超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
プラネテューヌでは女神がこの二日ほど不在で大慌てのイストワールがあの手この手で二人を探していた。そこには呼び出していたアイエフとコンパも一緒にいる。
「それで、イストワール様。ネプテューヌとネプギアはまだ……」
「はい。何度も連絡をしてるんですが一向に繋がる気配がありませ――みゃあああぁ!?」
まるで猫のように叫び、ふらふらと落ちそうになるイストワールをコンパが受け止めた。
「だいじょうぶですかぁ?」
「は、はい……この着信――ネプギアさんから!」
『もしもし! わわ、ホントに繋がった!?』
「よかったぁ~、ご無事みたいですね。突然いなくなるから心配したんですよ? ネプテューヌさんは?」
『はい、一緒にいます。あとノワールさんも』
「ラステイションでも騒ぎになってましたからちょうど良かったです。それで、今どちらに?」
『あ、えっと――』
ネプギアは事の顛末を話し、バルド・ギアに替わった。
《初めまして。今ご説明いただいた通り、彼女達を保護している電脳国家インタースカイ国王、バルド・ギアです》
「はじめまして。イストワールと申します。すいません、この度はうちの女神達が……」
《いえ、お気になさらないでください、いーすんさん。……失礼、イストワールさん》
「いーすん、と呼んでくださっても構いませんよ。それで、本当に可能なのでしょうか? そちらの次元からこちらへの移動、というのは。私どもでなにかするべきことはあれば」
《では、そうですね。そちらの次元と座標を教えていただけますか?》
「はい。えーっですねぇ――」
《ありがとうございます。ステラ、探知は――二件? ……え、二件!? プラネテューヌで検索して二件ヒット!?》
「あ、言いそびれましたけど実はゲイムギョウ界の並行世界のような物がありまして」
《えー、それでそのもう片方のゲイムギョウ界のプラネテューヌというのは……》
「実は……こちらと同じく女神不在です」
《なんでそんな奇跡的な状況が重なってしまうんですか!?》
なんというか、バルド・ギアの慌てふためく様が通信越しに目に浮かんだ。確かに言われてみればそれもそうである。それにイストワールは苦笑するしかなかった。
「あ、そうだ。でも今、そちらにノワールさんがご一緒なんですよね?」
《あっはい。そうですけれど……》
「それでしたら、ラステイションで検索してみてはいかがでしょうか。そちらの検索機能がどれほどの性能かは存じませんが、女神不在のラステイションと同次元の方が都合がよいでしょう」
万が一“あちら”のゲイムギョウ界に飛ばされた場合は、繋がっている状態なので問題はないのだがそれはそれで迷惑がかかる。何か腑に落ちない様子でバルド・ギアが検索条件を設定したらしく、ヒット。
《はい、確かに。……ありがとうございます》
「どうかしたんですか?」
《いえ、なんでもありません……ただ世界は広いものだなと改めて実感してるだけです……》
「それでは、お待ちしておりますね。お二人共、迎えに行ってもらってもよろしいでしょうか」
「ええ、構いません。コンパ、行くわよ」
「はいなのです~」
指定された場所は、万一にも備えてプラネテューヌの外れにある草原だった。アイエフとコンパの二人が時計を確認しながらしばらく待っていると、やがて空から間延びした悲鳴が聞こえてくる。見上げると、三人が落ちてきていた。それに続いて見慣れないロボットが一緒に高高度から降下してくる。飛行ユニットを展開したバルド・ギアが三人を抱えて緩やかに着地した。
《無事に到着出来たようですね》
「うぇぇぇ~、気分悪いよう……うっぷ」
「目が回る~」
《ああ、それは恐らく移動する前に食事とかしたからでしょうね。本来であれば次元渡航の三十分以内は飲食禁止なのですが》
「じゃあなんでプリンとか紅茶とか出したのよ!」
《お客様ですしもてなそうと思ったからですが……それにまさか別次元から来たなんて思いもしないでしょう、普通》
それを言われて言葉に詰まる。自分達だって別次元のゲイムギョウ界の存在を知ったのはつい最近のことだ。
「ねぷ子、ネプギア」
「おー、あいちゃん! 我が心の友よー」
「ちょ、ちょっといきなり抱きつかないでよ!」
「何はともあれ、二人がいるってことは……」
「本当に私達、ゲイムギョウ界に戻ってこれちゃったんですね……」
馴染みのある感覚を身体に馴染ませるようにネプテューヌ達が軽く慣らし、再会に胸を踊らせたのも束の間。地面が唐突に揺れた。
「ぅわっとぉ……やっぱり地震とかまだ……」
「ええ。最近はまた頻度が上がってるの。それほど大きいものじゃないからいまのところ被害は少ないけれど」
「こうしちゃいられないわ。ネプテューヌ、私はラステイションに戻るわね。ユニも心配してるだろうし、空けていた間の仕事が溜まってるだろうから」
「あ、ちょっとノワールー……って、もう行っちゃった……」
変身してすぐに飛んでいなくなったノワールを見送り、ネプテューヌ達はバルド・ギアをプラネテューヌに案内する。すれ違う人々が話しているのはやはり災害のことだった。
「うーん、戻ったらまたいーすんに怒られそうだなぁ……」
「そうでしょうね。リーンボックスではライブの中止やモンスターの駆除で手一杯。ルウィーでも同様、災害も併発して大忙しよ。誰かさんと違って」
「もー、これでも私だってすっごく大変だったしやばかったし楽しかったんだからね!」
「遊んできたのか危険だったのか、どっちかにしなさいよ!」
「まぁまぁ。ねぷねぷが無事に戻ってきたからいいじゃないですか~」
「それは、まぁ、そうだけど……」
歩き始めてからすぐに森を抜けて、プラネテューヌを見下ろす。
「うーん、見た目そんな変わってないね」
「そりゃ貴方がいなくなってから三日くらいしか経ってないもの」
三日。――たった、三日間の出来事なのだ。それなのに随分と長く感じる。一瞬一秒の出来事がまるで昨日の出来事にも感じられた。そう思うだけでネプテューヌには疲れがどっと押し寄せてくる。あまりにも濃密な時間だったのだ。
エヌラスと出会い、振り回され、振り回され――振り回されて……。
“あれ、私エヌラスと出会ってから物理的に投げられてばっかじゃん!?”
「ふむ……とても平和そうですね。興味深いです」
『…………』
聞き慣れない青年の声に、四人が振り向いた。
そこにいたのは、バルド・ギア――のはずである。だが、二メートルに及ぶ機械の身体を有した機人はそこにはおらず、その代わりにそこに立っていたのは小さな丸メガネを鼻に掛けた、やや目尻の下がった温厚そうな中肉中背の青年。白いシャツを羽織っており、小首を傾げている。
「あの、ボクがなにか?」
『誰ェェェーーーーー!?!?』
ネプテューヌ達の叫びが草原に響き渡った。
「いや、あの、ボクです。私ですよ、バルド・ギアです! この姿は非戦闘区域や街の中を歩くときに使う電脳次元に保存した肉体データです。あ、とはいえちゃんと実体もありますのでご安心ください」
焦ってやや早口になっているが、ギャップがあまりにも大きすぎてネプテューヌはしばらく餌を待つ鯉のように口をパクパクとさせていた。
「で、ででででも、ロボットなんじゃないの!?」
「はい。普段はそちらの方が戦闘に適してますから、それにこの状態でも戦闘行動は可能です」
「インタースカイの武装も呼び出せるってことですか?」
「ステラがあちらとこちらの次元ルートを確保してくれたので、少々サーバーに負担は掛かりますが、次元間を隔てて武装の呼び出しをしても支障はありません。ご心配なく」
年は十代半ばか、後半に差し掛かっているというところだろう。上から下までじっくりと値踏みするようにネプテューヌが視線を投げると、少し戸惑っていた。
「えっと、あの。なにか?」
「あのロボットの中身がこんなだったなんてちょっとショックだなぁ……」
「こんなって、お姉ちゃん失礼だよ」
「だってあんなとんでも機能つけてるのに見た目まんまギャルゲの主人公みたいなんだもん!」
「貴方も言い方に歯に衣着せませんね!? そこはエヌラスとそっくりです」
「ぅげ!? マジで!? ぅあー、エヌラスとおんなじとかちょっと困るなぁ……ごめんね、今の前言撤回させて! 見た目平凡だよね」
「なんか言ってることに大した差が出てませんが、まぁ我慢します……」
「エヌラス? って、誰? もしかしてねぷ子。貴方向こうで男作ってきたの!?」
「ねぷねぷが大人の階段登ってるですぅ!」
「へっ!? いや違うよ!? 誤解だよふたり共!?」
「慌てて隠すなんて、怪しいわね……」
「です」
ネプテューヌに問い詰めるアイエフとコンパ。そんな三人のやりとりを一歩引いて眺めていたネプギアに、思い出したようにバルド・ギアが声を掛けた。
「あ、それとネプギアさん。あのお借りした機械ですが、お返しします」
「はい、ありがとうございます」
「インタースカイのサーバーを登録しておいたので、何かあればステラに通信してください」
「えーっと……バルド・ギアさん――?」
「この姿の時は、琴霧ソラ。ソラって呼んでください」
「わかりました」
「ひとまずは……そうですね。イストワールさんと会わせていただけますか。こちらの世界について知りたいことがありますし」
「どうなの、ねぷ子! そこのところハッキリ詳しく教えてもらえる!?」
「そうですぅ。ねぷねぷの彼氏さん、紹介して欲しいのです~!」
「だからエヌラスとはそんなんじゃないんだってヴぁ~!」
「……あの、あちらは……」
「えーっと……しばらく放っておけば収まると思います……」