超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「とにかく、ユウコに呼ばれて来たわけだが……」
「事情はともかくとして。こっちの次元でエヌラスが何かと問題起こすからどうにかしなさい」
「それがなぜ俺なんだ?」
「そりゃお前くらいしかいなかったからだよ」
「他にもいるだろう? メガネとかアルシュベイトとか、アゴウの守護女神とか」
「じゃあなんでお前来たのか言ってみろ!」
「暇だった」
「ほらぁぁぁ、コイツこういう奴! こういう奴なんですよみんな!」
見た目は紳士的に決めてはいるものの、中身は誤魔化せない。結局のところ大魔導師にしてみれば、エヌラスのことも「暇潰し」の一環でしかないのだ。
ソラはインタースカイで国務に追われ、アルシュベイトもまた国家軍事演習の指揮を執り、アゴウの守護女神はその最たる人。そうなると最早、手の空いている相手が大魔導師くらいしかいない。ドラグレイスも一応連絡はしてみたもののやる気無し。結局、この人しか頼れなかった。
「え、えっと……あの、でもエヌラスさんの場所とかわかります?」
「いやまったく。まぁそこはそれだ。適当にゲイムギョウ界とやらを観光しながら探す」
「ほんとうに大丈夫かなぁ。大魔導師だよ?」
「……俺を知っているような口ぶりだが、以前会ったことでもあるか?」
「覚えてないだろうけど、会ったことあるよ」
「――そうか。ふむ、俺も物忘れする歳にでもなったかな」
ネプギアが内心冷や汗を流しながらネプテューヌに耳打ちする。
(だ、ダメだよお姉ちゃん! 大魔導師はわたし達と出会った記憶がないんだから、思い出させるようなこと言っちゃ!)
(えー、でもどう言えばいいの?)
「ま、いいか。忘れることもある」
「大魔導師。お前もしゲイムギョウ界で問題起こしたら九龍アマルガム、社会的国債で潰すからな」
「そういう材料には困らない国だからな、ハッハッハ。俺も面倒な国を治めてると常々思うがそれくらいが丁度いいんだ」
言いながら、大魔導師が上着を翻すと変身魔法少女も驚きの早着替えでラフな格好へと早変わりしていた。手にしていたスーツの上着はいつの間にか黒のマントへと変化している。それに驚いているイストワール達の横を抜けて、大魔導師は勝手にバルコニーへと出て行った。プラネテューヌを一望して、目を細める。
「あそこの屋台のソフトクリーム美味そうだな」
「何処見て言ってるんですか!?」
「公園。キャラメルプリンカスタード味」
「プリン!? どこどこどこどこ!」
「じゃあちょっとアイスでも食いながらのんびり探してみるとするか」
「えっ、あっ――ちょっと。ここは――!?」
アイエフが呼び止める間もなく、大魔導師は縁に乗るなりネプテューヌ達に向き直った。
「なに、心配するな。観光しながらエヌラスを探せばいいんだろう? 任せておけ、こと暇を潰すことに関して俺は天才的だぞ」
そして、そのまま背中から落下していく。
『ポカーン……』
それを見ていた全員が口を開けたまま、静かに時が流れる。
「な、なんというか……」
「……超常現象が服着て歩いてるような人だったわね」
ミリオンアーサーとチーカマの表情が引きつっていた。
――余談ではあるが、その日の夕方のニュースでは『プラネテューヌにフライング・ヒューマノイド現る!? 目撃者多数。証言者曰く「カメラを向けたら笑いながら手を振っていた。まるで悪夢のようだった」とコメント』という緊急報道がされていた。
それに頭を抱えたのがユウコだったのは言うまでもない。
ゲイムギョウ界で日が暮れていく。ノワールとユニがラステイションの教会へと戻ってくるがまだ仕事が残っていた。それにクタクタになりながら意気込むノワールが執務室の扉を開ける。
「…………ん。ああ、おかえり。ノワール」
「――た、ただいま……」
ラステイションに関する資料に片っ端から目を通していたエヌラスが顔を上げた。ソファーに山積みにされている本の山は出かける前にノワールが用意しておいたものだ。それが半分近く消化されている。エヌラスはそれでようやく時間の経過に気づいたのか、外を見て夕焼け空に目を擦った。
「あれ。もうこんな時間なのか」
「もしかして、あなたずっと読んでたの?」
「他にすることなかったしな」
「えっと、お昼は?」
「…………食べて、ない」
「はぁ~……」
心底呆れる。どうしてこう、人が目を離すとすぐに生活リズムを乱すのか。ノワールはエヌラスの鼻先に指を突きつける。
「一日三食! 規則正しい食生活と生活リズムを心がけて! いいわね!」
「あー……ダメ、か?」
「ダメに決まってるでしょ。そんなんじゃいざっていう時に守れないわよ」
「……それは困るな」
「そうでしょ。分かったら明日からちゃんとご飯食べてよね、エヌラス」
「ノワールが言うなら、出来るだけそうするさ」
「わたしに言われなくても出来るようになりなさいよ。ご飯の用意しなくちゃ」
執務室を後にするノワールを見送って、エヌラスはキリの良いところまで読み終えた本を閉じた。
「一日中読書してるなんて、ちょっと意外でした」
「そうか?」
「なんていうか、もうちょっと野蛮な人だと思ってたので」
ユニもエヌラスの勉強熱心なところは評価するらしい。本人はそんなつもりはないのだが――頭を掻いていたエヌラスが、ふと思い出す。
そういえば、修行時代にも似たようなことをしていた。書物に触れて、知識を蓄え、研鑽し、そこから新たな知恵を生み出す。先人の教えを乞う為に書物を紐解くのだと大魔導師から教わった。
(…………俺に出来ることって言ったら、そりゃあ)
真っ当に生きていくうえで、まったく何の役にも立たない外道の知識ばかり。それらをゲイムギョウ界の規則に合わせてコンシューマー化させるとなると、少々勝手は違うかもしれないが出来ないことはない。何はともあれ、まずは行動。人生の基本だ。
薬物の調合と等身大の人形作り。魔術に関する銃器カスタマイズ。おおよそ普通とは言いがたい技術を駆使したものばかりだ。それがゲイムギョウ界に需要があるかと聞かれたら、まず間違いなくコア向けだろう。
「……うーん」
「どうしたんですか?」
「いや、ちょっと考え事」
出来ることと出来ないことを考える。手持ちの資金と、ラステイションのマップを脳内に描く。そして、そこから廃棄された工業区画の位置。教会までの道のりを軽く思案する。
教会から距離があって、かつラステイションで人気のない場所……当然治安の悪さも考慮しておくが、その辺は九龍アマルガムで嫌というほど骨身に学んでいる。“制圧”するのならば一昼夜もあれば可能だろう。当然、アール指定だが。
「……そうして大人しくしていてくれれば、わたしもお姉ちゃんもあなたのこと、無碍に扱ったりしません」
「そうだな。このまま何事も無く過ごせればいいとは思ってる」
「どれくらい滞在する予定なんですか?」
「決めてはない。でも、一週間も居ないと思う。安心してくれ、ユニ。お前からお姉ちゃん取ったりしない」
「なんか、子供扱いしてませんか?」
「俺の悪い癖のようなもんだ」
とりあえず、また明日天気が良ければ出かけよう。それで手持ちが足りないようなら、女神の仕事とは別口で稼ぎに出るだけだ。邪神の動きが無いのが不気味ではあるが――平和に越したことはない。