超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「そういえば、ユノスダスってどういう国なの~?」
「完全非戦闘区域。攻めこんで落とすのはベイビーサブミッション」
「べいびー?」
「超余裕ってことだ。だが誰も攻めこまない、つうか攻め込んでもまったく旨味がない」
商業国家ユノスダス。中立国として君臨しておきながら、ほぼ全ての国に対する援助活動を行っている。言うなれば、アダルトゲイムギョウ界の台所。インタースカイには電子機器及び食品の輸出入。アゴウには弾薬推進剤その他の輸出。九龍アマルガムに関しても以下同文。ドラグレイスの率いる傭兵組織もまた、ユノスダス国王の厚意によって食料などの援助物資を受け取っている。その見返りとして周辺区域の警備及び、国内の治安維持などを務めていた。
もし、ユノスダスに攻め入るバカがいたとしたらそれは、アダルトゲイムギョウ界その物を敵に回すことに等しい。
「ほぇ~、すごいね~」
「ま、そんなだから俺もアルシュベイトもユノスダス国王には頭が上がらないんだ」
「どんな人なのかな~」
「…………」
「エヌラス~?」
どんな人か。ユノスダス国王がどんな人物であるかと聞かれて、エヌラスの顔には滝のような汗が吹き出てきた。
「おもいだしたくない……というか、会いたくない……!」
だがしかし、もう既に足を向けている以上、背に腹は変えられない。何が起きても必ず寄らなければならないのだ。そういう意味ではほぼ全ての国に対して胃袋を握っている恐ろしい国である。
そして、エヌラスが森を抜けて街道に出た。道なりにまっすぐ進めばユノスダスまで一直線。他国への輸出入を生業とする国にとっては生命線とも言える手入れされた街道でエヌラスはプルルートを下ろす。しばらく歩いてから、エヌラスがふと立ち止まった。
「どうしたの~?」
「……プルルート。アレ見てくれ」
「え~?」
へし折れた木々。まるで猛獣になぎ倒された様な自然破壊の傷跡、そして周囲には焼け焦げた爆発の痕、弾痕まである。明らかな戦闘行動の残り香だ。見れば、街道にはタイヤの後まで付いている。急制動を掛けて出来上がったその黒い轍を見て、エヌラスが訝しむ。
「この辺りまで来ると準非戦闘区域のはずなんだけどな……どこのバカだ」
どこのバカかと言われたら――呼ばれて飛び出てくるのは、フォートクラブ。標準装備の全身グレーの全長六メートル、鋼鉄の多脚型戦車が群れで飛び出してくる。それにはプルルートもエヌラスも青ざめた。
一対の多目的視覚ユニットが一斉に二人を補足する。口部のグレネードランチャーが発射するのと、エヌラスが渾身のアクセル・ストライクでプルルートを抱えながら離脱するのは同時だった。
「な――んじゃありゃぁぁぁあああっ!?」
「きゃああ~~~~……!?」
景気良くグレネードと二門の機関銃を斉射してくるフォートクラブの群れから全力で逃走する。姿勢を低くして重心を安定させると、六輪駆動の本領を発揮して慣らされた街道を滑るように移動して二人を追跡してきた。
「野生のフォートクラブとかどういう冗談だ! なんの冗談だ! いつからカニ道楽になった! せめて食えるカニ用意してくれねぇかな!? 今夜の晩飯なにがいいかなぁぁぁぁちくしょおぉぉぉぉ!!」
やけくそで絶叫にも似たとりとめのない言葉を連ねながら、プルルートを抱えてフェイントを交えた変則的な機動で射撃を掻い潜る。ユノスダスの城壁が見えてきた――だが、このフォートクラブを引き連れて入国するわけにはいかない。
「え~っとねぇ~! あたし、エヌラス食べたいなぁ~!」
「お客様、今夜の晩飯に俺は含まれておりませぇぇぇん!!」
着地と同時に軸足で回転、フォートクラブを蹴り飛ばす。アクセル・ストライクの連続使用で心臓が悲鳴を上げ始めていた。回転数を上げすぎて呼吸が乱れつつある。それを整息しながら迎撃しようとした矢先――唐突に一匹が吹き飛んだ。その装甲は大きく歪み、紫電をまき散らしている。
「お前――!」
《チェェェストォオオオオオッ!!》
一刀両断。要塞ガニを真っ二つにしながらアルシュベイトが二人の前に着地した。腰部ブースターで制動しながら、左肩のラックから突撃銃を取り出して構える。口を開けたフォートクラブの口へ、逆にグレネードが吸い込まれて一拍を置き、爆発した。
《無事か、エヌラス》
「あ、ああ……まぁな?」
《詳細は追って話す、まずはユノスダスに向かって走れ!》
「言われなくてもそうすらぁ!」
アルシュベイトの前で、更にもう一匹が頭から串刺しにされて沈黙する。その背中に乗っているのは竜を模した西洋鎧――ドラグレイスだった。大剣でチーズのように装甲を溶かしながら切り裂いて照準を向ける一匹に飛び移ると同様に背中から力任せに叩き切る。
「たかがカニを相手に逃げ惑うとは……堕ちたものだな、エヌラス」
「っせぇなバーカ! バーカ! テメェら後で覚えてやがれ!」
「エヌラス~、カッコ悪いよ~……」
「や か ま し い!」
捨て台詞を吐きながらエヌラスはユノスダスへと滑り込み、背後の爆音が遠ざかるのを聞いて膝に手を当てて荒くなった呼吸を整えていた。
「アイツ、ら……ぜぇ、人の、気も知らねぇで……言い放題……!」
荷物を置いて即座に引き返し、今からでも一発殴りに行こうとした瞬間「あーーーー!!!」という大声にエヌラスが身体を強張らせる。
ぎこちなく振り向くと、そこには――。
「エヌラスー、ひっさしぶり~!」
「――――」
「……誰ぇ?」
「えーっと、それは私のセリフかなぁ……どちら様?」
「えっとねぇ、あたしぃプルルートだよ~」
「そっかそっかー、プルルートちゃんかー。私はユノスダス国王、ユウコ。よろしくねー、ぷるちゃん」
「よろしく~」
元気ハツラツなエプロンを着けた少女こそがユノスダス国王その人であった。暖色系でまとめた服装に、エプロンの下で豊満な胸が窮屈そうにしている。柑橘の髪留めがトレードマークな茶髪の少女は朗らかな笑みでエヌラスの顔を覗き込む。当の相手は顔が青ざめていた。
「何か言うこと、あるんじゃな~い?」
「ドーモ……オヒサシブリデス、ユウコ=サン」
「あはははは、そんな他人行儀な挨拶しなくてもいいよー。ドーモ、エヌラス=サン」
エヌラスの肩を叩きながら笑う少女が、思い出したようにおねだりするような手を差し出す。
「……それは?」
「お・か・ね♪ 前の未払い分、済ませてもらわないと困るんだよねぇ~」
「手持ちがないんだよ……」
「じゃー、働くしかないよねぇ? だいじょうぶ、エヌラス向けのお仕事いっぱい沢山用意してあるから! 明日にでも、何なら今日から、今すぐ、とっとと働いてくれてもいいんだよ! っていうか、そうしろ」
「いや、待て、ちょっと休ませ――」
「働け」
「ウッス、ありがたくやらせてもらいます」
――何か今、とてつもない殺意を感じた。だが、すぐに満面の笑みを浮かべたユウコは手を叩いてプルルートをまじまじと観察する。
「へ~、ふぅ~ん。ほほぉ……これはこれは」
「なにかな~?」
「いやいや。エヌラスもまたかわいい子連れてきたなーって。ぷるちゃんの宿はこっちで用意するから安心して!」
「俺の宿は!?」
「アレと一緒の部屋がいい? それとも野宿させちゃう?」
仮にも一国の主を、アレ扱い。なんとも剛毅な精神力の持ち主である。
「ちなみに私としては別な部屋の別な宿で泊まることを推奨するよ。エヌラスには前回と前々回と前前々回と先月分の未払いの宿代と無銭飲食その他の罪状があるから、その代金分ぶっ続きで働かせて稼いでもらわないと」
「俺を過労で殺す気かテメェ!」
「じゃあ金払え」
「俺の骨が粉になるまで働きますごめんなさい」
「うわぁ~……エヌラスぅ、それはちょっとあたしでもぉドン引きだよぉ~」
「そうだよねぇ、ひどいよねーコイツ。いくら一国一城の主でお国の事情があるとはいえ人様の厚意に乗っかってこれだよ? むしろなんでお金持っていないのって話ですよ。エヌラスの国の主な収入源なんて金銀財宝と石油と燃料とその他ちょっと口に出せないようなよくわからない魔術工業だっていうのに」
「えぇ~……?」
「っと、こうしちゃいられない。ちょっと待ってね、ぷるちゃん」
ユウコが携帯を取り出すとすぐに耳に押し当てた。電話の先はユノスダス国内の仕事凱旋所、ニコニコ笑顔のハローワーク。ブラック企業も真っ青な容赦の無さでユウコは有無を言わさず責任者を呼び出した。
「もしもーし、ユウコでーす。ユノスダス国王のユウコ様だよー。そこに紹介されてる仕事、片っ端から持ってきてー。うん、片っ端から。全部、まるごと、何もかも! いいからいいからぁ♪ 大丈夫、これ以上ないほど心強い助っ人さんがまとめて引き受けてくれるから。あ、報酬の支払いなんだけど、そっちは直接私を通してねー。はーい、それじゃよっろしくぅ」
通話終了。そして、笑顔でサムズアップ。
「じゃ、頑張って!」
「鬼かテメェは!!」
「吸血鬼だもーん」
べー、と舌を出して笑うユウコの犬歯は確かに普通よりも大きい。それを自分の個性と捉えているのか“白昼堂々”と宣言した。ぷっくりとした瑞々しい唇から覗く八重歯をアピールしながらユウコが街の中を走る馬車を見つける。それは速度を落として三人の前で止まった。
「ユノスダス周辺の警備はあの二人に任せてるからいいけど、如何せん身体が無駄に大きいから国内のお仕事に向かないんだよね。はい、そこでキミの出番! 頑張って!」
馬車の客室に積まれているのは全て書類、書類、書類。その全てが国民からの依頼であり、内容はモンスター退治、犬猫の捜索、浮気の調査から紛失物の探索。とにかく沢山。
「……全部?」
「全部」
「……全部」
「全部!」
「参考までに、何ヶ月分だこれ……」
「キミが未払いで逃げた月からだからー、ざっと四ヶ月分くらいかな♪」
「一人で?」
「うん、一人で! 誰かに手伝ってもらってもいいけど、報酬は人数分割り当てで差し引かせてもらうよ?」
「……神などいない……」
「頑張れー、神格者! 私は汚れなき一国の主としてキミの働きを優雅にお茶飲みながら香りを楽しんで眺めるしかできない! あとこれ、自業自得だから」
「やりゃあいいんだろ……!」
そして、エヌラスは終わりそうにない地獄へと足を踏み入れるのだった。その修羅の背中を見送って、ようやくユウコはプルルートに向き直る。
「さーって、と。邪魔者もいなくなったし、お待たせぷるちゃん。色々お話聞かせてもらえると私はすっごく喜ぶよ!」
「え~っとぉ……」
「そーと決まればオススメのカフェテリアにレッツゴー、それとも疲れてるから先に休む? あ、そういえば宿の方どうしようかなー。やっぱり一緒の方がいい?」
「一緒でいいよ~。あたしも長旅で疲れてるしぃ~」
「そっかー、ごめんね。じゃあすぐに宿取っちゃうから。エヌラスには私から伝えておくね。はいもしもーし! ユウコだよー。そっちの宿なんだけどさ――」
“あたしぃ、この人苦手かも~……”
プルルートは青空を眺めて、ため息一つ。
ユノスダス国王、ユウコ。エヌラスのある種、天敵である。