超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――夜のゲイムギョウ界を歩く一人の男性がいた。月を見上げながら、のんびりと散歩を楽しんでいる。
手ぶらでただ歩いているだけでも、その男性は愉快そうにしていた。
「ふむ……うむ、やはり良いな」
見知らぬ土地。見知らぬ世界。“何も知らない世界”を身一つで歩く感覚。忘れて久しい高揚感に胸が踊る。自分が無名の一人として生きる感覚は、大魔導師にしてみれば新鮮だった。アダルトゲイムギョウ界では名前が知れ渡っている。悪名高く、恐怖の象徴として、畏怖畏敬の入り混じった国王として。
プラネテューヌから適当にほっつき歩いて、今は山岳地帯に差し掛かっていた。苦もなく山を登り始める。見たこともない生態系に興味を惹かれつつも、適当にあしらいながら大魔導師は山頂に辿り着くと休憩を挟もうと腰を下ろした。
山頂から見下ろすのは、城壁に囲まれた市街。見るからにみすぼらしい、人々の拠り所。ままならない生活を強いられているのは明らかだった。それを見下ろして、再び顔を上げる。
胸中をよぎる違和感。圧倒的なまでの不可解さが大魔導師の胸を占めていた。それをひとつひとつ解いていく。
標高から下がった気温も、風の冷たさも意に介さず思考を中断する理由にはならない。
「……」
自分達の棲息地に無断で入り込んだ異物を取り除こうと、周囲には原生生物達が群がってきている。遠巻きに威嚇して追いだそうとするが、頑なに動こうとしない大魔導師にジリジリと包囲網を狭めていく。それでも動かない。一際低く唸り声を鳴らすものの、一瞥をくれるだけで動じた様子もなかった。
我慢の限界に達した一匹が跳びかかった、直後。地面から足を離すと同時に頭部を粉砕された。大魔導師の手には、深紅の自動式拳銃が爛々と燃えている。
「ああ、うるさいぞお前ら。俺は今、考え事をしている最中だ。静かにしていろ」
それを抵抗の意思とみなしたのか他の原生生物達までも一斉に飛びかかるが、その後に立っている生物は一匹もいなかった。
右手に持つ自動式拳銃。左手に持つ回転式拳銃。その反動を心地よく思いながら大魔導師は肩をすくめる。死骸は一匹残らず地面に黒いシミとなって消えていった。リロードを挟まず、そのまま魔術分解して解くと大魔導師は立ち上がる。
「――――――そうか。嗚呼、納得した。エヌラス、お前は……“俺を知っていた”のか。なるほどな、理解した」
呆れていた。明らかな落胆の色を見せて、深く息を吐く。への字に曲げた口は、すぐに口端がつり上がった。まるでそれは獲物を狙う獣のように。
ああまったく仕方のない奴だ。手間ばかり掛けさせる。だが、それがいい。手がつけられないバカの相手ほど絶好の暇潰しはない。
どうしてやろう。さて、どうやってアイツの目を覚まさせてやるべきだろうか?
そんなことを考えるだけで大魔導師は先程まで自分を襲っていた原生生物の死骸へ向ける興味など露も残らなかった。
「いつになっても、お前は俺の退屈を忘れさせてくれるよ――バカ弟子が」
大魔導師の視線の先。そこにはラステイションの夜景があった。
エヌラスは風呂あがりに一服して右腕の出力を調整する。過度に使用していなければドラッグシガーに頼ることもないのだが、そうもいかないのが現状の身体だ。どうにか出来ればいいのだが、銀鍵守護器官には謎が多すぎる。
「湯冷めしちゃうわよ」
「そうですよ。風邪引いても知りませんからね」
「バカと何とかは風邪引かないんだよ」
左手でタバコを挟みながら、エヌラスは皮肉気味に言ってみせた。バルコニーで夜風に当たっていたエヌラスのことを心配してか、ノワールが戻ってくるように言うのでドラッグシガーを携帯灰皿に落として中に入る。
「エヌラス。実は、ちょっと前にベールから旅行に行かないかって話が持ちかけられたの。最近ハァドラインとかで国政に追われてるから、たまには羽根を伸ばしてみないかってことで」
「へぇ。何処に行くんだ?」
「R18アイランド。大人のためのリゾート地ってところかしら」
「ユニも行くのか?」
「えっ、わたしも……? どうなんだろう」
ユニはその話を聞いてはいたが、自分も一緒に行けるとは考えてなかった。そこでノワールの様子を窺うと、難しい顔をしている。
「う~ん、どうなのかしら。でもネプテューヌはネプギアを連れてくるみたいだし」
「もう子供じゃないなら、連れて行ってもいいんじゃないか」
「でも、誰か残っていないと何かあった時に困るわよ」
「留守番なら俺が引き受けるが?」
「あ、えっとー……実は、ベール。あなたの事連れて来て欲しい、みたいなこと言ってたのよね……」
「えっ? 俺まで? なんでまた」
「そんなのわたしが知りたいくらいよ!」
「怒るなよ……」
頬を膨らませているノワールに、エヌラスはなんだか自分が悪いことをした気がしてとりあえず謝っておいた。
「なんか、悪い」
「むぅ~……それで、来てくれるの?」
「俺より先にユニに聞いた方がいいんじゃないのか。ユニも行きたいだろ」
「それは、そうですけど……でも、ラステイションにエヌラスさんを置いていく方が気になります」
「それも一理あるわね」
「おいー、俺だって留守番ぐらいできるぞ」
「じゃあ戦闘が起きても街に被害を出さないって約束できる? ラステイションの人達を傷つけたりしない?」
「………………」
「ほら見なさい。出来ないじゃないのよ」
そこで断言して頷くことが出来ないだけ自覚があるのだと言ってほしい。
「お姉ちゃん、わたし残るよ?」
「ダメよ。ユニも来るの」
「……いいの?」
「ええ。今回は一緒に行きましょ。エヌラスは問答無用!」
「なんでだよ!」
「どーせ、ネプテューヌ達が来るから気まずいとか考えてるんでしょ。そんなんじゃいつまでも仲直り出来ないわよ」
「む、むぐぅ……」
「何度も言うけど、大丈夫よ。ダメだったらその時はわたしが何とかしてあげるから」
そもそもエヌラスに断る理由などない。しかし、女神の慰安旅行に自分までもが同伴していいものやらどうか。難しく考えるエヌラスの頬を捕まえて、ノワールが睨む。
「来なさい。命令!」
「……はい」
「エヌラスさんって、案外押しに弱いですよね。言い寄られたりしたら断れなさそうですけど」
「ジロリ……そう言えばあなたってプルルートに弱かったわよね」
「お、おおう……まさかここでそんな話題にされるとは思ってなかったぞ俺」
思わぬ方向からの支援攻撃にエヌラスがたじろぐ。逃げ場なし。
「バツとして、水着買いに行くわよ」
それはつまり……デート、ということにならないだろうか? いやまぁ、女性の水着売り場に立たされるということを考えると罰ゲームに近いなにかを感じるが、そんなことはどうでもよくなる。
「それってデートだよな」
「デッ!?」
「いや、二人で買い物だからそういうことじゃ……」
「ち、ちちち違うわよ! デートとかそういうのじゃなくてわたしは水着買いに行くのにあなたに一緒に来てくれないかなって思っただけであって別にそういうデートとかそういうつもりで言ったわけじゃないんだからぁ!」
「って、言ってるけどどう思うユニ」
「そこでわたしに振るんですか!? え、えっと……お姉ちゃんが行きたいなら良いと思う。わたしも行くからにはちゃんと水着買い直しておきたいし、ネプギアに連絡してみよっと」
「じゃあ明日はノワールとデートってことでいいんだな」
「だからー、デートじゃなくってー!!」
ノワールの必死な否定もむなしく、そういうことで決まってしまった。