超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――エヌラス達がR18アイランドで思い思いの休暇を楽しんでいる一方その頃。ユウコはと言うと。
プラネテューヌの教会ではテーブルの上に書類を山のように積んで赤縁メガネを掛けたユウコが鬼のような速度で次から次へと流れ作業のごとく。本来であればネプテューヌがやるべき仕事をイストワールがやり、それが今ユウコに手によって片付けられていた。
「はいこれルウィー! はいこれラステイション! はいこれリーンボックス! 書類不備はそっち!」
「は、はい!」
「はい次! ガンガンいくぞー!」
「向こうのお仕事はこれよりも忙しいのですか?」
「そりゃもう、洒落にならんですばい」
ふと目を離したら悪徳業者のオンパレード。暴力沙汰のお祭り状態。それに乗じた火事場泥棒にと、ユノスダスの活気は決して明るいものだけではない。国王不在の現在でも洗練された教会職員によって治安の維持は保たれている。それだけでなく、インタースカイ並びにアゴウから派遣された警備ロボットや機人達によっても治安改善は為されていた。
その派遣サービスにはアゴウの守護女神も「自国だけでなく他国の益となるなら吉!」と合意の上だ。
それに比べたらゲイムギョウ界の経済など屁の河童。むしろ常にこうであって欲しいくらいである。
「はい本日の業務終了! おつかれさまっしたぁ! じゃ、あとはイーちゃんの方でチェック入れておしまいっ」
「流石商業国家国王ですね。まだ半日も経っていませんよ?」
「お仕事以外にも私のプライベートな時間を確保するために頑張ってたらこんな風になっちゃいました。ふぇー、疲れた」
眼鏡を外して身体を伸ばすユウコのポケットから不穏な着信音。それに苦虫を噛み潰したような表情を見せて取り出すと『大魔導師』の文字。
「はぁーいもしもし」
『もしもし。俺だ』
「そんな詐欺みたいなこと言いながら掛けてくんじゃねーやい。なんの用?」
『暇なんだ』
「知らねぇよ!! こっちは忙しいんだっつーの!」
『そういうわけでうちの職員を二名ほどクビにした』
「何言ってんだこいつ……」
『エヌラスはどうしてる』
「えー? 休暇中」
『何処に行ったかまで分かるか』
「知ってても教えたげないし」
『ふむ、そうか……アイツの身体ボロボロだから絶対安静のはずなんだがな。その治療薬持たせた元・職員を二名ほど送りつけてやろうかと思っていたのだが。残念だ。お前が知らないんだったら別に――』
「だぁぁーもぉぉー! R18アイランド! 大人のリゾート地!」
『なにを怒ってるんだ?』
いけしゃあしゃあとよくもまぁ言えたものだ。その神経の図太さにはユウコも感心する。呆れたため息を、深々とこれみよがしに吐いた。
「お前のせいでエヌラス、マジで色々とヤバイんだからな」
『知ってるさ。だが、今のアイツではこの先の戦いは厳しい物になるだろうからな』
「……憎まれ役を引き受けたっての? お前が? 何のために?」
『言うまでもないことだろう?』
どうせ「暇潰し」だろうとユウコは聡った。無秩序にして無軌道。それでいて策謀を張り巡らせた言動と行動の数々は犯罪国家国王と言わざるをえない。それに付き合うのも程々にしてユウコは要件を聞き出して早々に通話を終えようと思っていた。
『忙しいようなら切るぞ』
「……なに考えてんだよぅ」
『なにを、とは?』
「なんでエヌラスに肩入れするんだ、って話」
『言われてみればそれもそうか。別に大した意味は無い。切るぞ』
「あ、おーい……ったく。勝手過ぎるっての」
気付けば、エヌラスみたいな言葉を漏らしている自分に首を傾げながらもユウコは腰を上げて身体を伸ばす。ちょうど三時のおやつ時。ピーシェになにか手作りのお菓子でも用意しようかと思っていた矢先、再び電話が鳴る。
「はいもしもーし」
『もしもし、ユウコ様ですか? 実はですね、今朝方突然になって大魔導師にクビを切られまして路頭にさまようことになるであろう優秀かつ最高傑作のポンコツが二名ほどいるのですが。なにか良い仕事を斡旋していただけないかという所存でございます』
『お願いしますぅぅぅ、このままじゃ私達九龍アマルガムでやってけねぇーですぅぅぅ』
「あー……」
そっかー、こいつらかー。そんな心地でユウコは天井を仰いでいた。
――エヌラスは自意識を完全にシャットダウンしている状態なのか、ベールとミリオンアーサーは本当に眠っているのか頬を突いてみる。やはり起きない。寝息も静かなもので、文字通り死んだように睡眠を貪っていた。
「うぅむ、だがしかし。やはり此処で寝かせておくべきではないと思うのだが」
「と、言いますと。やはり病院などで本格的な治療を?」
「そうするべきであるとわたしは考えているのだが、なぜこんな身体で来たんだエヌラスは? いくらなんでも無茶をし過ぎではないだろうか」
「わたくしが無理を言ったのもあるでしょうけれども」
ベール達には知る由もないが、それ以上にエヌラスには自負の念があった。全力の大魔導師にすら及ばないと身を持って叩きこまれた自分の甘え。それを痛感させられ、これから先の戦いをどう切り抜けていくかを考える良い機会だ。駆け抜けてきた地獄のコンティニューを、ようやく抜けて、やっとの休憩ポイント。それがR18アイランドに来た理由。
「まぁ、殿方にも色々あるのでしょう。そっとしておいて、わたくし達はネプテューヌ達と合流する前にホテルを探索しませんこと?」
「そうだな。そうしよう。本音を言えばわたしも楽しみなんだ!」
ビッグボックス(仮)のフロントに二人が戻ると、まだオープン前にも拘らず新たな来訪者が招かれていた。
大きなサングラスで目元を隠しているものの、落ち着かない様子で周囲を見渡している青い髪の女性客。耳にはヘッドホンを付けている。
「あら? あれはもしかして……」
「知り合いか、ベールよ」
「もしかすると、5pb.ちゃんではありませんこと?」
ベールが声を掛けると最初は驚いたが、すぐに胸をなでおろしてサングラスを外した。それはまさしく、ゲイムギョウ界のトップアイドルであるその人そのもの。
「あ、ベール様。どうも、こんにちわ」
「こんにちわ。まだオープン前のホテルのはずですが……」
「ボクは今度発売される新曲の初回特典の撮影に来たんです。でも、こういうの慣れてなくて」
「あら、そうでしたのね。撮影スタッフの方々は?」
「後日到着予定で、ボクだけ先に来て休暇も兼ねてるんです」
「奇遇ですわね。まさか5pb.ちゃんとご一緒できるなんて幸運ですわ。実はわたくし達もバカンスに来てるんですの。もし時間があるようでしたらホテルを見て回りません?」
「いいんですか? よかったぁ、一人で現地入りって聞いていたから不安だったんです。よろしくお願いしますね」
ベールからの誘いに、笑みを浮かべる5pb.ちゃんへミリオンアーサーは自己紹介も兼ねて握手を求める。
「うむ。わたしはミリオンアーサーだ。よろしくな、5pb.」
「あっ……は、はい……こちらこそ」
「なぜベールの陰に隠れるのだ?」
「ああ、ミリアサさんはご存知ありませんから無理もありませんわ。5pb.ちゃんは普段、ものすごく人見知りなんですの」
「なんと。小動物系アイドルだったのか」
「ご、ごめんなさい」
「なに、気にすることはない。ならばお互いの親睦を深めるまでのことだ」
特に気にすることもなく三人はビッグボックス(仮)の中を歩いて見て回ることにした。
――その頃、ヒワイキキビーチでは女神達による接戦が繰り広げられている。照りつける太陽と焼けるような砂浜でトライアスロンに興じていた。水着姿で砂浜を爆走するチャリンコ集団。乗り捨てて離れた小島を目指し、そこを迂回して戻ってきたら最後は己の足でひたすらに走る。ゴールテープ目前、デッドヒートが繰り広げられていた。
「ハァ、ハァ、はぁ――」
「ゼェ、ゼェ……」
全力を出し切ったと言っても過言ではない。途中ハプニングに巻き込まれてブラックハートが大きく順位を落とした。一位を争ったのはプラネテューヌ組。そしてアイエフとデンゲキコとファミ通。身軽さを活かしたアイエフに、普段から活発に行動している記者達の経験の差がハッキリと出ていた。
アイリスハートとパープルハート、そして食いついたパープルシスターだったがラストは主人公の意地と言うべきか、パープルハートが勝利をもぎ取っていた。
「や、やったわ! まずは、一勝よ!」
「ねぷちゃんに負けるのならしょうがないかしらぁ……」
「なんでわたしばっかりあんな目に遭うのよぉ!?」
「落ち着いてくださいノワールさん! いや、確かにアレは不慮の事故でしたけども良い画が撮れましたよ!」
「そういうフォローは求めてないから!」
まさか前方を走っていた選手がハンドル操作を誤って転倒。それにブラックハートが巻き添えを喰らった。その後は怒涛の勢いでごぼう抜きしたものの最初に失速したのが大きかったのかそれでも五位に食い込んでいる。
順位は以下の通り。一位、パープルハート。二位、アイリスハート。三位、アイエフ。四位、ファミ通。五位、ブラックハート――となっている。デンゲキコは砂浜で貝殻を踏んで途中から大きく順位が落ちた。
「うぅ、あそこでチチハマグリさえ踏んでいなければ……!」
『それでは次の種目の参加者は集まってください』
「インターバル短っ!?」
息をつく暇もなく、第二種目ビーチフラッグ争奪戦――開幕。