゃんにひどいことさせないからぁ~」
「は、はぁ……お願いしますね、プルルートさん」
不安要素しかない。