超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
《ビッグボックスへようこそ!》
「正座ぁっ!」
盛大な歓迎に、出会い頭に説教していた。ベールが予め連絡を入れていたので既にフロントに預けた荷物は届けられているらしい。
エヌラスがちょっと洒落にならないレベルで傷口からのバックファイアに身体を苛まれているが、そんなことより無視できない目の前のロボット達に怒りを覚えていた。
「待てよおかしいだろ!? 絶対におかしいだろテメェら! そもそもホテルの名称について何かこう、物議とか催さなかったのかよ会議室! 企画プランナー出てこいオラァ!!!」
《すいませんでした。反省しています》
正座するのはアーマードカンパニア所属のロボット達。歓迎だけでなくホテルの案内人も兼ねているらしい。施設案内も現地で含めての案内なのだが、彼らはあくまでも軍事用ロボット。それに指を突きつけてエヌラスは説教かましていた。
《いやですがビッグボックスというのは我々も納得した名前でして》
「どこかだよ! 直訳でかい箱じゃねぇか! 一文字変えればブタ箱ピッグボックスじゃねぇか!!」
《雌豚の集まり! ピッグボックスへようこそ!》
「ぶち殺されてぇかテメェ等ぁぁぁぁっ!」
《すいませんでしたブヒィ!》
「お、おいエヌラス! その辺にしておいたほうがいいのではないか!? 怪我に響くぞ」
「――ゴッフ……」
「エヌラスーーー、しっかりしろーーー!! 傷口が開いているではないか!?」
急に吐血して崩折れそうになる身体をミリオンアーサーが支え、右腕の包帯が赤く染まっていく。よもや死因がツッコミでは浮かばれない。急ぎ、怪我の手当を行うミリアサを後ろにベールはにこやかな笑顔を崩さない。
「今回はご招待いただき、ありがとうございますわ」
《ああ、我らが守護女神グリーンハート様! 滅相もございません!》
《そうです! 目指せ新天地、大人による大人のための大人の楽園、R18アイランドこそ貴方様の輝ける舞台に相応しいと思い、チケットをお送りさせていただきました! 親睦を深めるも良し、休暇に使うも良し。女神様の観点から当ホテルの使い心地や改善点などを挙げていただければ納期をぶっちぎってでも上方修正致します!》
「いえ、出来れば納期は守っていただけませんこと……? ですが何故ハァドラインである貴方達がこのようなリゾートホテル建設を?」
《それはひとえに、昨今のリーンボックスの運営方針に従っているまでのことです!》
《そう、時代は萌え文化! “燃え”より“萌え”なのです! しかし我らはあくまで硬派のロボット集団》
《裏方に徹して接客業は皆様にお任せします! あ、こちら当ホテルのインフォメーションです。どうぞお納めください》
信仰している女神を目の当たりにしてテンションの上がっているロボット二体は人数分のパンフレットを渡し、道を譲った。
改めて、フロントを見渡す。ホテルのコンセプトは、優雅な安らぎ。手軽に高級感を出すために施設内のインテリアも配置を考えぬかれていた。白を基調に、足元は赤いカーペット――を模したタイル。当然、ビーチで遊んだ顧客が滑って転ばないように配慮されている。
それは、赤いタイルを素足で踏んでみたベールが「あら」とすぐさま気づいた。カーペットを模したタイルにだけ転倒防止用に加工がされている。滑らかでいて、それでいて足の裏にフィットするような不思議な感覚。
「変わった感触ですわ」
《ええ。そちらはラステイションの森林地帯に生息するモンスターの素材をリーンボックスで加工したものです。撥水性もこの通りです》
コップに注いだ水を、見ての通りとばかりにぶちまける。すると、水玉となって弾かれるように廊下の左右脇に刻まれた排水口へと流れていく。
《土汚れなども掃きやすいようにしていますので素足でも安心!》
《勿論気になる清潔さ! ご安心ください、掃いてますよ! アーマードカンパニア製全自動清掃用ロボット!》
《その名も――スィーパー・ジェット君!》
ウィィーン……。手に持っている、カブトガニのような機械のことだろう。ずんぐりとした体格に、前面に向けられた噴水孔と洗車機のような下部構造。移動も仕込まれた無限軌道によってスムーズに、かつ静かに行う。
「まぁ。最近市場に出回っているというロボットですのね。センサーで汚れを検知、狭いところもらくらくお掃除がキャッチコピーの」
《その特別製と思っていただいて結構ですよ。このスィーパー・ジェット君は名前の通り高水圧洗浄機を搭載していますので、土汚れもこの通り!》
「あっという間に汚れが落ちていきますわね。排水口の溝も綺麗に」
《あ、もちろん。大人の為のリゾートホテルですので仮にお酒飲み過ぎちゃってオロロロンしたとしてもスィーパー・ジェット君があればキレイキレイ!》
《今ならお求めやすいお値段――》
「あの、さりげなく売りつけようとしないでくださいませんか?」
《すいません。職業柄で……》
とりあえず、ホテルの清掃面については問題なさそうだ。
(これだけの部屋数があるとなると、それぞれが個室でも問題はなさそうですわね。ですがそれですとあまりに刺激が足りない気がしますわ。どうせならネプギアちゃんと同じ部屋が……)
「――ル――……ベール! おい、聞いているのか!」
「え? え、えぇ。どうかしました、ミリアサさん」
「考え事に耽る前にエヌラスの包帯を取り替えるぞ! 今は私の魔法で応急処置はしたが」
「先程のツッコミでそこまで重傷ですの!? どうしてそんなになるまで放っておいたんですか!?」
「そう、思うんなら……ツッコミをだな……手伝え……――!」
「ツッコミやめたら死んでしまうのですか、エヌラス?」
「無視、できるかぁぁぁ……!!」
放っておいたらどこまで転がり落ちるのかもわからないボケのビッグウェーブ。それに「乗るしかねぇ!」と便乗するどっかの超次元なプラネテューヌの女神のストッパーも期待できそうにない。ノワールに任せてみたはいいが、アレで結構流されやすいところもある。
「アーサー、応急処置は自力でやる……包帯とか、頼む……」
「ああ。任せておけ!」
「潮風がメッチャクチャ……しみる……傷口に染み付いてむせる……ていうかむせび泣く……」
おかしい。休暇にきたはずだ。静養のはずだ。それなのにどうしてこう、自分の思うとおりに事が運んでくれないのだろう。低電力状態で稼働させていた銀鍵守護器官の出力を上げて傷口が開かない程度に魔術的縫合と処置を済ませておいた。これで出血はひとまず安心だが、右腕の怪我だけはどうにも防げないのでホテルのパンフレットを頼りに急ぎ、医務室へと駆けこむ。
「……なんで医務室があるんですの? しかも保健室のような感じで」
《そこに気づいていただけるとは、やはりグリーンハート様です》
《お忘れですか。ここが“どこ”で、この建物が“何なのか”を》
「……?」
《顧客の要望に可能な限り幅広く応えるのが営業の務め!》
《そう! ここはちょっと人に言えないあんなことやこんなことをしたい人達へのニーズにも応えられるように、と頑張りました!》
だがそれでは折角のリゾートホテルの高級感も台無しになるのでは? ベールは訝しむも、その為のパンフレット。そう、要は内装であり雰囲気を楽しめればいい。秘密の扉というわけだ。
「……つまり、ここであれば同性でも異性でも――」
《あーんなコトや》
《こーんなコトまで》
『二人っきりの秘密に出来ます』
「――ゴクリ……。二人とも、中々見どころのある御方ですのね。良ければ名前を教えていただけませんこと?」
《ダンボロ・アッシュ。三下もいいところのヒラ社員! 左遷ギリギリグレーゾーンの派遣!》
《サベージ。同じくヒラ社員! 俺のせいでポシャった企画の尻拭い中!》
「自己紹介がなんとも世知辛いですわ」
そして、ミリオンアーサーとベールは重傷のエヌラスを医務室(という名の秘密の部屋)へ連れ込む。雰囲気重視、とは言っていたものの置いてある薬品や医療器具など本格的に揃えられていた。中途半端な再現では風情を失うということだろうか? ともあれ、充実している薬品の中から止血剤やら何やらと手にしてエヌラスの前に並べておく。
「これだけあれば大丈夫でしょう。ではエヌラス」
「あい……」
「脱・い・で・くださいませ?」
「そこだけ強調すんな……頼む……」
しかし、ベールとミリオンアーサーに頼る他にない現状。エヌラスは左手でパーカーのジッパーを下ろす。上半身を覆う包帯に血が滲んでいた。その痛ましい姿に眉を寄せる。
「エヌラス。そんな怪我でどうやってここまで来たんだ?」
「バイク……」
「包帯取り替えますわよ」
「……たろむ、痛みに耐えるのでもう俺は精一杯だ。包帯取り替えてくれたら、後はどうにか自前で治す……」
「どれぐらい掛かりそうなんだ?」
治療に掛かる時間を逆算してみる。
「少なくとも、今日一日は安静にさせてくれ。むしろ隔離する勢いで頼む」
「そうは言われましてもうまくいくとは限りませんわよ? 特に今回は」
「…………お前ら、ホントは俺のこと殺す気だろ」
「物騒なことを言わないでくれ、エヌラス! むしろ今のうちに治さないと」
「そうですわ。今夜が峠ですわよ?」
「――――いい、わかった。全部放棄する。寝る! ぐやぁ」
エヌラスは医務室のベッドに横になるなり、一秒待たずに意識の電源を切った。常に稼働させている意識の集中力を全て睡眠に動員することによって得られる快復効果は高いが、当然ながら問題を抱えている。無防備を晒す。そして睡眠中に銀鍵守護器官が身体の治療に専念するため、夢見が悪いということだ。
早速うなされているエヌラスを見て、ベールとミリオンアーサーは顔を見合わせる。
「……寝てしまったぞ。無防備に」
「ええ、寝ておりますわ。無防備に」
試しに頬をつついてみるベールだが、エヌラスはものともしない。ミリオンアーサーもまた、頬を軽く抓ってみるが反応しない。いわゆる「ガチ寝」だ。今ならば何をしても起きないだろうが――相手は自分のツッコミで死にかけるほど瀕死の重傷を負っている。
ネプテューヌ達には適当に口裏合わせておこうと二人は目で語り合い、固く握手を交わした。