超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――神経接続。同調開始。
いつもの起動シークエンスを順当にこなしながら、冷たいガレージで機体に乗り込む。その様子を専属のオペレーターが見守る。
――オペレーティング・システム、起動。各部稼働チェック、異常なし。システム正常。
それは、彼が出撃する度に見てきた光景。それを律儀に見守ることは無い。しかし、専属オペレーターであるフィオナはその様子をじっと眺めていた。
――…………生体認証コード、確認。搭乗者確認。
「……聞こえる?」
《…………》
首元の装甲がスライドして、コックピットが閉鎖される。目蓋を閉じて、開ける。視神経を接続された頭部カメラからの光景が目に映った。薄暗いガレージの中にはガンラックに掛けられている無数の銃器。バイザーカメラに光が灯る。
左腕部の調子を確かめる。続いて、右腕。問題なし。正常に稼働しているのはオペレーターにモニターされている。それに、彼は視線を向けて静かに頷いた。
「下水道の害虫駆除に、なにも貴方まで一緒に行かなくても……」
《…………》
「そうね。貴方が行くのなら私は見守るだけ」
閉所での戦闘が予想される。近接戦闘も考慮するべきだろう。
「こちらでもある程度は先んじて調査はしてあるけれど、もうすぐカスミさんが」
「今戻った。例の企業から害虫駆除を引き受けたらしいな? まったく面倒事を請け負うのが好きだな、お前も……まぁ、嫌いではないが」
「おかえりなさい、カスミさん。それで、結果の方は」
「そう急かさないでくれ。あちらにもこの情報は提供すべきだ。まずは合流して、それからにしよう」
「そうですね。それじゃ――ナイルス、いけるわね」
彼――ナイルスは、無言で頷いた。赤と黒のカラーリングに彩られた二脚型ロボットが移動を始める。
エヌラスは公園でデンゲキコとファミ通の二人からのインタビューも程々に、買い物を始める。それに何故かついてくるので首を傾げたが「いえ、気にしないでください」と言われた。しかし見られて困る買い物をするわけでもない。
「ところで、何を買うんですか?」
「んー? 生活用品とか、後はまぁ適当な大工用品とか」
「害虫駆除とは関係ないものですね」
「ま、こっちはあくまで私生活に使うものだからな」
「プライベートなら、わたし達は離れた方がいいかも」
「何を言いますか。ここまで来たら密着取材です! 徹底的に調べあげて洗い出してみせますとも」
「そういうので色々言われれるのは記者の性かなぁ」
「俺の場合だと犯罪経歴だけで卒論書けるぞ」
万引き窃盗強盗その他重犯罪。中には国家機密漏洩とかも含まれる。九龍アマルガムでなくとも裁判抜きにして極刑待ったなし。
「でもそれって、ゲイムギョウ界ではない世界での話ですよね。じゃあ大丈夫です」
「ゆるいなー」
エヌラスはそれに感謝しながらも近くのホームセンターへ入る。購入するのは、安物の廃材。店のスタッフに掛け合って廃棄予定の品を譲ってもらえないか交渉してみる。だが、そういったものは企業間での業者を通じて手続きがあるので流石に厳しいようだ。店のスタッフはそれでは悪いと思ったのか、そういった品を取り扱う店舗を教えてくれたので、礼を言ってそちらへと移動する。
「廃材なんてどうするんですか?」
「ゴミ捨て場で拾っちゃえばいいじゃないですか」
「今から曜日指定されたゴミ捨て場を漁れと?」
それはそれで手っ取り早いが、今はそれなりに人並みの生活をしなければならない。少なくとも金のある人間のする生活基準範囲内で行動するべきだ。そこいらの雑草とかモンスターとか邪神とかで食い凌ぐ日々とはしばらくおサラバしなければノワールに監禁されても文句は言えない――いや、地下牢とかでなければそれも魅力的ではあるが。むしろそういうことをしそうなのはプルルートの方ではなかろうか?
牢屋に監禁して鎖で繋いで首輪とか手錠とか……黒い笑顔がいやに似合うのが怖い。
「手持ちはまだ余裕あるからな。だったらそっちで揃えたほうが質も良いだろうし。捨てられてから何年経ったかも分からん品集めるよりマシだ」
「でもゴミはゴミですよね?」
「テメェの頭で廃材アート作ってやろうか」
「すいませんでしたッ!? なんで言うことがイチイチ怖いんですかエヌラスさん! 横暴すぎます!」
「大人の教育現場ってな、厳しいんだよ」
遠い目をしながら語るエヌラスはアダルトゲイムギョウ界で揉まれた日々を憂う。思い出したくもない。教える隙がないから体で覚えろを最前線で四六時中やらされる環境など御免こうむるが、お陰で今では耐性が付いた。ただし大魔導師による魔術教育は除く。アレは教育からかけ離れている。
「そういえばエヌラスさんってお幾つですか?」
「知らん、忘れた」
「結構大人っぽいところありますよね」
「そーですかぁ? 子供っぽいと思いますが……」
「服装のせいかもしれませんけれど」
「ああ……まぁ、色々あってな」
大魔導師がスーツを仕立ててくれたお陰で不審者扱いされることは少なくなった。とはいえ、人相のせいで今度はどこの組織の人間かと疑われるものの以前に比べれば大分良くなっている。まさかそれを想定したとは思えないが……。
そもそも肉体が老化しないのだから年齢なんて気にした事がない。
「ファミ通。俺、いくつぐらいに見えるんだ?」
「うーん。二十代半ば、とかでしょうか」
「四女神の中ではベールさんポジションですね。年長者って感じです」
年長者か。エヌラスはアダルトゲイムギョウ界の面々を思い浮かべる。
ソラは十代後半ではあるが、顔立ちのせいで若干下に見られる。アルシュベイトは肉体があれば、同年代くらい。ドラグレイスはそれよりやや上。大魔導師は年齢不詳。
うん。なんというか、濃い。信じられないくらいに濃ゆい。そんな中に自分が混ざっていたと客観的に思えばよくもまぁいられるものだと我ながら感心する。
ホームセンターのスタッフに紹介された店舗では、業者の取り扱う資材の見切り品を数多く揃えていた。相場からすればかなり値崩れしている方だろう。エヌラスはその中から建物の補強などに使えそうな資材を目分量で購入する。配達なども受けているようなので廃工場の近場まで頼んでおいた。
そうして時間を潰していると、例の企業から連絡が入る。準備のほうが整ったら、指定の場所まで来て欲しい、と。
エヌラスは二人の承諾を得てから、合流地点へと向かった。
仲介人から指定された場所は、ラステイションの下水道へと繋がる入り口前。マンホールから等ではなく、下水処理施設の付近。そこから直接乗り込むという形らしいが、三人の前に広がっている先の見えない暗闇はまるでトンネルのように広大な口だった。
「なぁ、デンゲキコ。お前ラステイションには詳しいんだろ」
「そりゃもう、お任せください!」
「んじゃあ、ラステイションの下水道について何か情報持ってないか?」
「いや、流石にそこまでの情報は持っていませんね」
そもそも女の子が下水道の知識蓄えてどうするのか、という話だ。それに類する情報でも良かったが、そちらも無いらしい。流石に酷だったか。
「すいません、お待たせして」
「いや、こっちもいい具合に時間を潰してた――そっちの、ロボットは?」
「ああ。彼ですか。今回の害虫駆除の件で貴方に同行したいと。まぁ協力者と思ってくださって構いません」
背丈は二メートル大。エヌラスが見上げるサイズだ。アルシュベイトと同等の背丈にどれほどの技術が詰め込まれているのか少し興味がある。
《――、聞こえていますか》
「えっ? ああ……あんたは?」
《私は傭兵派遣会社アークのオペレーター、フィオナです。彼はナイルス。今回はよろしくお願いします》
「こちらこそ。よろしくな、ナイルス」
エヌラスが差し出した手を見下ろして、やがてナイルスは拳を静かに差し出した。それに拳を軽く合わせて挨拶を交わす。
傭兵派遣会社アーク。その名前にデンゲキコが驚いていた。
「なんと、あの傭兵派遣会社なのですか?」
「有名なのか?」
「はい。かいつまんで話してしまいますと、名前通りの派遣会社です。ですがリーンボックス企業連盟と提携してからはその幅広い人員で様々な場所で活躍していると聞きます。その折に、幾つかの会社は潰れたと聞きましたが、まさかまだ残ってるとは思いませんでした」
「ちょっと、失礼じゃない」
《いえ、彼女の言う通りです。私達も、彼の活躍のお陰で解雇だけは免れていますから。今は私達のことよりも今回の依頼です》
雑談を早々に切り上げたオペレーターの言葉に、仲介人は手元に用意した資料に目を通しながら話し始める。
「そちらのお嬢さん達は?」
「記者です。今回の下水道の害虫駆除を取材させてもらおうかと思いまして」
「エヌラスさんからは承諾を得てます」
「なるほど。そちらもよろしいですか?」
《はい。彼も承諾しています。ですが、ご自分の身はご自分でお願いしますね》
「ご安心ください! このデンゲキコのペンは剣よりも強いのです!」
「では、今回の任務を説明します。場所はラステイション全域に広がる下水道、その中でも放棄されて長い廃棄工業区画が中心となります。とはいえ、何も一度で全ての害虫を駆除しようというわけではありません。今回は状況の確認、可能ならば駆除という形で進めていきますので気を楽にしてくださって結構です」
つまり、今回は下調べが主な任務。迷子にならないようにだけ気をつけてくれ、というのが仲介人からの指示だった。なにせラステイションの地下は入り組んでいる。地図もナビも無しに歩けばいつ出られるかも分からない。
仲介人がエヌラスに渡すのは、小型の無線機。
「今回はこちらの方の厚意で、ナビゲーターを務めていただけるようです。詳細は彼女からお聞きください。私の仕事はここまでですので。では、ご武運を」
「ああ、わかった」