超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
セインの持つジリオスとエヌラスの倭刀が弾き合い、距離を離す。既に幾度斬り結んだかさえ分からないほど剣を振るい、お互いにまだ決定打を与えていない。刀とはそういうものではあるが――改めて、手にしているジリオスの性能を確かめた。
西洋剣と違い相手に出血をもたらしていく日本刀。叩き切るような派手さはなく、脆い上に刃こぼれもしやすい。その欠点を全て光学兵器で補ったものがジリオス――ビームセイバーの独自派生。技術者達の意地とも言えよう。
エヌラスの手にしている倭刀。それがどんな技術によるものかは、既にセインは目にしている。ロボットには出来ない人の業――魔術。それも自分の血液を媒介とした鍛造。そのせいか、刀身がにわかに赤みを帯びている。そして本人の剣技の冴え。おおよそ、正面切っての決闘など似つかわしくない外道の数々。
ジリオスと倭刀が紙一重で互いの刀身を掠めながら切っ先が滑るように胴体を切り裂く。片手を離して身体を逸らし、皮一枚で留めたエヌラスに大腿部のブースターを起動させようとして――逆に胴体を蹴り飛ばされた。紫電を纏わせた判を押すような蹴り、アクセル・ストライクが胴体から繋がる駆動回路を一部ショートさせる。しかしそれもすぐにスイッチを切り替えて最低限の損傷に留めた。
気づけば、左手には既にレイジングブルが握られている。身を屈めて避けながら光学突撃銃を撃った。三点の光条が放たれ、弾丸を焼失させる。だが今度は銃身がブレたかと思えば白銀の回転式拳銃へと変わっていた。倭刀を地面に突き刺して、右手には深紅の自動式拳銃が。
「――踊れ」
呪詛のように呟く。或いは祝詞のように。
「狂え――」
銃身に刻まれた魔術紋様が輝く。血のように赤く、氷のように冷たく。一層輝くのは殺意の燃料。
「
それは奏でるように撃鉄が叩き、吐き出す銃撃の葬送曲。題目は。
「“咎狗”」
《――ッ!》
魔銃から吠えるのは獣の咆哮。意思を与えられた魔術が形成される。
燃える獅子と凍てつく翼竜が牙を剥く。猛り、荒れ狂う。局地的な自然災害が獰猛な意思で持ってセインへと襲いかかる。
《これだから魔術ってのは嫌いだ!》
非合理すぎる、不条理過ぎる。どうしろというんだ。
戦闘を覗き見ていたレオルドが岩陰から手榴弾を投げ込む。
《セイン、避けてくれよ!》
《ドベンチャラン、ナイスサポートだ!》
爆風と風圧によって怯んだ獅子の首をたてがみごと断ち切る。舞い踊る翼竜には突撃銃のエネルギーポッドが空になるまで蜂の巣にしてやった。
それを見てグレートソードを構えながらセインと並ぶレオルドがエヌラスに刃を向ける。
《お願いです、エヌラスさん。これ以上はもう、やめてください! もう目的は果たしたでしょう! 俺達の仲間はもう動けない、それに組織は壊滅状態。これ以上なにをするっていうんですか》
「そこのバカにはケジメつけてもらわなきゃ俺の気が済まねぇんだよ、すっこんでろ」
《嫌っす! こんな、変態で頭おかしくてわけ分かんなくて、いつもいつも迷惑かけてばかりのセインでも俺の仲間なんです!》
《レオルド。ちょっと凹むぞ俺……》
「中途半端に生き残られても困るんだよ」
お人好しのバカどもが揃いも揃って人のことを弁解しようとするのは、糞食らえだ。前に立つなら敵なのだろう。
《足手まといかもしれないけれど、囮くらいにはなってみる》
《……なら遠慮無く頼らせてもらおうか》
何か一発でも直撃を食らえばセインはあっという間に戦闘不能に陥る。それよりも多少は頑丈なレオルドに盾になってもらった方が良い。エヌラスを相手にどこまで二人がやれるかは分からないが――。
呆れて、深々と溜息を吐く。
「……俺がどうしてテメェのチャンバラごっこに付き合ってると思う」
『?』
セインとレオルドのふたりが同時に首を傾げた。
「手段を選ばなきゃ、テメェら二人に手間取る理由もない。ならどうしてそうしないと思う」
《……》
「これでもな、自重してんだぜ俺ぁ……」
エヌラスはなんと言っていた――? “俺が欲しい物は全て持っている”と、確かにそう言った。
窮地に陥った時に助けに来てくれる仲間さえ彼には居ない――レオルドが助けに来たのは、逆効果だ。
軋みながら、海中に没していく2MADが鬱陶しくなってきたのかエヌラスの右腕。魔術回路が輝いている。
帰る家も、仲間も、友達も、家族と呼べる者も――みんな。みんな居ない。全部壊して、直して、それでも直らなくて、また壊して壊して壊して直して、なにもかも無くしてしまった。もういらないと言っているのに押しつけられる優しさが心を静かに狂わせていく。
「――機神、招喚」
《――――――――ぁ…………?》
それは、静かに告げられた死刑宣告。セインも、レオルドも観測された“ソレ”を理解出来なかった。素っ頓狂な声を上げて、召喚されたのは機械の腕。
白く輝く装甲に、奇妙に噛み合わせた歯車、螺子の山。城塞のような、鉄壁にして難攻不落の要塞。空に浮かぶその右腕が拳を戦慄かせている。装甲表面を走る魔術回路、銀の経絡。
「シャイニング・インパクト」
静かに唸る無限熱量、掌に浮かぶのは銀鍵守護器官が生み出す無尽蔵の魔力による限界を知らない焦熱結界。それが沈みゆく2MADに叩きこまれて、低く轟音を鳴らしながら海面ごと蒸発させた。
二人が振り返る――崖がキレイに抉り取られ、海面から露出していた岩肌すら跡形もなく消え去っている。
ゴォォォォ……ン――――。宙に佇む右腕が呻いていた。
右腕から肩、右頬に至るまで魔術回路で覆い尽くしているエヌラスの身体は魔術に疎いセイン達ですら分かる。あれは気が狂っている。そうでもなければ、身体が壊れるまで酷使するはずがない。無くした物を別なもので代用しているだけだ。自分たちなんかよりもよっぽど機械の身体をしている。いや、それよりも先に心が死んでいるから痛みすら感じないのかもしれない。
エヌラスが突然、哄笑する。狂ったように、壊れたように笑い出した。
「ハハハ、ああ、見たか? ああ、今のが俺の全力だ。これだけだ。機械仕掛けの右腕召喚して振り回してぶっ壊してぶっ潰して何もかも消滅させるぐらいしか脳がねぇ。こんなんで何が救える。こんなもんでッ! 俺に何が出来る! 人並みの生き方なんて出来るわけがねぇだろうがッ! ソレですら精一杯だ! だったらこうするしかねぇんだよ俺にはッ! 友達殺すのに苦労しねぇ! 邪神殺すぐらいしか、俺に出来ることねぇだろうが!」
光の粒子となって消え失せる機械の腕。エヌラスは叫ぶ。B2AMの総力を相手にして傷ついた身体は既に完治している。いくら壊しても身体だけが壊れない。それより先に悲鳴を上げたのは、心だった。
「俺が、テメェのチャンバラごっこに付き合ってるのは俺の悪い癖だ。どうしてもロボット相手は正面からぶちのめしたくなる」
《…………お前は》
「だからな、セイン。頼むよ……俺がぶっ壊れる先にテメェがくたばれ。そうでもしねぇと俺は……もう、俺は――」
言っていることが滅茶苦茶だ。倭刀を手にするエヌラスは、笑っている。力なく笑っていた。泣いているようにも見えるその顔が、セインとレオルドには痛ましすぎてとても直視できる代物ではなかった。自らの得物に視線を落とす。
降伏するか? 否。答えは断じて否。
《レオルド。時間を稼ぐぞ》
《分かった、どれぐらいだ》
《分からない。だが――信じろ。必ず助けてくれる》
《…………誰が、誰をっすか》
《守護女神が。エヌラスをだ。それまで生き残れ、これは――》
――例え、自分がシロトラの手にかかろうとも。
《総合特務班トライアド班長としての命令だ。復唱せよ》
《……了解。何が何でも生き残る》
《それでいい》
レオルドも覚悟を決めたようだ。セインが先行する。それに続いてレオルドが走った。
エヌラスは顔を覆うように左手を持ち上げている。笑っているのだろうか、それとも泣いているのだろうか。涙を流していないその表情は――やはり、笑っているのだろう。
左右からの挟撃。セインが右から、レオルドが左から攻める。エヌラスはその中心でネクタイを解いていた。
手数を増やして動きを制限しようとするセインの斬撃、そして大振りながら重量で叩き切るレオルドのグレートソード。その両方を、片腕ずつで受け止める。
《んなァ!?》
そして、グレートソードと鍔迫り合うのは、魔導式記憶合金製のネクタイだった。そこに込められた魔力は左腕を介して相当量を注ぎ込まれている。一直線に伸びたネクタイはショートソードほどの長さになっており、即興の二刀流で応戦していた。蹴り飛ばし、殴り飛ばして、その度に骨の折れて砕ける音がレオルド達にもノイズ混じりに聞こえてくる。だが、次に切り結ぶ瞬間には既に再生を終えていた。それが尚更おぞましい。激痛に身を苛んでも、銀鍵守護器官が再生する。痛覚だけが残り続けていた。それでもまだ足りない。地獄を進むこの足は止められない。
「ォォォおおおおッ!!」
レオルドの足を掴みとり、片腕で投げ飛ばす。セインはそれを非情にもあっさり避けた。転がる姿に一瞥もくれずエヌラスと剣戟を重ねる。ネクタイが光に包まれて倭刀を落とし込む。それは黒塗りの鞘であり、撃鉄が付いていた。紫電が迸る。
「“
《――――》
その刹那、セインは全能力を回避と防御、思考に費やした。それは未来予知に近い精度で計算を進めていき、太刀筋を予測する。
「“迅雷”」
《――見切ったァッ!!》
超光速の抜刀術、その太刀から逃れたのは二人目だ。ジリオスを斜めに構えて、その場で回転しながら受け流して逆袈裟に切り上げる刃から逃れる。だが、紫電の余波が一瞬ではあるがセンサーユニットに障害を引き起こしていた。腕部のサスペンションがエラーを吐き出す。
《えっ? うぎゃああああああ!!?》
ついでに言えばレオルドが更にその巻き添えを食らって地面を転がっていた。