超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
エピソード117 全ては夢の始まり
――皆さん、こんにちわ。ネプギアです。
ケモナール事件から、数日経過した今では、すっかりプラネテューヌもいつもの調子に戻っています。B2AMの本部が壊滅し、その司令官であるシロトラさんは失踪。行方不明のまま。
トライアドと特務隊のロボット達はアイエフさんが取り締まって、現在は幽閉中です。今も彼らの開放の目処は立っていません。レオルドさんも、同様です。B2AMに所属していたオペレーターと整備士の人達は教会で保護されています。
プラネテューヌのニュースでは、いーすんさんが進めていた手筈通りにエヌラスさんが指名手配という報道をするはずだったんですけれど……。
『今回の事件、首謀者であるトライアドの班長が破壊されていたこと。そして、レオルドさんの証言から黒幕がシロトラというロボットであることが判明しました。彼を指名手配します』
ということになりました。でも、それでエヌラスさんの件が帳消しになったかというとそうでもありませんでした。
お姉ちゃんが怪我をして帰ってきたこと。そして、移動要塞である2MADが消滅していたことから、やはり脅威を感じたいーすんさんは指名手配だけでなく賞金までかけました。但し、生存していることが最条件。まぁ、エヌラスさんを殺せそうな人なんて早々いませんけれど。
それとユウコさん。一度アダルトゲイムギョウ界に戻ると言って、まだ戻ってきていません。ユノスダスでのお仕事が思った以上に溜まっていたらしくて……。
『うにゃーー!! ピィちゃんの声が聞きたいぃー! 肩車したいおんぶしたい抱っこしたい一緒にお買い物いーきーたーいーのー! ギアちゃーん、ピィちゃんこっち連れて来ちゃだめ?』
……なんて、電話で言っていました。当然ダメです。ユノスダスとはいえ、あっちの世界はお子様の立ち入り厳禁ですからね。
お姉ちゃんの怪我も酷かったのですが、今ではすっかり元気です。でも、どこか無理に笑ってたり、たまに悩んでる姿を見かけるんですけど「全然大丈夫だよー! いつものわたしだからネプギアは気にしなくても平気へっちゃら余裕!」なんて言われちゃいました。
エヌラスさんは……連絡も取れず、どこに行ったのかもわかりません。心配です。プルルートさんも珍しく怒っていました。
それで――その日はいつものように女神のお仕事をして、ケモナールを飲んでケモミミが治らない苦情にトライアドが尋問されても《いや、造ったのセインですから俺達が知るわけないでしょう?》と。事件の本当の解決にはまだ遠いみたいです。
その日の夜。わたしは変な夢を見ました。
「…………ん……? あれ? ここは……」
何もない、真っ暗な空間。そこにネプギアは立っていた。自分の身体を見ると、いつものセーラーワンピを着ている。
「どこ、なんだろう……?」
周囲を見渡しても何もない。だが、確かに記憶に残っている。ここは、確か――?
思い出そうとしていたネプギアが改めて周囲を見渡して背後を振り返ると、そこにはネプテューヌがいた。いつもの服装、見慣れた格好をしている。
「お姉ちゃん?」
「あ、ネプギアー! なぁんだ、夢かぁ」
夢……? それにしてはやけに現実味がある。疑問符を浮かべていたネプギアだったが、プルルートまで見つけるとますますおかしい。
「あ~、ぎあちゃ~ん。ねぷちゃ~ん! えへへぇ、夢の中でも一緒だぁ」
「夢……なんでしょうか、これ」
「だってそうでしょ? わたし達ぐっすり眠ってるんだから」
「そうだけど……」
それにしたって、なにかがおかしいような気がする。布団に入って、眠ったまでの記憶は確かに残っていた。それならこれは本当に夢なのだろうか……?
「あ、ネプテューヌじゃない。それにネプギアも。プルルートまで! まったくもう、夢の中でまでなんであなた達の顔見ないといけないのかしら……」
「おお、その声はもしやぼっち女神ノワールではないか?」
「なによその芝居がかった言い方は。あと、ぼっちじゃないって毎回言ってるでしょ、いい加減そのネタしつこいわよ」
「んもぉ、夢の中でまでノワールってばお決まりなんだからぁ」
「いい加減にしなさいよまったくもー!」
「でも、なんで」
なんでこの四人が……、そこまで考えたネプギアが気づく。
「でもこの四人って」
「そうね。アダルトゲイムギョウ界に行った四人みたいだけど。それにしたって夢にまで出てこなくていいわよ」
「そんなこと言われても、夢で会えて嬉しいくせにぃ。このこのぉ」
「調子に乗らないで」
ノワールはさすがに冷静だった。だが、周囲には何もない。黙っていても仕方ない、四人は夢の中を歩く。
ただひたすらに暗く、何もない虚空。“此処が何処なのか”そんな疑問が思い浮かぶ。
やがて、四人の前には玉座がいつの間にか現れていた。
荘厳なる黄金の玉座に腰掛けているのは、次元神セロンそのもの。アダルトゲイムギョウ界の管理者にして箱庭の世界の監視者。肘掛けに頬杖をつきながら、退屈そうに本を読んでいた。
黄金の髪、金色の瞳、白い礼服。以前、出会った時よりもその神気は更に禍々しく感じられる。左目に眼帯をつけて読書に勤しむ姿にネプテューヌが言葉を失っていた。
この神が、この次元の狭間に生きるこの男こそが全ての元凶。エヌラスを苦しめている張本人にして諸悪の根源。
「セロン」
一歩、踏み出そうとするネプテューヌとプルルートだったが、手が届かない。
「久しぶりね、どうしたのよ。眼帯なんて付けて? 厨二病にでも目覚めたのかしら?」
「……お前は眼病を患った人間全員にそれを聞くつもりか、黒の守護女神」
相も変わらず、無愛想で億劫そうに、やる気など微塵も感じさせない感情の欠落した淡々とした声色にはネプテューヌが眉を吊り上げる。
「どうしてエヌラスにあんな酷い事するの!」
「それは勘違いだ。あの男が選んだ道であり、私がどうこうしたわけではない。自業自得だ」
「自業自得だって何だって、止めるくらいはできるじゃんか! このニート! 次元神のお仕事しなさーい!」
「年中女神の仕事ほっぽり出して遊んでるあなたが言えた立場じゃないでしょ、ネプテューヌ」
「わたしのことはいいの!」
はぁ……、ため息一つを吐いてセロンは読書を中断した。そして、眼帯を持ち上げる。
「厨二病にでも目覚めたか、と聞いたな黒の守護女神。これはな、傷跡を隠しているだけだ」
「――――」
「“抉り取られた”のだよ、あの仮面の邪神に。それだけだ」
「……ヒドイ」
すぐに眼帯で隠すと、セロンは足を組み替えた。
「現実のわたし達は、どうなっているんですか? 此処は多分、夢の中ですよね」
「ああ。ぐっすり眠っていることだろう。四人がそれぞれ、同じ夢を見ている。ただ、それだけの話だ」
「なら、どうしてそれが私達なのよ」
「俺が顔を知っている。同時に“俺を認識できる”数少ない女神であるからだ」
「認識、できる……?」
プルルートが首を傾げている。
「俺は次元の狭間、この“境界線”にのみ存在している。次元と次元の隙間。その“ライン”を認識出来る存在は今のところ、お前たち四人。そしてエヌラスの五人だけだ」
「ソラさん達は……」
「全てを忘れて。笑って生きている」
その言葉に、ネプテューヌは心臓を掴まれた苦しさに襲われた。
「塔争に身を焼くこともなく、ただ平和な日常を謳歌しているよ。神に値する神格者達はな……それが、どうかしたか?」
口元をつり上げるセロンにネプテューヌとプルルートが女神化する。夢の中でも変身できるのを知ったネプギアとノワールもそれに続いた。
太刀を向けて、蛇腹剣を突きつけて叫ぶ。
「それがどうしたか……ですって……! それが――それに、エヌラスがどれだけ苦しんでいると思っているの!」
地獄を歩くと決めて。必ず救うと決めて、諦めることだけはしなかったエヌラスが折れる地獄を歩かせている。
「それで? 俺に刃を向けるのはいいが、所詮夢の中だ」
「夢でも貴方を殺せるなら最高の目覚めが待ってるでしょうね」
「そうか。なら、眠り続けろ。辛すぎる現実に目を向けることなく、な」
「っ」
この次元神はあの時もそうだった。自分だけは人畜無害を装っておきながら、全ての黒幕を演じている。
「さて、そこで一つ聞こう。俺を殺した後、一体誰がアレを管理する?」
セロンが上を指差して、つられてパープルハート達は見上げた。――門があった。
扉が、半分ほど開いている。それはあまりに巨大すぎて、見上げても果ての見えないほど。城門にも等しいそれが浮かんでいた。
そこから邪神が覗き込んでいる。丸裸の心を蝕むほど無数に瞳が並んでいた。決してそれはこちら側に流れてくることはない。
「誰が、此処に残る。誰がこの玉座に座り続けるつもりだ? 未来永劫、過去永劫。誰にも知られず、認められず、触れることすら許されぬまま。永遠に孤独で在り続ける」
「…………」
「あの狂気と瘴気と邪気と生涯、付き合う覚悟があるのなら俺を殺すといい。殺してみせろ。俺は、抵抗しない」
「ッ――――!!」
どう転んでも、セロンの勝利は揺るがない。エヌラスが見ている地獄も、エヌラスが戦っている相手も、そこにあるのに。地獄は此処にあるのに――届かない。
あの人が歩んでいる地獄も、あの人が戦うべき敵も。全て眼と鼻の先にあるのに。
「ああ、女神は寿命で死なないんだったな。まぁいいが。あんな連中の慰み者にされた日にはエヌラスが次元世界そのものを台無しにするか」
アイリスハートの蛇腹剣がセロンの頬を切り裂いて手元に戻ってくる。
「あいつが今歩んでいる地獄は、かつて大魔導師とクロックサイコの二人が歩んできた道だ。終わりなき果て無き地獄を繰り返した結果が“アレ”だ、お前たちも目の当たりにしただろう?」
未来に絶望した大魔導師。狂気に服従したクロックサイコ。
「生きる、という事ですら破棄することを許さない地獄で足掻いた大魔導師。俺の手中より逃れ得る術が無いのならば、諸共に消滅させようとしたのは流石と言うべきか。ただ誤算があるとすればエヌラスと出会ったことだろうな。まったく、アイツは驚嘆に値する。何もかも台無しにしてくれるからな。だからこそ“見ていて面白い”のだ」
皮肉じみた笑みに、今度はパープルハートの投げ放った太刀がセロンの顔を掠めて玉座に突き刺さる。
「ふざけないでッ!!!」
なにが! 何が――何が面白い! 見ていて面白い? あの人が地獄を歩く様が? どうかしている。狂っている! トチ狂っている! 諸悪の根源は他でもないあなたなのに!?
怒りを露わにするパープルハートの鬼迫に、パープルシスターが困惑していた。
(お姉ちゃんがこんなに怒るの、初めて見た……)
「……ふむ? どうも、勘違いをしているな。俺は決してアイツが苦しむ様を見て、楽しんでいるわけではない」
「だったらどういう意味よ!」
「その前に、返すぞ。俺は武器を振るうなど野蛮な真似はしたくないのでな」
人差し指と中指を立てた剣指で太刀を引き抜いて、パープルハートに軽く放るとぶっきらぼうに掴み取る。
「俺は、アイツならば“結末”を変えられるかもしれないと期待しているんだ」
「どういうことですか?」
「大魔導師は足掻いた。俺の下に辿り着いて、繰り返して、試行錯誤の果てに、全てを試した。その上で未来に絶望したのだ。絶望を、世界の滅びを渇望した。そうして呼び寄せられたのはエヌラスであり、無尽蔵の絶望ヌルズだ。クロックサイコは自らの力で出来る限りの選択肢を選び抜いた。その結果が何か。俺の前に跪いて、俺の隷属となることを選んだ。自分は表舞台に相応しくない演者であるとな」
「……」
「その結果。最初はまだ理性的だった。だがまぁ、大魔導師が全てを諦めた頃には最早アレに理性と呼べるものは無かったよ。狂気に呑まれてあの様だ。狂いに狂った、狂気の時計盤。クロックサイコが俺の隷属として耐えたのは、五年だ。大魔導師は六年目から限界だったが、最終的に十年目で全てを見限った」
バルド・ギアは、神に挑める器ではないと知った。だから箱庭の国で静かに生きると。
アルシュベイトもまた、己の力では神に届かないと知った。だからこそ自らの国を救う為に全力を尽くした。
ムルフェストに至っては、面倒だからという理由で自ら放棄している。
そんなものを、六十年も既に繰り返しているエヌラスはセロンにしてみれば可能性を見出すには十分過ぎる諦めの悪さだった。クックッと声を押し殺して笑う。背筋が凍るような無邪気な笑い。
「信じられるか? あれは、戦友も隣人も友人も恩師も何もかも手に掛けることを繰り返して。救うと決めた人達を殺し続けて半世紀も同じ結末に辿り着いている。にも拘らず、今度は邪神殺しに転換した途端に――たった十年でほとんど殺し尽くした。そこから覗いているのは私の知人、友人、隣人たちだよ。恐れ多くて踏み込まないだけの神々だ」
「……そうなの?」
「ああ。こちらに来れば、エヌラスに殺されると分かっているからな」
旧神の恐ろしさはよく知っている。だからこそ、決して彼らは近寄らない。そしてエヌラスは決してそれを赦さない。敵とあっては例え女子供老人であろうと血肉の塊になるまで徹底的に容赦なく殺して潰す、今のエヌラスとあっては例えセロンでも顔見知りを近寄らせようとはしなかった。