※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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エピソード137 油断大敵

 車に乗り込んで去っていく仲介人を見送ってから、エヌラスは改めてナイルスと呼ばれているロボットを見上げる。ラステイションの企業連盟はリーンボックスと提携しているはずでは?

 そんな疑問を余所に、事務的にフィオナは話し始めた。ナイルスの通信機を介して、また新たな女性の声が聞こえてくる。

 

《私はナイルスの専属オペレーター。というよりは機体の管理人か。カスミだ、今回のブリーフィングは簡単なもので済ませよう》

《ラステイションの廃棄された工業区画へ人が立ち入った形跡はこの数年のところありません。元は、環境汚染対策として微生物を投下していたようですが、それも請け負っていた企業が倒産してからは放置されています。つまり》

「つまり、どんな害虫が出てくるか分からない?」

《はい。――ナイルス、彼らに資料を》

 エヌラスに渡されたのは、数年前に開始された環境浄化の微生物投入。しかし、それからしばらくしてから苦情が殺到。のみならず製造していた製品の数々の業績が下降。それによってその企業は市場から撤退。当時手をつけていたプロジェクトは今だに手付かずの状態となっている。

 エヌラスの見る資料にデンゲキコとファミ通の二人も顔を覗きこませていた。

 

「なるほど。では今回わたし達が行くのは、完全放置の下水道なわけですね」

「でもいくつかの隔壁があるみたいですけれど」

《その点はこちらからサポートします》

「下水道で無線は使えるのか?」

《はい。その為に、彼には拡張レーダーを積ませてあります》

 左肩に背負ったアンテナがそうなのだろう。右腕にはマシンガン。左腕に持っている武装は見慣れない小銃だ。

 

「そちらの武装は?」

《今回は閉所での戦闘が予想される。近距離戦闘に特化させた武装で、マシンガンと――フレイムスロワーだ》

「左腕のは火炎放射器かよ!?」

 確かに害虫駆除では役に立つだろう。

 

《こちらからは以上となります。ナビゲートは任せて下さい》

「帰り道さえ案内してくれればいいさ。行こうぜ、ナイルス」

《…………》

 エヌラスの言葉に静かに頷く。そして下水道の扉を開けると、中から異臭が漏れだした。それにデンゲキコとファミ通の二人は青い顔をする。

 

「うえぇ、酷い臭いですね……」

「そりゃあ下水道ですから。エヌラスさんは平気そうですね」

「悪臭なら慣れてる。そっちも大丈夫そうだな」

 トンネルのような下水道の中は灯りすらない。暗闇の中を進むナイルスがマシンガンのフラッシュを焚いて道を照らす。エヌラスも偃月刀を召喚して、切っ先に魔術の炎を灯す。

 

「エヌラスさん、魔術も使えるんですね」

「むしろこっちのが本業だ」

「それで食べていくんですか?」

「というかコレぐらいしか食っていけそうな物がなくてな」

 自慢にすらならないが。

 

「こうして下水道の中を歩くのは初めてかも」

「そうですね。まぁ今回限りになるかもしれませんが」

「二人共離れるなよ」

 エヌラスが二人を連れて歩き、先頭をナイルスが歩く。

 

《……――ナイルス》

《……》

《その通路を左に。ドアのロックを解除するわ、待ってて》

 動作停止中の赤のランプが切り替わる。電子ロックを解除したナイルスがドアを開けて、中の様子を確かめる。

 

《センサーに反応。気をつけて》

 短い警告の後にナイルスは内部に足を踏み入れて周囲を警戒した。反応はまだ遠いものの、数は多い。ライトを向けると、微かに害虫と思わしき足が見えた。更に奥深くへ進もうとするナイルスをエヌラスが偃月刀で制する。

 

《どうかしましたか?》

 右手と同じ偃月刀を左手に召喚し、同様に松明代わりにして投擲すると壁に突き刺さった。エヌラスはそれを何度か繰り返して通路を十分に照らす。

 

「こいつで足りるか」

「便利なものですね」

「ほえー。エヌラスさんがいたら懐中電灯とかいらなさそうですね」

「修行時代なんて身ひとつで洞窟の中に放り込まれたしな」

 結局一月丸々助けてもらえなかった。死にかけた回数など一日一回どころではない。下水道の害虫駆除などそれに比べればまだ優しい。悪臭と異臭くらいならばまだ良い方だ。

 環境汚染物質が流れ出していた下水道とはいえ、エヌラスが放り込まれた環境はそんなものでは済まされない。

 

《……ナイルス、この反応は》

 エヌラスが照らした通路に浮かび上がるのは害虫の姿。だが、そのサイズは思わずオペレーターの二人も息を呑むほどまでに巨大化していた。

 

「な――なな、なんですかアレぇ!?」

「虫だろ?」

「虫にしてもちょっとサイズが、大きすぎる気が!」

「いないのか、あれぐらいの虫」

《データにあった頃より大分成長しているな……なんだこのサイズは》

 驚きと感心が半々といったカスミが目の前の害虫のサイズに呆れている。

 

 ギチギチギチ……。

 緑色の体表は環境汚染物質に適応したからなのか、ギラついていた。口元から伸びる無数の触覚に、蜘蛛のように並んだ複眼は妖しく光っている。節足を動かして歩く姿は決して早くない。緩慢な動きではあるが、その数たるや通路だけでなく下水道の天井にまで這っている始末。

 そしてそのサイズはというと、人間大――優に一メートルは越えていた。平均すれば子供ぐらいの大きさはある害虫が列挙している光景にはデンゲキコとファミ通がエヌラスに泣きつく。

 

『うひぃぃぃぃぃっ!?』

「うわ、すげぇ量……」

《偵察だけの予定でしたが、これだけの数がいるとなると想定以上ですね》

《まぁいい、どちらにせよ見て終わるとは思っていなかったからな。ナイルス、駆除を始めろ》

 オペレーターの言葉に、ナイルスは両腕を構える。そして、右腕のマシンガンが次々と害虫たちを撃ち抜いていく。紫色の血を流しながら絶命していく害虫が、エヌラス達を敵と判断したのか一斉に襲い掛かってくる――のだが。

 

「…………」

 カサカサカサ……カサカサカサ……。

 

《…………》

 連射されるマシンガンを避けることもせずに、というよりも避けられずにただ撃たれていた。のんびりと歩く害虫を容赦なく撃ち続けていたナイルスが手を止めて、火炎放射器で焼き払う。

 ピギィィ……。

 奇声を静かに発しながら焼き殺されていた。

 

「デケェだけだな、この虫」

「害虫って言うから、どんな虫かと思ってました」

「なんかこうして見るとちょっと愛嬌ありません? 動きものんびりしてますし」

「むしろ黒くて速くてしぶとい台所の黒い悪魔の方がよっぽど恐ろしいですね」

 その、黒い以下略が壁とかを這っていることに関しては触れないものとする。エヌラスも害虫駆除を引き受けた手前、見ているだけというわけにはいかない。

 エヌラスは左手にレイジング・ブルマキシカスタムを召喚して手短な一匹を粉砕する。ストッピングパワーに物を言わせた破壊力の前に害虫は絶命した。

 

「なんつうか……数だけ多い、善良な虫だな」

《元々、環境美化の為に開発された虫ですからね……》

「でもそれがどうして害虫扱いになったんでしょうか」

《工場から流れ出る汚染物質を取り込む内に、虫そのものが適応してしまった結果。生体爆弾になった、という報告結果が手元にある》

『爆発するんだ!?』

《まったく、何を考えて作ったのか分からんよ……変態どもが》

「技術職なんて大概変態がやる仕事だ」

「でも魔術も技術職じゃないんですか?」

「つまりエヌラスさんも変態なんですね!」

「その変態と密着取材しようとしてるお前らも変態ってことでいいか!?」

《仲が良いのは結構だが、仕事もしっかりな》

 カスミからの苦言に、エヌラスは気の抜けた返答で答えた。

 

「こうなったらわたし達も協力しましょう! いきますよー!」

「取材はいいのかなー」

「手伝いながらでも大丈夫です!」

「まぁそういうなら止めないけど」

 デンゲキコはペンを持ち出して、逆手で構える。とはいえ、そのペンも一抱えほどもある巨大なものだが。

 ナイルスはと言うと、淡々と虫達を駆除している。右腕のマシンガンの弾が切れたのか、マガジンを排出すると左腕の火炎放射器で牽制しつつ、装填。

 

「とやー!」

 わさわさわさ。

 

「ひやあぁぁ!?」

「だぁー、もう! 勝手に突っ込むな!!」

 ペンで害虫を薙ぎ払ったかと思うと、倍の数が襲いかかってきてデンゲキコがすぐさま戻ってきた。それを右手に召喚した深紅の自動式拳銃でまとめて爆殺すると、胸に飛び込んでくるデンゲキコを抱きとめる。

 

「ったく、仕事増やすな。後ろで大人しくしててくれ」

「うぅ、面目ないです。そういうことでしたら取材に集中します! ……ところで、エヌラスさんいい匂いしますね」

「はいはい。お前もな」

「あんまりくっついてると大変だと思うけどなー」

「ふうーん? 嫉妬ですか、ファミ通さん」

「そういうわけじゃなくて、後ろ」

「へ?」

 わちゃわちゃわちゃ。通路を埋め尽くす量の害虫に、さしものナイルスも弾代が気になるのか徐々に後退してきている。

 

《生体反応、まだ増大中。撤退を推奨します》

「そうした方が良さそうだ! デンゲキコ、悪いな。ちょっと失礼」

「ほわぁ!?」

 片手でデンゲキコを抱えて、もう片方の手でファミ通を抱えるとエヌラスは走り始めた。

 

「うひゃあ!」

「ナイルス、ひとまず撤退!」

《やれやれ……とんだ貧乏くじを引かされたものだな。明日から忙しくなるぞ、これは》

 カスミの呆れた声に、ナイルスは胴体のブースターを吹かしながら先行。扉の前で反転すると、すかさずフィオナに合図を送る。エヌラスが二人を抱えて抜けると、電子ロックが再びかけられた。

 重々しい音と共に扉が閉じられ、それに挟まれて何匹かが潰れてナイルスの機体に体液がこびりつく。

 

「ふぃー、まったく。とんでもねぇな。害虫駆除にしてもあんな量はどうしようもねぇぞ」

「…………」

「……えっとぉーあの」

「ん?」

「お、おろしてもらえませんか?」

「あぁ。悪い、大丈夫か」

 顔を赤くしたファミ通を下ろし、借りてきた猫のようにおとなしくなってしまったデンゲキコも下ろす。ナイルスは機体の各部システムのチェックをしているのか棒立ちのまま動かない。

 

「レ、レディの身体にそんな気軽に触れるなんて……セクハラですよ、セクハラ!」

「あー……悪い」

「でもわたしは心が広いので許してあげましょう!」

「ファミ通。デンゲキコひっぱたいていいか」

「いいと思いますよ」

「なんでですか!? しかもどうしてそこでファミ通さんに聞くんですか!」

 そりゃ本人に聞いても絶対にオーケーと言わないからだ。とりあえず頭に軽くチョップしておく。ぺしん。

 

「あいたぁー」

「下水道ごとぶっ壊していいなら駆除はできるが、それだと色々問題なんだよ」

 主に手加減とか後々の国政に。つまりノワールが迷惑する。できるだけ穏便に済ませたいのがエヌラスの本音。それに、デンゲキコとファミ通の二人だけでなく、ナイルスまでもいる。手の内は出来るだけ隠しておいた方がいいだろう。

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