超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――翌日。
ユニはプラネテューヌでネプギアと水着選びをすると言って出かけ、エヌラスは半ば強制的に「準備があるから先に言ってて!」とノワールに教会から追い出された。
別に水着を買いに行くくらいで準備するも何もないだろうに……。そんなことを考えながら待ちぼうけをくらうこと十分経過。時刻は十時過ぎ。――更に十分経過。まぁ女性の身支度は時間が掛かると相場が決まっている。
そこから更に十分経過。時刻は既に十時半を過ぎている。エヌラスは待っている間、特にすることもなかったのでラステイションを行き交う人々の流れを見ていた。
仕事に向かう男性。客を呼びこむ店員。恋人と手を繋いで歩くカップル。子供の手を引いて歩く親子。穏やかで、平和な時間を過ごすのも束の間。
「エヌラス、お待たせ」
「ん? あー……このままだと寝るとこだったな」
呼ばれて、振り向いた先にはノワールがいた。キャスケット帽に、赤縁フレームのメガネをかけていつものクリアドレスからは着替えて、春先コーデでまとめた暖色系のカジュアルな格好にエヌラスは首を傾げる。
「……なんで変装してるんだ」
「そ、そりゃそうでしょ。仮にも守護女神が仕事サボって――デ、デート……に、行くんだから……」
「なんで照れる」
「だってあなたとこういう風に出かけるのって初めてだし……」
「そうだっけ」
「そうよ。いつも仕事のついでとか、トラブルを片付けてたりだったりでしかエヌラスと一緒に出かけることってなかったじゃない」
「…………そうだっけな」
自分の周りにはコレでもかというほどトラブルがついて回る。それを片付けているだけでも一日が終わる。毎日がトラブル解決に駆りだされていては落ち着いてもいられない。
「だから、ほらなんていうかーそのー。こういう時、どういう格好したらいいのか分からなくって……結構待たせちゃったわよね」
「気にすんな」
「気にするわよ。もう三十分も過ぎてるのよ? 怒って帰っちゃったんじゃないかって不安だったんだから」
「帰らねぇよ。帰る場所ねぇし」
「あるでしょ」
「俺の家じゃないし……」
「えっ、そっち? 廃工場じゃなくて?」
「あー」
買ったのを昨日の今日で忘れていた。失言に、エヌラスがノワール(変装?)を見やると何故か照れている。
「え、えっと? それってつまりエヌラスは教会を、自分が帰る場所って認識してたってことよね……」
「……まぁ」
「わたしや、ユニがいる場所を」
「……はい」
場所の都合もあるが、それも大きい。居候であるとか、そういう都合抜きにしてもだ。
「…………」
「…………」
妙な沈黙が流れ、エヌラスは怒らせたかと不安に思ったが顔を上げたノワールが笑みを浮かべて腕を組んでくる。
「ほ、ほらなにぼさっとしてるのよ。行くわよエヌラス」
「えっ? あ、おう……遅刻しといてよく言うぜ」
「誰のためだと思ってるのよ。ほーら、早く歩きなさいよ」
「だったら腕組むのやめろって、歩きにくいんだよこれ」
「イヤなの?」
「……嫌じゃない、けどな」
「ならいいじゃない」
ノワールは上機嫌でエヌラスを引っ張るように歩く。それに歩調を合わせて、二人は街の雑踏へと紛れていく――のだが、それを見ていた影が二つ。
「じー……」
「じー……」
デンゲキコとファミ通の記者コンビである。今朝もラステイションでネタ集めに走っていたら偶然鉢合わせて、偶々エヌラスを発見して、奇遇にもそこへノワールらしき人物が来たので、こうして物陰から二人は見守っていた。
「ふふふ、これはスキャンダラスな一面記事になる予感です」
「そんなの書いたらまた酷い目に遭わされると思うけどなー。まぁいっか」
「まぁいいかとは何ですか! 旅は道連れ、世は情け。死なばもろともです」
「それってわたしも巻き添えにするつもり?」
「勿論です!」
「あ、見失っちゃう。追いかけなきゃ」
「ああ、ちょっと! ラステイションでわたしより先に情報を得るとか許されませんからね!」
「別に許可は取るつもりないもん」
「ママー、あのお姉ちゃん達なかよしー」
「そうねー。あらあら」
通り掛かる子供に言われて、二人は睨み合っていた顔を離した。
「こ、コホン……ともあれ。先日のようにはいきませんよ、隠密行動です」
「もう手遅れのような気もするけどなぁ……」
「諦めたらそこで試合終了なんです!」
熱く語るデンゲキコに、ファミ通は半ば呆れながらも同じターゲットを狙って動く以上、一緒に行動することになる現状に軽く額を押さえる。
――プラネテューヌでは、待ち合わせ場所に十五分早く到着したユニの元へすぐにネプギアが駆け寄ってきた。
「ユニちゃーん」
「ネプギア! アンタ、なんでこんな早く」
「えへへ。だってユニちゃんからお買い物に誘われるなんて嬉しくって、待ちきれなかったの。それを言ったらユニちゃんだって」
「わ、わたしはいいのよ。ラステイションからこっちまで来るんだから、時間に余裕持って動くのは当然でしょ!」
「ロムちゃんとラムちゃんはまだ来てないみたい」
「そうね。というか今回の旅行、二人も来るの?」
「ううん。だけどわたし達とお買い物には行きたかったみたい」
ルウィーでロムとラムの二人がブランに「まだ早い!」と怒られる様が目に浮かぶ。
「ネプギアー」
「ユニちゃーん」
「あ、きたきた。ロムちゃん、ラムちゃーん。こっちこっちー!」
「二人も来るの早かったじゃない」
「うん。楽しみで、早く来ちゃったの……」
「ふたりだけお出かけなんてズルーい! だから今日はネプギアとユニの奢りね!」
『えっ!?』
「けってーい! じゃあ早く行きましょうよ! 置いてっちゃうわよー」
「ラムちゃん、待ってぇ~……」
置いて行かれるロムが慌てて追いかけ、それにネプギアとユニが続いた。
「今日は水着買いに来たんだけど」
「たまにはこうして四人でお買い物もいいと思うよ」
「そういえば、ネプテューヌさんは?」
「お姉ちゃんならいつも通り」
教会ではピーシェとユウコが相変わらず元気ハツラツ暴風雨警報発令中。ぐぅたらしているネプテューヌとプルルートに鞭打って働かせるくらいには有能だった。イストワールは国政に集中できるし、アイエフも余計な心配をする手間が省ける。コンパはと言うと家事の手伝いを手伝ってもらって時間が増えて大助かり、と良い事尽くしなのだが――。
肝心の女神二人がプラネテューヌの街中でぐぅたらしていたらそれも意味がなかったりする。
「ノワールさんは?」
「こっちもいつも通りよ」
ラステイションのシェアは相変わらずゲイムギョウ界トップを維持しており、心なしか活気づいている。恐らくはトラブルメーカーがいるからだろう、気のせいだ。うん、きっとラステイションが活気に溢れているのは気のせいだ。いつものラステイションなのだ。ユニはそう思うことにした。
「ねぇ、ユニちゃん。もしかして、だけど……エヌラスさんは今ラステイションにいるの?」
「そうだけど。別に心配されるようなこと起きてないわよ」
「そうだよね。ノワールさん、しっかりしてるもんね」
「当たり前でしょ。わたしのお姉ちゃんなんだから」
「二人とも、早くー!」
「わぁぁ、待ってよラムちゃーん! 行こ、ユニちゃん」
「そうね」
今だけでも。友達と遊ぶ時くらいは女神であることを忘れて普通の女の子として振る舞ってもいいはずだ。ネプギアの後を追いかけて、ユニはロム達と一緒にプラネテューヌの街を歩く。
普通にショッピングをして、みんなではしゃぎながらソフトクリームを食べて、喫茶店で休憩して――こんな風に、平和な日常。きっと誰もが望む毎日。ネプギア達と笑い合う時間。長くは続かないとわかっていても、今が永遠に続けばと願う。
――そんなことは、許されないのに。
「あ……」
「どうしたの、ネプギアちゃん?」
水着を選んで、みんなで笑ってデパートを出たネプギアが不意に足を止めた。その視線の先には見慣れない男性。黄金の髪、黒のメッシュが入った綺麗な顔立ちのその人物は、髪をかき上げながら薄く笑みを浮かべて片手を軽く挙げて挨拶する。
「どうも、女神様方」
「おじちゃん、だれ……?」
「おじちゃん。おじちゃんか……そう言われるのは中々に新鮮な気分だな」
子供だから許される無礼講。それに、朗らかに笑うと自らを
「なんの用でしょうか?」
「今は友達とお楽しみの最中のようだから、手短に済ませよう」
フランクに接してきた大魔導師に対してネプギアは緊張感を持って接する。それにユニ達が首を傾げていた。こんなにも温和な人であるというのに、真面目なネプギアが理由もなく厳しい態度を見せるのは珍しいことだ。
「エヌラスさんは、見つかったんですか?」
「当然だ。俺を誰だと思っている。そこで、だ。どうにかしてくれという頼みもある以上、俺もどうにかしてアイツの目を覚まさせてやらなければならない。その準備は、すぐ終わるのだがもう一押しほしい。手を貸してくれるか? “パープルシスター”」
「エヌラスさんに何をするつもりなの」
「それはお前が知ることではないさ、ツインテ」
「……わたし、ユニって名前があるんだけど?」
「そうか。悪いな、ウニ」
「ユニって言ってるんですけど! 名前間違えたのこれで二人目よ!」
「まぁなんだ、許せ」
そのユニークな物言いに、ロムとラムも緊張感が多少解れたが、ネプギアはますます顔を険しくさせる。
「待ってください、大魔導師――」
「ん? どうした」
「わたし。あなたにまだ女神として“名乗っていません”よね」
「そうだったか? ……あぁ、そうだったか。“今回”は」
「なにを企んでいるんですか!」
「別段、何も。当面はエヌラスをどうにかする、それだけだ」
警戒心から一転して敵意を露わにするネプギア。それに、ユニは困惑した。
「ど、どうしたのよネプギア」
「ユニちゃん、この人……思い出してる」
「なにをよ」
「リセットされて、無いはずの記憶が戻ってる」
未来に絶望した。その一点で超次元諸共に壊次元を消滅させようとした張本人。次元崩壊の元凶である大魔導師――それに、ユニ達も敵意を向けるが何処吹く風と言った様子で踵を返した。
「場所を変えようか」
「……」
「それとも、なにか? 俺がプラネテューヌで戦っても良いと?」
「――分かりました」
「素直でよろしい」