超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
大魔導師による女神候補生誘拐事件は、一応の閉幕となった――。その日の夕方、ユウコが顔を見るなり吸血鬼の腕力任せにぶん殴って三回転半ひねりからの華麗な着地を決めていたが、ゲイムギョウ界の過半数を敵に回した結果となる。それについても本人は「世知辛い」とコメントを残しているが当然の結果と言えよう。前世の記憶を取り戻した件については黙秘、ということになり暗黙の了承として片付けられた。未来に絶望して世界を滅亡に導く超人の扱いには細心の注意を払わなければならない。とはいえ、だ。本人は「まぁそんなこともあったな」の一言で水に流している。
ユニの救出に誰よりも先に到着したのはブラックハート。激戦の最中、シルヴィオは拳を引いて道を譲ったからだ。その一方で、スピカ達はと言うと――「暴れ足りねぇ!!」とコントラバスのケースを振り回してコメントを残しているのが約一名ほどいたが、渋々道を譲った。それにより、血塗れのエヌラスの元へパープルハート、パープルシスター、アイリスハートが後から追いついた。
お互いに言うべき言葉があっただろうが、その場に居合わせていた大魔導師がエヌラスの治療を最優先だとして言論を封殺。ユニの事もあり、ひとまずはラステイションへ搬送という形で落ち着いた。
――目を覚ましたエヌラスは、疲労感から身動き一つ出来ないままベッドに横たえている。
「……」
記憶が一部混濁していたものの、思い出せる限りでは確か……そう。大魔導師と交戦して、それから気を失った。
今の自分がどこにいるのかと視線だけで室内を見渡すと、自分のすぐそばに眠っている少女がいることに気づいた。感覚の途切れている右腕に手を重ねているのはノワール。包帯だらけの腕に、それだけではない。全身がミイラ男ばりに包帯だらけになっている。
恐らくはラステイションの病院だろう。外を見れば日は高く、どれほどの間眠っていたのかまではわからない。しかし、ノワールがこうして見舞いに来てくれたということは少なからず一日ないし、二日以上だろう。全身の魔術回路を徐々に活動させていく。自己修復に伴い、右腕にも魔力を回す。感覚が戻るに連れて、ノワールの柔らかい手の感触がハッキリと分かるようになった。僅かに握り返すと、小さく声をもらす。
「……ん……」
(俺は……そうか)
世界を救った気になっていた。だけど実際はそんなことはなくて、自分が救われた。ゲイムギョウ界の女神たちによって。結局のところ自分は、絶望の魔人でしかなかったのだ。そんな自分の為に泣いて、笑って、必死になってくれている人達がいる。それがこんなにも近くて、それが一体どれだけ幸せなことなのか。当たり前の事に気付けない自分の目を覚まさせたのは他でもない大魔導師だ――ゲイムギョウ界の過半数を敵に回す結果になろうとも。
もし、本気で相手をしていたら今頃自分は生きてすらいない。“強くてニューゲーム”を繰り返してきた自分が、自惚れていただけだ。エヌラスは深くため息をつく。
そんな病室に、見舞いに来たデンゲキコとファミ通の二人が入ってきた。
「おや?」
「あれ? 良かった、気がついたんですね」
「いやー、血塗れダラッダラのスプラッタ劇場だった時はどうなることかと思いましたよ」
「よぉ、二人とも……なんか、迷惑かけたみたいだな」
「そういう台詞は、ノワールさんに言ってあげてください」
「そうですよ。ずっと付きっきりで看病してたんですから」
「……そうだな」
身体を起こして、ノワールの頭を撫でる。泣いていたのだろう、目元が少し赤くなっている。
「どれぐらい寝てたんだ」
「んー、今日で五日目ですね」
「お医者さんが「気持ち悪いくらい怪我の治りが早い」って言ってたくらいですし」
それはそうだろう。常に銀鍵守護器官が最善の状態を保ってくれるのだから。
「あれから、なんかあったか?」
「別に面白いことは何も」
「むしろネタが無くて明日の記事に困ってるくらいですかねー」
「私事ですけどね」
たはは、と困り笑顔を見せるファミ通に、エヌラスはふとした疑問が浮かぶ。
「大魔導師の件とか、ゲイムギョウ界中で特ダネだと思うんだけどな。記事にしなかったのか」
「しませんよ」
「むしろその逆。こちらが事態の収束に向けて記事を書いたくらいです」
「どうして」
「『ラステイションの女神候補生、誘拐!? 犯人はアダルトゲイムギョウ界の大魔導師』なんて書けるわけありませんよ。そんなことしたらラステイションのシェアが下がっちゃいますからね!」
「お前がノワール贔屓で本ッ当にマジで助かったと思う一瞬だった」
だが、他の女神候補生。プラネテューヌとルウィーについてはどうしたのだろう?
「今回の事件は、女神候補生達のちょっとした喧嘩ということで片付けちゃいました」
「そんなんでいいのかゲイムギョウ界」
「でも真実より可愛いものでしょう?」
それには何も言い返せなかった。
「女神候補生達による喧嘩に、女神様達が出動! 事なきを得た、ということになってます」
「ゲイムギョウ界ではよくあることです」
「いや、情報操作が日常茶飯事はまずいと思うんだが……まぁ、いいか」
下手に事を大きくするよりはだいぶマシだ。結局、自分が起こしたような騒動は見知らぬ誰かの手によって助けられている。それに不甲斐なさを覚えながら、エヌラスはまだ眠そうにうめくノワールの頭を撫でていた。
「俺の不始末で起きた事だしな」
「預かっていた荷物もラステイションの教会に届けてあります」
「ご安心ください、中身は見てませんよ!」
「そりゃどーも」
そうは言われたものの、あの買い物の中身は水着とその他諸々だったのだが。エヌラスは自分の手で頬の湿布から右腕の包帯、身体に巻かれている包帯まで全部取り払う。それに顔を赤くしてデンゲキコとファミ通は顔を背けた。
「あ、あの脱ぐなら脱ぐって言ってください! わたし達、向こう向いてますから!」
「そうです、流石にそういうのハレンチ過ぎますデリカシーの欠落はデ・カルチャーショックです!」
「何語なんだよそれ」
服を着替えようかと身体を動かした直後、ノワールが目を覚ます。
「……エヌラス……?」
「よう。おはよう、ノワール」
「……なんで裸なの」
「いや、着替えようかと思って……」
「…………」
振り返れば、記者二人。寝ぼけていた頭が一気に覚醒してノワールは二人を病室から追い出した。そして、深呼吸。
廊下に追い出されたデンゲキコとファミ通は病室から聞こえてくるお叱りの説教から耳を閉ざすことにした。
「エヌラスさん、ドンマイです」
「怒られてるのわたし達のせいだからね?」
「……こういう時、テヘペロって言えば許されますか?」
「絶対に怒られるからやめとこーねー」
まぁ。何はともあれ――いつも通りの日常に帰ってこれたようでなによりだ。
――次元の狭間。そこを歩く一人の国王がいた。大魔導師である。
一連の事件を引き起こした張本人はユウコの説教を受けてからもゲイムギョウ界をそれなりに彷徨いて、何をするでもなく徒歩で帰ってきていた。その道中で、立ち寄っただけに過ぎない。
黄金の玉座に腰掛けて、書物に目を落とす次元神がいた。その横で立ち止まる。
「俺で五人目……いや、“六人目”か。次元神セロン」
「久しいな、大魔導師。そうだったかな? まぁ両手の数でも多いくらいだ」
二人は決して視線を交わそうとしない。大魔導師はアダルトゲイムギョウ界だけを見据え、セロンは書物の紡ぐ物語にだけ向いている。
「何を企んでいる」
「この退屈が終わること、それだけよ。貴様も同文だろう?」
「違いないな」
「しかし、よもや私の拘束を抜け出すとは想像以上だ。何がそうさせた」
「俺の、魂の記憶だ」
「ふむ。そればかりは私でもどうにもならんな。あまりに些末事と事を片付けすぎたかな」
まぁいい。と上げそうになった面を再び落とす。
「それで。記憶を取り戻した今、お前は何を成すつもりだ。大魔導師」
「知れたこと――暇潰しだ。やることなど変わらんさ、お前の掌の上である以上はな」
歩み出す大魔導師が、思い出したように立ち止まった。
「次元神セロン。俺はお前の思い通りになってやらんぞ」
「ならば大魔導師よ。此度こそ私を出し抜いてみせろ、何なら今ここで――」
「お前を一人で相手するほど、俺は愚かではなくなったさ。楽しみに待っていろ」
言い残して立ち去る大魔導師に、セロンは笑みを浮かべる。ただ一人残された次元の狭間で。
「嗚呼、楽しみにするとしよう」
見上げた先。天まで届く半開きの門を眺めて、セロンは呟く。
「もしかすると、“もしかする”かもしれんな……今回ばかりは」