超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
トントン拍子に話が進んだものの、生活をする上で必需品を揃えるための資金が心もとない。それも害虫駆除を終えた報酬で間に合う計算だが、それまで時間をどうするか。相手方から折り返しの連絡があるまでラステイションで買い物でもしようと歩く。
そんなエヌラスの姿を物陰から観察する姿があった。
白い毛並みの生き物ではなく――物陰から覗くのは二人の少女の姿。頬がくっつく程近づきながらも、二人の間には険悪なムードが漂っている。
「ふふふ、やはりわたしの電撃速報の情報網にビビッと来ましたね……」
「それ、元々わたしが持ってた情報なんだけどなー。ラステイションに有利な偏向報道ばかりのあなたより先に掴んでたんだけど」
「でもラステイションに来てから発見したのはわたしの方が先です」
「はいはい、そーですねー」
なげやりな態度で答える少女の視界から、エヌラスの姿が人混みで見えなくなりそうになっていた。
「あ、どこかに行きましたよ! 追いかけないと!」
「言われなくてもそのつもり。というか、そんなに騒いだら見つかるよ?」
「そんなのんびりしていても置いていかれますよ。ではお先に!」
「あっ、ちょっとー!」
急いで角から飛び出した二人はエヌラスの後をすぐさま追う。しかし、つかず離れずの距離を保ちながら人混みの中を移動するのは難しい。背が高いのが幸いして見つけやすい。しかも全身黒ずくめでわかりやすいというのも二人には都合が良かった。にも拘らず、曲がり角を曲がって後を追うとその姿は忽然と消えている。
「あ、あれ!?」
「あの人、確かにこっちに曲がったはずなんだけど」
二人が周囲を見渡してもそこにエヌラスの姿はなかった。
「どこに行ったんでしょうか……」
「見失っちゃったね」
「おい、さっきから人の後ろを尾行してるそこの二人」
『ひゃあぁっ!?』
二人が飛び跳ねて恐る恐る振り返ったのは、曲がり角のそばにある薄暗い路地裏。その入口で眉をひそめながら腕を組んで、エヌラスが待ち構えていた。
「ご、ごめんなさい! お金とか持ってないです!」
「命ばかりはご勘弁を!?」
「誰もそこまで要求してねぇよ」
「そうなんですか?」
「取って食われるかとばかり」
「食われてぇのか。胃袋の頑丈さには自信があるぞ、俺」
なんせ腹痛に悩まされたことがない。食あたりや食中毒とは無縁だ。それに二人の少女は首を横に振っていた。
「いえいえいえいえいえ滅相もありません!」
「いつから気づいてたんですか?」
「割と最初の方から……」
尾行するにしてももうちょっと、こう。気配の消し方とか距離のとり方とかあるだろうに。四六時中暗殺者に付け狙われるような犯罪国家はこの際忘却の彼方に投げるとして、エヌラスは改めて二人の少女を見やる。
片方はツリ目で黒い服装に身を包んだ快活な少女。手に持っているのは黄色い……クマ? らしきヌイグルミ。
もう片方は、何をどう間違えたのかエビを持っている。なんでそんな海産物を持っているんだ。こちらはヌイグルミというよりは鈍器のような光沢をしている。
「…………まぁ、とりあえず。立ち話も疲れるし適当に腰を落ち着けるか」
「は、はい」
「あのー、路地裏に連れ込まれたりしませんよね」
「誰がするか!」
むしろ望み通りにしてやろうか。
近場の公園でベンチに腰を下ろして、ひとまず落ち着ける。此処に来るまでの二人は、まるで誘拐犯に拉致されるいたいけな少女よろしくな状態で通報でもされるんじゃないかと不安で仕方なかった。
「ほい、ジュース」
「ありがとうございます」
とりあえず二人にジュースを買い与えて落ち着けさせる。
「……細かい自己紹介は割愛するぞ」
多分、この二人は知ってて尾行していたのだろうから。
「というわけで、ほい。自己紹介、そっちの黄色いクマのほう」
「はひ!? わたしですか!? ゴクゴク」
「飲んどる場合かァー!」
「ひゃい、ごめんなさい! わたしは、デンゲキコです! 記者やってますぅ! あとこのクマはポリタ――」
「つぎそっち。エビ」「無視ですか!?」
「わたしはファミ通。そっちのデンゲキコと一緒でゲイムギョウ界の記者をしてます」
感情表現の激しいデンゲキコに比べると、ファミ通は落ち着いていた。
「なんで俺のこと尾行してたんだ?」
「それは、当然です! わたしデンゲキコはラステイションに、もといノワールさんを! 中心に広報活動を行っているんですから」
「記者って普通中立的な立場じゃないとダメなんじゃないのか?」
「仕方ありません。こういう子なんです、その点わたしはちゃんとしてますよ」
「なんですと!? 今回の情報だってわたしの方が先で」
「だからそれはわたしが」
『ムムムムムム……!!』
「喧嘩すんな」
つまり、二人は記者として取材がしたいということだろう。ゲイムギョウ界を騒がせる人物がラステイションをふらついていたら、次の記事のネタを常に探している二人からすると見逃せない格好の的。時間を確認して、連絡が来るまでの暇潰しに取材くらい受けてもいいだろうとエヌラスは応じた。
「それで? 二人は俺に突撃取材でもしに来たのか?」
「まぁ、お時間があるようでしたらお願いします」
「抜け駆けは禁止ですよ! グビーッ! ぷはー。あ、ジュースごちそうさまです!」
「あー、うん。待ち合わせしてるんだが、相手方から連絡もまだないみたいだしそれくらいならいいぞ」
「あの、ナチュラルにわたしのこと無視してませんか! 差別ですよこれ!」
「あ、気にしないでください。こういう子なんです」
「そういうことらしいから積極的にスルーしていくぞ」
「イジメじゃないですか! カッコ悪いですよ! わたしの取材にもぜひぜひお願いします!」
はいはい、となだめながらエヌラスは腰を下ろす。二人からやや離れてベンチに座ると、早速デンゲキコはペンとメモを取り出した。
「じゃあ、電撃取材を始めます! 準備はよろしいですね!」
「はいはいはい」
「うわー投げやりな返事。どう思いますかファミ通さん」
「いいんじゃないかな。一応取材は受けてくれるみたいだし、見かけより悪い人じゃなさそう」
「……なぁ、俺の外見ってそんなに悪人なのか……」
「はい。すごく悪人面してます」
思ったことをそのまま率直に言ってくれるのはありがたいが加減を知ってほしい。
「えーっと、それじゃあまずはわたしからいいでしょうか。こちらでもある程度は調べてはいるんですけれども、確証が持てる情報が少ないので」
「ああ」
「プラネテューヌで活動してましたよね。向こうのギルドで見慣れない黒服の男性が出入りするようになったと聞いていますけれども」
ニコニコと温和な笑顔を浮かべるファミ通のインタビューに、エヌラスはポツポツと話し始めた。
「ラステイションでお仕事はしないのですか? プラネテューヌだと女神のお手伝い、という形でしたけど」
「そこまで知ってるのか」
「はい。わたしはこちらのデンゲキコと違って各地で調査してますから、結構顔が広いんです」
「ちょっとぉー! それではまるでわたしがファミ通に劣っているみたいではないですかっ! それを言ったらわたしはノワールさんやラステイションやノワールさんやノワールさんや! ノワールさんのことについてでしたら決してファミ通に負ける気はしません!」
「お前の情報網、限定的過ぎないか」
それは記者としてどうなのだろう。とはいえ、それに興味がそそられるのもまた事実。ひとまずそちらは置いといて。
「こっちでも仕事はする予定だ。とはいっても、ノワール……女神ブラックハートはひとりで何でも出来るみたいだし。ぶっちゃけ俺がしてやれることなんて何もねぇよ」
「なるほど。確かにそうですね。ラステイションはゲイムギョウ界のトップを独占していますし、それはひとえにノワールさんが日夜頑張っている結果です」
「特に、ここ最近は眼を見張るものがありました。今まで以上に精力的に取り組んでいたみたいです。そこでひとつふとした疑問なのですけれど、ノワールさんとはどういったご関係なのかズバッと言っちゃってください!」
「どういった関係って、別に。恋人ってほどでもないし、そんなに面白いものでもないぞ?」
「ふんふん。では、エヌラスさんにとって恋人ってどういった人なんですか」
ファミ通からの無垢な問いに、エヌラスは苦い思い出が甦る。今にして思えば、初恋だったのかもしれない。九龍アマルガムに立ち寄る度に彼女の姿を探さないように気を遣っていた。願わくは、何も知らずに生きていて欲しい。ただそれだけだった。
「……俺にとっての恋人か」
命に代えても守らなきゃいけない大切な人。しかしそれを言ったらキリがない。ありきたりな回答になる。それが決して悪いわけではないが、エヌラスは自分が思い描く恋人の在り方を考えた。
「んー……言葉にしづらいな。ただ、なんて言うかな。何もしなくてもそばにいるだけで胸が満たされるとか、幸せだとか。なんか、そういうの口にするのも無粋だろ?」
自分で言ってて照れ臭くなってくる。そっぽを向いて頬を掻く。押し黙る二人が目を白黒させていた。
「って、人に聞いといてなんで黙るんだよお前ら! 何か言ってくれ」
「そういうの、素敵だと思います」
「はい。思わずわたしも胸がキュゥンとしちゃいました。意外とロマンチックなんですね、エヌラスさん」
「顔に似合わなくて悪かったな……!」
「意外とロマンチスト、と……」
「そこ、メモすんな」
デンゲキコの手を止める。
「それで、ラステイションでのお仕事はどんなことを? やっぱりギルドでモンスター退治などでしょうか」
「いや、そっちは放っておいてもノワールがやってくれるだろうし俺の出る幕じゃない。だからプラネテューヌとはアプローチを変えてみることにした」
「ほほう、というと?」
「女神の仕事を邪魔しない範囲で、俺の生活費兼ラステイションの活性化に繋がれば御の字ってところか。手始めに下水道の害虫駆除を引き受けたんだけどな、まだ連絡が来ない」
そろそろ連絡があってもいい頃だと思っていたが、相手方も都合があるのだろう。
「不躾なお願いかもしれませんけれど、エヌラスさん。もし良かったら現地で取材させてもらってもいいでしょうか」
「下水道だぞ? 女の子連れて歩くような場所でもないと思うが」
「いえいえ。此処はちゃんとアピールしておかないと。どんなに些細なお仕事でも、これから先名前を売っていくことになるんですから」
「そうです! 現にわたしなんて「デンゲキコ=ラステイション=ノワールさん」ですからね! これはつまり「わたし=ノワールさん」ということではないでしょうか!?」
「目覚まし時計持ってないか、ファミ通」
「寝言だと思われてますコレ!? いくらなんでも冗談だと気づいてますよね!? ねぇ!?」
しかし、ファミ通の言うことも確かに一理ある。これから先、ラステイションで無名の一市民として活動をしていく中で知名度が皆無というのは商売上、よろしくない。実に厳しい状態からのスタートとなる。悪名名高いと言われたら、まぁそれは不名誉なことなのでノーカウント。
「わたし達は取材が出来る。エヌラスさんはわたし達を通じて、ラステイションやゲイムギョウ界で名前が売れる。ほら、お互いの為になるじゃないですか。わたしもエヌラスさんのことをもう少し知りたいですし」
「わたしも! わたしもですからね! ファミ通さんばかりズルいですよ」
「あーはいはい。分かったよ。そういうことなら手を借りることにする、よろしく頼む。ファミ通、デンゲキコ」
「やったぁ。こちらこそよろしくお願いします、エヌラスさん」
「よーっし、これで明日の電撃速報のネタには困りませんね!」
自分の欲望に正直で実によろしい、デンゲキコ。お前後でちょっと覚えてろ。下水道にさりげなく落としてやるからな。エヌラスは内心穏やかではなかった。