超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ギシッ――椅子の背もたれに体重を預けて、ノワールは天井を見上げた。何を考えているのだろうか、エヌラスは。
プラネテューヌで指名手配されるほどのことをするなんて。その理由を聞くのを忘れていたノワールが自分の不覚を呪っていると、個人チャットでベールから個人的な話がある、との文面が添えられていた。フレンドリストからネプテューヌとブランがオフラインになったのを見計らってから、ノワールはベールに個人通話をかける。
「どうしたのよ、ベール。個人的な話って」
『ええ。わたくし、気になることがありまして……それで、エヌラスと親しいノワールに聞きたいことがあったのを今さっき思い出しましたの』
「なにかしら」
『R18アイランド旅行。そこにエヌラスも連れてくることは可能でしょうか? もしできるのであればお願いしますわ』
「……どうかしらね」
今のエヌラスがどういう状態なのかを知らない。だからなんとも言えないが、ネプテューヌのもとから去ったというのは指名手配以外にも何か理由があるとノワールは踏んでいた。
「でもいいの? ブラン辺りは良い顔しないわよ?」
『まぁ……ブランなりの事情があるみたいですし。わたくしはむしろ、彼が来るのを前提に話をするつもりでしたのよ?』
「それは、どうして? ベールも狙ってるとかじゃないわよね」
『あら、バレました?』
まさか、冗談だろう。笑ってはぐらかし、流そうとしていたが沈黙が続き。
「……え、本気?」
『ええ。まぁ……それなりには、ですけれど』
「ど、どうして」
『だってわたくしだけ妹キャラがいないのに加えて、ぼっちでゲーム廃人とかあまりにも救いようがないと思いません?』
(今の生活に不満があるとは思えないわね……)
ただ、その絵面はあまりにちょっと……女神であるどうこう以前に、女を捨てているような気が……。多分、ベールが言っているのはそういうことだろう。
『ですので、あまりうかうかしているとわたくしが取ってしまいますわよ。というちょっとした挑戦状ですわ』
「それにあまり意味があるとは思えないけれども。受けて立つわよ」
『ふふ。それでは、また近いうちにでも』
スカイポを切って、ノワールは改めて深く息を吐いた。
まさかベールまでもが狙ってくるとは思いもしなかったからだ。かと言って、エヌラスとベールがくっついたとしても……。
想像してみる。あの二人が並んで歩く様を。美女と野獣、もしくは深窓の令嬢とお供のマフィアが精々だ。だが、様になっているのも確かかもしれない。
ノワールは自分の携帯を見ながら画面の消えている液晶をじっと見つめる。以前、電話をかけてきた時に名前は電話帳で登録済みだ。だから、こちらから電話をすれば繋がるはず。
「…………」
考えてもみればそうだ。なのに、どうしてネプテューヌやネプギアはそうしなかったのだろう? 電話が出来ない理由でもあるのだろうか。ただ、今はエヌラスのことが心配だった。何があったのかまったく分からない。今回だってそうだ。
「いつもいつも、肝心なことは何一つ言わないのよね……」
自分がどうしてほしいかも。何がしたいのかも、核心だけは避けている。信用されていないんじゃない。信用しているからこそ、何も言わない。それがもどかしかった。ノワールが携帯を操作し始めた直後、突然着信音が鳴り響いて思わず取りこぼす。
「のわぁ!? 一体誰よ、人が電話かけようとしてる時に――!」
唇を尖らせながら携帯を拾って、液晶に表示された相手の名前に目を丸くした。
『エヌラス』
「…………」
コール音が鳴っている。願ってもない千載一遇の好機、こちらから掛けようとしていたのだから都合がいい。
「落ち着いてわたし……落ち着いて……いつものわたしでいいのよ」
深呼吸を繰り返してから気持ちを落ち着ける。そして、ノワールが着信を取った。
《…………》
「もしもし。エヌラス? わたしよ、どうしたのよ電話なんて掛けてきて」
――違う! そうじゃないのよわたし! これじゃまるで「忙しいから掛け直して(半ギレ)」って言ってるようなものじゃない!
相手からは生憎と無言の返答。冷や汗をかきながら、ノワールは何か話題を切り出そうと必死に考えていた。
「何か喋りなさいよ。黙ってても分からないわよ」
――だから違うの! わたしが言いたいのはそうじゃなくて、もっとこう、優しい感じなのにぃ!
悶々としながら現実と理想のギャップにノワールが机に拳を叩きこもうとした矢先に、電話の相手は小さく息をつく。
(も、もしかして取り付く島がなくて呆れられたのかしら……? もしそうならどうしよう。わたしエヌラスになんて言えばいいの!? あっ。そ、そうだ!)
ベールから旅行の話を言われていたんだった。それを切り出そうとしたが、先にエヌラスが呟く。
《……悪い。女神の仕事、あるのにな。急に電話なんて》
「あっ……ぜ、全然大丈夫よ。それで……どうしたの?」
《いや……別に》
「別に、ってなによ。特に用事があるわけでもないのに電話してきたの?」
《ああ。だから悪いって言ってるだろ……》
聞くからに元気がない。いつものエヌラスからは想像もできないほど弱々しい言葉に、ノワールは眉を寄せた。――それとついでに言うのなら、自分が言おうとしている言葉がどことなくトゲがあるようになってしまうのにどうしようもなく自己嫌悪しながら。細心の注意を払いながら改めて深呼吸。
(落ち着いてわたし。やんわりと、優しくよ……)
「それじゃあ、どうしたのよ。エヌラス。元気がないみたいだけど」
《…………》
「だから、黙ってたらわからないって言ってるじゃない。こっちだって――」
《……お前の声が聞きたかった、それだけなんだ。……もう切るぞ、仕事の邪魔して悪かったよ……じゃあな》
(じゃあなって、そんな……二度と会えないみたいな言い方しなくても!)
「ま、待ってエヌラス!」
慌てて呼び止める。まだ通話は繋がっているのか、エヌラスは再び黙っていた。
「貴方、今どこにいるの!?」
《……ラステイションだ。それがどうした》
口から吐いて出た言葉にエヌラスからの返答は、ひどく疲れている様子だ。疲労を滲ませたなんてものじゃない。喋るのがやっとなほど、という様相にノワールは困惑していた。
ラステイションにいる? 窓の外を見れば雨が降っている。受話器から聞こえてくる環境音から雨音が僅かにだが耳に入っていた。
「まさかとは思うけど、外にいるの?」
《……ああ》
「雨降ってるのよ? 傘とか……」
《……》
「だから、ああもう! なんでいちいち黙るのよ! 今どの辺にいるの! 風邪引くでしょ、迎えに行くからそこ動かないで! いい、分かった!? 近くにある建物とか分かる?」
語気を荒げてノワールが捲し立てる。エヌラスが言った建物の特徴から場所を割り出すと、すぐに通話を打ち切って執務室を飛び出した。廊下でユニとすれ違って呼び止められる。
「お姉ちゃん、何処か出かけるの? 午後は執務室に篭もるって」
「そのつもりだったんだけど、ちょっと急用。すぐ戻ってくるから大丈夫よ」
「うん。わたしになにか出来ることある?」
「それじゃ、お風呂を用意しておいてもらえるかしら。それと温かい飲み物」
「……? お姉ちゃんが言うなら準備しておくね」
「頼んだわよ、ユニ。それじゃ行ってくるわね!」
慌ただしく傘を持ち出しながら教会を後にする姿に、疑問符を浮かべながらもユニは言われた通りに準備を始めた。