超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
場所は開けた空き地。周囲の被害も考慮してか出来るだけ街から離れている。プラネテューヌ領から出ないようにだけ気を遣って構えていた。
「さて」
足を止めて振り返る。そこには女神候補生が四人。
ネプギア、ユニ、ロムとラム。険しい表情で構えている。大魔導師は羽織っていたマントを右手にくるめてなびかせると炎で包んで鍛え上げた。現れるのは、エヌラスが扱うものと同じ偃月刀。だが、大魔導師が扱う偃月刀は長大な太刀に近い。
「知っての通り、俺は
俗にいう錬金術というものは出来ないらしい。だが、それを抜きにしても大魔導師は息をするように魔術を行使する。特に、得意としているのが重力操作。それによる重縛結界にはネプギアやネプテューヌ達も苦しめられた。
顎に手をやり、何かを考えこむように唸る。
「さて、そこでだ。ひとつ聞こう」
「なんですか」
「俺を許さないようだが――ならば、どうする? 俺を倒すか」
「……」
「だが、ただ戦うのでは面白くない」
「面白くないって……」
大魔導師の判断基準は、倫理観ではない。楽しいか、どうか。それだけに留まる。
「そこでひとつ提案がある」
「なんでしょうか」
「賭けをしよう。そちらが勝てば、望みを聞いてやる」
「……それなら、ゲイムギョウ界に二度と来ないと誓ってください」
「ああ、いいだろう。いやしかし、意外と豪胆な望みだな……軽々しく引き受けたがまぁ仕方ないか。己の言葉に責任を取ってこそオトナか」
「大魔導師、あなたの望みはなんですか」
「別にないが、強いて挙げるならエヌラスの目を覚まさせるのを手伝え」
「……それだけ、ですか?」
「それだけ」
あまりにも不釣り合い過ぎるそれを、大魔導師は快諾した。大魔導師は勝ち負けにこだわらないにしても、ネプギア達しか得をしない。しかしそんなことはどうでもいいのだ。
ゲイムギョウ界で過ごすこの一時を、ただ愉快に過ごせれば。
左手をポケットに突っ込んで、片手で偃月刀を肩に担ぐ。
「手加減をしてやる。俺は片手で良い。両手を使わせればお前達の勝ちだ」
「ちょっと、わたし達をバカにするのもいい加減にしなさいよ! なによ、四人を相手に片手だけなんて――」
「ううん、ユニちゃん。いいの」
「なんでよ! 悔しくないの!」
「悔しいよ! だけど、あの人が本気を出したら――」
きっと、勝てない。それだけは解っている。それだけじゃない。
「大魔導師は、エヌラスさんのお師匠さんなんだから。手加減してくれないと……わたし達、きっと勝てないよ」
「……」
「まぁ、そういうわけだ。向こうはゲイムギョウ界のようにぬるい世界ではなくてな。弱者はただ淘汰されていく。消えていくだけだ」
強くあり続けなければ、消えていく。それは暗に、ユニ達を弱いと言っていた。真っ先にライフルを取り出すユニに続いてロムとラムの二人が杖を持ち出す。ネプギアもビームセイバーを構えた。
「先に言っておくぞ。俺の教育方針はスパルタ放任主義だ」
「どっちよ」
「指導した結果死んでも知らん、と言っているんだ。せいぜい殺されない程度に頑張れよ」
大魔導師が担いだ偃月刀を振り下ろす。かまいたちが発生して、それをネプギアが防御して開戦の合図となった。
ユニが腰だめで構えたライフルを連射する。一発、二発と続くライフルの弾頭を事もなく弾いて、返し刃でロムの放つ氷柱を防いだ。ラムの爆発する魔法をその場から飛び退いて避ける。その援護を受けてネプギアが走った。
「やああぁっ!」
大魔導師の偃月刀とぶつかり、弾き合う。左手はポケットに入れたまま、ネプギアと激しく切り結ぶ。
「ネプギア!」
ユニからの一声にその場から離れると、銃口が大魔導師の額を狙う。
「おい、殺す気か」
それに気づいたのか大魔導師が呼びかけるがユニからの返答は弾丸だった。身体を軽くひねる最小限の動きで避ける。頬を掠めて外れた弾丸から、立て続けにロムとラムの二人が魔法でネプギアを支援する。
「やっちゃえネプギア!」
「が、がんばって……!」
「うん! ありがとう、ふたりとも」
ユニが大魔導師の動きを拘束している間にネプギアがリロードのタイミングと入れ替わるように接近した。女神候補生同士の息のあったコンビネーションによる絶え間ない攻撃。それに大魔導師は薄く笑みを浮かべていた。
「はっはっは、いや。悪いな。どうやら俺が見くびりすぎていたらしい」
「減らず口を!」
それに益々ユニからの射撃は頻度が上がる。リロードを済ませて、照準を定めた。
「――加減が過ぎたらしいな」
「っ!?」
反撃が出来ないのではない――“しなかった”だけの話だ。ネプギアの攻撃を防ぎ、敢えてこちらから接近する。
「ちょ、ちょっとネプギア! 離れなさいって!」
「そうしたいけど……!」
離れない。引き離せない。剣戟は決して早くない。重くない。ネプギアでも防げる威力ではあるが、それは明らかな手加減だった。大魔導師は偃月刀を地面に突き立てると短く口訣を唱えて属性を付与する。
「力を与えよ――」
エヌラスの“魔刃鍛造”と同様に炎属性を付与した偃月刀を担いで軽く息を吐いた。
「今度は重いぞ、しっかり耐えろ?」
火の粉を散らしながら炎の軌跡を舞い上げながら大魔導師が駆ける。ネプギアが避けて、ラムが魔法で足を止める。ロムが支援して、ユニが狙う。
(四人でこっちのほうが手数は圧倒的なのに――!)
それに対応する柔軟性。片手というハンデを込みにしたって、あまりに異常過ぎる処理能力。ネプギアが前線に出て、ユニが援護。ロムとラムが支援するという形で攻めている。にもかかわらず――大魔導師は、片腕一本。長大な偃月刀を自在に振るって弾丸を弾き、魔法を防ぎ、ネプギアの剣を相殺する。
「あの、おじちゃん……」
「なんだか気味が悪い」
「どうしたの、ロム。ラム」
ネプギアを追い込む大魔導師の動きを目で追っていたロムとラムの顔が青ざめていた。
「わかんない。わかんないけど……気持ち悪いよぉ……!」
「確かに、気味が悪いし気持ち悪いくらい強いけど」
「ユニには、わかんないの?」
「えっ?」
「……あのおじさん。“何人も連れて来てる”の、見えない!?」
ユニがラムに言われて、目を凝らす。大魔導師の裏拳がネプギアの華奢な身体を軽々とふっ飛ばして、それを三人が受け止めた。
「ネプギア、大丈夫?」
「今、回復してあげるね……」
「ありがと、ロムちゃん」
手傷を負ったネプギアに、すぐにロムが魔法で傷を癒やす。大魔導師は偃月刀を突き立てて、再度属性を変える。炎を解除して、無属性に――気のせいか刀身を包む空気が歪んで見えた。
「子供とはいえ、魔法を嗜む以上はやはり視えるか」
「どういう、ことですか?」
「俺がどうやってシェアを得ているか。知る由もないだろう。こちらではまだ“変神”できるだけのシェアが無くてな。まぁ当然なんだが。もっとも? 今はその必要さえないがな」
「あなた、一人で戦っているんじゃないの」
「見ての通りだ。俺に味方など居ない。仲間も、戦友と呼べるやつもな」
「ひとりぼっち……?」
「ああ、そうだ。俺は常に独りだ」
「ああもう、矛盾しているんだって! わけ分かんないこと言わないでよ! あなたは一人、なのにラムが何人も連れて来ているってどういうことよ!」
「“こういう事”だ」
大魔導師が指を鳴らす。その腕の周りの空気が歪み、そして。人の呻き声。苦しむ声。悶える声。人であった者達の嘆きの声――。
「ヒッ……!?」
「子供は霊感が強いというが本当なんだな。それだけ目が腐っていない証拠か」
「――ネプギア。見え、てる……?」
「……うん。見えてるよ……ユニちゃん」
それは、怨霊。それは怨恨。それは、人の魂。かつて信仰心を捧げていた人達。九龍アマルガムの死者達。ネプギアにも、ユニにもハッキリと視える。
大魔導師の身体から僅かに出ている無数の魂が。ロムとラムはそれにすっかり怯えて震えてしまっていた。
「こいつらは罪人だ。罪を犯した者は裁かれなければならない。嗚呼、万死に値する。この俺の許可無く死んだ者達だ。好きに生きて、理不尽を前に死んだ哀れな哀れな魂だ。俺はそれを許さない。“死んでも赦さない”――死後の世界に安らぎなどあるものかよ、この俺を敵にして」
俺を、誰だと思っている? 大魔導師はそう締め括って、今だ苦悶の声を漏らす人魂を身体の中へと幽閉する。監禁していた。魂の牢獄。
「お前達の武器で俺を殺しきるというのなら、それこそ国一つ落とすつもりで殺しに来い――ところで、変身しないのか?」
『――――』
この人は、狂っている。狂気に呑まれている。それをものともしない。それどころか、それすら狂気と認めていない。それが常であるとでも言わんばかりに、死者を愚弄していた。
九龍アマルガムにおいては生きた人間よりも死んだ人間の方が価値がある。ネプギアはそんな言葉を思い出してた。その言葉の本当の意味が、理解できた気がする。
「俺のシェアは、死者からのものだ。我を崇めよ、讃えよ。奉れ。信じたものだけが救われる。死後の安らぎを得たければ“生を渇望せよ”と。人間のもっとも根本的な感情による信仰心は凄まじいものだ。俺を一撃で殺しきるなら“無限熱量”でも持って来い」
それが出来なければ、途方も無い回数を殺すしかない。
「この、化物! なんなのよ……なんなのよ、ソレ!? あり得ないじゃない! ゲイムギョウ界でシェアを得るには、新しいハードを作るとか、より良い施策とか、そういうのじゃないの!? なによそれは!?」
「ゲイムギョウ界にも墓場はあるだろう。誰も目を向けない場所から得ているシェアだ」
「墓荒しと一緒じゃない!」
「それは違う。俺は墓標をひっくり返したことなど一度も無いのだから」
「じゃあなんだって言うの!」
「そこら辺漂ってる魂とっ捕まえているだけだ。昆虫の標本と一緒だな。ヒトダマこれくしょんだ」
笑い声のひとつも出てこなかった。
「こんな俺だからこそ、アゴウの守護女神とはどうにも相性が悪い。顔を合わせる度に喧嘩をふっかけられては面倒極まりない」
「みんな。女神化の用意はいい?」
「ネプギア……まだやるの」
「こわく、ないの……?」
「怖いよ。怖くてたまらない……でも、あの人を今、止められるのはわたし達だけなんだ。だったら……やるしかないの」
「そうよね。おねえちゃんやベールさん達とあのこわいおじさんを戦わせるわけにはいかないもん! ロムちゃん」
「う、うん……! わたしも、がんばる……!」
「じゃあ、いくよみんな!」
『
四人が同時に女神化するのに対して、大魔導師は目を細めている。
「最初から素直に全力で来れば良いものを」
呆れたような、嬉しいような複雑な感情の入り混じった声で大魔導師は四人を前に偃月刀を担いだ。流石に先程までみたいに遊んでいられる程の余裕はない。相応の実力で相手しなければ最悪負ける。そればかりは勘弁だ。せっかくの新天地、もっとゆっくりと観光したい。どうせ時間など腐らせるほど有り余っている。
またあの退屈極まりない箱庭の世界で過ごさなければならないのかと思うだけで億劫だ。俺はもっと遊んでいたい。それこそ、無邪気な子供のように――大魔導師は飢えていた。渇いていた。刺激に、新しい刺激が欲しい。身を焼くほどの鮮烈な刺激が欲しい。
無限の熱量で灰も残らないほどの閃光が。