超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
《でも、妙ですね》
「あんな大量に居るとは思わなかったしな。下水道埋まってたぞ」
《それもありますが、廃棄されているこの区画の電子ロックが生きているのも……こちらで追って調査してみます》
「なんか、悪いな。手伝いに来てもらったのに」
《気にしないでください。彼が好きでやったことですので》
うんうん、と首を縦に振るナイルス。
《今回も、下調べが主な任務でしたので本格的な駆除は次回からにしましょう。今日はお疲れ様でした》
「ああ。ナイルスもな、おつかれさん」
エヌラスが差し出した拳にナイルスは同じく拳を突き出して軽く小突く。メインブースターを吹かして去って行く姿を見送ってから、頭を掻いた。それにしたって思った以上に面倒な仕事を引き受けてしまったものだ。
「今回のは記事にするにはちょっとネタが足りないですねぇ」
「それじゃあ、エヌラスさん。改めてインタビューの方よろしいですか?」
「まだ続けるのかよ、俺のインタビュー」
「もちろんです。ゲイムギョウ界の新たな仲間ですから」
「…………」
仲間。聞き慣れない――というよりは忘れて久しい言葉に、エヌラスは無性に照れ臭くなってファミ通の頭を乱雑に撫でる。跳ねっけのある髪が更にボサボサに跳ねて、ファミ通が頬を膨らませていた。
「わぁ!? もう、なにするんですか!」
「別になんでも。跳ねてる髪が気になった」
「余計ひどくなっちゃってますよ。もー……」
「むぅ、何でしょうか。ラブコメの波動を感じます。それよりも、です! エヌラスさん!」
「なんだデンゲキコうるせぇ」
「グハッ! ナチュラルに罵倒していくスタイル! うぅ、とにかく。さっきわたしを抱えた時にですね、結構良い感じの匂いがしたのですが。香水とか付けてるんでしょうか?」
「いや?」
「そんなはずないでしょう! すんすん……」
顔を近づけて鼻を鳴らすデンゲキコに並んで、興味を惹かれたのかファミ通もエヌラスに近づいて匂いを嗅ぐ。
「くんくん……確かに。柑橘系のほんのり爽やかな匂いがしますね」
「香水じゃなければなんだと言うんですか!」
馬鹿正直にクスリやってますとか言えるはずがないので適当にはぐらかす。
「あーほら、なんつうか……おしゃれ?」
「いや、香水はファッションですよね」
「フェロモン」
「大人の色気ってやつですか、なるほど……って納得しそうになりますが、嘘ですよね」
「チッ、お前みたいな勘のいいやつはこれだから」
「舌打ちしなくてもいいじゃないですか! ほら、正直に言ってくださいよ」
「ドラッグシガー」
『麻薬!?』
一応、誤解を解く為の説明だけはしておく。
「な、なるほど……」
「麻薬というより、劇薬なんですね。薬物に違いないですけど」
「そういうことだ。悪いがこれは記事にしないでくれ、指名手配どころの騒ぎじゃなくなる」
「分かりました。そういうことでしたら配慮します」
「助かる」
「でもそれって共犯とかになったりしませんか? 人の口に戸は立てられないと言いますが」
エヌラスはそれに頭を抱えた。
「口止めされてたとか何とか、適当に言っておけ」
一仕事終えて、小腹が空いてきたので下水道を後にする。長居しても悪臭くらいにしか歓迎されない場所、女の子を連れて歩く用事もない。
市街に戻ってきたエヌラスは、そこでノワールに会った。と言っても今は女神化した状態だからブラックハートと呼ぶべきなのだろう。向こうも気づいたのか、近づいてくる。
「あら、エヌラス。もう買い物はいいの?」
「ん、無事に済んだ。後は生活に必要な品物買い揃えて、こっちでやるだけだ」
「そう。それで、どうしてそっちの二人も一緒なのかしら?」
「取材だそうだ」
「ホントに?」
「疑うのかよ」
「疑ってかかって当然でしょ。あなたって目を離すとすぐ女の子と仲良くなるんだから」
否定したいが、否定しようがない。仲良くなったのは圧倒的多数で女の子だから。しかも行為に及んだのもいる。不可抗力というか成り行きというか。
「むぅ~……ホントに? それだけ? ちょっと、そこのふたり」
「は、はい! なんでしょうかノワールさん!」
「エヌラスと何処で何してきたのか言ってみなさい。正直に」
「げ、下水道で害虫駆除してました」
「なんで記者の二人がそんなのに同行してるのよ」
「何かとゲイムギョウ界で話題のエヌラスさんがラステイションでお仕事を始める、ということなのでその取材です。活躍を記録して、記事にすれば名前も広まってお仕事がしやすくなるんじゃないかと……」
「プラネテューヌで指名手配されている問題人物なの、把握してるわよね」
「まあ記者ですから」
「なら記事にするのは止めなさい。彼は今、教会で身柄を預かっているの」
「その割に随分自由に動いていたような」
「なんか言った」
「ひぃ、なんでもないです!?」
といってもあくまで名目上での話だが。
「ノワールさんがヤキモチを妬くようなやましいことなんて一切ありませんでしたから!」
「別に妬いてるつもりはないわよ!」
「なら怒らなくてもいいじゃないですか。ねぇ、エヌラスさん」
「そこで俺に振るな、デンゲキコ。ノワールも、そこまで目くじらを立てなくてもいいだろ?」
「…………」
無言で睨むノワールに、エヌラスは深い溜息を吐いた。
「……俺がお前に信用されてないってことはよくわかったよ」
「え――別に、そういうわけじゃ」
「じゃあ、この二人の言うこと信じてやってくれ。マジで下水道で害虫駆除を引き受けただけなんだから」
「……そうね。ごめんなさい、二人共」
「いえ、気になさらないでください」
「そうです。エヌラスさんが女性に節操ないのが悪いみたいですし」
「おい」
「違うんですか?」
「あのな、俺にも選ぶ権利はあるし、相手にもあるだろ。そんな俺が誰彼構わないみたいな言い方は止めてくれ」
女性への姿勢にはエヌラスなりに譲れないものがある。
「意外と謙虚なところもあるんですね。恋愛には奥手、と……」
「メモんな」
「もういいかしら? わたしも今日は終わったから教会に戻るのだけれど?」
不機嫌さを隠そうともしないブラックハートに、エヌラスは肩をすくめた。そこまで怒らなくてもいいだろうに。
「ああ、そうだな」
「なら早く来なさいよ。あなたも帰るの、わかってる?」
「へいへい……そういうわけだから、またな。二人とも」
「あ、はい」
「今日はお疲れ様でした、エヌラスさん! ノワールさんもまた近いうちに取材に伺わせていただきますね! それでは!」
デンゲキコは挨拶を済ませるなり、それこそ電撃の如くその場を後にしていた。呆気にとられていた三人もそれぞれ解散する。
教会に戻ってきてからはノワールが多少の不機嫌さを残しつつも仕事に集中していた。そのそばのソファーに腰を下ろしてエヌラスは読書を再開する。既に資料は読み終えて必要な知識は得られたが、今はまた別に放棄された工業区画に関したものに目を通していた。
「…………ちらっ」
キーボードを叩いて資料制作に勤しむノワールの視線が、読みふけるエヌラスに向けられる。表情が気のせいか不機嫌そうにしていた。
「なに怒ってるのよ」
「……怒ってない」
「そうなの?」
「ああ」
言葉少なく、会話を切って読書に没頭している姿にはやはり機嫌が悪そうに思える。
「その……さっきは悪かったわ」
「気にしてるのか?」
「だって、ほら。他の目があったから強く言い過ぎたわ」
「……、言われてあんまり良い気分じゃなかった」
「だから。謝ってるじゃない」
エヌラスを怒らせてしょげるノワールが手を止めていた。その頭を軽く叩いて、深く息を吐いた。
「ノワールって、ひとりで何でも出来ると思ってたけど。こういうのは苦手なんだな」
「こ、こういうのってなによ?」
「んー……恋とか友情とか。自分ひとりの力じゃどうにも出来ないこと」
「悪かったわね、どうせわたしはぼっち女神ですよーだ」
「へぷち」
どこかで女神がくしゃみした音。
「ぼっち、じゃないだろ」
「それもそうね。今は、あなたがいるもの」
「ユニもだろ」
苦笑しながらノワールと額を合わせる。不器用同士、お似合いなのかもしれない。
「ほんと、手のかかる人なんだから……」
「まったく、迷惑ばかりだな俺は」