超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「……そういうことなら、お言葉に甘えさせてもらおうかしら。今、アダルトゲイムギョウ界はどうなっているの?」
「別段、変わったところはない。平和そのものだ。邪神が降り立ちさえしなければ、だが」
とはいえあの世界に邪神が降り立っても――アルシュベイトとアゴウの守護女神、それに加えて大魔導師がいる。それだけの戦力が揃っている世界に降り立った邪神は、運の尽きとしか言いようが無い。だがそれで何故、エヌラスは邪神退治を始めたのか。
「壊次元に邪神が現れてもあの世界の住人なら倒せるんじゃないの?」
「今まではな。そうだったよ……だが、仮面の邪神だけは別だ。アイツの呼び寄せる邪神は他と違う。それまではアルシュベイトを筆頭とした神格者たちで倒せていたが、それだけで倒せる相手ではない。現に――既に一度、アルシュベイトは命を落としている」
「!?」
「その後は、まぁ知っているだろう。機人となったあの男の姿を」
つまり、今回もアルシュベイトは機人として君臨しているということ。ノワールはそれに深く頷いた。
「エヌラスはどれだけ邪神退治を?」
「通算すれば、十年だ。それ以前の塔争ならば半世紀になるな」
「――――」
「まぁ、そう驚くことでもないだろう。どうせ終わればなくなる。何事も無くな。巻き戻るだけだ」
セロンの一言に胸糞悪くなりながらノワールはそれを飲み込み、質問を続ける。
「エヌラスが今までどんな邪神と戦ってきたの?」
「……それを聞いてどうする」
「あら。答えられないかしら」
セロンにとって不都合なことならば、答えまい。だが、仕方なくといった様子でセロンは続けた。
「まず最初は、吸血鬼を狩る吸血鬼だった。真っ先に狙われたのがユウコとムルフェストであったのがソイツの運の尽きだったな」
キレたエヌラスが心臓に銀の杭を打ち込み、四肢を切断して十字架に張り付けたと、吸血鬼にしてみれば弱点特攻のオンパレードだ。灰も塵も残さず消滅させた、とセロンが語る。
「次は、亡霊だ。取るに足らない、故に何処にも定まらない亡霊だった。街に潜み、夜を歩き、人に紛れて過ごす一風変わった邪神だったな」
「それは、どうやって倒したのよ」
「……街の区画ごと、消滅させた」
犠牲となったのは例のごとく九龍アマルガム。苦笑すら浮かばない。
「
「……そんなのと戦い続けてきたの?」
「仮面の邪神は、俺の左眼を奪ってしぶとく生き残っているようだがな」
それのなにが面白いのか、口端をつり上げてセロンは嘲笑っていた。
「なにがおかしいの」
「強いてあげるならば、この番狂わせが面白い。中々に愉しませてくれるよ、あの邪神は」
「あなた、左眼取られてるのよ?」
「それがどうした? 私にしてみれば、右目であろうと左目であろうと構わんさ。片目ひとつあれば事足りる」
「……痛くないの?」
「痛みなどない。多少なりとも不便だが、それには目を瞑ろう」
神様なりのジョークなのだろうが、笑えない話だ。それで今、エヌラスは酷い目に遭っているというのに。
「仮面の邪神は、今どこにいるの」
「それは私にもわからん。なにせ、あの邪神と遭ったのはたった二回だけだ」
「二回……?」
「最初の一回は、左目をえぐりとった時。二回目は――」
そこでようやくセロンは読書を続けていた手を止めて、ノワールと目を合わせた。
「エヌラスを殺すと、宣言しに来た時だ」
「……」
「理由は分からん。が、仮面の邪神はエヌラスを殺すことに執着している。アイツの目的は徹頭徹尾、それだけだ。故に、次元渡航能力を持つエヌラスに対抗するために俺の左目を奪ったのだろうな」
その結果が、超次元に出没した甲冑騎士の邪神。
「質問は終わりか?」
「……もう一つだけ。エヌラスの身体は、治せるの」
「健康診断も体調管理も私の管轄外だ。どうにもならん。ただ――」
可能性はある。
「私ではなく、大魔導師に言うといい」
「でも、記憶が無いんでしょ? 大魔導師も」
「いいや」
「えっ――」
「正直なことを言うと、大魔導師は記憶が戻りつつあるかもしれん」
「ど、どうして!?」
あらゆるリセットを繰り返してきたというのに、記憶を取り戻す? どうやって? セロンの束縛から逃れて。
「……大魔導師だけは、どうにも妙なのだ。この半世紀、リセットを繰り返してきてもあの男だけは、動きが読めん。記憶を取り戻す可能性が最も高い――それも、自分の手でな」
「そんなことが可能なの?」
「結論から言えば、可能だ。最も、だからどうだというわけなのだがな?」
「でも大魔導師が記憶を取り戻したらあなたも困るんじゃないの」
「それはなぜだ?」
「だって」
ノワールの記憶にある大魔導師は、未来に絶望した人。ゆえに世界を破壊すると自らの命を天秤に躊躇なく載せて賭けた狂人である超人だ。記憶を取り戻せば、また世界を破壊するのではないだろうか?
そんなノワールの心配を表情から察したのか、セロンは「ああ」と相槌を打った。
「その点は別にどうでもいいんだ、困るのはエヌラスぐらいでな。私としては、世界を壊すのにほかを巻き込もうが、勝手に滅ぼうが構わないんだ。作り直せるからな」
「あなたねぇ!?」
「ただ、エヌラスが壊次元を消滅させるのだけは危険過ぎる」
「どうしてよ!」
「直せないからだ」
即答して、ノワールが言葉を詰まらせる。そういえば、塔争を半日で終わらせた時もあると言っていたが――あれはつまり、そういうことだ。箱庭の世界で壊れるのであれば、作り直せる。創造主たるセロンならば造作も無い。しかし、エヌラスは本来、壊次元の存在ではない。
何処の次元世界で生まれたのかも定かではない魔人。故に、どこの次元世界にでも現れる。まるでシュレディンガーの猫のように。猫要素皆無だが。
絶望による救済を求めた人々が迎える結末は、同じだ。ただ、無に還る。跡形も残さない。そうなってしまえば、セロンですら手が負えない。
「エヌラスの破壊は、何も残らない。残さない。虚無の一言に尽きる。だから危険なのだ。次元破壊爆弾が歩いているようなものだぞ?」
「あなたがそんな冗談言うとは思わなかったわ。笑えないけど」
「もう質問は終わりか。なら、そろそろ起きるといい。正直、私はもう眠い」
「寝るのはいいけど、わたし達の生活を覗き見ないでよ」
「安心しろ。俺が眠っている間に見る夢は、超次元だけとは限らない」
セロンが両手を広げる。ノワールは呆れていた。
相変わらず、この次元神は分からない。だが――その姿に、大魔導師がダブって見えた。
「おはようの時間だ、守護女神。良い余生を」
「縁起でもないわね」
――ノワールが目を覚ますと、先に起きていたエヌラスがジッと顔を見ていた。まだ少し寝ぼけている頭で見つめ合うこと数秒。
「……おはよう、エヌラス」
「おはよう、ノワール」
「なに? わたしの寝顔見てたの……もうやだ、恥ずかしいじゃないぃ」
「いや、だってなぁ。かわいかったし」
「……今、何時?」
ノワールが時計を見ると、既に時刻は九時前。飛び起きて、慌てて着替えようとして姿見の前で立ち止まる。
ネコミミがピコピコ跳ねて尻尾が揺れていた。
「んにゃぁぁぁぁ!! 忘れてたぁぁぁーーー!!」
「寝起きで騒ぎ過ぎだろ、ノワール」
「あなたはなんでそんなにのんびり構えてるのよぉ!? 早く! 中和剤!」
「落ち着け。今用意するから」
「お姉ちゃん、どうしたの? 朝から……」
無慈悲に開けられる私室の扉。
そこには起き抜けで着替え途中のノワールが下着姿で硬直していた。
エヌラスも着替えている最中でズボンに足を通したばかりだが、半裸だった。
――そこから導き出される結論は、ひとつ。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
ギィー、バタン。無言でユニはドアを閉める。
「わたしは! 何も見てない! 何も見てないからね、お姉ちゃん! 今日も元気にお仕事頑張ろうね!」
「もうにゃああああーーーー!!!」
その後、ノワールは中和剤を飲んでケモミミを取り払ってから女神の職務に打ち込んだ。