※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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エピソード143 名前があろうがなかろうが怪物は怪物

 

 四人の女神が大魔導師の前に降臨する。パープルシスター、ブラックシスター。ホワイトシスターの二人。それに対して、大魔導師はただ肩を偃月刀の背で叩く。

 

「プロセッサユニット、装着――」

「変身完了よ。覚悟はいいかしら」

「どこからでも来い。俺は真正面から行かせてもらうぞ」

 自ら宣言した通りに、無遠慮に一歩踏み込む。大魔導師の周囲の景色が歪んでいた。先ほど見せた魂ではなく、魔術的なものであるとホワイトシスターは看破している。しかしそれがどのように編まれた術式なのかまでは分からない。

 

「変身を催促しておきながら言えた義理ではないが、負けるかもしれん」

「そう? だったら素直に降参してくれてもいいわよ。今なら認めてあげるから」

「かもしれん、という可能性だ。そして可能性の芽は摘むことが出来る」

 左手は気だるげにポケットに入れたまま、大魔導師は踏み込み、そして――。

 一息に跳躍した。弾丸のように、獲物を捕らえる夜鷹の如くパープルシスターに迫る。振り下ろす偃月刀が唸りを上げてM.P.B.Lを弾く。その衝撃で腕が痺れて動きが止まったそこへ、無造作な蹴りで吹き飛ばした。重力操作による一撃は森林までパープルシスターの身体を突き放し、ブラックシスターがX.M.Bで狙いを付ける。

 

「このッ!」

「おっと」

 実弾から光弾へと切り替えられた射撃に晒されて大魔導師は偃月刀を手放した。赤いマントへと戻して翻す。その表面に触れた光弾は蒸発して消滅している。

 

「どういう素材よそれ!」

「どう、と聞かれてもな……困る。霊薬で編んだ魔術媒体としか」

 つまりは、それ自体が魔術師の杖と同義。ホワイトシスターの二人が得意とする氷魔法で大魔導師の周囲を冷気で包み込む。

 

『アイスコフィン!』

「風邪を引く」

 大気中の水分が凍結する瞬間、白い冷気は蒸発して湯気に変わった。発動と同時に解除するという離れ業、大魔導師ですら意識を向けていなければ即座に発動は出来ない。それに愕然としていたふたりに、片手を上げていた。

 

「気にするな。そちらの二人は魔術を使うとわかっていたからこそ対応できた。そうでなければ今頃カチンコチンだ」

「そう、なの?」

「手本を見せると、こうだな」

 大魔導師が脚を上げて、靴底に魔術文様が浮かび上がる。それを地面に踏み下ろすと、足元から氷柱が噴き上がった。一瞬にして出来上がる氷の凶器はすぐに瓦解する。

 

「使うという気配さえ見せなければ、この通りだ。まぁ二人にはまだ早いか」

「あなたのように二人がなるとは思えないけれどね」

「俺の場合は節度を知らんからこうなっただけの話だ。退屈でな――続けるぞ」

 ブラックシスターの誘導弾を正面から防ぎながら大魔導師はマントを羽織る。その右手が赤い紋章を浮かび上がらせる。

 

「フォウマルハウトの炎よ」

 発現するのは、深紅の自動式拳銃。外観こそ改造されているが、銃器を扱うブラックシスターにすれば見慣れている。古風な外見でコアなファンも多いモーゼルミリタリーをベースにした拳銃には赤い文様が幾重にも描かれていた。まるで銃器そのものが“生きている”かのように鼓動する。

 

「例え女神と言えど、こいつ喰らって平気とは思えんがな」

「そんな――!?」

 有り得ない。起こりえない――それは、銃器を扱うユニだからこそ打ちのめされる現実だった。銃器で魔術を使う。そんなことが起こりえるはずがないのだ。大魔導師の使う拳銃は、魔獣にして魔銃。エヌラスが扱うものとは根本からして出来が違う。どれだけ繊密に再現したとしても到底たどり着くことなどできない。

 なぜなら、大魔導師が使う魔銃は“生きている”からだ。

 マズルフラッシュから放たれるのは深紅の軌跡。灼熱の魔弾。避けた弾丸が岩にぶつかると粉砕した。木っ端微塵に砕け散る岩の欠片に背筋が凍るが、大魔導師も間の抜けた顔をしている。

 

「いかん。火力の調整を誤った……」

「あんなの当たったら死んじゃうでしょ!?」

「そうだな」

「この、」

 ブラックシスターの光弾と相殺する魔銃の弾丸。上空高く飛び上がったパープルシスターが落下の速度を上乗せしたビームセイバーを構える。だが、大魔導師はマントを翻して銃弾を防ぎつつ、腕を掲げた。

 袖の下から伸びるのは、黄衣。ボロの布切れに捕まったパープルシスターはそのまま地面へと叩きつけられる。

 

「ネプギア!」

「お前はリタイアだ」

 パチン、指を鳴らすとパープルシスターの身体が見えない壁にでも押し潰されるかのように地面に縫い付けられて変身が解除された。大魔導師の右手が今度は白い冷気を纏う。

 

「風の後ろを歩むものよ」

 白銀の回転式拳銃。リボルバーの銃口は反動を安定させる設計なのか、銃身の下についている独特な形状。装弾数六発。こちらも魔術文様が描かれていた。銃身を寝かせた構えから、大魔導師は一呼吸置いて引き金を引く。

 銃声は一発。放たれる弾丸は都合六発。一瞬にして全弾撃ち尽くしていた。白銀の魔弾は不規則な弾道を描きながらブラックシスター達に迫る。ホワイトシスターは魔術で防御するが、射線から避けれども避けれども迫る弾丸から逃れようとするブラックシスターは何とか照準を定めて相殺させた。

 

「二人も、ここまでだ」

「きゃうっ……!」

「あう!」

 ロムとラムの頭に軽いチョップで黙らせると、そのまま意識を失って倒れる。命に別状はない、ただ気絶させただけに過ぎないが――それでも。

 ブラックシスターは悔しかった。歯を食い縛る。

 たった一人。片腕というハンデを込みにしても、ゲイムギョウ界の未来を担う女神候補生が手も足も出ない。

 

「っ……!!」

 何者なのだろう。一体、何なのだろう。あの化物は。ブラックシスターがX.M.Bの出力を上げる。

 

「敗北を認めるか?」

「誰が!」

「そうか」

 銃身に巻き付く黄衣のボロ布。引き寄せられそうになるのを踏み止まり、だが大魔導師は空を飛ぶブラックシスターへ向かって跳躍していた。

 

「だったら、突きつけるだけだ」

 拘束を緩めて右手に魔銃を召喚する。ブラックシスターは自在に空を飛び、大魔導師を狙う。落下しながら正確に狙ってくる弾丸だけを相殺していく。

 

「おっと」

 落下速度から予測した射撃。それに、大魔導師は空中に“踏み留まって”避けた。

 

「ッ――!」

「返すぞ」

 そして、白銀の軌跡が六発。再度ブラックシスターを狙う。

 

「くゥっ!」

 一発、二発と相殺させるものの、三発。四発目は流石に防御する。続く残りの弾丸も防ぎきると同時に大魔導師へ銃口を突きつけるが――愛銃は動かなかった。

 

「ど、どうして!?」

 見れば、機関部の周囲だけが凍りついている。そこから内部の動作機構が不良を起こしていると即座に理解できた。解除しようと手を伸ばすが、大魔導師が接近して偃月刀を叩きつける。きりもみ状態になりながら落下した二人は、しかし。

 

「もう一度だけ聞くぞユニ。敗北を認めるか」

 大魔導師は無傷だ。ブラックシスターはその下敷きにされている。顔の前に偃月刀を突き立てられて、女神化を解除していた。

 

「っ……!」

「意地を張ることはないだろう。勝敗にこだわるな。別に死ぬわけじゃないんだからな」

「……あなた、何者なのよ」

「知っての通り、大魔導師だ。誰が呼んだかも知らん名前だ」

「それがあなたの名前なんじゃないの?」

「いいや。俺に名前はないよ。生まれた時からな。だが気づけばそう呼ばれていた。便利だからそう名乗っているだけに過ぎない」

 大魔導師はユニから立ち上がると、偃月刀を解除してマントを翻して羽織る。

 

「名前が無いのはそれなりに不便だったが、今は快適過ぎて逆につまらん。ああ退屈だ。暇で仕方ない」

 常軌を逸した。ゆえの退屈。それを紛らわせるのはどれだけの苦痛なのだろうか。ユニには分からない。しかし、自分達は敗北した。

 

「……約束どおり、あなたに協力すればいいんでしょ」

「ん? 意外と素直だな。突然どうした。噂のツンデレとかか? 正直目の当たりにするのは初めてだ」

「ツンデレとかそういうんじゃなくて! 元々そういう話でわたし達と勝負してましたよね!」

「………………………………ああ」

「絶、対っ! 今忘れてませんでした!?」

「いや、そんなことはない」

 大魔導師が手を伸ばしてユニの頭を掴んだ。

 

「だがせっかく協力してくれるというのなら、遠慮無く借りるとしようか」

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