超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「まったくもう、いなくなったと思ったらとうとう男遊びまで始めるなんて女神失格ですよネプテューヌさん!」
「いーすんまでそういうこと言っちゃう!?」
「それも出会ってまだ三日も経たない人となんて、いつからそんなに尻軽になっちゃったんですか!」
「私の話聞いてる~?」
「あ、でもゲームばかりでなくてそういったことに興味が出てきたのは悪いことではないかもしれませんね。うんうん。でも私としてはやはり健全なお付き合いを――」
「いーすん~!」
プラネテューヌの教会に着いてからもしばらくネプテューヌいじりは続いていた。バルド・ギア――もとい、琴霧ソラは時々メガネを直しながら事が収まるのを待っていたが、このままでは延々と続きそうなので片手を挙げる。それに気づいてイストワールが目の前に移動した。
「じ~」
「えーっと、どうも」
「……ネプギアさんも彼氏作ってきたんですか?」
「へっ!? ち、ちち違いますよ!?」
「はい、違います。私はあくまでも今回の件について調査のために同行しただけですし、そういった話題とは無縁です」
淡々と即座に否定するソラに、イストワールはほっと一息。
「よかったぁ。ネプギアさんまでそんなことを始めてたらどうなることかと」
「あれ、私ネプギアより信用ないの!?」
「当たり前です。普段の行いを見れば当然の結果でしょう、ささ、ネプテューヌさんはお仕事してください。私はこれからソラさんと今回の事件についてお話がありますから」
「ほーら、ねぷ子はこっちよ。国民からモンスター退治の依頼、一杯来てるんだから」
「あーれ~~~……」
アイエフに引きずられていくネプテューヌと、それについていくネプギアを見送ってからイストワールは改めて自己紹介すると、律儀にもソラは同じく自己紹介を返す。
「ボク達の世界でああいった戦いは確かに周期的に起きているのですが、今回の戦いは別次元にまで被害を及ぼすとは想定外の事態が続いて……大変申し訳ありません」
「いえ、そんな。そちらの事情というのもありますしお気になさらないでくださいませ。そもそも次元連結装置とやらの事故なのでしょう?」
「はい。……そうだと、思います」
「なにか気になることでも……」
事件の発端は、確かに次元連結装置だ。シェアエネルギーを使い、別次元との邂逅を果たすための装置。だが動作不良としても他の世界に影響を及ぼすとは考え難い。
最終段階に差し掛かって、エヌラスが突然破壊に乗り出した。その理由を問おうとする前にこちらに銃を向けてきて説明を聞く暇もなく戦争が起きてうやむやになっている。
次元連結装置のプログラムは動作テストを重ねた上で完璧に稼働していた。それに立ち会っていたエヌラスもアルシュベイトもドラグレイスも確認している。そうなると考えうるのは第三者によって何らかの手が加えられた可能性だ。仮にそうだとして、それが一体誰の手によるものなのか。それを知っていたエヌラスが破壊しようと、計画を中止しようとしたとして――なぜ何も言わずに凶行に乗り出したのかまでは分からない。
「あれは、本当に事故だったのか……」
「ソラさん?」
「あぁ、いえ。すいません、イストワールさん。ちょっと考え事です。それよりも詳しいお話を聞かせてください」
「はい。ではまずこちらのゲイムギョウ界についてですが――」
今はまず、この次元を超えた災害の後始末をしなければ。ソラはすぐにイストワールの説明に耳を傾けた。
一方で、ラステイションに戻ったノワール。溜まりに溜まった仕事の山を見て、気合を入れて取り掛かる。
「お姉ちゃん、おかえりなさい」
「ただいま、ユニ。今ちょっと手が放せないから用があるなら手短にお願い」
「どこ行ってたの? 調査に行ったきり連絡もなかったから心配したんだよ?」
「ちょっとね。まぁ、いずれ話すわ。それは?」
「新しい書類。置いておくね」
「ええ、ありがと」
帰ってきてから女神としての仕事に精を出すノワールと、そんな姉に素直に喜びを表せないユニの会話は事務的なもので終わった。
「……なに?」
「えっと……手伝えること、ないかなって……」
「そう。……それなら、そうね……ちょっと調べ物を頼まれてくれる?」
「うん!」
「どんな些細な情報でもいいから、アダルトゲイムギョウ界について調べてほしいの」
「アダ……、お姉ちゃん。それって、私が調べても大丈夫なのかな……?」
「んー、いいんじゃないかしら。それに近い情報でもいいから、お願いできる?」
「お姉ちゃんの頼みなら……やってみる!」
「ありがと、ユニ」
「あ、それと。お姉ちゃんが戻ってきたってことは、ネプギアも一緒に戻ってきたの?」
「ええ。ネプテューヌもね。それがどうかした?」
「ううん、なんでもない。それじゃ調べてみるね」
機嫌が良さそうに執務室を後にしたユニを見て、ノワールは首を傾げる。やってもやっても片付かない書類の山を前に、手を休めている暇など今はないのだ。こうして腰を落ち着けて、改めて自分が経験したことを思い返す。
アダルトゲイムギョウ界に踏み入ったその日に屈強な男たちの手で自分は純潔を汚されそうになったのだ。思い出すだけでも腹が立つと同時に、嫌悪感が増す。だが、そんな窮地を救ったのがエヌラス。
“……まったく、何を考えてるのかしら”
腹立たしいのは事実だが、それが不思議と気にならない。多分、きっと、恐らくは、なまじ顔が良い上に実力も兼ね合わせているからだ。そうに違いないとノワールは無理やり納得することにした。ただ、変神してからのエヌラスとお近づきになりたいとは思わない。
アルシュベイトが来て、トライデントに送り届けられ、インタースカイからゲイムギョウ界にこうして帰ってこれたのだ。しかし、乗りかかった船。ノワールの頭の片隅にはエヌラスの姿が焼き付いて離れない。
「あぁぁぁぁっ、もう! なんだってあんな奴のこと気にしてるのよ私は!」
もやもやとした気持ちに苛立ちながらノワールは手を止めなかった。
「こうなったらもう、とっとと仕事終わらせて――終わらせて……」
終わらせて、どうすればいいだろう? 一人で乗り込むにも不安が残る。そうなるとネプテューヌ達と? ベールやブランを誘って? 四女神が揃いも揃ってゲイムギョウ界を不在にするのはあまりにも危険すぎる。何より国民たちに不審がられる。実は別次元の戦争が影響しています、などと公表して解決に乗り出したとしたら別なゲイムギョウ界も怪しまれる可能性が……。
“なにか……なにか理由は無いかしら……”
エヌラスに会って、自分は何がしたいのだろう? そう考えるだけでノワールの胸には言い様のないモヤが積もる。その都度、手が止まり、書類が進まない。これではまるっきり仕事にならなかった。
「あー、もう!」
机を叩き、ノワールは憂さ晴らしと言わんばかりにモンスター退治の依頼が来ていないか片っ端から調べあげ、それを全てまとめるなり席を立つ。
そう、ただの“八つ当たり”である――。
「国民を脅かす凶悪なモンスターは一匹残らず駆逐よ、駆逐してやる! 片っ端から斬り伏せてやるわ!」
――なお、駆逐という言葉は一見凶悪そうに思えるが実際は追い払うという意味である。ノワールは執務室の扉を乱暴に開け放つなり街へと向かっていった。
結局、書類は山積みのまま放置されている。
ユノスダスを目指して森の中を歩いていたエヌラスだったが、突然プルルートが立ち止まるなり座り込んだ。
「もう疲れたよぉ~」
ずっと歩き通しだったのだ。無理もない。かといって休息を挟もうにも敵の襲撃にも備えなければならなかった。
「変身して飛んじゃダメなの~?」
「俺が飛べないんだ……ごめんな」
「え~?」
「――なぁプルルート。“おんぶ”と“抱っこ”どっちがいい?」
少しだけ意地悪してやろうかとエヌラスが投げかけた問に、プルルートは顔を少しだけ赤くして両手を突き出した。
「えっとね~、だっこがいいなぁ~」
カウンターからの強烈なアッパーが突き刺さりエヌラスが撃沈する。
――だっこ? だっこだと!? 冗談じゃねぇ、そんな姿見られた日にはなんて噂が立つか知れたもんじゃない。正真正銘言い逃れのしようがないロリコンの烙印を押されてロリの国を作るためにエヌラスは寝る間も惜しんで血眼になりながら命を懸けて孤独に戦っているとか言われようものならいっそのこと自害したほうがマシな風評被害だ。いっそ殺せ。提案しておいてなんだが、それでも満更でもなさそうなどころか完全に受け入れ態勢、ランディングギアオッケーバッチコーイなプルルートが笑顔で“抱っこ”を待っている。男に二言はないかもしれない。二度と言えないかもしれない。そして俺は二度と言わないことをここに誓った。
「えへ~」
「神などいない……!」←仮にも神格者
「男の人にこういうことされるの憧れてたんだ~」←現役女神様
女神様をお姫様抱っこしながら森の中を歩くエヌラス。首元に手を回し、頭を寄せるプルルートの胸の上にはねぷぐるみが置いてあった。
「女神様ってぇ、出会いがないからねぷちゃん達にぃ自慢できちゃうな~」
“俺が社会的に死刑宣告されている気がしてならない”
もしそれを言いふらされでもしたらエヌラスがロリコンの国王という不名誉極まりない二つ名で呼ばれる可能性が高い。もし本当にそんな呼び名が広まった日には戦禍の破壊神の異名たる由縁を見せつけるまである。