超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「なのに、よ。此処は何処だ。お前は、何だ? “お前は誰だ”よ」
「……――――」
胸を突き刺すような言葉だった。
「俺は夢でも見てるのか。だったら醒めてくれ。俺が、こんなに幸せなはずがないだろ。戦って、戦って、戦って戦って殺して殺して殺して殺し続けて、その挙句にそのザマがこれはなんの冗談なんだよ! どうしてお前が、いるんだよ!」
「…………どう、して…………?」
言葉の意味が分からない。
「なんで! “俺の地獄にお前等がいるんだ”よ!! 此処は俺の場所だ、俺だけがいなきゃならないんだよ! なのに――どうして!! 何で!」
パープルハートの頭を開放したがその直後、頬を殴りつける。
「俺の地獄に、テメェがいるはずねぇんだ! 俺は「助けてくれ」なんて言った覚えはねぇ! だから俺は一人じゃなきゃダメなんだ! なのに! どうして! テメェがいるんだァ! “誰だテメェ”はよぉ!!」
(――――あ)
この人はまだ、地獄にいたままだ。この人はまだ、地獄にいなきゃならないんだ。地獄を歩んできたから、まだ何も終わってなんかいないから。
壊次元の誰も救われてなんかいない。超次元のわたし達は救われて。
「俺を助けたきゃテメェも地獄に落ちろ! そんな都合よく助けられてたァまるかぁぁああ!! 俺は何度も友達を殺してきたんだぞ! 俺は! なんの罪もない人達を! 俺は――、俺が……! 俺が、殺してきた奴らはどうして死ななきゃならないんだよ! 誰か、助けてやれよぉ! 誰でもいいから、あのバカ達を助けてやってくれ……!」
エヌラスは――折れたんだ。自分ではみんなを救えないと。だから、別な道を探した。
それがどんな地獄でも構わなかった。
今まで沢山ひどいことをしてきたから今度は自分が沢山酷い目に合わないと釣り合わない。
自分勝手な理由で生き返らせて、自分勝手な都合で殺して、身勝手な振る舞いで彼ら彼女らは生きて死んで繰り返し続けている。死んでも赦されない。赦さない。
「もう、俺は嫌だ……俺には、無理だよ……俺はどうなってもいいから……どうなろうが知らねぇよ……だから――だからせめて……」
パープルハートの頬を濡らすのは、血涙。涙で頬を濡らすのだけは赦せなかった。だからその代わりに血を流し続けてきたブラッドソウルは、泣くことを忘れている。涙で心の傷を癒やすことすら忘れていた。
「――――め、な……さ……ぁ……!」
「…………」
「ごめ……な、さ……!」
「どうして、テメェが頭下げなきゃならないんだよ……俺がテメェと再会出来ただけでも夢だってのに、どうしてこんなバカみてぇな耳つけたお前が俺の前にいるんだ、ネプテューヌ! いるはずがねぇだろうがッ!」
逃げた邪神を追った。その先で何の罪もない世界を壊した。何の罪もない人達を巻き込んで傷つけて、それでも倒せなくて。まだ戦いは終わっていない。あらゆる次元世界を巡り巡ってきたが、何処にも妹はいなかった。何処にもネプテューヌはいなかった。何処にもネプギアはいなかった。何処にもプルルートはいなかった。何処にもノワールはいなかった。何処にも救いなどありはしなかった。なのに、それなのに――どうして今、自分の前にいるのだろう。
セレモニーで再会した時からずっと抱えていた思いを告げられて、パープルハートは泣きじゃくる。
夢のようだ、と。だから“そんなはずはない”と。ずっと思っていた。ずっとずっと抱えていた思いだ。何故ならエヌラスは、地獄に囚われたままだから。
振り上げた右腕に、蛇腹剣が巻き付いた。刃が食い込むのも知らず、拳を振り下ろそうとする。ボタボタと滴り落ちる血に、激痛も構わずブラッドソウルはパープルハートを睨む。
偽物だ。いるはずがない。だがもし本物だったら? これは現実なのか、夢なのだろうか? もうどちらなのかが分からない。寝ても醒めても、自分は地獄にいるのだから。
「バカ! それ以上やったら、本当にねぷちゃん死んじゃうわよ……!」
「気が済むまで殴っていいなら地獄に落ちるまで殴って何が悪いんだよ!」
地獄に落ちた自分を助けたければ、手を差し伸べるのではなく同じ地獄に落ちてくれなきゃ救えない。この地獄の責め苦は落ちたものしか分からないのだ。この地獄は、誰にも共感されてはならない。もう誰も、こんな場所には来てはいけない。
「それでも……! あたし達は“死んでも生き返らない”んだから止めなさい!」
「――……」
「殺しても、繰り返せば……やり直せば! 何事も無かったように生きている箱庭の世界じゃないのよ! そんなことも分からないの!?」
「……分から、ねぇよ。もう、俺は自分がどうなってんのか……わかんねぇよ……」
ブヅッ――動脈にまで食い込んだ蛇腹剣の刃が、流れ落ちる血液で濡れていく。パープルハートの身体を赤く染めていく出血量にはアイリスハートも拘束を緩めた。ブラッドソウルは顔を両手で覆う。既に傷口の再生が始まっていた。
「おかしいよな……俺は、邪神退治をしていたはずなのに……どうしてこんなことになってんだ? やめてくれよ……俺を、お前たちの優しさで殺す気か……」
「そんなつもりは」
「俺は、まだ戦い終わってないんだ」
いつ終わるのかも分からない戦いだけが、生き甲斐なんだ――。変神を解除したエヌラスに、パープルハートが手を伸ばす。
体中痛くて、頭も割れそうなほど痛くて、傷ついて。だが、まだ足りない。全く足りていないのだ。エヌラスが歩んできた地獄の足元には及ばない。
「どうし、て……? エヌラス……助けてほしいなら、そう言えばいいじゃない」
「言えるかよ! 俺が、言えた義理かよ! 誰に助けを乞えばいい!? 誰に許しを乞えばいい!? 鬼でも仏でも神様でも、俺がどの面下げて祈れってんだ! 寝言は寝て言えバカ野郎!」
「……」
「俺を、助けるな……俺は自分で、どうにかできるから……! だから、放っておいてくれ。俺を独りにしてくれ……!」
「無理、よ……出来るはず、ないじゃない」
できるわけがない。こんなに辛そうにしているのに、どうして放っておける。
「エヌラスは、頑張ったから……ずっと傷ついて、ずっと戦って、頑張ってきたから――だから、休んでいいのよ」
「――――ぅ……」
パープルハートの手がしがみつくようにしながら身体を抱き寄せていく。頭を埋めて、エヌラスを離さない。
「お願い、エヌラス……! わたし達の優しさから逃げないで!」
「…………お前は、冗談みてぇなケモミミつけて……なにマトモなこと言ってんだよ……今更おせぇよ。俺が今どれだけ殴ったと思ってる」
「ええ、正直ものすごく頭が割れそうなくらい痛いわ……でもここで離すわけにはいかないわ」
「そうねぇ。ねぷちゃんの言う通りよ? 絶対に逃さないから」
「…………どいつもこいつも、人を殺しに来やがる」
「あなたが休むくらいで文句を言うの、誰かいるのかしらぁ?」
「俺」
「無職なのにぃ?」
「うるせぇ」
目元の血涙を拭いながら、エヌラスはため息を吐いた。
「じゃ、帰りましょ。もう好き放題暴れたんだし」
「……」
背を向けたアイリスハートに、ドミネーションのパラライザー・モードが直撃して崩れ落ちる。パープルハートもまた、いつかそうされたように首元に電気ショックを当てられて気を失う。
「お前らまったく……ほんと学習しねぇな」
プラネテューヌで指名手配の手筈が整えられているのに、誰が教会に帰るものか。エヌラスは女神化の解除されたふたりを抱えて、レオルドの元まで戻った。
《…………なんすか。俺にトドメでも?》
「やる気削がれた。この二人は任せる」
《えっ!? あの、エヌラスさんは》
「俺がどこに行こうが勝手だろうが。じゃあな」
《あっ、ちょ!? そんな勝手な…………》
プラネテューヌの女神を預けられて、困惑するレオルドだが――気絶しているネプテューヌの怪我もそうだが、ケモミミ姿には思わず内心ガッツポーズをしてしまった。
ルウィー、ラステイション、プラネテューヌの三カ国国境近辺で起きたモンスターの異常発生も終わりが見えてきたのか。ようやく落ち着きを取り戻してきた。周辺の生態系はガタガタになってしまっている。
「ブラン、そっちはどう?」
「数ばかり多かったが、雑魚ばっかだ。ノワールも大丈夫そうだし、ネプギアは?」
「はい。わたしも大丈夫です! アイエフさん、ミリアサさんの方は……」
どうやら全員無事なようだ。
そうなると、残りは……。
《…………》
武装を解除して、これまた見事な土下座でひれ伏しているトライアド並びに特務隊の処分をどうするかだ。なんせルウィー、ラステイション、プラネテューヌの国境というだけある。
「見つけたぁ! この変態ロボット共! 何が何でも逃がさないわよ!」
《はい、大変申し訳ありません。この度は多大なるご迷惑おかけして》
「問答無用! イア・クトゥグア!」
《せめて発言の自由くらいはぁぁぁぁぁ――!!!》
「え、えーっと。一応重要参考人なので手荒なことはあんまり……」
聞く耳を持たず、アイエフは早速エヌラスから受け取った拳銃の威力を試していた。
「はぁー……なんというか、こっちはこっちで大変だったわね」
「だな。ったく、えらい迷惑だぜ。ネプテューヌのやつにはガツン!と言ってやらないとな」
「言っても聞かないでしょうけどね」
違いない。だが言わないと気が済まないのも事実だ。
『お姉ちゃん、聞こえる!?』
「ユニ? なによ、どうしたの」
『ラステイションで身柄拘束中だったハァドラインのロボットが脱走したの! 今追跡中――きゃあ!?』
「大丈夫!? 今からそっちに戻るわ! ブラン、また後でね」
「ああ。なんかそっちも大変そうだしな。ネプギア。あのロボット共はそっちに任せるぞ。元はと言えばネプテューヌの不始末だ」
「は、はい」
とはいえ――。
「逃げんなやゴルァァァァアアア!!」
《アイエエエエ!?》
《ああ、シュラがやられた!》
《俺、帰ったら日記書くんだ……ごふっ》
《ジーーーーン!! お前らの犠牲は忘れな》
「ア ン タ も!!」
《うわらば!?》
既に大惨事な気がするが――ケモナール最大の被害者であるアイエフの怒りは留まることを知らないようだ。
レオルドがプラネテューヌの警備隊の到着を待っていると、仰向けになったまま動かなかったセインが腕を持ち上げる。
《ケモミミ、良いよな》
《復旧するなり何言ってんだセイン……》
《いや、復旧したはいいが動けなくて暇なんだ》
《大人しくスリープモードで待機してればいいじゃないっすか》
かくいう自分も胴体から下が過負荷でうまく動かない。だが、そこに一本の通信が入ってきた――セインが想定しうる最悪の事態。
『こちらシロトラ。本部へ帰還中だ』
《――――》
《こちらセイン。残念ながら本部は壊滅、もとい消滅しました》
『……そうか』
無感情に呟く無線に、レオルドは何か嫌な予感がしていた。自分よりも性能が高いセインならば尚更だろう。
『つまり、B2AMは事実上の壊滅ということになる』
《シロトラ教官?》
『組織の復興の為の資金は、私が調達しよう』
《その必要はない、シロトラ。女神信仰の代理戦争は起こさせない》
《…………》
『残念ながらそうはいかない』
甲高いブースター音。それは崖下を駆け上がってきていた。そして、二人の前にシロトラが着地する。
《例の騒動により、ラステイションは混乱状態に陥った。ご苦労だったセイン》
《…………》
《そして、お前の言う女神信仰の代理戦争。国家解体戦争は、既にアームドソウルスと開戦準備を進めている》
《そこまでして戦争がしたいか、シロトラ》
セインに向けられるシロトラの複合兵器が展開された。射撃機能特化、砲撃形態――。
《ああ。必要なのだ――安心しろ、セイン。目的はプラネテューヌではない》
《シロトラ教官、やめてください!》
《下がっていろレオルド》
《ハァドライン同士の衝突による国家解体戦争……その目標は我々の間で合致している。ただ、それだけのことだ》
《……もしかして》
唯一、ハァドラインの存在しない国家――。
《それが国家解体戦争の、目的だ……だからB2AMには再建してもらわなければ困る。ただしお前は別だセイン》
チャージ開始。二人の前で、矛先をセインに定めたシロトラは両足を踏みしめてトリガーに指を掛けていた。
《残念だが、既にあちらとの交渉は決定している。俺が戦力として加入を条件にB2AMへ資金援助するという方向でな。そうなれば当然、俺がいない間に指揮官が必要となるが――この状態ではな》
《まともに動けるのがレオルドとトライアド、そして特務隊のメンバーだけだ》
《……最後に何か言うべきことはあるか》
《そうだな……では。レオルドに》
《俺、に……?》
《ああ、そうだ》
誰よりも弱いから、最後まで生き残ったお前だから頼めることなんだ――。
《何が何でも、勝ち残れ。お前の上官としてではなく、戦友としての頼みだ》
そして、セインの上体がビーム砲によって消滅した。後に残るのは、下半身だけ。レオルドは何も出来ず、ただシロトラを見上げる。
何一つ感慨もなく仲間を撃つ上官がいるのだろうか? 今まで教鞭を振るってくれたこの人が、どうして――敵になるのだろう。
シロトラは背を向ける。その方角はリーンボックス――アームドソウルス本社のある場所。
《レオルド、這い上がれ。お前の可能性を俺に叩きつけてみせろ》
《――シロトラ教官……!》
《お前の命。戦場で出会うまで預けておくぞ》
――去っていく白い閃光に、レオルドは手を伸ばしかけていた。
昨日、仲間達と笑い合っていた。
今日。全てを失った。
ならば明日は? 自分はこれからどうすればいいだろう? どうすればいい。それは誰も答えてくれない。
《――あ、う……俺は……》
勝ち残れ――。
《…………俺は、やるよセイン。万年最下位ドベケツビリ太郎の俺だけど、ドベンチャランな俺だけど……やれるだけやってみる》
動けないレオルドの視線の先。そこでは、プラネテューヌの女神が二人とも気を失っていた。
《……俺達は、信じることでしか救われないんだもんな》
信仰こそ我が救い。ならばこそ――代理戦争の先陣を切って守ってみせるとも。